海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ウイング(Wing)

掲載:2020/10/26

最終更新日:2020/10/26

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、アルファベットによるドローン宅配サービスを開発するwing(ウイング)についてみていきましょう。

ドローン宅配サービスとその始まりとは?

みなさんは、ドローン宅配サービスについて聞いたことがあると思います。

ドローンについては日本でも話題となっていますので、ご存知でしょう。そのドローンを使用した、食品や薬などの商品の配送サービスのことです。ドローンですので、もちろん無人で自動運転されます。その歴史は、2013年に始まります。DHLの子会社が2013年12月に薬の配送のテスト飛行を実施しました。

そして、オーストラリア(2014年に米国ネバダ州に移転)にFlirteyというドローン宅配企業が設立され、2015年にはFAA(米国連邦航空局)から認められた薬品のドローン宅配に成功したのです。2016年には都市での宅配に、さらにはセブン・イレブンと組んで個人宅への宅配も、成功させました!

この最初の宅配を成功させたFlirtey社のドローンは、米国の首都ワシントンDCの観光名所であるスミソニアン博物館の中でも特に人気の高い国立航空宇宙博物館のコレクションとなる名誉を獲得したとのことです。

アマゾンの参入による競争激化

2013年12月にアマゾンがドローン宅配サービスを開始すると発表すると、一気にドローン宅配が注目を集めることとなります。2015年にはアマゾンも、航空保安行政を司るFAAから、商業目的での試験飛行の許可を獲得しました。

2015年には、世界最大のスーパー・マーケット・チェーンであり、現在ではアマゾンが最大のライバルとなっているウォルマートも、試験飛行の許可を申請しました。ウォルマートの強みは、全米にある5,000の店舗から8キロ以内に、7割の人口が住んでいるというものでした。確かに8キロ以内なら、各店舗からドローンを飛ばせば、個人の住居にも十分届きそうですよね?

そして同じ2015年にアルファベット(当時はグーグル)も参入を表明し、Xプロジェクトの一つとしてドローン宅配事業の実現を目指すことになりました。これがウイング(Wing)プロジェクトと呼ばれるものです。

そして、同年には先行したアマゾンが約2キロの商品を25キロの距離まで30分以内に届けるという具体的なプランを発表しました。

大手企業の参入により世間の注目も集まり、まさに2015年に一気にドローン宅配サービスが実用に向けて動き出したとえいるでしょう。

世の中を良くするための宅配サービスのウイング(Wing)とその目標とは?

それでは、ウイング(Wing)について見ていきましょう。

ウイング(Wing)はアルファベットによる通常のヘリコプター形式ではなく、飛行機によるドローンでの宅配サービスです。

DHLやFedEXなどに代わる配送サービスを提供しようというだけでなく、両親が家を出られないときに病気の子供がいる家庭に食料を提供する、トラクターが壊れても修理できない農民を助けるなど、世の中を変革したい、困っている方を助けたいという精神のもとに設立されているのがアルファベットらしいですよね。このアルファベットの精神についてはこのコラムを読んできたみなさんにはもうおなじみだと認識しています。

そして、ドローンによる配送で現在の車を使う配送と比べてCO2の排出を減少させ地球温暖化に貢献したいという目標も掲げていますEPA(アメリカ合衆国環境保護庁)によると、2017年にはアメリカではCO2の28%が輸送から排出されているそうです。

そして、CO2排出の減少に貢献するだけでなく、シリコンバレーでは特に大きな問題になっている渋滞の解消にも役立つと期待されているそうです。

現行の輸送サービスよりも、よりはやく、安く、環境に優しいサービスを目指しているのです。

起業・スタートアップを目指す方必見!ウイング(Wing)の他のドローンと比べた革新性とは?

ウイング(Wing)のドローンには以下のような特長があります。

  1. 電気自動車同様に電気で作動するので排気ガスは排出しません
  2. ヘリコプター型ではなく飛行機型なので、地上約120メートルの上空を飛び、時速120キロものスピードがでます。
  3. アルファベットのGoogleマップなどの技術が転用され、荷物を正確に目的地のドアにまで届けることができます。
  4. アルファベットのマシンラーニング技術を用いて、樹木やビルや電線などの障害物を避けて安全で便利な場所を探し出すことができます。

ウイング(Wing)でも、アルファベットの他の子会社同様に、各社の技術をうまく転用することで同業他社に差別化していることが、閲覧者の方にもご理解いただけたのではと思います。

ウイング(Wing)の沿革と歴史

ウイング(Wing)は、以前紹介してきたルーンなどと同様に、Xプロジェクトの一つとして始まりました。アメリカ、オーストラリア、フィンランドに拠点を構えています。

食品や薬まであらゆるものを迅速に安全に運ぶために、2012年から数万回のテスト飛行を行ってきたとのことです。心臓麻痺を起こした患者に対応するための機器の運搬なども目指しているところが、世の中の役に立ちたいというアルファベットの子会社らしいですよね。

