アファーム・ホールディングス(Affirm Holdings):クレジットカードを持てない人々を救う!?消費者ローン
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2024/12/3
最終更新日:2024/12/03
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、AIを駆使した“公正で透明性の高いファイナンスサービス”を掲げるアファーム・ホールディングス(Affirm Holdings)を紹介します。2021年1月にナスダックに上場し、IPO時だけでも約1,600億円もの巨額の資金を調達しました。学生やサブプライム層向けの新たな消費者ローンがアメリカ人の消費行動にどのような影響を与えたのでしょうか。
アファーム・ホールディングスの資金調達の経緯
アファーム・ホールディングスはAIを活用し、クレジットカードを持てないサブプライム層の消費者にローンを提供するフィンテック企業です。 デフォルト率が低く、支払い能力が高いにも関わらずFICOスコアが低いためにクレジットカードを持てない層をターゲットとしています。
本社はサンフランシスコです。 2014年にライトスピードなどによるシリーズaで約60億円、2015年のシリーズbで約350億円を調達し、すぐに軌道に乗りました。 2016年にシリーズdで約130億円、2017年にシリーズeで約260億円、2019年にシリーズfで約400億円、2020年にシリーズgで約650億円を集めています。 ここで紹介してきた他のスタートアップと比較しても桁違いの資金調達額であり、将来の起業を考える読者の皆さんにも、同社に対する期待値の高さがわかるでしょう。 2021年1月にナスダックに上場し、IPO時だけでも約1,600億円を調達しています。 上場翌日には株価は2倍となりました。
アファーム・ホールディングスの概要と沿革
アファーム・ホールディングスはヤフー元幹部でPayPalの共同設立者としても知られる人物が中心となり、2012年に設立されました。 PayPal同様にクレジットカードの問題点を補うことを目的とする企業でした。 公正で正直なファイナンスを掲げ、複雑でなくて透明性が高く、かつ安価な商品を提供することがミッションです。 起業家を目指す皆さんなら、米国人は借金をして消費をすると聞いたことがあるでしょう。 こちらの資料によると、米国におけるクレジットカード負債の平均額は約70万円です。 Creditcard.comによるとこの数字はもっと大きく、利率も高いため元本以上の利子を払うことになるそうです。 こうした環境下で、繰り延べ利子もなく、遅延金もないシンプルなローンを提供するというのがアファーム・ホールディングスの特徴です。
2009年に制定された「カードアクト」でクレジットカード会社のローン金利に上限が設けられ、多くの大学生がクレジットカードを持てなくなったそうです。 2010年にはある地銀が60〜80%という信じられないような高金利で、300ドルに制限した特別なクレジットカードを発行。 翌年、ユーザーは30万人にも達しました。 こうした学生ローンに苦しめられ、3分の1はクレジットカードを持っていないという環境下でアファーム・ホールディングスは設立されたわけです。
創業者自身も「PayPalマフィア」で億万長者だったにも関わらず、いくつかの失敗でFICOスコアが低かったためそれに疑問を抱いたのも起業の動機のひとつだったようです。 2017年にはどの店でもローンが組める消費者向けローンアプリがローンチされました。 2019年にはウォルマートと提携、全店とウェブサイトでの利用が可能となりました。 この後、Shopify(ショピファイ)やZen Cart(ゼンカート)などのeコマースサイトとも提携していきます。 2021年にはReturnlyというフィンテック企業を買収しました。 さらにAmazonの「Buy Now, Pay Later」という仕組みの全米での独占パートナーとなりました。 (2023年1月まで、借り手は期限までに支払わないと延滞金が発生する。審査は数秒で、Amazonはクレジットカードよりも多くの手数料を支払う)
2022年には日本にも進出しているStripeと提携、同社のユーザーもこのサービスが利用可能となりました。 現在では、エクスペディアからペロトンまで1,000社以上の小売業者と提携し、ダウンロード数は100万を超えているそうです。 しかし、昨年からの株価下落により、従業員の5分の1を解雇しています。
アファーム・ホールディングスの商品
アファーム・ホールディングスの代表的な商品は消費者ローンです。 FICOスコアという全米で汎用化されている基準では、自己破産をしたり、クレジットカードの返済が滞ったりといった日本でも問題があるとされる借り手はクレジット会社からの融資が受けられません。 加えて、学生ローンの返済がある学生や、まだ若くて焦げ付きがなかった期間が短い借り手もスコアが低くなってしまい、同様に融資が受けられないのです。 このような後者の、実は問題のない借り手をビッグデータとマシンラーニングにより見つけ出し、ローンを提供するという手法が商品となっています。
短期ローンはニュージャージー州の地方銀行が提供する数十のローン情報を元にAIで作成、自ら購入してリスクを取っています。 上記の繰り延べ利子も遅延金もないというのは、ローンが返却されない場合は損金として計上するということのようです。 ローン金利は10%から30%の間で、平均19%とのこと。 日本人の感覚からすると高いですが、米国ではクレジットカードローンの最高利率と同じであり、そこから弾かれている層からすると安いということのようです。 クレジットカードもお金もなくても、欲しいものをすぐに購入できることが魅力なのでしょう。
家具、旅行、ファッションが人気分野ですが、ファッションについては批評家からは「無駄な買い物を助長させている」と批判されています。 しかし、利用者本人は満足しているそうです。 筆者にも経験がありますが、この服は絶対に欲しいと思うことは、若い頃にはあるものです。 金利が高くても、本当は手に入らないものが入手できるのならば、幸福でしょう。 また、数ヶ月で飽きたら売って、新しいものを買う「ファストファッション」として利用している顧客もいるといいます。 インスタに同じバッグを何度も上げられないのが理由のようで、TradecyやThe Real Realのようなハイブランド専門レンタルと同じ発想だそうです。 ミレニアル世代やGenZには独自の考え方があるわけであり、中年のおじさんやおばさんがそれに対してとやかくいうのはどうなのでしょうか?
また、アファーム・ホールディングスの商品は消費者ローンで、そこからの利子収入に依っていますが、隠れた目的は消費者の信用情報の作成だそうです。 消費者情報はビッグテックをはじめ、誰もが欲しがる貴重なものです。 同社は、既存のクレジットカード会社が持っていない1,000万人ものサブプライム層の信用情報というビッグデータを保有し、マシンラーニングを使って解析しているのです。 この点がフィンテック企業として注目され、設立当初から多くの資金を集めてきた鍵だと筆者は見ています。
起業家を目指す皆さんには、こうしたデータの重要性について理解して頂きたいと思います。 資金調達の大きな武器となるからです。 特に、同社の顧客層はサブプライム層の中でも、学生や若年のためFICOスコアが低いが信用力は高い層です。 ビッグデータ解析を進め、アルファベットなどと組むことでFICOに対抗する新たな評価システムを構築できれば大きなチャンスとなるでしょう。 現在は株価を大きく下げていますが、将来性は非常に高いと思われます。 問題は、昨今のSVB破綻により信用不安が起こる中、資金が枯渇しないかということだけでしょうか。
著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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