海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ネストラボ(Nest Labs)

掲載:2020/11/24

最終更新日:2020/11/24

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。みなさんは、スマホで家庭の家電を操作できるスマートホーム/ホームオートメーションについてお聞きになったことがあると思います。今回は、そのスマートホーム事業を展開するネストラボ(Nest Labs)について解説をしていきます。

スマートホーム/ホームオートメーションとは?

ところで、スマホと呼ばれているiPhoneなどの新型携帯は、スマートフォンの略です。スマートは日本ではかつては細身の人という意味で使われていましたが、これは和製英語であり、欧米では頭がいいということを表します。つまり、スマホは従来の携帯電話に比べると、様々な機能を備えた賢いモバイルフォンとなります。

そうなるとスマートホームは“賢い家”という意味になるわけで、より安全で快適な暮らしを実現できる住宅と定義されるでしょう。そしてここで使用される主要な技術が、閲覧者の方ならばご存知のIoT(Internet of Things、モノがインターネットに接続される)とスマートスピーカーに搭載されたAIや音声認識技術、顔認識技術となります。

スマートホームでは、スマートスピーカーと連動して声で家電を操作するホームオートメーション、不在時にドアや窓が開けられるとスマホに連絡がくるセキュリティ、監視カメラで室内や家族の様子が確認できる監視、センサーによる省エネなどの機能があります。

ネストラボ(Nest Labs)とその沿革は?

みなさんは、以前ご紹介したダンデライオン・エナジー(Dandelions Energy)のコラムで海外のホテルでお馴染みのセントラル・ヒーティングシステムについて触れたのを覚えていらっしゃるでしょうか?

ネストラボ(Nest Labs)は、この基幹となるサーモスタット(温度調節器)や煙探知機を革新的なものにしようという創業者のファデル氏の思いから2010年に設立されました。こうした重要であるのに無視されてきた地味な機器にスマート機能をつければ、世の中の役に立つということです。

2011年には最初の製品であるスマート・サーモスタットが250ドルで、2013年には煙探知機が発売されました。

2014年にはGoogleに買収され、その子会社となりました

そして同年には監視カメラを製造するDropcam(ドロップキャム)社を買収、2015年にNest Cam(ネストキャム)というブランド名でローンチしました。

2015年にGoogleがAlphabet(アルファベット)という持株会社を設立したわけですが、その後はAlphabet(アルファベット)の子会社として運営を続けていました。しかし、2016年にはファデル氏がCEOを退任し顧問となり、2018年にアルファベットではなく検索エンジンと検索連動型広告を主体とするグーグルの傘下に入ります。

2017年には金属ではなくプラスチック製で、機能を絞った廉価版のEタイプサーモスタットを180ドルでリリースしました。デザインが平凡なものになってしまったのは、やはりファレル氏の退任の影響が大きかったのでしょう。

2019年にはグーグルWi-FiやChromecastなどの家電製品はGoogle Nest(グーグルネスト)というブランド名を採用することとなりました。

ネストラボ(Nest Labs)の今後の展開

ネストラボ(Nest Labs)は、設立当初は急成長を遂げました。2014年にはNest Thermostat(ネストサーモスタット)がベルギー、フランス、アイルランド、オランダでも発売されました。

しかし、その後は成長が緩やかになりました。2016年のフォレスターリサーチの調査によると、IoT先進国の米国でも僅か6%の家庭しかIoT機器を保有していなく、2021年までにも15%にしか成長しないという市場自体がまだ未成熟だということが一番の理由のようです。

そうはいっても、2017年までには数百万台を販売、現在ではNest Thermostat(ネストサーモスタット)は米国と上記の5カ国のほかに、カナダ、メキシコ、英国、ドイツ、オーストリア、イタリア、スペインの13カ国で発売されています。その他多くの国の冷暖房システムと互換性があるので、利用可能国はさらに増えていくでしょう。

