シースリー・エーアイ(C3.ai):最先端のAIソフトを大企業や米国防総省に提供
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2024/10/23
最終更新日:2024/10/23
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、米国の著名起業家トム・シーベルが設立したシースリー・エーアイ(C3.ai)をご紹介します。ビッグデータ解析とマシンラーニングによるAIソフトウェアアプリケーションを開発。石油メジャー・穀物メジャー・ヘルスケア大手などの民間企業から米国防総省まで、幅広いクライアントに提供しています。
シースリー・エーアイの資金調達の経緯
シースリー・エーアイはAIソフトウェアアプリケーション企業です。この分野は最近ChatGPTで脚光を浴びています。ビッグデータとマシンラーニングによる複雑な解析を実現するAIソフトウェアを、民間だけでなく軍に提供している点が特徴です。顧客はこれを基にして効率化・コスト削減・故障予測のための独自のアプリケーションを設計・開発・運用できます。
2009年にシリーズaで約20億円、2010年にシリーズbで約13億円、2013年にシリーズcで約20億円と着実に資金を集めていきました。2016年にシリーズdで約90億円を、2017年にはシリーズeでさらに約15億円を集め軌道に乗りました。2017年には時価総額が10億ドルを超えて、ユニコーン企業となりました。2018年にはシリーズfで約140億円を調達します。2020年12月にニューヨーク証券取引所に上場を果たしました。
シースリー・エーアイの概要と沿革
シースリー・エーアイは、起業家トム・シーベルにより2009年、エネルギー管理のためのソフトウェア企業として設立されました。トムは元オラクル幹部で、1993年にCRMソフトウェア企業を興し、2006年にそれをオラクルが買収。その後、シースリー・エーアイを設立しました。本社はカリフォルニア州のベイエリアのレッドウッドシティです。設立時すでに57歳だったトムは、現在70歳。米国ではシニアでもAIという最先端分野に挑戦できるということです。
2019年の著書『デジタル・トランスフォーメーション』ではクラウドコンピューティング、ビッグデータ、AI、IoTのビジネス・政府・社会への影響を語り「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙においてベストセラーとなっています。21世紀に入ってから「フォーチュン500」という米国のトップ企業の顔ぶれの半分が入れ替わったそうです。同じ顔ぶれが並ぶ日本とは大きく異なり、この点こそが日本経済が20年間成長しなかった大きな理由の一つなのではないでしょうか。革新性のある企業が生まれる土壌がなかったということです。読者の皆さんには日本が成長するためにぜひとも起業を成功させて頂きたいと痛感しました。
米国のビジネス界では著名なトムがCEOである点が創業時から他社との差別化要因となっていました。当初の企業名はC3で、温室効果ガスの出所を調べて軽減を図る「Measure(測定)」、「Mitigate(緩和)」、「Monetize(収益化)」を目標としていました。設立時はリーマン・ショック後の不況で業績が悪化すると、投資を減らし、従業員の2/3を解雇しました。核となるエンジニアだけは残したそうです。イーロンによるツイッターでの大量解雇が日本でも話題となりましたが、米国では解雇は原則自由なので正しい経営判断だといえるでしょう。
2012年にC3エナジーに社名を変更。石油やガスなどのエネルギー企業が様々なセンサーやソフトウェアからデータを集め、解析し、送電を効率化するのを助け、成功を収めました。高速でデータを処理してマシンラーニングで解析するわけですが、他分野にもチャンスがあると考えると2016年にC3IoTに再度社名を変更。あらゆる分野の顧客にクラウドコンピューティング、データ解析、マシンラーニングのアプリケーションを提供していきます。特定分野での成功により基盤を固めたあとに、拡大戦略に出たということですね。
石油やガスなどのエナジーマネジメント企業から航空、防衛、製造などの大企業向けのAI提供企業へと変化を遂げました。将来の起業家を目指す方は、こうしたビジネスモデルの変更は成功には必要だとご理解頂ければと思います。2019年にはシースリー・エーアイへと改名し、現在の顧客はヘルスケアや金融まで様々な分野に渡っています。顧客リストにはシェルなどの石油化学、カーギルなどの穀物、フィリップスなどのヘルスケア、米国防総省(陸軍・空軍)などが名を連ねています。
特に利益率と成長性が高く安定性もある軍事分野を抑えているのが強みといえるのではないでしょうか。米国防総省とは約550億円の5年契約を結んでおり、2021年はそれが売上の約半分を占めています。新型コロナウイルスの影響で売上は低迷し、株価も大きく下落していましたしかし、2021年後半から売上が回復し、ChatGPTの登場を受けて株価も大きく戻しています。(2023年3月時点)
シースリー・エーアイの商品
シースリー・エーアイの商品は、ビッグデータ解析とマシンラーニングによるAIソフトウェアアプリケーションです。エネルギー分野では制御・予測、金融分野では詐欺発見やマネーロンダリングの防止、軍事では機材の故障の予測・発見とメンテナンスコストの削減、製造では在庫最適化など様々な用途に応用できるようです。どのような用途に使用するかは顧客次第であり、アイデアがあれば今まで非効率だった分野を効率化できるわけです。
AIが自動で絵を描いてくれるMidjourneyが2022年、話題となっていました。ChatGPTの登場により、マシンラーニングを使用して既成の動画、画像、コード、テキストまであらゆる種類のデータから新たなデータを生成するGenerative AIが一般にも浸透し、キラーアプリとなると言われています。検索エンジンのシェアが3%しかないマイクロソフトのBingに搭載が決まると、グーグルの親会社アルファベットの株価が急落するほどの事件となりました。こうしたGenerative AIを自社製品に取り込める新製品を発表後、株価が急伸しました。
AIに関しては、キュレーションサイトのコピペ問題と同様、AIが間違えて回答した情報がフェイク記事となり出回ってしまう危険性が指摘されています。また、大量のデータ解析は仮想通貨マイニング同様に大きな電力消費に繋がり、環境には優しくないそうです。確かにそうなのですが、ChatGPTがゲームチェンジャーとなることは間違いありません。その関連分野銘柄であり、米国では有名人のトムが牽引し、米国防総省など堅実な顧客を抱えるシースリー・エーアイのニュースを追っていても損はないのではないでしょうか。
著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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