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起業・スタートアップのための起業家講義
ライフネット生命<前半>

掲載:2020/10/13

出口治明 氏(ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長)
講演:2009年1月

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

僕は人間が思ったことはほとんど実現しないと思っています。99.9%実現しない。そんなに簡単に実現するんだったら人生イージーだ。ただ同時に、思わなかったことは絶対実現しないのも事実です。最低100年続いて、100年後に世界一になる会社を作ろうと言ったのは、そういうふうに思ったからです。

ライフネット生命保険株式会社は、内外の生保を株主に持たない、戦後初の「独立系」であり、保険商品の安さ、わかりやすさを追求した、インターネット生命保険会社です。従来の生保業界の慣例にとらわれない異色の会社であるといえますが、それは顧客視点で「保険とはどういうことか」を考え抜いた末の、こだわりの結果であると出口社長は言います。同社の独自性や経営方針はもちろんのこと、出口社長が、生保に対する問題意識からビジネスアイデアを考案し、ライフネット生命を設立するに至った経緯や、資本集め、人集めの苦労、起業の裏話など、貴重なお話をお聞きしました。

ライフネット生命はどんな会社か

ライフネットという会社は一言で言えば保険料は日本で一番安くて、その代わりに電話は一番夜遅くまでつながるという、安くて便利な会社です。本当に消費者目線で作りたかったので、親会社に保険会社や大株主を入れませんでした。よって、74年ぶりに独立系の保険会社として誕生しました。会社の方針はすごくシンプルで、正直に経営し、分かりやすく、安く、便利な商品・サービスを提供し続けるというこの4点です。忘れてはいけないので、この4点をマニフェストの形でオープンにしています。役職員が忘れることがないよう、金融機関では初めてマニフェストをオープンにしました。

日本で一番安い保険料を作りたいということで、販売経費や商品をシンプルにすることで契約の維持管理経費を安くしましたが、逆に大変お金をかけた所もあります。電話が遅くまで繋がるとか、皆さんの健康状態をきちんとお聞きして契約を丁寧に作り込むとか。或いは本人確認も、書類を郵送してもらうのはお客様にとって面倒くさいじゃないか、クレジットカードだけで契約はできないのかといった議論もありましたが、生命保険は一生で考えれば大事な契約だし、金額も高い。徹底的に議論して、本人確認は法律通りやることにしました。保険金の不払いの問題には、3重のチェックをすることで不払いゼロが出来るだろうと。保険とはどういうことかということを一生懸命考え、こだわりを持った会社を作ったわけです。

日本生命時代から抱えていた保険業界の問題意識

こんなことを考え始めたのは、1985年ぐらいに戻ります。僕は日本生命に勤めていましたから、少子高齢化が進み生命保険が衰退するということが分かります。生命保険は人口が半分になれば規模は半分になる、単純ですよね。それを避けようと思えば、投資顧問や証券、銀行など違う業務をやるか、海外に出ていくか、異質のビジネスモデルをやる、この3つしかないんです。日本生命にいる間は業務の多様化と海外進出を一生懸命やっていました。ところが日本生命はバブルの後、業務の多様化も海外進出も止め、僕は仕事を失くしちゃったんですね。

でももう1つ、異質のビジネスモデルがあるじゃないかと考えて、一度2001年頃に生命保険会社を作ってみようと思ったことがあります。インターネットの浸透により生保の販売チャネルが変革する胎動を感じていましたので、友人と「e-life」のアイデアをベースに事業会社数社に出資を打診したんですね。しかし大株主である既存生保の機嫌を損ねることはできないと軒並み断られる結果になりました。

僕は人間というのは川の流れに乗っていく人生が一番素晴らしいと本当に思っているんです。人間の行動を決める大脳の活動で、自分で意識できるのは2、3割しかありません。その2、3割しかない部分で一生懸命考えて、将来こうなろうと思い、そのためにあくせくする人生というのは僕はつまらないと思うんですよね。川が流れていない時には仕事はできないし、風が吹いていないときに凧は絶対にあげられないと思っています。この2001年の時には、風が吹いてないんだなと思って、会社を作ることをサッパリと諦めてしまいました。