さらに、廉価版のEタイプの発売も追い風となるでしょう。

また、音声アシスタントとの統合もすすんでいます。「Works with Nest(ネスト)」という開発者プログラムには数万人のデベロッパーが参加しているので、アレクサやグーグルアシスタントとの協業によりユーザビリティもどんどん向上していくと考えられます。

煙探知機のNest protect(ネストプロテクト)は米国、カナダ、英国、ベルギー、フランス、オランダで発売されています。

Dorpcam(ドロップキャム)の監視カメラも2015年発売の室内用のNest Cam Indoor(ネストキャムインドア)に加え、2016年には屋外用のNest Cam Outdoor(ネストキャムアウトドア)がローンチされています。

2017年には4Kカメラセンサーや顔認識システムを備えたプレミアムモデルのNest Cam IQ(ネストキャムアイキュー)も299ドルで室内用が、防水仕様の屋外用と共にリリースされました。

Nest Cam IQ(ネストキャムアイキュー)はカメラに人が写ると自動でズームしその人物の静止画を撮影、画像をスマホに送付してくれるそうです。これがあると、留守中も安心ですよね?

ナイトビジョンやアラート機能も備えているようです。スピーカーとマイクが内蔵されているので、スマホアプリで通話もできるとのことです。この製品はNest Thermostat(ネストサーモスタット)以来のゲームチェンジャーになると期待されているそうです。

またNest Secure(ネストセキュア)という、アラーム音やマイク付きのセンサーを備えたNest Guard(ネストガード)とドアや窓のセンサーとデジタル認証機能付きの鍵からなるNet Detect(ネストディテクト)で構成されているホーム・セキュリティ・システムもリリースしました。大手警備会社と提携もしています。

訪問者が玄関に来た際にスマホやタブレットなどに知らせてくれる、インターネットに接続しており顔認証機能がついている、スマートドアベルと呼ばれる製品であるNext Hello(ネストハロー)も2018年にローンチしています。

イェール大学と共同開発した認証されたスマホなどの機器によりドアのロックやアンロックを行うスマートロックという製品のNext x Yale(ネストエックスイェール)も同年発表しています。日本ではQrioという製品がスマホやスマートスピーカーで解施錠できると一時話題になりましたが、それと同じような製品です。

グーグルが開発したグーグルWi-Fiやスマートスピーカーも上記のブランド戦略の変更によるGoogle Nest Wi-Fi(グーグルネストワイファイ)となり、Nest(ネスト)の製品群の一つとなりました。

以上のように、ネストラボ(Nest Labs)はゲームチェンジャーとなったサーモスタット以外にも多くの製品をラインアップしてきました。今後の発展が楽しみですよね。そして、最新ニュースによると、2020年10月には主力製品のNest Thermostat(ネストサーモスタット)の最新作を発表、センサーを搭載しながらも価格は前機種の約半値である129.99ドルだそうです。これでアメリカでは一気に家庭でのセントラル・ヒーティングが進みそうですね。羨ましい限りです。

Nest Thermostat(ネストサーモスタット)のメリットとデメリットとは?

まずはゲームチェンジャーであったネストラボ(Nest Labs)の扱うスマート・サーモスタットであるNest Thermostat(ネストサーモスタット)についてみていきましょう。

メリットとしては、まず省エネが挙げられます。

暖房や冷房などについて、今までのサーモスタットでは、プログラム化されていませんでした。外出時に消して、寒くなったり暑くなるとつけるわけですが、こうした習慣や気象データをAIでプログラム化することでエネルギーの消費量を減らすという理論です。

年間で約150ドルの電気代が節約できるとのことですが、米国は日本と比べて電気代が半分以下ですので2ヶ月分ほどにあたると思います。

現状は化石燃料が主ですから、間接的に地球温暖化の防止にもつながることになります。

さらに、Nest Thermostat(ネストサーモスタット)があればいつも快適な気温で過ごすという経験ができるのです。

Nest Thermostat(ネストサーモスタット)はマシンラーニングシステムと自己学習機能で購入家庭の最初の1週間のスケジュールを把握し、何時に何度の温度の設定しているのかという関連データを取ります。さらに、ネットワーク接続による内蔵センサーとスマホの位置から屋外にいる場合には自動的にエコモードとなります。そして天気予報と連動し、朝が普段より寒ければ早く、暖かければ遅く作動するようにAIが調節してくれるのです。

朝目覚ましが鳴って目が覚めたけれど部屋が寒くてベッドから出られないという経験は、誰もがおありでしょう。Nest Thermostat(ネストサーモスタット)は起床時間に合わせて部屋の気温を調整してくれるので、こうした思いはしなくてすむそうです。まるでSF映画に出てくる未来の話のようですよね?

