海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ロク(Roku)

掲載:2022/5/16

最終更新日:2022/05/16

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回はロク (Roku)について解説します。

米国新興グロース株投資家注目のロク (Roku)の株価

ブルームバーグの記事によると、ロク (Roku)の株価は2022年2月18日の2021年第4四半期の発表後、一日で21%も下落しました。過去半年で約70%も下落し、2020年6月以来の安値だそうです。一方、通期での業績をみると2021年度の売上は前期比50%以上増えて約3,000億円、そして利益は約20億円の赤字から約270億円の黒字となり、創業以来初の黒字化を達成しています。しかし、四半期ベースでは2020年第3四半期から黒字であり、2022年第4四半期の黒字額が減少し、一株あたり利益も予想に届かなったことが市場の期待を裏切ったようです。

新型コロナウイルスの流行以降急騰していた巣ごもり関連株への投資が、エンデミックへと向かう中で剥げ落ちてきています。ブルームバーグの記事によると、2月3日にはメタ(元フェイスブック)も決算発表後に27%も急落しています。巣ごもりの終焉以外では、若年層ユーザーが離れている、アップルの広告出稿への変更という長期化しそうな要因が株価急落の原因のメタに対して、ロク (Roku)の場合はサプライチェーンと半導体の高騰であり、黒字減少は一時的なもので買い時という意見もあります。中長期的の成長余地は高いと同社CEOも語っています。

筆者はこのロク株については、5年以上の中長期投資には向いていると考えています。1番目の理由はストリーミングサービスの世界的な伸びしろの大きさです。日本でも2022年2月にアマゾンとヤマダ電機が共同でFireTV内蔵テレビの発売を発表し、話題となっています。これこそ、まさにロク(Roku)が2008年から行っていることです。いかに日本が遅れているかが、閲覧者のみなさんにご理解頂けたのではないでしょうか?この例にあるように、日本を含めたストリーミングサービス後進国への成長余地が大きいわけです。

2番目の理由は、ストリーミングサービスのケーブルテレビからの置き換えです。身近なサービスを提供してくれる企業の株を購入するというピーター・リンチ流の株式投資のティップであり、ミレニアル世代の購入方法でもあります。欧米ではほとんどの家庭にケーブルテレビが設置されています。しかしミレニアル世代の間では、ケーブルテレビなど見ているのは親や祖父母の世代であり、スマホなどと同様に彼等もストリーミングサービスに移行していくというのがNetflix(ネットフリックス)やロク株への強気の理由だそうで、筆者も同感です。

3番目の理由は、ハードウェアを提供しており、競合と比べて安価なことです。FireTV など競合と比べ安価であることは、インドを始めとする南アジア、東南アジア、東ヨーロッパ、ラテンアメリカなど後進国市場への競争で有利となると考えています。携帯電話が後進国にも普及したように、高価なケーブルテレビを飛び越して一気にストリーミング用デバイスが普及するというシナリオは現実的ではないでしょうか?

4番目の理由は、いろいろなスマートテレビブランドから選択できることです。フィリップス、JVC、シャープなど今まで使用していたテレビと同じメーカーを選べることは、ヤマダ電機とアマゾンの共同ブランドと比べると、遥かに魅力的でしょう。

1番目と2番目の理由は、Netflix(ネットフリックス)など他のストリーミングサービス提供企業にも当てはまります。しかし、3番目と4番目の理由は、安価でOEMで多くのブランド名でのハードウェアも提供しているロクならではのものです。Netflix(ネットフリックス)株を購入するべきか、ロク株を購入するべきかの参考になると思われます。

株価や時価総額、 PERなどの財務情報についてはヤフーファイナンスを参考ください。

米国新興グロース株投資・起業を目指す方必見! ロク (Roku)の概要、と目標

ロク (Roku)は「Netflix(ネットフリックス)」や「Hulu(フールー)」、「アマゾンプライム」などでお馴染みの動画ストリーミングサービス用機器の開発・製造企業兼ストリーミングサービスの提供企業です。「Apple TV」や「Fire
TV」、「グーグルクロームキャスト」の競合機器と、Hulu(フールー)やNetflix(ネットフリックス)と同様のストリーミングサービスを提供している企業といえば分かりやすいでしょうか?

