起業・スタートアップのための
シリコンバレーの企業紹介 ビーツ・エレクトロニクス
掲載:2021/2/8
最終更新日:2021/02/08
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのスタートアップを目指すシニア・女性等への起業のアイデアとなるシリコンバレーの注目企業紹介のコラム。今回はアップルが買収した企業の一つであるビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)について、見ていきましょう。
起業・スタートアップを目指す方必見!ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)の概要
ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)は、2008年にカリフォルニア州サンタモニカで設立された高級ノイズキャンセラー・ヘッドフォンメーカーです。当初は、高級HDMIケーブルで知られるモンスターがデザインを担当しており、最初の製品がCNETで高評価を獲得して話題となりました。創業後わずか3年の2011年には約10億ドル、つまり1,000億円あるアメリカのヘッドフォン市場の53%のシェアを獲得、トップメーカーとなりました。2012年からは独自デザインとなっています。2014年からは音楽ストリーミングも開始しました。
日本と異なり、アメリカでは当時はイヤフォンではなく、ヘッドフォンが主流でした。また、イギリス人ほどではありませんが、“No Music No Life”なので、飛行機に乗るとシニアの方までほとんどの方がヘッドフォンをつけている状況でした。そうした中、bマークの派手なヘッドフォンが注目を集めることになったのです。もちろん性能もそこそこはいいのですが、どちらかというと、アップルの大好きなマーケティング戦略でヒットした製品であり、気に入ったのは当然の成り行きでした。
日本ではあまり知られていませんが、本国ではかつて大人気だったラッパーでプロデューサーに転じたドクター・ドレと大手レーベルA&Mの会長が設立メンバーです。プロの耳で2年間かけて作り出した、実際にレコーディング・スタジオで聴いている音を再現したという触れ込みでした。ジェイ・Zや元U2のボノ、メアリー・J・ブライジなども実際に同社のヘッド・フォンを使用し開発に協力、筆者もCDをすべて持っているほどの大ファンなのですが、アメリカでは未だに絶大な人気を誇るナイン・インチ・ネイルズ(NIN)のトレンスがチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして参加したというメッセージで、彼等のファンを中心に多くの音楽愛好家の取り込みに成功したのです。
NINやヒップホップのファンを意識した、低音重視でダイナミックな、細部までこだわった音が特徴とのことだそうです。彼等プロの耳をベンチマークにした音作りをし、150もの試作品を作成し、完全な音を追求したと言われると、そのデザインの良さも手伝って、筆者もつい買ってしまいました。300ドルと高価なのですが、10代~20代のヒップホップ・ファンにとっては、かつて流行した車のボンネットに装着された冷却用空気吸入口の「フード・スクープ」や不世出のバスケットボール・プレイヤーであるマイケル・ジョーダンにあやかったストリートシューズとして人気を集めた「エアジョーダン」のように、憧れの製品となったのだそうです。まさに、ナイキのようなマーケティングの勝利といっても差し支えないでしょう。
起業家・アントレプレナー注目! レコーディング・スタジオを知り尽くしたビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)の製品の特徴とは
ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)によると、現在世界中の音楽愛好家は、音楽をCDやレコード、ストリーミングを通じて、ヴォーカルからドラムまで様々な種類の、異なるペースで出力された、細かい粒子のような音として聴いているのだそうです。20~20,000ヘルツ(1秒間の振動数)の、ギターのコードなどの複雑な音も聴き分けているとのことです。しかし、ライブ以外では、その音は実際のミュージシャンが発する音ではなく、レコーディング・スタジオで作られた音であり、コピーにも程遠いのだとドクター・ドレは主張します。
