米国成長株投資・起業のためのシリコンバレーの企業紹介
インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)
掲載:2020/7/31
最終更新日:2020/07/31
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールの、米国新興株投資や起業を目指すシニア・女性・若年層にとっても起業のアイデアとなるシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。
今回は、SRIインターナショナルの最初のスピンアウトである手術ロボットのダビンチ(da Vinci)とそれを製品化したインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社について紹介していきます。
インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社の株価
インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社の株価については、ヤフーファイナンスの情報を参照ください。順調に株価は上昇していることが分かります。業績についてはmacrotrendsの資料を御覧ください。2020年は前年比マイナス23%と久しぶりに減少しました。
新型コロナウイルスの流行で手術が減少したので2020年のマイナスは当然ですが、わずか20%であり、今後は大きく回復することが見込まれます。2022年には流行も収束に向かうでしょうから、マクロ面からは業績はさらに伸びることが期待されます。2019年の特許切れによる競合の追撃も杞憂に終わったようです。中長期的には押し目買いでよいのではないでしょうか?
SRIからスピンアウトしたインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社とダビンチ(da Vinci)の歴史とは?
ダビンチ(da Vinci)の開発は 、1980年代にSRIインターナショナルで開始されました。筆者は開発者である人物とSRI Internationalで会うことができましたが、プロトタイプは未だにSRIに保管されており、SRIの顧客となれば見学することができます。
1990年にNIHの出資を受けて試作品を開発しましたが、それが以前ご紹介したDARPAの目に留まります。戦場で傷ついた兵士の治療を、遠隔操作で行えるのではと期待されたからです。
その後1995年にSRIから知財を購入してインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社が設立されました。ビジネスプランが作成され、ファンドから資金も調達され、1997年には試作品も完成しました。
最初の製品は欧州で1999年にローンチされました、米国はFDA の認可に時間がかかるため、まずは欧州からというのが、実はヘルスケア業界では定石であるためです。
そして翌年、2000年にはあっという間に上場を果たしました。同年には米国でも胆嚢や胃腸の一般的な腹腔鏡手術、2001年には前立腺手術での使用が認可されました。その後は、胸腔鏡や婦人科手術でも使用されるようになりました。
2019年末時点でのダビンチ(da Vinci)のインストール台数は、約5,600台です。その半分以上の約3,500台が米国、約1,000台が欧州、アジアが約600台ですが、日本はその半分の約300台を占めています。その他が300台となっており、先進国中心に普及していることがわかるでしょう。(米国Wikipediaによるものを下記の引用にある日本支社長のインタビューをもとに修正)
最初の製品ローンチから20年が経ったわけですが、インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社の業績は未だに二桁成長を続けています。9月決算の2019年度(米国企業は通常は12月決算が多いが企業によって異なる)の業績が発表となっていましたが、売上は前年比約20%増の約4,900億円、純利益はなんと約1,600億円と驚異的な利益率となっています。
利益率の高さの秘密は、キャノンのインクジェット・プリンタ方式と同じだといえば米国成長株投資家・起業家を目指すみなさんにはご理解頂けるでしょうか?毎回手術ごとにカートリッジを交換する消耗品ビジネスということです。
ダビンチ(da Vinci)の特徴とは?
インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社が1999年にダビンチ(da Vinci)をローンチすると、大きな反響を呼びました。
従来の腹腔鏡手術も開腹手術に比べて傷口が小さくなることと、その結果早く退院できることで患者の負担を低減する、低侵襲医療技術だったわけです。
しかし、腹腔鏡手術を行い多くの患者が死亡した某病院のスキャンダルを覚えておられる方も多いと思いますが、腹腔鏡手術は開腹手術とは異なる特殊な技術を必要とし、経験が重要となってきます。
それに対しダビンチ(da Vinci)によるロボット手術は、腹腔鏡手術の経験の少ない医師でも簡単に執刀することができます。筆者が見学に訪れたニュージャージー州など全米にあるda Vinciのトレーニングセンターで研修を受ければ、もちろん最初は助手としてでしょうが、腹腔鏡手術の経験のない医師でも腹腔鏡手術を行えるわけです。
ダビンチ(da Vinci)によるロボット手術は3D画面を見ながら取手のついたアームを操りながら手術を行います。筆者もSRIインターナショナルでダビンチ(da Vinci)のプロトタイプを操り実際に物を掴む操作を行いましたが、簡単に成功することが出来ました!まるでビデオゲームの感覚で手術ができるといえば分かりやすいでしょうか?
また、手術時間が短く、麻酔も少なく退院も早くなるので、腹腔鏡手術よりもさらに患者の負担が小さくなります。米国で人気となったのも当然だと言えるでしょう。
現在では主に前立腺切除や心臓弁の修復、婦人科手術に使用されているそうです。
SRI International からスピンアウトしたインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社とダビンチ(da Vinci)が、いかに米国の医師や患者から支持されているかが、みなさんにもお分かり頂けたのではないでしょうか?
Xtechの記事にある日本法人の社長のインタビューによると、日本においては米国製であるダビンチ(da Vinci)自体が非常に高額であり、1台約3億円(廉価版の約2億円のモデルも発売)、さらに上述のメインテナンス費用も高価なのですが、アジアの半分を占める300台が納入されているそうです。しかし、年間症例数は100件と少なく稼働時間が世界最低レベルであり、宝の持ち腐れになっているのが実情のようです。
友人の医師の話では、日本を含むアジア人は手先が器用であり、手術も上手いそうです。同じ器用さが必要とされる歯医者としても、米国でも多くの方が成功しているそうです。それに対して欧米人は不器用で手術があまり上手くなく、ダビンチ(da Vinci)が重宝されているのでは?ということでした。
また、SRIインターナショナルの話では、ダビンチ(da Vinci)は触感がないので手術の際に画面にだけ頼ることになり、尿管を間違えて切断してしまう事故も起きているようです。日本の医学界は、失敗は許されない風土なので、低侵襲でなくても確実な開腹手術が未だに主流であるという説もあるとのことです。
しかし、日本では前立腺癌と腎臓癌にしか適用されていなかったダビンチ(da Vinci)手術の保険適用範囲が2018年には直腸癌や胃癌にも拡大されたそうです。
また、2019年にロボットアームなど多くの主要特許が切れるため今後紹介するVerb Surgical(バーブサージカル)などの攻勢により独占状態が是正され、価格も下落するのではと予測されています。
今後の日本でのダビンチ(da Vinci)手術の普及に期待したいですね。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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