日本で取扱がないので無名ですが、実は社名は日本語の「六」に由来しているそうです。同社のCEOが設立した6番目の会社に当たるからです。また、ストリーミング時間では全米首位であり、2021年12月時点では北米、南米、英国、フランス、アイルランドに展開しており、全世界で6,000万ものアクティブユーザーを抱えています。

低価格で小型のセットトップボックスの開発が当初のコンセプトだったそうです。Hulu(フールー)、Netflix(ネットフリックス)からユーチューブまであらゆるストリーミングサービスを直接視聴者に届けられるわけです。また、「Roku OS」をライセンス提供することで、ウエスティングハウスからシャープ、フィリップスまで日本や欧米でおなじみのブランドのロク内蔵スマートテレビを提供しています。

現在では、Netflix(ネットフリックス)やアマゾンプライムのような「Rokuチャンネル」というストリーミングサービスも開始されています。

ハードウェア企業として消費者とストリーミング企業との媒体として成長してきたロク (Roku)ですが、ビジネスモデルを拡大し、ハードウェアとストリーミングを手がける、いわばアマゾンと同じ立場に立ったわけです。ハードウェアを持たないHulu(フールー)やNetflix(ネットフリックス)と補完しながら伸びてきたわけですので、競合となることは大きな決断だったといえるでしょう。ロク (Roku)を介してアマゾンプライムなどのストリーミングサービスに契約した場合には、レベニューシェアとしてサブスクリプションフィーの数割を手にしていたからです。独自のストリーミングサービスによるサブスクリプションフィーと無料のプログラムの場合の広告収入がそれを上回ると判断したのでしょう。

上述のように2021年第4四半期決算が悪く株価が急落したわけですが、第2四半期決算では売上が前年比約80%の約700億円、利益も前年の約45億円の赤字から約75億円への黒字へと転換し、絶好調でした。広告と「Rokuオリジナル」という自社制作番組が好調だったからです。RokuオリジナルによりRokuチャンネルは放映時間が倍増され、175ものライセンスパートナーも抱えています。ロク (Roku)の決断は正しかったと言えるのではないでしょうか?

ロク (Roku)の沿革

ロク (Roku)は、デジタルテレビレコーダー開発会社である“TiVo”の競合として知られていた“replay TV”を設立していた創業者が同社を2001年に売却、Netflix(ネットフリックス)での勤務後に2002年にサンノゼで設立しました。

2007年にNetflix(ネットフリックス)と共同で、Netflix(ネットフリックス)を配信するためのセットトップボックスのプロジェクトが開始されました。サードパーティへのライセンスとするためにプロジェクトは中止されましたが、ラッキーなことにNetflix(ネットフリックス)がプロジェクトをスピンオフする方向へ方針転換したことで、2008年に最初のモデルがローンチされました。

閲覧者の方は、こうした運が起業では非常に重要なのだと認識していてください。Netflix(ネットフリックス)がアマゾンのように自社でハードウェアも手がける決断をしていたのならば、単なる下請け業者に過ぎなかったわけですから。普段から善行を積むように心がけてください。

2009年には次世代機リリースと共に「チャンネルストア」を開設し、Netflix(ネットフリックス)だけでなく、Hulu(フールー)など他のサービスもダウンロードできるようになりました。

2010年にはパソコンにアクセスしなくてもNetflix(ネットフリックス)ユーザーが直接Rokuのハードウェアで映像作品を探せるなど様々な機能を備えた標準モデルをリリース、利便性が一気に高まり人気となりました。

2014年には、商品説明の項目で詳細は述べますが、様々なスマートテレビメーカーと提携することでRoku内蔵テレビをシャープ、ウエスティングハウスから中国企業まで多くのブランド名で発売し、一気に飛躍を果たします。

2015年にはエミー賞技術賞を受賞しました。

2017年には「Rokuチャンネル」をリリース、Hulu(フールー)やNetflix(ネットフリックス)などと同様のストリーミングサービスに参入しました。広告付きだが無料という特徴により、競合他社との差別化を図りました。

フォーブスによると、2018年のマーケットシェアは41%となっています。2019年にはNetflix(ネットフリックス)などでおなじみのサブスクリプションプランも導入されています。

また、同年には広告開発企業を、2021年にはオリジナルコンテンツを持つ「Quibi」社を買収し、前回ご紹介したオリジナル番組「Rokuオリジナル」が開始されました。

資金調達面では、最初のモデルをローンチした2008年と2009年にシリーズA、B、Cを実施し合計で約27億円を獲得し、軌道に乗りました。その後は順調で、2011年のシリーズDで約12億円、2012年のシリーズEで54億円、2013年のシリーズFで約66億円、2014年のシリーズGで約28億円、2015年のシリーズHで約68億円と11回のラウンドで約250億円を集めました。2013年のシリーズF では現在のディズニー・チャンネルの基礎となっている21世紀フォックス社と英国を中心とする欧州最大のケーブルテレビ企業のスカイ・グループ、2015年のシリーズH では米国4大ネットワークの一つであるTV会社フォックス・ネットワークと投資信託で日本でも知られるフィデリティが参加しています。テレビ業界やケーブルテレビ業界が将来のストリーミングサービスへの移行を睨んで、資本を投資したわけです。