スタジオにおいては自然界のアナログ音をA / Dコンバーターによる0か1の人工的なデジタル音に変換し、再びD/Aコンバーターを通じてアナログ音に戻します。その過程で、音楽ファンが満足すると思うまで、フィルターやソフトを使用し、実際のミュージシャンの発する音を少しばかり、または劇的に変更している、これが真実だそうです。スタジオではある周波数を抑え、違う周波数を増やしています、イコライゼーションというテクニックだそうです。ドクター・ドレによると、このイコライゼーションを導入していることが、ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)の特徴とのことです。しかし、ウェブサイトには技術内容は一切表示されておらず、どのように導入しているかなどは一切分からないとのことです。つまり、どう凄い音を出しているのかはブラック・ボックスであり、アップルと同じマーケティングの勝利だとイギリスのオーディオ専門家は冷笑しているとのことでした。
批評家のテストによると、本当に良い音なのかどうかは不明だが、低音とボーカルを強調して他を弱く調整してあるドクター・ドレ好みのサウンドに仕上がっているので、ヒップホップには適しているが反対にクラシックには向かないとのことのようです。
ドクター・ドレが主張する音質よりも、デザインが既存のオーディオメーカーの製品と比べるとお洒落であり、そこがアフリカ系アメリカ人のヒップホップファンのみならず、白人のミレニアム世代やファッション重視の音楽ファンに刺さったのではというのが一般的な認識のようです。音楽業界のコネを使用し、人気ミュージシャンのミュージック・ビデオに大きくて派手なビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)のヘッドフォンを出しまくって、若者にビーツのヘッドフォンはクールだと刷り込んだのでしょう。マーケット・シェアは半分をこえており、音にこだわるオーディオファン以外のユーザーがほとんどのようですので
起業・スタートアップを目指す方必見!ビーツ・エレクトロニクス(Beats Electronics)の製品の沿革
2008年に最初の製品であるStudio、2009年にはTourとSoloをリリース、大ヒットとなりました。製品名が音楽用語なのも受けが良かったようです。レディーガガなどが参加した製品、高音質のSoloHDも発売し、高成長を果たしました。2010年にはアフロ・アメリカンをターゲットに、NBAのトップスターであるレブロン・ジェイムズ参加作品や最初のスピーカーも発売します。2011年には初のワイヤレス製品、DJ向け製品をローンチ、その後もワイヤレス・イヤフォン、既存製品の改良版を発売し続け、人気は衰えることを知りませんでした。そして、2014年にはアップルが史上最高の約3,100億円で買収することになったわけです。
その後も従来買収された他社とは異なり、独自のブランド名は残したまま、サブ・ウェハーを2つ積んだバージョンもある音質重視の黒ベースのお洒落なデスクトップやノートブックパソコンを発表、PCにも進出を果たしました。ドクター・ドレによると、このパソコンも、アーティストとプロデューサーが奮闘して作り上げたレコーディング・スタジオの音を再現しているとのことです。
ヘッドフォンとは異なり、PCは、特別なヘッドフォン・ジャックを備え、明瞭なステレオサウンドや強力なアンプを装着し、電波が雑音を出さないように通常のICボードとは別にオーディオ部品専用のボードを用意、Beats Audio Profileというイコライゼーションシステムも用意するなど、ヘッドフォンとは異なり、理論武装もできているようなので、音質重視の方にはおすすめのパソコンなのかもしれません。
近年はヘッドフォンからイヤーパッドに流行は移っています。ワイヤレス・オーディオ・デバイス市場は年率20%で成長しているので、マーケット・シェアは落ちているが問題ないとのことでした。しかし、その派手なbマークの高いファッション性にその人気がよっていたのだとすると、小さなイヤフォンで差別化するのは難しいと思うのですが、いかがでしょうか?いずれにしろ、今後も日本ではあまり見かけることはないのは間違いないでしょう。2020年12月には「AirPods Max」というアップルブランドでのヘッドフォンも発売されたので。
将来起業家・アントレプレナーを目指すみなさんには、アップルに買収されるにはマーケティングに秀でていることが重要だとご理解いただければ幸いです。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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