エグザクトサイエンス(Exact Sciences):がん検査新時代へ!便や血液からがんを早期発見
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2024/12/3
最終更新日:2024/12/03
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、がんの早期発見を目的とした診断技術を提供するアメリカの医療テクノロジー企業・エグザクトサイエンス(Exact Sciences)をご紹介します。大腸がんを対象とした非侵襲的な検査「Cologuard(コロガード)」をはじめ、さまざまながんを発見するためのテストやマーカーの開発に取り組んでいます。
エグザクトサイエンスの資金調達の経緯
エグザクトサイエンスは大腸がんを初期段階で発見する分子診断企業です。本社はウィスコンシン州のマディソンです。現在は大腸以外の臓器腫瘍検査に商品ラインを拡大しています。新製品はセンシティビティ(陽性と判断された患者が実際に陽性である割合)とスペシフィシティ(陰性と判断された患者が実際に陰性である割合)も上昇し、信頼性が向上しているそうです。同社によると、米国でも45歳〜85歳の約6,000万人が検査を受けておらず、成長の余地が大きいとのことです。
2001年にナスダックに上場し、約70億円を調達しました。小型株中心のラッセル1000構成銘柄として採用されており、現在までに約2,000億円を調達しています。
エグザクトサイエンスの概要と沿革
エグザクトサイエンスは、1995年にマサチューセッツ州マルボロで設立されました。非侵襲的大腸がん検査の開発を目的とする企業でした。米国ではITと並んでスタートアップが多いヘルスケア分野ですが、日本ではITと比べてあまり人気がありません。筆者自身の経験からは以下のような理由が考えられます。
1. 国立大学教授など最高レベルの研究医はビジネスに興味がなく、起業意欲が弱い。
2. 生物を専攻した人やヘルスケア企業での勤務経験がある人が起業しているものの、専門家の意見を聞くと海外ではもう古い技術だったりする。
3. VCにはヘルスケアのPh.D.でありヘルスケアビジネスに長く従事したような専門家が少ない。
4. ヘルスケア分野はマウス、ラットでの実験から人での臨床検査を経て製品化までに10年など長い時間がかかることも普通である。ビジネス界出身の多くの起業家にとって、製品化までが長すぎると感じる。
このエグザクトサイエンスも上場までの道のりは険しかったようで、資金調達もほとんどが2001年の上場後です。さらに株価は1ドルまで下落するなど、買収されるか破綻すると噂された時期もあったようです。企業として軌道に乗ったのは、2009年に全米でも有数の医療機関である「メイヨー・クリニック」と提携したことが理由です。本社をウィスコンシン州のマディソンに移転したのも、メイヨー・クリニックの本拠地がマディソンから近いミネソタ州ロチェスターにあるからでしょう。
2014年に最初の大腸がんの便DNA検査「Cologuard」がFDAに認可され、商品化に近づきました。この後、数多くの買収を行いながら急成長していき、2022年までに12もの買収を完了させています。エグザクトサイエンスは、上場まで6年、安定するまで8年、商品化まで5年と、起業から最初の商品化までに合計19年もかかっていることになります。最も、ITとメディカルの中間的な分野である医療機器の場合は、検査や医薬品開発ほどの時間はかかりません。
2015年には「Cologuard Classic」というPGAゴルフツアーのスポンサーとなり、知名度を上げました。2017年にはSamplemindedというワイオミング州のヘルスケアIT企業、2018年にはArmune BioScienceというミシガン州のがん診断企業、Biomatricaというサンディエゴのアンプル保存企業を買収します。2019年には「Cologuard」の検査拡大のための新しい研究所を設立、レッドウッドシティの遺伝子がん検査企業Genomic Healthの買収検討を発表します。同社は「Oncotype DX」という乳がん再発スコア検査と、「Oncotype IQ」というゲノム情報プラットフォーム、海外ネットワークを持っていました。これを機にインターナショナル部門が設置され、スイスを本拠地にイギリス、イタリア、ドイツ、フランス、日本に拠点を設置しました。
2020年にはParadigm DiagnosticsとViomicsというアリゾナ州フェニックスの研究所、MITやハーバードがあるマサチューセッツ州ケンブリッジのThrive Earlier Detection、イギリス・オックスフォードのBase Genomicsという血液でがんの検査を行う企業を次々に買収します。また新型コロナウイルスの自宅用検査キットも開発し、FDAから承認を受けました。2021年にはAshion Analyticsを買収、アリゾナ州のT-GenやCity of Hopeというゲノム解析企業と提携。T-Genの生体検査Tardisの独占販売権を獲得しました。
エグザクトサイエンスの商品
エグザクトサイエンスの代表的な商品は、前述のCologuardDNAテストです。在宅での便検査で大腸がんの初期判断ができるそうで、偽陽性率は13%と低くなっています。しかし、残念ながら米国のみの承認です。「Oncotype DX AR-9V7」は腫瘍からはがれ血液内に浮遊するがん細胞であるCTC(Circulated Tumor Cell)を特定する前立腺がんテストです。低侵襲ですが、微量のがん細胞は通常でも血液内に含まれるため、あまり信憑性はないという話をある国立大学病理教授に伺ったことがあります。これも米国でのみ受けられる検査ですが、FDAの承認は下りていません。
「Oncotype DX Genomic Prostate」は前立腺がんの低リスクから中リスク患者向け遺伝子テストです。これは2013年から90カ国で使用されています。「Oncotype DX Breast Colon Recurrece」は乳がんや大腸がんの再発リスクを予測する遺伝子検査です。2011年から90カ国で使用されています。また、主力製品の「Cologuard」を食道がん、肺がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がんなどに拡大する計画があるとのこと。15種類のがんについてメイヨー・クリニックとマーカーを開発中のようです。
前述のように、メイヨー・クリニックとは2009年から提携関係にあり、Hologicと分子診断テストを共同開発しました。2017年にはMDxHealthとエピジェネティクスと分子診断の5年間の技術交換契約を結びました。2018年には大手ファーマのファイザーと、4年間の「Cologuard」の共同販促契約を結んでいます。
エグザクトサイエンスは、やはりメイヨー・クリニックとの提携が大きな差別化要因といえるでしょう。メイヨー・クリニックと、その世界有数の研究者が商品開発に関わっているため、セラノスのようになることはないと思います。セラノスは、指先からの微量な血液で検査ができるという虚偽の技術で投資家をだまし、詐欺罪に問われました。 2024年から繰り上げで、2023年第3四半期に黒字を達成する予定だそうです。やはりヘルスケア分野での注目企業といえるでしょう。
著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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