さらなる長所は、そのデザインの美しさです。筆者はMBA留学前からこのデザインによる経済の発展を考えていたわけですから、冷蔵庫などを除くと家にある家電はほとんどが、デザイン性の高い海外製のものです。欧州と異なり、デザインに関心の薄かった米国人が、デザインを重視するようになったのは、素晴らしいことだと思います。

デザイン重視といえばアップル製品が思い浮かびますが、実はファデル氏はアップルでiPod部門を統括していました。アップルでの経験により、デザインが重要だと考えるようになったのでしょう。

さらに、インターネットに接続されればバグを除去し、パフォーマンスを改善してくれるプログラム機能もあります。

デメリットは、残念ながら、Nest Thermostat(ネストサーモスタット)はすべての地域で使えるわけではないということです。国によって基準が異なるためです。

セントラル・ヒーティングシステムを基本的には使用していない日本では、使用できる施設はホテルなどに限定されることになるでしょう。

また、米国とカナダの郵便番号を元に気象情報を得ているので、その他の地域ではうまくソフトウェアが作動しないという問題があるそうです。

いずれにしろ従来のサーモスタットと比較しての欠点は、あまり見当たりません。Nest Thermostat(ネストサーモスタット)が世界各国で人気となったのも頷けますよね。

Nest Protect(ネストプロテクト)のメリットとデメリットとは?

煙探知機のNest protect(ネストプロテクト)のメリットとしては、まずは、誤った警報を少なくできることです。みなさんも、煙探知機の誤動作で火事のサイレンが鳴ったけれど実は違ったという経験がおありだと思います。2種類のセンサーが誤動作を防いでくれるそうです。

また、キッチンで煮物を作っていることをお風呂で疲れて寝てしまい忘れてしまったとか、そうしたミスもNest protect(ネストプロテクト)が自動的にスイッチをオフにすることで防いでくれるそうです。

Nest protect (ネストプロテクト)が警報を出すとDropcam(ドロップキャムの監視カメラが自動的に録画を開始し、Nest Thermostat(ネストサーモスタット)と連動し、キッチンレンジをオフにしてくれるからです。

デザインもやはり素晴らしく、通常は水色の丸いスイッチの周囲のリングが警告では黄色に、警報が鳴る際には赤く、人が通ると白く変化するそうです。

デメリットは特に見当たりませんでした。

日本での導入はどうなる?

日本でもネストラボ(Nest Labs)の製品が使えるようになると一気にIoTが身近になると思うのですが、残念ながらセントラル・ヒーティングシステムではなく主力製品のNest Thermostat(ネストサーモスタット)が使用できない日本に導入されることはないような気がします。

Nest Hub(ネストハブ)というスマートディプレイやNest Mini(ネストミニ)というスマートスピーカーは日本でも発売されているようですが、実はこれらはネストラボ(Nest Labs)ではなく従来のグーグルの商品です。

以前にグーグルの解説で紹介したE-A-T(Expert, Authority, Trustworthinessの略で権威のある専門家が書いた信頼できる引用を多用した記事が検索結果の上位に来る)も医療分野以外は全く進展が見られていません

日本はある意味Googleから見捨てられているのかもしれないのです。あまりにガラパゴスなので仕方がないのかもしれませんが、IoTなども言葉として知るだけではなく実際に自分で使用してみないとその素晴らしさの実感が沸かないでしょう。起業・スタートアップを目指す方には特に経験していただきたいのですが….。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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