起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ジロー(Zillow)グループ
掲載:2022/2/7
最終更新日:2022/02/07
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回はジロー(Zillow)グループについて解説します。
ジロー(Zillow)グループの概要とその人気の秘密とは?
ジロー(Zillow)グループは、レッドフィン(Redfin)と並ぶ全米最大のオンライン不動産サイト運営企業です。売買だけでなく賃貸も扱っており、約1億1千万もの物件リストとその価格を無料で閲覧できるそうです。ナスダックに上場しており、主要株価指数の先行指標とされる小型株からなる「ラッセル1000」構成銘柄の1つでもあります。2021年1月時点でのユニークユーザー数は約3,600万人と、約1億3千万の全米世帯の4分の1となっています。物件のバーチャルツアーも評価が高くパソコンからサイトにアクセスするユーザーも多いようですが、物件の情報収集用などに、もちろんモバイルアプリも用意されています。
ビジョンは、「革新的な技術とサービスの統合により、画期的で簡単な不動産売買を創造する」という素晴らしいものです。アマゾンのような、速くて便利なサービスを、不動産業界にも導入しようというのです。
約1億1千万の物件リストということは、全米の殆どの物件を網羅していることになります。不動産のデータベースは地域の不動産会社が握っており、ウェブサイトで閲覧できる物件が限られている日本とは大きく事情が異なることが、みなさんにもご理解いただけることでしょう。
アムウェルの記事でご紹介した遠隔診断は、新型コロナウイルスの流行下で欧米では既に6~7割の病院が導入しているそうです。それに対して日本はまだ2割にすぎず、補助金で機械を購入しただけで実際の使用率はさらに低いという日経の記事を、つい最近目にしました。不動産と医療の例を挙げましたが、業界事情に政府が介入しようとしないことから起きている日本のデジタル化の遅れは致命的になりつつあると、感じました。新設されたデジタル庁には、今後頑張っていただきたいものです。
そしてジロー(Zillow)グループの強みは、その不動産査定システムにあります。「Zestimate(ジーエスティメイト)」は、競合のレッドフィン(Redfin)による「Redfin estimate(レッドフィンエスティメイト)」と並び、業界のデファクトスタンダードとなり、不動産価格に影響を与えるほどになっているそうです。Zestimate(ジーエスティメイト)は場所、市況、物件の状態を元に独自のシステムで物件を評価します。該当不動産の公開価格に加え、近隣の売買情報や価格から、実際の売買価格を推定してくれるのです。正確には、周辺価格、過去と現在の価格、航空写真、広さや部屋数、駐車場、洗濯機などの設備やその修繕状況までもが査定に反映されているそうです。
賃貸情報においてもアメリカならではの、ジムやプール、BBQ、ペットの洗い場、夜警などの設備、カーペット、高速Wi-Fi、CATVなどの有無の情報、危険度を知るための近くの学校の評価情報までもが用意されています。
その正確さは情報量によるので、地域により異なるそうです。2016年時点では、実際の価格との差異は約150万円程度とされており、誤差の範囲内です。2011年に続き、2021年に10年ぶりにアルゴリズムが変更されたようです。これで、さらに精度がアップすると期待されています。情報の量や、依頼した不動産会社によって価格が異なり、ギャンブルのような日本の状況と比べると夢のようですよね?売主、購入者、不動産業者という全てのユーザーにとってもWin-Winとなっているそうです。
売主のメリットとしては、
1. 自宅の評価額が把握できる
2. 将来予想から売却のタイミングも図れる
3. 他地域の情報から、買い替えの際にどこの地域がお得なのかが分かる(アメリカではフロリダを本拠地としたテスラ社の例があるように、会社でさえ不動産価格を考慮して移転することがある。アメリカ映画ではよくあるシーンだが、個人でも引っ越しをしてから就職を探すのは普通に行われている)
4. 現在は売却の意思がなくても、売る気になるような高いオファーが舞い込むこともある
5. 物件を登録して価格を設定し、購入者を募れる
などが挙げられます。また、自分で売却するのが面倒な方や売却を急がれる方は日本と同じように不動産業者、または「Zillow Offers(ジローオファー)」というジロー(Zillow)グループの買い取り制度へ売ることができます。
買い主のメリットとしては、
1. 物件探しから転居までの複雑は手続きをジロー(Zillow)グループが肩代わりしてくれる
2. 不動産会社やオーナの販売希望価格を鵜呑みにせず、Zestimate(ジーエスティメイト)で過去の価格推移や周辺の類似物件の売買価格から実際の価格を推定できる
3. 現地の不動産会社のサイトによる住宅ローンの利率などの情報もジロー(Zillow)グループのサイトで把握可能
などがあります。
不動産会社のメリットとしては、
1. 「Zillow premier agent(ジロープレミアエージェント)」になるとその膨大なユーザーである買い主と売り主に繋がることになる
2. 広告収益が分配される
が挙げられます。
このように、ジロー(Zillow)グループは自社の利益を追求するだけでなく、全てのユーザーを幸せにしているわけです。世の中の役に立つことを目指すという姿勢は、グーグルを傘下にもつアルファベットと共通するものがあります。米国のミレニアル世代は、世の中に貢献している企業に投資する傾向があるそうです。米国株投資や起業を目指す閲覧者の方も、ぜひともこの点を考慮していただければ、世の中ももっとよくなっていくのではないでしょうか?
