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シンバチェーン(SIMBA Chain):トップガンも支える!“ブロックチェーン技術”の注目企業

シリコンバレーの注目企業紹介

掲載:2024/12/17

最終更新日:2024/12/17

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、米国の軍事用サプライチェーン構築を担うSaaS企業、シンバチェーン(SIMBA Chain)をご紹介します。政府機関から民間の大手企業まで、幅広い顧客を抱える成長企業です。


■シンバチェーンの資金調達の経緯

シンバチェーンは、ブロックチェーン上でのクラウドベースのSaaS企業です。現在の本社はインディアナ州サウスベンドです。ウクライナ紛争後の世界は、G7各国の財務相や中央銀行総裁のアドバイザーも務めたゾルタン・ポズサー氏の予言どおりになっています。つまり、米国一極体制からG7対BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)にサウジアラビア、トルコなどを加えたBRICS+との2極体制に移行しつつあります。

こちらの記事によると、ポズサー氏はこうした環境下では、今後4つの産業政策(1.軍備増強、2.自国へのサプライチェーンの再構築、3.コモディティ在庫の拡充、4.エネルギーのESG化)が推進されていくとしています。1は自明ですが、2についても米国半導体の自国回帰のCHIPS法、アップルによるiPhone生産の中国からインドへのシフトなどのニュースを皆さんも目にされたことがあるでしょう。

シンバチェーンは米国の軍事用サプライチェーン構築を委託されています。上記の理由で今後は確実に高い成長性が期待されるので、今回取り上げることとしました。2019年にプレ・シードラウンドで約6,500万円、2020年と2021年1月にはシードラウンドでそれぞれ約2億円を集めました。政府からの大きなビジネス受注の影響か、2021年9月には約33億円を集め、軌道に乗りました。政府とのプロジェクトが多いためかまだ上場予定はありませんが、前回紹介したパランティア・テクノロジーズも上場へと方針転換したわけであり、可能性はあるでしょう。


■シンバチェーンの概要と沿革

シンバチェーンは、2017年にこのシリーズでは何度も登場しているDARPA からのITAMCO(インディアナ技術製造会社)とノートルダム大学への助成金を元に創業されました。米軍向けの、ハッキングされない安全なメッセージ処理プラットフォーム構築が目的でした。

2019年には米国空軍から、外敵による設計図変更を阻止する試作品開発を受注します。2020年にはサンディエゴの米国海軍航空部隊向けのサプライチェーン構築フェイズ3を約20億円で受注しました。この航空部隊はトム・クルーズ主演の大ヒット作「トップガン」シリーズの舞台としても知られています。戦闘用コミュニケーションシステムの近代化、陸上・海上の資産の維持能力改善を目的としているそうです。機密性の高い情報を安全に交換するものであり、「トップガン マーヴェリック」にも実は同社の技術が使用されていたのかもしれません。このプロジェクトはブロックチェーンの最初で最大の小規模ビジネス向け改革研究の1つとして評価されているようです。

さらに国防総省向けの研究開発データ安全確保のためのブロックチェーン構築を行い、数百万点の書類の安全と信頼性の確保を実施します。そして米国空軍からは、サイバーセキュリティをブロックチェーンで補完する契約を獲得します。これが、2023年にブロックチェーン技術で空軍のサプライチェーンを改善するプロジェクトを約40億円で受注することに繋がったようです。

2023年の時点で従業員は50名強と非常に少ないことに驚きました。しかし、顧客には米国防総省、エネルギー省、空軍、海軍などの政府系だけでなく、ボーイング、マイクロソフトなどの民間のビッグネームも名を連ねています。半導体などもそうですが、米国では最も評価が厳しい軍事用で成功すると、民間への拡大のお墨付きが得られたようなものです。手術用ロボットの「ダ・ヴィンチ」も湾岸戦争で使用されたのが最初でした。同社も今後、民間の顧客も増えていくと想定されます。

■シンバチェーンの商品

シンバチェーンの商品は「シンバ・ブロックス」です。まずは政府系機関向けのブロックチェーンベース製品が挙げられます。中央集権型でなく分散型構造の中で安全に情報を共有し、迅速で効果的な判断ができるとされています。高速で正確な処理が求められますが、2017年の創業時から政府系のプロジェクトを任されてきた実績があります。プロトコル(プラットフォーム)はイーサリアム、ポリゴン、ファブリック、ハイパーレジャー、クオラムから選ぶことができます。一から手がける必要がないので、開発期間を数か月から数週間に短縮できるそうです。

また、開発者のレベルに合わせた開発ツールを用意しています。サプライチェーン構築から製造、データマネジメントまで使用できるデータ構造も提供しています。速度、規模、順応性、コストの全てにおいて優れているとのことです。ブロックチェーン技術が仮想通貨などの金融、NFTなどのゲームやデジタルアートに使用されているのは周知の通りでした。しかし、軍事にも適用されるようになっているというのは驚きでした。

仮想通貨は今後どうなるか見極めがつかず、FTXのように突然破綻することがあるのでハイリスク・ハイリターンといえるでしょう。しかし、このシンバチェーンは政府との取引が多いのでベースビジネスが確立されています。新冷戦下で軍事費やサプライチェーン構築費用が増加する環境では、軍事向けビジネスと民間向けビジネス、両方の成長が期待できます。将来の起業家候補の皆さんが注目すべき企業の1つといえるのではないでしょうか?

 

著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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