アバララ(Avalara)が税務業務のアウトソーシングを可能にする
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2023/2/7
最終更新日:2023/02/07
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は中小企業向けのSaaSサービス提供企業であるアバララ(Avalara)について解説します。
アバララ(Avalara)の資金調達の経緯
アバララ(Avalara)は、中小企業向けのSaaSサービス提供企業です。業務内容はクラウドコンピューティングから税務サービスにまで渡っています。一言で説明すると、VATやGSTといった日本でいうところの消費税率関連業務の自動化を手がけている企業となります。
2004年にシードラウンドを実施、2010年のシリーズAで約6億円を集めました。2011年のシリーズBで約25億円、2012年に約25億円を調達、軌道に乗ります。
その後は2013年に約550億円、2014年にはシリーズCを含め約200億円、2015年と2016年のシリーズDでも約180億円が集まり、資金ショートの心配はなくなりました。
2018年1月にニューヨーク証券取引所に上場すると、初日に87%も上昇しました。非常に注目されていた企業だったようです。ティッカーシンボルはAVLRです。
アバララ(Avalara)の概要と沿革
アバララ(Avalara)は、2004年にシアトルからフェリーで30分かかる島で設立されました。業務拡大に伴い、シアトルに移転しています。シアトル設立のベンチャーというとマイクロソフト出身者によるものが多いのですが、アバララ(Avalara)は例外のようです。中小企業のための税務処理の完全な自動化を目指しています。
創業後7年間はあまり注目されていなかったのですが、上述のようにシリーズBで約50億円もの資金を集めてから動きが活発となります。
このコラムでは注目企業を中心に紹介しているので、資金調達が起業後すぐに軌道に乗っているケースが多いです。しかし、現実は、多くの企業が淘汰されているのです。起業家を目指す方には、起業には我慢と継続が必要であり、信念に基づいて行動していればいつかは道が開けるのだとこのアバララ(Avalara)の例で理解していただければ幸いです。
2013年には前年に調達した資金でペンシルベニア州とノースカロライナ州の同業を買収し、事業を拡大しました。いかに資金を調達できるかどうかが、創業者の才能や商品以上に重要なのです。
そして運もそれ以上に大切です。2013年に米国上院で成立した法律により、50の州で異なる税金を人が立ち会うことなくリモートで徴収することが可能になったのです。これがアバララ(Avalara)の飛躍のきっかけになったのは説明の必要もないでしょう。
2018年の上場後には、7年から12年後には完全自動化を実現すると宣言しています。2025年から2030年の間ということですね。近年は年率30%もの高成長を遂げ、ラッセル1000指数の構成銘柄にも採用されています。
2020年時点での売上は約550億円、市場価値は1.3兆円です。米国、カナダ、英国、欧州、ブラジル、インドなどに展開、およそ3万もの顧客を抱えています。顧客には近年ではフォーチュン100に含まれるアディダスなどの大企業や以前ご紹介したロク、ジローグループ、ピントレスト、ショッピファイなどのウェブベンチャー企業も含まれています。ECサイト開設支援のショッピファイではShopify Plusというアップグレードサービスに顧客を誘導するための火付け役となっているようです(https://help.shopify.com/ja/manual/taxes/tax-services )。
アバララ(Avalara)の商品
アバララ(Avalara)の差別化要因となっている商品は、売上税の自動追尾システムです。米国は日本と異なり50の州による連邦国家であり、州ごとに法律も異なります。最近は中絶の権利についての議論が話題となっていますが、大麻の使用を承認している州もあります。独立した州兵も擁します。米国の消費税にあたる売上税も州によって異なります。最高裁の制度に準じて州により異なる売上税を自動的に追尾して徴税できるというものです。酒類や大麻のような特別税制であるものも付加できるそうです。
これぐらいのことならばご自分でもできるのでは?とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、こうしたアイデアが重要だということです。中小企業ではこのようなことも煩雑だと思い税理士に頼んでいる例は、日本にも多いのです。
支払うべき税の種類の確認、金額の決定と徴収と送金、支払った税記録の保管、コンプライアンス書類の管理、売上税還付、証明書の記録など、あらゆる煩雑な税務処理手続きを代行してくれるのです。ここまで説明すると、使ってもいいかな?と思われた方もいるのではないでしょうか?クラウドベースで税務業務のアウトソーシングを可能にしているのです。
税率計算にはどの州に事業所が存在するか、どのような業種なのかという情報が必要です。税金は売上税、国際税などのタイプ毎に、業種は小売、製造、ソフトウェアなど11の業種毎に探すことができます。
また、オラクル、ワークデイ、ストライプなど米国では利用頻度が高いソフトウェアとの統合も可能となっています。パートナーの数は1,200を超えるそうです。今までに導入している他分野のソフトウェアとも共存が可能ということです。
州や国によって異なる税務業務を、新たに従業員を雇うことなしに簡単にできてしまうわけです。知らず知らずのうちに税制を犯していたということは、州や国が異なれば起きうるのですが、知らなかったで許してくれる税務当局などは存在しないでしょう(賄賂が効くような文化を持つ諸国は例外ですが)。そのため、米国企業の日本法人では米国税制についての知識を有するCFOが必要となるわけです。こうした税制上のコンプライアンス違反のリスクを軽減できるのは、大きなメリットでしょう。
そして、従業員を雇ったとしても50の州ごとに異なる税率にいちいち対応していれば時間がかかるわけです。税率計算業務の時間の短縮もコスト削減と並んでアバララ(Avalara)採用の長所といえるでしょう。
事業所がいくつかの州に点在していても、1つのフォームで登記ができるのがメリットのようです。米国内だけでなく、190カ国の税率に対応しているとのことです。海外展開を狙っている企業にとっては必要不可欠なソフトウェアと言えるのではないでしょうか?今後起業を目指す方にとっても海外展開を狙うことになった際には思い出すべき企業ということですね。
著者:松田遼司
株式会社ウェブリーブル代表。
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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