風が吹き始め、訪れたチャンス

その後、2004年に子会社に移り、もう生命保険の世界に戻ることはないと思いましたので、若い日本生命の後輩に読ませようと、遺書のつもりで『生命保険入門』という本を書きました。この本にライフネットのアイデアも全部書き込んでありましたから、読むべき人が読んだら、僕の構想も全部わかると。僕自身は、起業とか会社を作ることとかは川の流れみたいなもので、そういう機会が来ればいいし、機会が来なければそれでもいいと思っていたんですね。

そんなとき、友人から「ちょっと若い人が保険のことを聞きたがっているから会わないか?」と言われて、夜遅くのホテルでお茶も飲まずに生命保険業界の現状を2、30分話したんです。それがあすかアセットCEOの谷家衛さんです。谷家さんが、「今まで色んな人の話を聞いてみたけれど、保険については出口さんが一番良く知っている。僕の会社に来てくれませんか? 二人で日本で一番いい保険会社を創りましょう」と。たぶん谷家さんの外見を見て好きになったんだと思います。何も考えずに直感で「いいですよ」と言ってしまいました。当時、僕は58歳だったのですが、こんなに若い人が言ってくれるのも何かの運命だから、古い僕は全部捨てて、この人と一緒にゼロからやっていこうと、瞬間的に決めたんですね。

その場で「保険を知らない若い人(つまり僕が持っていない人を)1人選んでください。その人をパートナーにしますから」とお願いしました。そうしたら、すごく不思議なんですけれど、「僕、心当たりがあります。出口さんにぴったりな人をすでに採用してある」と言うんですね。話を聞いてみると、谷家さんは僕の後の相棒の岩瀬大輔がハーバード大学にいる時に会い、すごく優秀な青年だということで、使い道を決めないで採用してあったんです。そして、彼が卒業した2006年の7月に岩瀬と僕と二人で仕事を始めました。非常にラッキーだったのは、岩瀬が想像以上に優秀で、ハーバード大学で今まで日本で3人しかいない最優秀賞を取ってきてくれたことです。彼はすごくメディアに売れたので、ライフネットの知名度がちょっと上がったのかなと思います。

2006年の10月に、谷家さんと谷家さんの一番の親友でマネックスCEOの松本さんから1億円のお金をもらって準備会社を作りました。風は吹いていて2005年の11月24日に手数料を自由化するという金融庁の方針も出ていました。すごく風が吹き始めた時に谷家さんに出会ったということなんです。

共助の仕組みで世の中を変える会社をつくる

会社をつくる時に一番思ったことは、どんな会社をつくるにしても社会的な意義のないことは絶対成功しないということです。これまでの人間の歴史を見ると、人間というのは助け合いで成り立ってきたと思うんです。ところが公助というのは絶対無理です。こんな財政状況で、税金で助け合うことは不可能だと思います。国債の発行は全然気にすることはないという、民主主義の根本原則を理解してない大馬鹿モンの経済学者が何人かいますね。民主主義というのは、僕は税金を皆で決めて分配する仕組みだと思っているんです。自助も不可能です。自助と言うのは皆が平均して所得がある世界ですが、今すごく格差が拡大しています。そうなると共助の仕組みが凄く大切になってくると思うんですけど、その共助の基本をなす生命保険が不払い等でメチャクチャなことをやっている。だからこの会社をつくって世の中を変えるんだと思ったわけです。

どういう保険を作ろうかと考えたら、答えは一つです。日本の平均所得はこの10年で15%ダウンしています。平均世帯で650万あった所得が、この10年間に560万にダウンしているわけですね。6割以上の世帯が平均以下で、なおかつ子育てを一番しなきゃいけない30~39歳の世代も平均所得ほどないんです。そして29歳以下はもっと貧しい。こういう現実を前に生命保険は何をすべきかを考えたら、1か月に1万5千円も2万円も取るような保険を売るべきではないと誰でも思いますよね。だから僕は保険料を半分にしたい。保険料を半分にするにはインターネットでやるしかないと。誰が考えても普通に考えればこうなるはずだと僕は思います。