チャイム・ファイナンシャル(Chime Financial):銀行のようで銀行でない!若年層や低所得層に特化した金融機関
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2025/4/10
最終更新日:2025/04/10
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、従来の銀行にはないサービスを提供する、若年層や低所得層に特化した金融機関であるチャイム・ファイナンシャル(Chime Financial)[※以下、チャイム(Chime)]についてご紹介します。
●チャイムの概要と資金調達の経緯
チャイムは無料のオンラインバンキングを提供する企業です。オクラホマを本拠地とするStride Bankとサウスダコタに本社を置くThe Bancorp Bankを通じてサービスを提供しています。伝統的な銀行システムの代替となり、利用者の財務面の安心を創造するのがミッションです。
米国では特に若い世代はクレジットカード作成が簡単にはできないことは、他社の紹介記事の中でも何度かお伝えしてきました。チャイムに口座を持てばVisaのデビットカード(使用時に引き落としになるカードで欧米では主流)やクレジットカードが発行され、オンラインバンキングにもアクセスできます。オンラインバンキングはウェブサイトだけでなく、アプリをダウンロードしてモバイルでも使用できます。
2013年にシードラウンド、2014年と2016年にシリーズaを実施しました。2017年にシリーズb、2018年のシリーズc、2019年にはシリーズdとシリーズe、2020年には約700億円のシリーズfを成功させ、軌道に乗りました。市場価値は約1兆9千億円の、堂々たるユニコーン企業です。2021年のシリーズgにはセコイアキャピタル、タイガーグローバル、ソフトバンクなどの有力VCも参加し、約1,050億円を集め、調達総額は約3,300億円となっています。その時点で市場価値は約3兆5千億円となりました。
●チャイムの沿革
チャイムは、2012年にサンフランシスコで設立されました。2014年にはTVのトークショーでも取り上げられました。2018年にはミレニアル世代やZ世代のオンタイムの賃貸支払い状況を報告してクレジット・スコア積み上げを助ける会社「Pinch」を買収しました。2020年1月にはNBAのダラス・マーベリックスとユニフォームのスポンサー契約を含む提携を行い、サービスの普及に弾みがつきました。2月時点で口座数は既に800万となっていました。
新型コロナウイルスで低所得層が財務的困難を抱えていた2020年4月、政府の景気刺激策で支給される約15万円を事前に提供するプログラムを実施しました。政府の支給日の1週間前に約5,000億円を提供できたそうです。この成功が前述のシリーズgの大手VCの資本参加に結びついたと推測されます。2022年には上場予定でしたが、同年から開始されたFRBによる急速な利上げにより状況が悪化し、IPOが延期されたままとなっています。そして同年末には10%ほどのレイオフが実施されました。
●チャイムの商品
チャイムは無料の最低預け入れ基準のない当座預金、普通預金(金利2%)、ATM引き出し、給与前払い(2日前)など様々な商品を提供しています。銀行のような役割を担っており、銀行にはない様々なサービスもあります。引き落としの際に口座資金が足りなかった場合、銀行が立て替える代わりに罰金を徴収する「オーバードラフト・フィー」という仕組みがあります。これを100ドルまでは保証する一時立て替えサービス「SpotMe」を2019年に導入しました。2020年には支払い履歴を残していきFICOスコアを上昇させられるクレジットカード「Credit Builder」を発行しました。
チャイムの収入源はクレジットカードやデビットカード使用時に加盟店が支払うインターチェンジ・フィーです。前述のように、チャイムは銀行のような役割を担っているものの、銀行ではありません。そのため、ユーザーのアカウントをいつでもキャンセルできるそうです。一定の基準により突然口座がキャンセルされることがあるものの、その割合は高くはないようです。貸し倒れを防ぐには最も効果的な手段を有しているのです。もちろん、口座を閉鎖された顧客からのクレームはありますが、2022年末時点で3,500件にとどまっています。マーケティング面では、以前は「銀行」という用語を使用していました。しかし、銀行ではないことを明示するようにカリフォルニア州とイリノイ州から指示され、現在ではウェブサイトのURLから「bank」という用語が外されました。
チャイムは従来の銀行にはないサービスを提供する、若年層や低所得層に特化した金融機関です。米国では貧富の差が拡大し、特に若年層は一流大学を卒業した人でさえ、学生ローンで財政的に困難な状況となっています。そんな彼らに必要とされている企業といえるでしょう。利上げが続き、さらに低所得者層の生活は苦しくなっているそうです。借り入れやクレジットカードの利用(日本でのいわゆるリボ払い)で毎月の収支をやり繰りしている世帯が40%に達したという記事も目にしました。チャイムのような企業はますます社会から必要とされているのではないでしょうか。
問題はIPOを逃したため、財務状況が心配されることです。とはいえ、2021年の段階で約3,500億円を調達できており、個人相手で口座凍結も迅速に行っているようです。2023年後半にリセッションが起きて株価も暴落すれば、その後は回復基調となるでしょう。そうなればチャイムは上場する可能性もあるかもしれません。米国ハイグロ投資家としては目を離せない企業の1つではないでしょうか。

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