起業家講義

らでぃっしゅぼーやが創る日本の食卓・農業の未来

緒方 大助氏(らでぃっしゅぼーや株式会社 代表取締役社長)
2010年9月講演

掲載:2020/11/23

最終更新日:2023/10/03

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

今取り組んでいるのは、生産者の収入を減らすことなく商品の単価を下げるということです。一見不可能のように見えますが、相反することにあえてチャレンジするという二律背反を負うことで、そこにビジネスチャンスは必ずあると思っています。

有機・低農薬農産物と無添加加工食品等の販売最大手である「らでぃっしゅぼーや株式会社」は、その成長により、農業の再成長と消費者と生産者の信頼構築を成し遂げるというビジョンを持ち、持続可能な未来社会を作ることを目指しています。市民運動からのスタートという特殊な成り立ちを持つらでぃっしゅぼーやが株式上場(IPO)に至るまで成長してきた裏側には、どのような特徴があり、どのような経緯と社内の状況の変遷があったのでしょうか。ビジネスとして持続可能な社会を目指す企業の理念と思想を、同社社長の緒方大助氏にお聞きします。

「らでぃっしゅぼーや」とはどんな会社か?

「らでぃっしゅぼーや」は、有機農産物や低農薬の野菜、無添加食品など、いわゆる安心安全な食品を週に1回お客様のご自宅に届ける、会員制の宅配ネットワークです。有機農産物の流通ではパイオニアであり、現在最大手です。 「らでぃっしゅぼーや」という社名には企業理念が凝縮されています。「らでぃっしゅ」は種を蒔いてからだいたい二十日くらいで収穫できると言われている二十日大根です。どんな荒地でも育つ非常に生命力の強い野菜で、我々は力強い命の象徴として捉えています。そして「ぼーや」というのは次世代の象徴である小さな子どもです。つまり、力強い命を育む「食」を次世代に繋げていくことを社名に掲げている会社です。 元々は化学合成物質によって効率化を進めようとする日本の農業の流れに対して、有機野菜の畑を増やし売ろうという市民運動団体が母体となり事業を開始。スタート時は一気に売上も伸びましたが、踊り場が見えてきた2000年にキューサイグループになり、その後、MBO(Management Buyout:経営陣買収)そしてIPOという形で進んできました。私はキューサイとのM&Aをきっかけに、キューサイからやってきて、らでぃっしゅぼーやの取締役社長に就任しました。

らでぃっしゅぼーやの特徴1:食のSPAである

らでぃっしゅぼーやの事業には3つの特徴があります。まず一つ目は、商品の企画から始め、生産、製造、仕入れ、プロモーション、そしてお客様にお届けするところまで、バリューチェーンを一貫して私達自身がマネジメントしているということです。取り扱っているアイテム数は年間8000アイテムほどですが、その9割が自社企画の商品です。ですから私たちのところでしか買えないものばかりです。私たちは、通常はユニクロさんなどアパレルで使われる言葉を使い、「食のSPA(speciality store retailer of private label apparel:製造小売業)」であると考えています。 自分達が売りたいという野菜を、こう作って下さいと農家に発注します。作ってもらったものを我々が仕入れて、我々のプロモーションによって、我々のお客さんに「らでぃっしゅぼーや」のブランドとして売っています。そして宅配も99%が自社便です。現在、全国で10万数千名の会員がいますが、月間稼働率がだいたい9割ぐらいですので、お客様が1か月に1回は何かの買い物をされてるという、極めて高い稼働率をキープしていることになります。

らでぃっしゅぼーやの特徴2:Radixの会

二つ目の特徴は、Radixの会という、「らでぃっしゅぼーや」に商品を提供していただいている第一次産業を中心とした生産者の団体があることです。商品のクオリティを支える源泉になっています。 例えば、有機農産物を例にしましょう。有機農業というのは、作物を美味しく作るための農法ではありません。土壌にケミカルのインパクトを与えず、有機的なもの土壌に入れることで微生物の動きを活発にして、100年後も1000年後もずっと使えるような畑にしていきましょうというものです。つまり、美味しいものとは必ずしもイコールではありません。私たちが売っているのは食べ物ですから、安全安心であることは一番高いプライオリティですが、食べて美味しいものでなくては次には繋がりません。ですから美味しくする努力が必要なんですね。 我々はフィールドテストを義務付け、土壌で足りないもの、多すぎるものを調整しながら、その作物に一番いい畑の状態にしてあげています。そうすると収量も落ちることなく、味もいい。アグリエンジニアを育てて科学的なアプローチで有機農業を進めるというのが、私たちの考えです。理念や哲学と車の両輪となる、技術や経済合理性が必要だと思っています。これらの勉強会などを自主的に行う核となったのが「Radixの会」です。

らでぃっしゅぼーやの特徴3:独自の配送ネットワーク

三つ目の特徴は、配送を大手の宅配会社に委託しないことです。私たちは、大きく括ると無店舗販売ということになるため、事業の拡大による固定的なコストがかかってこず、ある程度を超えていくと非常に収益率の高いビジネスになる可能性を持っています。一方で、お客様とのコミュニケーションが希薄になるという弱点も持っています。やはり、face to faceのコミュニケーションに勝るものはありません。 そこで配送料金を完全売上重量制にすることにしました。通常ですと一箱、もしくは一軒運んでいくらとなりますが、私たちは3万円の売上だと配送担当に3000円払います。しかし、3000円だと300円しか払いません。こうすることで、彼らはお客様に対して「こんな新商品が出ました」と商品を紹介するようになります。それまで売上げが5000円だったのが翌週5500円になれば、配送料金が500円だったのが550円になるという仕組みです。そうすると、自らがポジティブに売上に対して動きますし、収入も増えるわけです。同時に、お客様の中に発生しているニーズを汲み上げて来てくれて、商品の開発にフィードバックしてくれます。我々は配送担当を「らでぃっしゅクルー」と呼んで、彼らを非常に重要なビジネスの要素だと考えています。