そして2017年にはナスダック市場に時価総額約1,500億円で上場を果たしました。上場当日と翌日の2日間で株価は倍近くに上昇、最高のスタートを切りました。

その後株価は5倍にまで伸びましたが、2015年から19年の間に約240億円の損失を計上しています。黒字化している新興企業は2000年のITバブル以前と同じでほとんどないのが現状だとご理解いただけたでしょうか? 黒字化は2020年第3四半期であり、創業後18年も経ってからなのです。起業を目指す方は資金調達が本業以上に重要ということを心に留めておいてください。

ロク (Roku)の商品、収入モデルと今後の展望

ハードウェアの「Roku TV」は、「Apple TV」や「Fire TV」よりも歴史は古いです。「プレイステーション」やApple TVよりも安い300ドルの小さいセットトップボックスが最初の商品でした。

第1世代は2008年にローンチされた「Roku DVP」であり、上述のようにNetflix(ネットフリックス)専用機器でしたが、ソフトウェア後付でHulu(フールー)など他のサービスも利用できました。オン/オフボタンもない、シンプルな設計でした。2代目はデジタルビデオレコーダー同様に大型となり、HDフォーマットに対応していました。256KBメモリー、720pの高画質で価格も99ドルとなり、手に入れやすくなります。

2009年の第2世代以降は「Roku HD」に改名されています。アナログインプットのみのベーシックモデルとWi-FiとUSBを装備した上位機種がありました。2011年の機種はApple TVのような箱型の形状となり、マイクロSDやBluetoothに対応されました。ゲーム用のコントローラや上位機種にはイーサーネットとUSBポートも装備され、解像度もHulu(フールー)ハイビジョン相当の1080pになりました。

2012年にはFire TVのようなスティックタイプもリリースされました。

2013年のRoku2、Roku3はヘッドフォンジャックを備え、CPUがアップグレードされるなど高機能化し、第3世代と呼ばれています。その後4K高解像度とワイヤレス装備のRoku4、スティック+、ヘッドフォンジャック付きのスティックなど毎年新モデルをリリース、2021年の第10世代はスティック4Kとスティック4K+となっています。最新モデルの価格は最初のモデルの10分の1の29.99ドルとなっています。ハードウェアからの収入は減少しているということでしょう。

リナックスベースの「Roku OS」で作動し、このOSで動く多くのOEMブランドのロク内蔵テレビを揃えていることも特徴です。フィリップス、日立、日本ではもうなくなってしまった三洋電機、JVCなど多くのメーカーが製造しており、好きなブランドから選ぶことができます。このライセンスフィーも収入の一つとなっています。

BOSEなどの手持ちのオーディオ機器と接続し、Roku TVのリモコンで操作できます。Fire TVは競合デバイスなのでアマゾンプライムはもちろん、他のサービスでもアプリの起動が面倒なのですが、Netflix(ネットフリックス)とは関係深く、起動の必要はありません。

このように、かつてのテレビと同様に多くのOEMブランドを揃えている、Netflix(ネットフリックス)の接続が簡単、安価の3つを武器に、ストリーミング接続機器メーカーとしてはトップとなっているのです。

しかし、前回の大統領選挙はイカサマだなどの陰謀論やテロコンテンツに簡単にアクセスできる点が問題点とされています。メキシコでは2017年に非合法なチャンネルにアクセスできることが理由で一時販売が停止とされました。問題チャンネルを禁止として翌年には撤回されましたが、その後は認証されていないチャンネルは禁止すると発表しています。日本にいると何も感じませんが、米国ではこうした不正コンテンツを削除しないことでメタやツイッターのトップが議会に呼ばれるなど、自由なアクセスは大きな問題とされています。

ソフトウェアのRokuチャンネルでは、Netflix(ネットフリックス)やアマゾンプライムなどの競合と異なり、広告付きの無料番組も展開しています。ほとんどの映画会社が参加した広告シェアモデルとなっており、近年はこの売上が大きくなってきているようです。広告収入とストリーミングサービスによるサブスクリプション収入がハードウェア売上を上回ったと発表されています。ハードウェア収入は3割に満たないようです。

2021年通年の売上は約3,000億円で、ユーザー数は17%増の6,000万人、ストリーミング時間も15%増えて全米1位を維持しています。ユーザー1人あたりの収入も44%も増えており、株価が暴落したのは行き過ぎのように思えます。

新興グロース企業の投資判断の一つである時価総額を売上で割ったP/Sレシオは新型コロナウイルスにより市場が暴落した2020年3月を下回り、2月18日には5.762となりました。

ロシアによるウクライナ侵攻という地政学リスクや3月の米国の利上げ開始などの株価下落の可能性も残りますが、ロク (Roku)の株価動向を追っておくのは悪くないと思われます。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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