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パランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies):AI×人間の頭脳でサイバーテロと闘うソフトウェア開発企業

シリコンバレーの注目企業紹介

掲載:2024/12/5

最終更新日:2024/12/15

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

タッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、サイバーテロ防止やビッグデータ解析に関わるソフトウェアを開発し、大手企業から政府機関まで顧客に抱えるパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)をご紹介します。

 

■パランティア・テクノロジーズの資金調達の経緯

パランティア・テクノロジーズは、米国ではPayPalマフィアのドンとして知られ、SVBからの資金引き上げ提言で日本でも注目された著名投資家ティール氏らが2003年に設立した企業です。 サイバーテロ防止やビッグデータ解析を手がけており、軍事費の増大やサイバー戦争の拡大で将来性が期待できます。 現在の本社はコロラド州デンバーにあります。

当初はVCから約2.5億円しか調達できず、ティール氏自身が約40億円を出資するなど苦労したようです。 2013年にようやく約250億円、さらに約600億円を集め、資産価値が約1.2兆円となりました。 当時は政府との取引が多いため株式公開はしないと発言していました。 2014年にはさらに約500億円、2015年には650億円を調達。 続いて約1,150億円を調達して市場価値が2.6兆円となるなど、さらなる成長を遂げます。 2018年にはモルガンスタンレーが資産価値を約8兆円とし、非上場株としては破格の規模となり、2020年9月にニューヨーク証券取引所に上場しました。

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■パランティア・テクノロジーズの概要と沿革

パランティア・テクノロジーズは、2003年にカリフォルニア州パロアルトで創立されました。 映画化されて大ヒットしたトールキンのファンタジー「ロード・オブ・ザ・リング」に登場するお互いに通信でき、背景を見ることができる水晶体から名付けられました。 AIだけではサイバーアタックに対抗できないという思想から、現在流行しているAIではなく、人間による解析を提唱しています。

2004年にPayPalの詐欺認識システムを基に、PayPalのエンジニアやスタンフォードの学生により試作品を完成させます。 その後3年間に渡り諜報機関のコンピュータサイエンティストやアナリストにより技術開発を進めていきます。 最初の顧客は米国諜報機関であり、その後、連邦政府や地方政府を経て民間に拡大していきました。 このシリーズに何度も登場しているDARPAからの援助で成長していった企業と似た環境にあるといえるでしょう。

2009年から2010年にかけて、カナダの諜報機関がNATOなど100カ国以上の機関に対して実施された中国製のサイバーアタックの発見に使用しました。また、同社製品の「Metropolis」が大手投資銀行JPモルガンのインサイダー情報漏洩の監視に使われました。さらに、2010年にはロイターニュースと提携し、「Metropolis」が定量分析ツールとして使用されることが決定しました。当時のバイデン副大統領にも同社のソフトウェアが詐欺行為を防止していると称賛され、注目されました。その後はメディケアなどの健康保険システムを手始めに用途が拡大していき、2011年の売上は約330億円となります。

2013年にはFBIやCIAなどの諜報機関で使用され、データベースがパランティア・テクノロジーズのものに統一されました。その後、空軍、海軍、陸軍士官学校など13の政府機関(陸軍のみは独自システム)が使用するようになりました。システムの変更が容易でないのは、みずほ銀行の例などで皆さんもご存じでしょう。政府機関での導入により、安定収入が約束されたこととなります。2016年には民間向けの「Foundry」というデータ収集・統合システムをローンチしました。また、顔認識のためにKimonoLabsとSilkを買収しました。

2017年には「Gotham」システムという犯罪防止解析製品をローンチします。このネーミングは、「バットマン」シリーズに登場する悪がのさばる架空都市から取ったものです。犯罪率の高い地域を赤く表示する製品をデンマーク警察のために開発しました。ドイツ警察でも導入されており、ノルウェー税関では人と車の監視に使用されています。2019年にはGoogleの親会社のアルファベットから偵察や爆撃用無人ドローン・プロジェクトを譲渡されます。また、SOMPOホールディングスと提携し、日本オフィスを開設しました。

2020年には新型コロナウイルスのために英国NHSと協力した4つのIT企業の1つに選ばれます。「Foundry」が感染者を追跡・把握し、「Tiberius」はワクチン分配状況を追跡・把握しました。米国FDAとも約60億円の契約を締結し、市場シェアは20%だったようです。

■パランティア・テクノロジーズの商品

パランティア・テクノロジーズの代表的な商品は4つです。

「Gotham」はテロ防止のための解析に米国諜報機関、国防総省、軍のオフィス、警察で使用されている政府向けソフトです。アフガン戦争では爆弾の場所の特定予知能力向上に使用されました。現在は犯罪予測システムとしても活用されています。カリフォルニア州における犯罪に使用された車両を特定するためのライセンスプレートのデータベース構築、移民局の移民と不法移民のトラッキングシステム、イランの原子力活動の監視など、その活用の領域は多岐に渡っています。米国の諜報活動を担っている国策会社と言えるのではないでしょうか。

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「Foundry」はNHSとの新型コロナ対策、ウクライナ難民への住宅地提供プログラムとして英国で使用されました。メルク、エアバス、フィアット、ロイターなど、ヘルスケア、航空、製造、マスコミなど様々な分野の民間企業で活用されています。クレジットカードの記録や旅客情報からの消費、属性分析、企業内のデジタル・トランスフォーメーションの推進など、その利用の可能性はアイデア次第で大きく広がるようです。IBMのクラウドシステムを活用できるようになり、エンジニアでなくてもデータを扱えるそうです。

「Apollo」は国防総省で使用されているOSで「Gotham」や「Foundry」をSaaSとして提供するそうです。詐欺防止に公的機関が使用します。

「Metropolis」は元々ファイナンス向け製品として開発されました。データ統合、情報マネジメント、定量分析が主要機能でした。現在はEメール、ダウンロード、ブラウザ履歴、GPS情報から情報漏洩を監視する機能が追加されています。キーワードやフレーズ、使い方のパターンからの解析もできるようです。ヘッジファンドや銀行が主要顧客ですが、情報漏洩機能はどの業種でも必要でしょう。

■パランティア・テクノロジーズの問題点

同社のデータベースがアジア人を差別しているとして提訴されています。移民局との共同プロジェクトでも移民排斥に活用されているとの声もあるようです。新型コロナの感染検知プログラムも多くの米国人のデータが収集され、他の政府機関に使用される危険性が指摘されています。また、ペンタゴンからのウクライナ紛争に関する情報漏洩は同社のシステムがロシアに破られたと推測されます。個人データが他の政府機関どころか敵対国に流出する危険が提起されました。ロシアのサイバーテロ技術は世界でも有数なのは間違いないでしょう。

こうした危険はありますが、今後ますます重要な資産となるビッグデータの収集においてはトップクラスであり、政府との提携関係により経営は安定しています。黒字企業で、利上げによる破綻不安もありません。短期的にも中長期的にも、注目すべき新興企業といえるのではないでしょうか。

 

著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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