起業・スタートアップのための
シリコンバレーの企業紹介
Sportvision(スポーツヴィジョン)
掲載:2021/1/5
最終更新日:2021/01/05
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのスタートアップを目指すシニア・女性等への起業のアイデアとなるシリコンバレーの注目企業紹介のコラム。SRIインターナショナルからスピンアウトした企業紹介の第6回目の今回は、Sportvision(スポーツヴィジョン)について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。
起業家・アントレプレナー注目!米国のTVでのスポーツ観戦に不可欠となったSportvision(スポーツヴィジョン)は世界一のヨットレースであるアメリカズ・カップへの貢献でエミー賞を獲得した!
2013年に、100年以上の歴史を誇る最高峰のヨットレースであるアメリカズ・カップが、サンフランシスコのベイエリアで開催されました。前回大会(2010年のスペイン・バルセロナ)では、チャンピオンだったチーム・アリンギ(スイス)を、挑戦艇のBMWオラクルレーシング(アメリカ)が破りました。その結果、次回大会が、BMWオラクルレーシングの本拠地であるサンフランシスコ・ベイエリアとなったためです。
筆者もたまたま現地にいたため、挑戦艇を決めるルイ・ヴィトン・カップを観戦しました。エミレーツ航空がスポンサーのチーム・ニュージーランドと、プラダによるイタリアのルナ・ロッサの対戦でした。
ところで、アメリカズ・カップを含むヨットレースでは、ゴールラインは本部艇と呼ばれる船と洋上に浮かぶブイの間にある目に見えないライン、と定義されています。セイラーとしての経験で申し上げますと、島を廻ってくるような大差のつくクルーザーによる外用レースなら問題ないのですが、ディンギーのレースやこのアメリカズ・カップのようにいくつかのブイを回って戻ってくる数時間で終了するレースでは、僅差の場合には洋上のクルーザーから観戦していても、陸上からならばさらに、勝敗が分からないこととなってしまいます。
そして、スタンフォード大学卒のホーニー氏というエンジニアが、ここからあるアイデアを思いついたのです。彼は、2013年のアメリカズ・カップの技術ディレクターでした。それは、AC Livelineというゴールラインを、テレビの画像に映し出そうというものでした。さらに、風力や船の間の距離など、セイラーならばより楽しめる情報も追加しました。この結果、彼を含む2013年のアメリカズカップのメンバーは、テレビ業界に貢献した俳優や監督だけでなく、技術者にも送られる名誉あるエミー賞を2012年に獲得、2013年のアメリカズ・カップの放映にこのAC Livelineが採用されることになったのです。
起業・スタートアップを目指す方必見!Sportvision(スポーツヴィジョン)が発明した各種スポーツ観戦のためのゲーム・チェンジャー商品とは?
現在のテレビでプロのアメリカン・フットボール(NFL)観戦では当たり前となっている、ファースト・ダウン上に引かれている黄色い線も、このSportvision(スポーツヴィジョン)が生み出したものです。
アメリカン・フットボールを観戦されたことのある起業・スタートアップを目指す閲覧者の方ならお分かりでしょうが、最初の攻撃地点から10ヤードの地点にひかれたファースト・ダウンの線を超えて進むと、新たに4回の攻撃権が与えられます。そのため、ファースト・ダウンの線がどこにあるのかが非常に重要であり、特に残り1~3ヤードを争う際には、ファースト・ダウンを取れたのか、取れなかったのかを公式のアナウンスが流れるまで、選手も観客も含め全員が固唾を飲んで見守っていたものでした。
しかし、今日では、このSportvision(スポーツヴィジョン)による黄色い線のおかげで、テレビからでもファースト・ダウンを取れたか取れなかったのが、すぐに読み取れるのです!本来は目に見えない情報を、正確に、はっきりと届けてくれるのです。
Sportvision(スポーツヴィジョン)のアイデアが適用されているのは、アメリカン・フットボールだけではありません。例えば、米国では野球でも、ストライク・ゾーンがK-zoneとしてテレビ画面に表示されているので、 際どいボールがストライクなのかボールなのかも、審判の判定なしにテレビの視聴者が判断できるのです!
SRIベンチャーズのスピンアウト企業の解説でふれましたように、NASCARレースでは車上の旗にドライバー名とチーム名が表示されるので、どのチームが今どの位置にいるのかが、集団の中でもすぐに見て取れます。新幹線のような速さで動き肉眼で追うのが難しいアイスホッケーのパックも、NHLのテレビ放送では黄色いパックとして表示され、得点したのかゴールを外したのかが、断然わかりやすくなりました!
今まで多くの注目されるスタートアップ企業を紹介してきましたが、一般の方、特にスポーツファンにとってもっとも役立っているのは、間違いなくこのSportvision(スポーツヴィジョン)だと言えるでしょう!ホーニー氏に感謝しているスポーツファンは、世界中で数千万人にもなるのではないでしょうか?未来の起業家・アントレプレナーのみなさんも、この世の中の役に立つために起業するという精神を、是非とも忘れないでほしいものです。
起業家・アントレプレナー注目!Sportvision(スポーツヴィジョン)とは?
スポーツ・ビジョン(Sportvision)は、SRIインターナショナルのスピンアウト企業ですが、上記のように、AIなどの高度な技術を使用しているというよりは、アイデアがユニークなのが特徴です。
その歴史は古く、1996年に米国の大手TVチャンネルのFOXの子会社で働いていたエンジニアが、ホッケーのパックを青い光で包むプロジェクトを考え出したのがきっかけでした。そのアイデアは失敗しましたが、1998年にSportvision(スポーツヴィジョン)は創業され、同年、上述のファースト・ダウン上に引かれたラインが開発されたのです。スーパーボウルで導入されると、視聴者に大人気となりました。それ以来、NFLやカレッジ・フットボールでは標準となったのです。
そして上記のように多くのスポーツに新たなアイデアが導入されていき、成功のままに2016年にSMT(SportsMEDIATechnology)社に買収されました。
いかがだったでしょうか?こうしたアイデアだけでも起業は成功できるのです。特にSRIインターナショナルに認められ、その技術と特許が活用できればSRIベンチャーズの解説で述べたように、エグジットの確率は50%なのです。未来の起業家・アントレプレナーの読者の方も、これならば自分でもできるかと思われたのではないでしょうか?
次回はSiriについて解説します。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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