海外企業紹介

ピンタレスト(Pinterest):世界約4億ユーザーも日本では伸び悩むアプリ

シリコンバレーの注目企業紹介

掲載:2024/3/11

最終更新日:2024/03/11

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は画像シェアリング・SNSから画像検索・ECまで可能なアプリを手がけるピンタレスト(Pinterest)について解説します。

ピンタレスト(Pinterest)の資金調達の経緯

ピンタレストは、10年ほど前にはインスタグラムとよく比較されていた画像シェアリング・SNS企業です。EC企業という側面もあります。 2012年にインスタグラムが当時のフェイスブック(現在のメタ)に買収されると、SNSとしては一気に差がついてしまいました。そうはいっても同年には既にトップ10 SNSにランクされており、日本ではまだあまり知られていませんでしたが、欧米では人気となっていました。当初は80%のユーザーが女性ということも話題となりました。近年は画像検索やショッピングカタログ機能にも重点をおいているようです。

ハリウッド映画を見ている方はご存知だと思いますが、米国ではコルクボードに家族や恋人などのお気に入りの写真やメモなどを画鋲・押しピンで貼るのが習慣になっています。この機能をウェブ化したアプリと考えて頂くと、分かりやすいと思います。Pin(画鋲・押しピン)とInterest(興味)の造語でPinterestとなります。

 

2011年にはシリーズAで約10億円、200億円と評価され、さらに約30億円を集めました。2012年は多くの賞を受賞し、評価が高まった躍進の年でした。上記のインスタグラムのフェイスブックによる買収の好影響もあったでしょう。楽天主導で約100億円を調達、時価評価額は約1,500億円となり資金の心配はなくなりました。2013年には約250億円を集め、評価は約4,000億円となります。2014年には初の広告収入を計上、新たなマネタイズ方針も確立されました。

2015年に評価額が約1兆3千億円となり、ユニコーン入りを果たしました。 そして、2019年2月にナスダックに上場を果たしました。当時の時価総額は約1兆5千億円でした。現在は、ラッセル1000の構成銘柄にも選ばれており、米国を代表する新興企業の一つとなっています。 

ピンタレスト(Pinterest)の概要

ピンタレストは、当初は画像シェアリング・SNS企業に分類されていましたが、現在では画像検索・ウェブ上でのカタログショッピング企業と定義付けられているようです。他のSNSや画像シェアアプリとの違いは、ホームページ上に、自分の保有する画像だけでなく、他人の画像を収集し、表示できるという点です。 

収集方法は、検索です。例えばアートでは、ボッティチェリやルノワールなど自分の好きな画家、印象派やルネッサンスなどの彼等が属するジャンル、アール・デコやアール・ヌーヴォーなどの絵画だけでなく建築・工芸を含む芸術運動などの用語を検索するのです。 ジャンルで検索すると、自分の知らないアーティストの発見があるかもしません。スポティファイで好きなアーティストを検索すると類似したアーティストの楽曲が流れて、「このアーティストをフォローしよう!」となるのと同じイメージです。 

 

 

髑髏ファッション好きの方ならば、スカルや十字架などの画像を収集できます。例えばクロムハーツ好きならば「Chrome hearts」という用語で検索すれば、関連画像が表示されます。その中からお好きな画像を選んで保存ボタンを押せば、その画像がご自分のページに表示されます。一つの画像だけでなく、その画像のユーザーが気に入ればフォローすることでそのユーザーの画像が表示されるようになります。 しかし、そのユーザーがサーファーだとすると、興味のないサーフィンの画像も表示されてしまうので、ユーザーではなくサーフィン、スカルジュエリーなどボードと呼ばれるカテゴリをフォローするのがおすすめです。

 仮想空間上に自分の趣味のものを集めた部屋を作るなどのソフトウェアが2000年代から販売され、現在のメタプラットフォームへと繋がっています。このピンタレストを使えば、自分がどのような個性、テイストの人間なのかを表現できるわけです。 訪ねてみたい風景、好きなファッション・ブランド、動物、ミュージシャン(アルバム・ジャケットやTシャツ)、映画やテレビドラマシリーズ、漫画やアニメ、俳優、車、スポーツ選手などの画像を集めていけば、ご自身の趣味の世界が徐々に出来上がり、ピンタレストを開くだけでお気に入りの画像で構成された世界に浸ることができるわけです。ピンタレストは他のSNSとは異なり、交流型ではなく自己完結型といえるでしょう。自分の行動を公開してフォロワーを増やし、「いいね」をもらう、つまり他人に認めてもらうことが目的ではなく、自己の世界を構築していくわけです。

