海外企業紹介

アップスタート(Upstart)はミレニアル世代のための銀行となり得るか?

シリコンバレーの注目企業紹介

掲載:2022/10/26

最終更新日:2022/10/26

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は個人向け融資システムの開発企業であるアップスタート(Upstart)について解説します。

アップスタート(Upstart)の資金調達の経緯

アップスタート(Upstart)は、AIによる個人向け融資システム開発兼融資企業です。借入履歴がなく従来の与信基準を満たさないミレニアル世代の高学歴層をターゲットにしています。人による審査を経ないAIのみの即日審査が全体の3/4を占めることも特徴です。2022年時点のローン総額は3兆円を超えています。

2012年のシードラウンドで約2億円、元グーグル社長だったエリック・シュミット氏を含むシリーズAで約8億円を調達します。2015年のシリーズCではサード・ポイントから約35億円、2017年には楽天から約33億円を獲得、さらに2019年のシリーズDでは約65億円を得ました。そして2020年にナスダックに上場を果たしました。小型株指数のラッセル1000にも採用されています。ティッカーシンボルはUPSTです。

アップスタート(Upstart)の概要と沿革

アップスタート(Upstart)は、2012年にシリコンバレーのサン・マテオで設立されました。グーグルのアプリ部門責任者など2人のグーグル出身者とペイパルの創業者の一人のティール氏による奨学金を受賞していたデータサイエンティストの3人が創業者です。

2020年には売上は約1,000億円、利益は約200億円、資産も1,000億円を超え、従業員も1,500人ともはや大企業といってもよいかもしれません。

2012年に将来の収入の一部を返済する代わりに資金を提供するISA(Income Share Program)製品をローンチしました。財務上のリスクが小さく、従来の学生ローンの代替として浸透していきます。2014年には顧客は300人となりましたが、デフォルトはゼロで評価が高まります。

2014年には伝統的な3年ローンや5年ローンをスタートしましたが、こちらが主力製品となっていきます。当初の貸出金利は6.5%〜20%で平均は11〜12%とクレジットカード金利の22%の半分という低金利でした。その後2017年には金利は5%〜30%へとレンジが広がりますが、平均は12%と変わっていないそうです。

2015年には顧客数は9,000となりましたが、デフォルトはほとんどない状況が続きます。

2022年現在では、フォルクスワーゲンやスバルなどの自動車購入のローンプロバイダとしても採用されています。

アップスタート(Upstart)の商品

アップスタート(Upstart)の商品は、AIによる小口融資商品です。米国では大学卒業後の世代は収入が1000万円あっても100万円も借りられないそうです。従来のFICO Scoreなどの与信基準は、返却履歴による信用度調査のため、ミレニアル世代には適合していなかったためです。そこで、学士・修士・博士、大学や大学院の名称や専攻分野、成績、共通テストの点数などで借り手の将来の収入とローン破産の確率を予測することで、彼等に資金を提供しようと考えついたのだそうです。

ここで紹介している成功企業の多くが、こうした自分自身の経験から何かができないかと考えることから生まれていることに気づかれていることでしょう。そして、1人ではなく、2人か3人による共同創業がほとんどだということにも!

当初のミッションは、ローン破綻率を下げることによる貸出金利の低下で、世の中に貢献していこうというものでした。こうしてデータサイエンティストによる統計を用いたマシーンラーニングによる独自の与信予測システムが開発されました。モデル開発のための数十名の研究者は1箇所に集められているそうです。

シックス・デジッツと呼ばれる年収6桁(100,000ドル)が米国では高収入の目安とされていたのですが、このシックス・デジッツの給与のある、大卒で平均28歳がアップスタートのターゲットカスタマーだそうです。

同社CEOは、50年前に開発されたローン商品が幅を効かせている現在の状況では、対象とならない若者には非常に便利な商品だと説明しています。さらに、ミレニアル世代にリスクを取らせることなく、起業も可能にしています。

アップスタート(Upstart)のローンを用いて起業したMBAホルダーもいるのです。トップMBAは将来の高収入が期待できるので、キャリアパスをAIが描き、収入を予測し、デフォルトの可能性も測ってくれるのです。起業するだけでなく、起業後にすぐに利益に結びつかない分野に進出する手助けもしてくれるのは、将来の起業をお考えのみなさんにも魅力的だと理解していただけるのではないでしょうか?

銀行や信用金庫などに対して、この独自の予想モデルのライセンス提供も開始しています。楽天もこれが目的で出資したのではないかと噂されているようです。パートナー数も2021年第1四半期の18から2022年第1四半期には57と順調に伸びています。ローン商品の販売代理店制度もあり、こちらも急成長しています。しかし、これらはあくまでもサブ商品であり、独自のローンを増やしていきたいとのことです。

ローンの資金はゴールドマン・サックスなどの投資銀行や個人の投資家から提供されています。2022年6月現在、アップスタート(Upstart)の株価は昨年来高値の1割まで下げています。第1四半期の業績は売上が約400億円、利益も約200億円と共に前年比2.5倍以上と好調だったのですが、来期の見通しが弱気だったことが原因のようです。

今後FEDにより利上げが本格化してくると、ローンのデフォルト率は当然上昇してくるでしょう。しかし、アップスタート(Upstart)の顧客は上述のようにシックス・デジッツの給与を獲得しているエリートが中心です。新型コロナウイルス流行前でも2~3%に過ぎなかった破綻率がそれほど上昇するとも思えません。金融機関へのライセンスはまだ始まったばかりです。中長期で考えると、アップスタート(Upstart)の株価に注目しておくべきではないでしょうか?

米国では学生ローンの返済が大きな社会問題となっており、リーマン・ショック時にはウォール街へのデモ行進も起きました。ミレニアル世代への安価なローン提供によりその生活を助け、起業も可能にしてくれるアップスタート(Upstart)は、ミレニアル世代のための銀行といえるのではないでしょうか?

著者:松田遼司
株式会社ウェブリーブル代表。
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

ご相談・お申込み