ジロー(Zillow) グループの沿革と将来性
ジロー(Zillow)グループは、2006年にマイクロソフトの本社があるシアトルで元幹部ら5人が設立しました。そのうちの1人は大手旅行オンラインサイトの「エクスペディア」の創業者です。航空写真も当初はマイクロソフト製品を使用していましたが、今は時代の流れには逆らえず、アルファベット社による「グーグルマップ」と「ストリートビュー」に代わったそうです。
売主がジロー(Zillow)グループのサイトに登録をして希望価格を掲載し、購入者を募るというシステムです。
2008年には、個人情報なしに不動産ローンの金利が分かるシステムを付加しました。日本では不動産ローンの金利は銀行により差があるものの一律ですが、米国では健康保険同様に個人により異なるからです。
2009年には不動産検索エンジンを搭載し、これを180の全米の新聞社に提供し共同ブランドとし、広告料を折半する広告モデルを開始しました。その後、前回詳細に開設した不可欠なツールであるZestimate(ジーエスティメイト)、モバイルアプリ、専門家が質問に答えるQ&Aシステムなどの機能を次々に追加していきます。
そして2011年にはヤフーと独占パートナー契約を締結し、全米最大の不動産広告ネットワークとなりました。現地の不動産会社とも次々にパートナー契約を結び、不動産企業とも広告料を折半する広告モデルを拡充していったわけです。さらに、「Rentzestimate(レントジーエスティメイト)」で賃貸分野にも進出、約9,000万件もの物件情報を提供しました。
そして設立後5年でIPOを果たしました。当時の企業価値は約550億円であり、早すぎる上場といえるかもしれません。
その後は株式上場で調達した約90億円を元にオンライン不動産情報提供企業、オンライン賃貸ツール開発企業、不動産ローン金利提供企業などを、次々に買収していきます。
2014年にはマイクロソフトが運営するポータルサイトである「MSN」の不動産情報を引き継ぎます。パートナー不動産会社が複数の情報提供企業から情報取得できるツールの開発企業、競合大手の「Trulia」などを買収し、業界トップクラスの企業となりました。
2017年にはマーターポート(Matterport)のシステムを用いて3Dバーチャルツアーを開始、家に居ながら遠く離れた他の州の物件について居室内の様子や家具の配置などをイメージできるようになりました。まるでゲームの感覚で楽しみながらインテリアコーディネーションをしつつ新居を探せるという一石二鳥のシステムであり、これを契機として話題となったのは、みなさんも想像に難くないでしょう。
2018年には、借り手に家主が賃貸履歴を提供できるツールも提供されました。不動産大手のセンチュリー21カナダと提携し、カナダにも進出しました。地元の方による情報を載せたサービスも開設されました。
そして同年には、売手から直接不動産を買取るサービス「Zillow Offer(ジローオファー)」が開始されました。ネット企業として広告モデルを主要な収入源としていたジロー(Zillow)グループが、実際の不動産売買業に進出したということです。これはウェブ企業としては大きな転換点となるわけであり、経営陣にとっては大きな決断だったと推測されます。
起業を目指している読者の方にも、こうした時期が訪れるかもしれません。その際には、社内だけで決定をしたり、友人の経営者に相談するだけでは不十分でしょう。可能であればマッキンゼー・アンド・カンパニーのような戦略コンサルタントを起用、過去の同業他社の例などを徹底的に研究し、このままウェブ企業としてやっていくプランAと実業に進出するプランBとのプロコン分析を行い、確実に成功すると思えたときに限り、前に進むことをおすすめ致します。さらに飛躍することもあれば、衰退に向かう可能性もあるわけですので。
2019年には、不動産売買が締結された際にパートナーの不動産会社が受け取るコミッションのうちの30~40%が配分されるシステムも開始されました。現在では、もちろん物件評価の口コミもあります。ウェブサイト上のボタンをクリックするだけで、閲覧予約ができます。
全米並びに130の主要都市の5年や10年の中長期での過去の不動産価格推移を記録した不動産市場レポートも発行しており、公的機関のような役割も果たしています。
ジロー(Zillow)グループの問題点と株の購入時期について
上記のようにジロー(Zillow)グループの収益モデルは、当初は広告モデルでした。不動産会社などからの広告をパートナー企業と折半することで収益を得ていたわけです。しかし2018年以降は、自己所有物件からの賃貸収入や不動産の売買手数料へとシフトしていったのです。
問題点は、不動産直接買い取りのZillow Offer(ジローオファー)を擁する事業部が赤字となっていることです。2021年第1四半期の売上はこの不動産収入部門のそれが2.7倍となったことにより、約1350億円と予想を上回りました。全体では約55億円の黒字ですが、不動産収入部門は約60億円の赤字となり、収益の重しとなっていました。約1,900件もの物件を購入し、2,000件を売却しています。
そして、第3四半期には不動産収入事業の赤字は約400億円に膨れ上がりました。11月には遂に不動産収入部門からの撤退を表明、約650億円の評価損を出し、25%の人員削減をするそうです。所有する約7,000戸の物件も全て売却し、約3,000億円の売却額を想定しています。不動産売買への進出は失敗に終わったようです。フィージビリティスタディが足りなかったのでしょうか?
みなさんも、この、ジロー(Zillow)グループについてさらに調べてみてはいかがでしょうか?
この発表により株価は大きく下落したので、新興株ファンドの旗手として人気のキャシー・ウッド女史が率いるアーク・グループがジロー(Zillow)グループの株を買い増ししたのですが、11月4日にはさらなる下落の中、売却に転じたそうです。
このように短期では購入はおすすめできないようですが、中長期の投資候補としてはリストに入れてもよいと思われます。テンバガー候補の1つともいわれていますので。チャートとにらめっこをしながら、海外ニュースで情報を収集しながら、少額での試し買いのチャンスを模索してはいかがでしょうか?
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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