 2022年6月時点で、世界で4億3千万人もの月間ユーザーを有しています。「他人などどうでもよく、自分は自分」という個性的な方に向いているわけで、流行をメディアに頼っていて個性よりも他人との同質化を重視する一般の日本人には向いていないのが、楽天が出資しながらも日本ではあまり知られていない理由なのではないでしょうか?日本人でもディープな趣味を持つ人やオタクの方にはオススメできるアプリだと思います。 

2020年に広告収入が前年比5割も伸びて約2,000億円となるなど、上記の概要で想像できるように、新型コロナウイルス禍で成長した企業の一つです。しかし、コロナ流行による減収を予測し、3月には「ピンタレストプレミア」という動画広告を開始、広告の属性にあったユーザーのフィードに表示されるようにしました。10月には撤回されましたが、ペイパルによる買収オファーも受けました。 グーグルの画像検索結果をピンタレストユーザー所有のものが大半を占めるようになっていました。そのため、多様性を求めるためのグーグルの検索結果改定により2021年にはウェブからの流入が約30%も減少しました。 

しかしこうした逆風にも関わらず、2021年の売上は約3,500億円、純利益は約400億円の黒字という堂々たる結果となりました。2022年3月には「ピンタレスト・テレビスタジオ」という動画ストリーミングアプリも発表しています。6月にはEコマースの専門家が創業者に代わりCEOに就任、今後はEC分野にも注力していくようです。 広告モデルだけでなく、ECを強化するなどマネタイゼーションに成功しています。今後が注目される企業といえるでしょう。

ピンタレスト(Pinterest)の沿革

ピンタレストは2009年にシリコンバレーのパロアルトで設立されました。創業者の一人による「To te」という紙のカタログのウェブ版アプリが原点です。当時は携帯電話での商品の大量購入ができなかったためだそうです。つまり当初から実はSNSではなく、ECサイトだったということですね。

 2010年にはベータ版をローンチしました。当時のアプリの主流であった招待制でしたが、年末には1万ユーザーが集まりました。 2011年にまずはiPhone用、続いてiPadやアンドロイド用アプリをリリース「Time」誌でウェブサイトのベスト50に選出され、急成長を遂げます。年末にはある分析ツールによると、SNSのトップ10にランクされました。

「テック・クランチ」誌ではベスト2011年スタートアップ賞を獲得しました。翌年1月には米国だけでもユニークユーザー数が1200万人となりました!成長率は2年間でなんと1200倍で最速記録となり、招待制度は廃止されました。たった2年でそこまで評価されるとは、やはり起業にはアイデアが重要なのだと、将来の起業家のみなさんには理解していただきたく思います。 

2012年にはサンフランシスコ市内の美術館やギャラリーが集まるSOMA地区に移転します。その後ピンタレスト自身がユーザーの商品を売ることを禁止したのを手始めに、多くの機能を実装していきます。 2013年には企業の宣伝やEC用の「ビジネスアカウント」を開設、レシピサイトならば調味料の名前、分量やカロリー、ECサイトならば価格やサイズなどが表示される「リッチピン」をスタートしました。

2015年には商品を直接購入できる「買えるピン(2018年に製品ピンに統合)」をリリースします。 同年には画像検索のテストを開始、2017年に本格運用を開始しました。現在ではAIを使用しているそうです。「ピンタレストアナリシス」という「グーグルアナリティクス」と同様のトラフィック解析機能も導入されています。どの曜日、どの時間にどの製品が人気か、最もクリックされたピンはどれかなどの情報は、企業のマーケティング担当者の助けになることでしょう。

 2016年には買収した企業によるAmazonのようなレコメンド機能も設置されました。2017年にはリンクをボード(前回ふれたカテゴリー)に統合、2020年には現在のトレンドを知らせるための「流行のピン」を開始しました。 2021年にはクリエイターを呼び込むためのクリエイター資金も開設しました。2022年にはAIを活用したファッションプラットフォーム企業を買収、ウェブ上のショーケースとしてハイブランドを含む小売店に人気となっているそうです。 

