マーケットアクセスHD(MarketAxess Holdings):設立から4年で上場!伸びしろ十分の債券取引イノベーター
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2025/2/14
最終更新日:2025/02/14
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、米国社債電子取引のトップ企業、マーケットアクセスHD(MarketAxess Holdings)をご紹介します。投資銀行を介さない直接取引のプラットフォーム「Open Trading」を提供し、顧客数は全世界で1,800社を超えています。
■マーケットアクセスHDの資金調達の経緯
マーケットアクセスHDは、債券やCDS、消費者ローンや不動産ローンをデリバティブ化した商品など、クレジット市場電子取引プラットフォームの運営企業です。市場データや取引後サービスも提供しています。顧客は銀行や保険会社、年金機構、ヘッジファンドやVCなどのプロの投資家です。本社はニューヨークにあります。
米国社債電子取引のトップ企業であり、ムーディーズの格付けでBaa以上、S&PでBBB以上の投資適格債、高利回りだが格付けが低くハイリスク・ハイリターンのジャンク債双方において8割以上が同社のプラットフォーム上で取引されているそうです。社債取引全体の2割に当たるそうですが、電子取引への移行が進むにつれ、シェアは拡大していくと推測されます。
FTXのようなスタートアップの破綻、シリコンバレー銀行(SVB)から拡大した地銀リスク、商業用不動産と付随するMBS(不動産担保証券)の大幅な下落など、米国株はいつ暴落してもおかしくない状況となっています。反面、GAFAMなどのビッグテックの株価は下落しても潰れることは考えづらく、投資適格債でもトップ銘柄の社債は安心でしょう。こうした環境下で注目したいのがこのマーケットアクセスHDです。
2001年に資金調達を行いましたが、その後2004年11月にニューヨーク証券取引所に上場し、約70億円を調達しました。ITバブルが弾けた後にも関わらず、設立からわずか4年で上場したのは異例といえるでしょう。
■マーケットアクセスHDの概要と沿革
1999年、同社の設立者がJPモルガン研究プログラムにおいて経営幹部に対し、初の債券電子取引プラットフォームモデル「MarketAxess」を提案したのがマーケットアクセスHDのはじまりです。リーマン・ショックで破綻した大手投資銀行のベア・スターンズなどから約30億円の資金を獲得し、2000年に会社が設立されました。そして同年には投資適格社債の取引を開始しました。同時に投資家に投資分野の研究論文や記事を提供し始めます。2001年にはオンラインで債券を売買できるスタートアップを買収します。
そして2004年に上場を果たしました。これほど順調に成長した企業は、この起業家向けシリーズで取り上げてきた企業の中でも、SPAC上場企業を除くとなかったのではないでしょうか。2012年には世界最大級の資産運用企業であるブラックロックのシステムと提携を果たしました。そして全ての投資参加者が投資銀行を通さずに、どのトレーダーとも債券を取引できる「オール・ツー・オールトレーディング」というコンセプトに基づく「Open Trading」を導入しました。
PIMCOの記事にあるように、オール・ツー・オールトレーディングは、流動性が高まり、投資銀行やFRBへの依存が減少するという画期的なシステムのようです。2013年にはロンドンを拠点とする企業を買収し、2015年には「Open Trading」を米国だけでなく欧州にも拡大させました。そして米ドルベースの社債や国債取引をアジアにも展開させます。2019年には買収により国債市場にも進出を果たしました。2020年にも2社を買収しています。2022年には英国と欧州において法規制を行う機関との対話を行うAPARMAの会員となりました。さらにESMAから、ブルームバーグやTradeweb Marketsとともに共同の市場価格提供者として選出されました。
■マーケットアクセスHDの商品
マーケットアクセスHDの商品は「Open Trading」であり、投資銀行を介さない直接取引です。値決めが効率化され、流動性も高まり、取引前から取引後の報告までの複雑な手続きも簡素化されるそうです。投資対象は国債から社債まで、米国だけでなく欧州やアジアまでもカバーしています。昨今の流行だったESGに投資するグリーンボンド、投資対象の破綻に備えたクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、投資格付けが低い企業向けのレバレッジドローン、発展途上国の国債、欧州や米国の投資適格社債、地方政府が発行する地方債、米国国債など多岐に及んでいます。
例えば、2022年はFRBの急速な利上げにより、世界で最も安全な債券であるはずの米国国債は大きく値を崩してしまいました。しかし、エクソンモービルなどのエネルギー企業の社債をヘッジで買っておけば損失は限定されたでしょう。このように、多くの投資対象から独自のポートフォリオを組めるわけです。そして投資銀行のセールス担当の代わりに、マーケットアクセスHDの電子取引プラットフォームではアラートが提供されるそうです。ある社債を持っている顧客に「いくらで買える」「いくらで売れる」などリアルタイムの情報のアラートがポップアップ画面として提示されるのです。
顧客数は全世界で1,800社を超えるそうで、十分な流通量があるようです。主要な取引先としてはゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ傘下となったメリル・リンチ、JPモルガン、シティバンク、バークレー、ウェルス・ファーゴなどの大手が名を連ねています。24,000以上にも及ぶ各種債券について、AIによるリアルタイムの価格提供がされています。電子取引は全体の約2割にすぎないようです。しかし、大手投資銀行が既に主要顧客となっています。
米国の利上げも一時停止となり、2023年内は昨年のように米国国債が大きく値を下げることもないでしょう。米国株が暴落すればFRBが利下げを行い、年末にはFRB予想の5.1%ではなく市場予想の4%台に政策金利が下がる可能性もあります。ジャンク債などに手を出さなければ、債券市場は安全なのではないでしょうか。
そして電子取引市場の中期的な拡大が予想される中、マーケットアクセスHDの成長の伸びしろは大きいでしょう。将来の起業家候補の皆さんが注目すべき企業の1つといえるのではないでしょうか。
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