最初の実試験飛行は2014年にオーストラリアで実施され、ファーストエイド・キットやドッグフード、キャンディーなどが運ばれたそうです。そして2016年にはヴァージニア・テックの大学生にブリトーを届けたそうですが、当時としては最も長距離のドローンでの運搬だったとのことです。また、崩れやすく、冷めたら不味くなるブリトーを、すばやく、バラバラにならずに運搬できたことが高く評価されたようです。

ベストなルートと置き場所をどうやって探すかがゴールとなっているとの事で、将来が楽しみですね。そして、2018年には遂にXプロジェクトからの卒業を果たし、アルファベットの子会社となりました。

2019年1月にはテストサイトにおいて、ファーストフードのテイクアウトの食品や飲料の配送を開始しました。そして、4月には航空保安行政を司る米国連邦航空局から、航空会社としてのライセンスを取得した最初のドローン配送会社となりました。

10月には、ヴァージニア州での試験運用ですが、一般家庭向けのドローン配送を開始し、ドローンで一般家庭の玄関口への商品の配送に成功しました!商品の入ったバッグがドローンからワイヤーで降ろされ、玄関口に届けられたとのことです。

ウイング(Wing)はアマゾンやウォルマートとは異なり、商品販売は行っていません。そこで、小売企業との提携が必要となります。チームを組んだのはWalgreensという日本でいうとマツキヨのような、米国では誰もが知っているドラッグストアですが、イギリスを始めとするコモンウェルス圏ではよく目にするBootsと合併したことにより、実は世界最大のドラッグストアチェーンとなっています。Walgreensの商品をウイング(Wing)のドローンが一般家庭に届けたということで、欧米では話題となったそうです。配送されたのは、咳止めセットでした。

注文は専用アプリから行うのですが、なんと、注文から数分で届くとのことです。

アマゾンの動きは?

宅配サービスといえば、日本でもアマゾンがみなさんにもおなじみとなっています。筆者もこのドローン宅配の分野ではGAFAの一角であるアマゾンが当然先駆者だと思っていたわけです。しかし、実際は上記のとおりで、ウイング(Wing)が追い抜いてしまったようです。

アマゾンもドローンによるテスト飛行を2019年12月からボストン地域で始めたそうですが、当初の2015年開始という計画からは大きく遅れてしまった印象ですね。Amazon Prime Airと呼ばれるサービスで英語ですが、このサイトで動画を閲覧できます。

30分以内に商品が届くとのことです。2019年に発表された最新型のドローンは、垂直離陸後は飛行機型で水平飛行となり、GPSとAI、レーザー技術を使用して場所を特定し、障害物を避けるそうです。まるでウイング(Wing)と同じことを言っており、その優位性を認め、同様な技術を開発することになってしまったようです、

アマゾンが本業の宅配分野においてアルファベットに遅れをとってしまったのは、やはりアルファベットがAI、レーザー、地図などの技術において自動運転、気球など様々なプロジェクトで多くのテストを実施し、トップの技術力を誇っているからでしょう。

このアルファベットの、各子会社が持つ独自技術をあらゆるプロジェクトでテストすることによるシナジー効果は、他社が真似できない長所となってきたといえるのではないでしょうか?

将来のウイング(Wing)はどうなるか?

以下については、英語の記事にも掲載されているわけではありませんので、あくまでも筆者の私見としてお読みください。

上記のように、今回のドローンの個人宅への試験飛行においてウイング(Wing)は、Walgreensと組まざるを得なかったわけです。しかし、将来的にドローン宅配に力をいれていくとすると、既存小売企業のM&Aを考えるのが当然でしょう。

既存小売企業の存在はアマゾンにより脅かされています。起業・スタートアップを計画している方ならご存知の通り、企業の価値を示すのは株価ではなく時価総額(Market CAP)です。

添付のサイトから見て取れる通り、Walgreens のマーケット・キャップはBootsと合併した2015年8月の約950億ドル(約10兆円)から2020年8月の約380億ドル(約4兆円)と5年で半減以下となっています。反対にアマゾンの時価総額添付のサイトにある通り2015年12月の約317億ドル(約3.5兆円)から2019年12月の約917億ドル(約10兆円)と4年で約3倍となっているのです。2020年の新型コロナウイルスの影響でアマゾンの株価はさらに上昇し、この差はさらに開いていることでしょう。

Walgreensは買収するには高すぎるかもしれませんが、中堅企業ならアルファベットの財力から考えると十分に買収対象となりうるでしょう。そして、アマゾンにとって皮肉なことに、実店舗を持つ小売企業の時価総額はアマゾンの存在により減少を続けており、アルファベット=ウイング(Wing)にとってはM&Aを仕掛けやすくなっているわけです。

日本でも早くウイング(Wing)による自動宅配が行われるのを期待したいところです。

しかし、アルファベットのおかげでここまで自動化技術が進歩してくると、ロボットが人間の仕事を奪ってしまうというSF小説にあったストーリーもいよいよ現実化しそうですよね。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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