2013年には世界中のユーザー数は2月に約5000万人、7月に約7000万人となり、急成長が続きました。2016年には約1億5千万人となり、米国と海外がほぼ半分となるほど米国外にも普及しました。成長は止まることなく、2018年には約2億5千万人、2020年には約4億人に達しました。

ピンタレスト(Pinterest)の商品と問題点

その商品は創業者によると、「アイデアのカタログ」だそうです。ユーザーのホームページがその嗜好を表現しています。属性は当初は80%が女性でしたが、現在は60%で男性ユーザーも増えているようです。40歳以下が主要ユーザーで、特に18歳から25歳以下の層が26歳以上の倍以上のペースで成長しています。 

ユーザーのホームページは、旅行、ファッション、美術、漫画などの大分類ではなく、リゾートやハワイ、ルイヴィトンやエルメス、ウィーン分離派やクリムト、ジブリやトトロなど、「ボード」と呼ばれる小分類のカテゴリで構成されます。ボードはピン(世界中のURLからセーブしたり、自分の写真からアップロードした画像)やリピン(他のユーザーのホームから保存)した画像からなっています。 近年はやはり「TikTok」の人気が無視できないようで、動画も保存できます。ピンするという用語が使用されていますが、実はグローバル化の影響で2016年にセーブ(保存)に変更されています。

この他に、前回説明したようにフォローした人やボードの画像や趣味に合致した広告も表示されます。 商品をPRしたり、販売する目的の「ビジネスアカウント」は別ですが、個人アカウントでは、他のSNSとは異なり、フォローやフォロワー数は重要視されていません。自らの趣味を追求して、ホームを洗練させていくのが目的です。 しかし、他人のホームの画像を保存する「リピン」を行うと当人に通知されるので、同じ嗜好の人と交流するSNS的側面もあるわけです。同じ趣味の人を見つけるという点では、ピンタレストが1番適しているのではないでしょうか? 

近年は、ピンタレスト自身は自社商品を、気に入ったアクセサリーなどの商品を購入したり、広告されていたライブを見に行ったりする行動に繋がる画像検索エンジンと定義づけているようです。 嗜好が似ている商品がユーザーのホームに表示されます。例えばネイティブ・アメリカンによるインディアン・ジュエリーが好きでそうした画像を集めていると、自分が集めたわけではないジュエリー店の広告も表示されます。そうした広告は自分の趣味に合っているので、質の問題はもちろんありますが、ユーザーにとってはそれほど煩わしくないわけです。

 また、広告主はターゲット顧客に宣伝できるので効率的です。ピンタレストは広告料が獲得できます。まさにウィン-ウィン-ウィンの広告モデルとなっているのが、業績が好調の理由なのかと推測されます。画像を使用しているSNS・検索エンジンという特徴のため、ビジュアルが重要なファッション分野に強いそうです。

ここまで解説してきましたが、その問題点にお気づきになった方も多いことでしょう。自分の撮影した画像をアップロードするだけでなく、他人のホームやピンタレスト以外のウェブサイトからの画像を使用しているのは著作権侵害にならないのかという点です。日本では写真を撮影できない美術館が殆どです。東京国立博物館や東京近代美術館、改装された西洋美術館などでは近年ようやく撮影できるようになりましたが、例外というのが現状です。 海外ではギャラリーの最新作品でさえ商用目的でなければ撮影できます。つまり、商用目的でなければ数十万ドルで販売されている画家の最新作でさえ撮影可能だというのが米国の常識なわけです。

商用目的のビジネスアカウントではもちろんNGですが、個人が楽しむ目的ならば問題ないと許容されているのではと推察されます。自分の撮影した作品に限るのが無難でしょう。しかし、それではこのアプリの特徴は全く生かされなくなります。 SNSとしての機能はなくなりますが、ボードを非公開にして自分だけで楽しむようにするという裏技もあるようです。 実はこの著作権への日米の認識の違いこそが、ピンタレストが日本では流行していない本当の理由なのかもしれないですね。著作権が怖いのでご自分では使用されなくとも、注目すべき企業の一つだと思われます。

 

著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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