海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
アムウェル(Amwell)

掲載:2021/1/15

最終更新日:2021/01/15

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのスタートアップを目指すシニア・女性等への起業のアイデアとなるシリコンバレーの注目企業紹介のコラム。今回は、アムウェル(Amwell)について解説します。

起業・スタートアップを目指す方必見!新型コロナ・ウイルスの流行で注目を浴びている遠隔診断とは?

遠隔診断とは、病院に来ることができない患者を医師が、古くはSkype、近年ではZoomで知られるカメラ、音声、画面共有、録画・録音機能を備えたテレビ会議システムで診断しようというものです。

離島や寒村など医師がいない地域や、重病のため家を出られない患者が主な対象でした。しかし、新型コロナウイルスの影響により、感染を恐れる高齢者による患者側の事情と、キャパシティがいっぱいになった病院側の事情が重なり、欧米では一気に使用率が上昇しているとのことです。マッキンゼー・アンド・カンパニーの英文記事によると、遠隔診断の患者の受入率は2019年の11%から2020年には46%に急増したとのことです。アメリカの遠隔診断市場はコロナ前には約3,000億円に過ぎなかったのが、100倍に近い約25兆円にまで拡大する余地があると推定されているそうです。筆者も以前使っていましたが、ヘルスケア部門ではもっとも評価されている調査機関のフロスト&サリバンの予測でも2025年までには7倍に成長するとのことです。

アマゾンやネットフリックス、ゲーム企業の巣ごもり消費による急成長がマスコミを賑わしていますが、この遠隔診断の成長率は比べ物にならないほど大きいのだとみなさんにも理解していただけたのでしょうか?

特にアメリカでは、規制や診断後の診断料の保険払い戻しなど、過去に遠隔診断の普及を妨げていた障害を政府が取り払ったことが大きかったようです。遠隔診断に携わる企業側も、無料の遠隔診断の製品を無料で配布する、最初の診断料を無料にするなどのキャンペーンを行ったとのことです。

起業・スタートアップを目指す方にとっても、注目すべき分野となったと言えるでしょう。

遠隔診断のトップ企業アムウェル(Amwell)とその沿革は?

アムウェル(Amwell)は、新型コロナウイルスの流行で最も注目を浴びている分野の一つである遠隔診断のトップ企業です。2006年にAmerican wellとして、ボストンでイスラエル人の2人の医師により創業されました。ソフトウェア会社iMDsoftが母体で現在は700人の従業員を抱え、15年間もトップとして君臨しているとのことです。患者と医師を結ぶオンラインシステムとソフトウェアを提供しています。

通常のプライマリーケアと呼ばれる内科医により初歩的な診断から、緊急診断、精神科分野での診断も行っています。ビジネスモデルは課金モデルです。

2009年にシリーズAで10億円を、2012年までに約27億円を調達します。2014年にはシリーズCで25億円を取得予定が人気となり、81億円となりました。同年には、医療機器であるにも関わらず、100万ダウンロードを達成します。2015年にはさらに5億円を調達して、アメリカ遠隔治療協会公認の最初のオンライン診断コンサルタントとして認定されました。

2018年には調達金額は290億円に膨れあがり、医療機器メーカーとしても欧米では著名なフィリップスとの戦略提携が決まると、さらに75億円を取得します。イスラエル第3位の健康保険会社ムーへデットともパートナーシップを締結します。さらに急患治療企業のAviziaを買収しビジネスモデルを拡大、かつ医師とのネットーワークも強化されました。2019年には遠隔精神治療に特化したAligned Telehealthを買収し、2020年にはアムウェル(Amwell)に改名し、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、事業拡大のために200億円を調達、調達金額は500億円を超えていました。

しかし、その直後には遂に上場を果たしました。ユニコーンとして非上場を貫いてきたアムウェル(Amwell)が方針転換をしたのは、上記のマッキンゼーのレポートにある環境下において、IPOにより大量の資金を獲得して一気に全世界に事業を拡大していこうということなのでしょう。さらに8月には、Google Cloud(グーグル・クラウド)が100億円を出資しています。

アムウェル(Amwell)の特徴と提携先とは?

アムウェル(Amwell)は、アメリカの50州の2,000以上の病院を傘下に置き、利用患者数は8,000万人とありましたが、恐らくその数は現在では急増していると思われます。新型コロナウイルスで急成長を遂げ、上場で潤沢な資金を獲得したからです。

高機能で、効率的で、コストパフォーマンスが高い、患者にフレンドリーというのがトップ企業として長年君臨してきた長所だそうです。アプリを使用すれば、アポイント無しで、安全に医師とつながることができるそうです。

デジタル待合室でチャットボットが手助けをしてくれて、挨拶をし、問診票や保険情報を入手、症状や診断に訪れた理由を聞き取ります。Siriのような会話アプリで、簡単にできてしまうそうです。また、英語を話せない方のために、スペイン語や中国語など、患者が使用したい言語を使うことがきるそうです。医師がヴァーチャル診断室に入る前に、使用言語が伝達されるそうです。英語を使用せざるをえないケースでも、AIが会話の手助けをしてくれて、字幕が表示されるそうです。

過去の診断記録や症状なども安全とプライバシーが保証されているので、即座に利用できるそうですが、普及の妨げになるこうした点もアムウェル(Amwell)はクリアーしていると、政府から認められているようです。医師は診断内容を患者と共有し、処方箋を書き、次の診断日をメールで決定して、診断は終了となります。

カルテに直接アクセスし、高度な解析システムでアラートを出すなど、患者の自宅でのモニタリングにも使用できるそうです。グーグルとの提携によりGoogle Cloud(グーグル・クラウド)上で使用できるようになり、世界中の医療機関に簡単に患者情報を提供できるようになるので、旅行中に病気になっても安心できるようになるのかと、その重要さを理解しました。

提携先も上記のグーグルやフィリップス、ムーへデット以外にも多岐に及びます。

アップルとは、アップル・ウォッチで心拍数を計り不整脈についてのスクリーニングを行う、スタンフォード大学主催の40万人が参加した史上最大の「アップル・ハート・スタディ」において、提携をしています。アムウェル(Amwell)傘下の医師が、緊急の場合は患者に知らせるフォローアップを行ったそうです。

名門クリーブランド・クリニックとは、患者とそのかかりつけの町医者と、クリーブランド・クリニックの専門医をつなぐジョイントベンチャーを設立し、アメリカだけでなく世界的規模で実施していくとのことです。

シスコとは、患者の家のテレビをバーチャル医療オフィスとして使用するプロジェクトを発表しています。

出資者でもあるフィリップスとの提携では、睡眠障害を遠隔診断で判断し、治療するプログラムを開発しました。

このように、アムウェル(Amwell)を中心として、アメリカではこの新型コロナウイルスが猛威を振るう中、遠隔医療が急成長を遂げています。対して日本では、医師の友人からの情報では、かかりつけ医と専門医の間での遠隔診断は促進されているが、患者と医師との間のそれは、様々なマイナス点も考慮され、あまり進んではいないそうです。

しかし、将来的には必ず飛躍する時期がくることでしょう。医師の友人がいらっしゃるアタッカーズ・ビジネススクール塾生である将来の起業家は、遠隔治療事業を、今から開始されてもよいのではないでしょうか?

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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