日本の食を変える可能性

日本の農家の所得は、平均すると一軒あたりだいたい100万円程度です。日本の農業は一貫して数多くの零細生産者に支えられており、農業だけでは食えないという国になっています。一方で、食の安全に関する報道が増えたこともあり、不幸なことに消費者と生産者は常に対立構造の中に置かれてきました。消費者の方は、安全安心は当たり前、もっと安くしろと。生産者は生産者で、いろいろ要求するならそれなりのお金を出してほしいと。しかし私は、この農業だけでは食べられないということと、生産者と消費者が極めて不幸な関係性にあるという2つの現状に対して、らでぃっしゅぼーやならソリューションが提供できるのではと思ったわけです。 僕には、らでぃっしゅぼーやを中心として日本の農業が21世紀の基幹産業として成長していく姿が見えました。そして食の流通が、不正と不信の悪循環から信頼と感謝の善循環へと変化していく姿が見えました。だからこそ僕が着任した2000年に、「らでぃっしゅぼーや」をNPOから脱却させて大きな企業に育てていきたいと思ったわけです。それは10年経っても変わっていません。

市民運動をビジネス化し、IPOへ

NPO(Non-Profit Organization)を母体とした会社だったため、元は利益を上げることに対しての拒否反応のようなものがありました。儲けるなとは言わないけれども、儲けすぎるなという空気です。利益が出たらそのお金でモンゴルに植林に行くような会社でした。その反面、真夏の炎天下では物流センターの野菜の仕分けラインが摂氏45度になるぐらいのところだったわけです。それでお客さんから「野菜が傷んでいる」とクレームが来たら、それをそのまま農家に返すなど失礼なことをしていました。要するに、儲かったお金の使い道が少し違っていました。事業で儲けた収益で市民運動に永続性を持たせるということが目的ではありましたが、それでは限界が来ていたのだと思います。 では、企業に理念が必要ないかと言ったらもちろんそんなことはありません。社長も社員もそうだし、会社もそう、組織もそうだと思いますが、志というのはとても大事だと思うのです。哲学と戦略は、企業にどうしても必要な車の両輪だと思います。ですから理念を一緒に創ることにしました。また、顧客志向を徹底し、儲けたお金での事業の再投資をするということも共有しました。理念を共有して、我々が成長して大きくなっていくことがミッションの実現に繋がるし、そのために利益は手段として用いるということを、元からいる社員たちと共有していきました。 また、ビジョンを実現し、持続可能な社会をつくるためには、らでぃっしゅぼーやは力を持たなければならないと思い規模を拡大していったわけですが、その過程にIPOがありました。上場というプロセスを経ていくことによって、経営がガラス張りになります。それが我々を適切に成長させてくれるんじゃないかと思いました。それが上場を目指した理由です。

「食」の未来を描く

上場を機に10年のビジョンを立てました。それは「私達らでぃっしゅぼーやは、日本全国の子どもとお母さんにとって安全安心な食の流通の代名詞として最も愛される、信頼される会社になります」ということです。子どもを持つお母さんが真っ先に検討してくれる会社になりたい。この子に何食べさせようと思った時に、「らでぃっしゅぼーや」だと思っていただけるぐらいメジャーになりたいと思っています。 今の子どもが大人になった時に、彼らが未来の社会の選択者になるわけです。彼らがどんな社会を望むかによって、未来の社会は決定されます。その未来の社会の選択者である子どもたちに良いものを、そしてストーリーのあるものを、そしてずっとこういうものを食べ続けたいと思ってもらえるものを今食べさせてあげる。それがおそらく持続可能な社会になっているはずです。 それに対して大きな課題もあります。まずは、一般のスーパーと比較すると高いということです。なんとか買いやすくしたい。そこで我々は自ら農業に参入しました。より付加価値を高めたいのではなくて、安くしたいためです。やり方はだいたい見えてきました。今、取り組んでいるのは、生産者の収入を減らすことなく単価を下げるということです。一見不可能のようにみえますが、相反することにあえてチャレンジするという二律背反を負うことで、そこにビジネスチャンスは必ずあると思っています。

起業人へのメッセージ

ぜひ頑張って、起業していただきたいと思っています。「エリート」という言葉がありますが、エリートの語源は「先に死ぬ者」なんです。要するに、神のために真っ先に死ねる者という意味で、他人の幸せや他人の利益のために、自らリスクを取ってチャレンジする人のことを言うんです。いい大学を出て、いいお給料をもらっている人のことではありません。僕は自分以外の誰かのためにリスクを取る人のことを、本当のエリートだと思います。だから是非、リスクテイカーになってください。そして自分以外の誰かを幸せにする仕事をしてください。

経歴: 緒方 大助氏(らでぃっしゅぼーや株式会社 代表取締役社長) 1960年、福岡県生まれ。福岡大商学部中退後、飲食店経営会社勤務後、1993年に青汁のキューサイ(株)に入社。開発部次長などを経て2000 年1 月、キューサイとのM&Aをきっかけに、らでぃっしゅぼーや(株)代表取締役社長に就任。食を通じて未来を守る仕事に情熱をかける毎日を送っている。

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