起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』

掲載:2020/10/28

最終更新日:2020/10/28

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、他人についての噂を気にせず自分の眼で確かめ自分に関する2chは見ない、価値観の異なる方との起業は避けるべき、と示唆してくれる『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』の概要

『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』は、マーティン・スコセッシ1993年監督作品です。1921年にピュリッツァー賞を受賞したイーディス・ウォートンの同名小説を、19世紀末のニューヨークの社交界を舞台に、イノセンス(無知で純粋な心を持つ)な男女の愛が、イノセンス(無邪気)に見えるが実はそうではない女性の画策により失われていく姿を描いた、感動作です。

マーティン・スコセッシ監督は、ニューヨーク生まれのシチリア系イタリア移民です。ニューヨークのタクシー・ドライバーの生き様を映像化した『タクシードライバー』(76年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、注目を集めました。その後も、実在したボクシングのミドル級チャンピオンの自伝を映画化した『レイジング・ブル』(80年)、アメリカのイタリア系マフィアの実態を描いた『グッドフェローズ』(90年)など、ニューヨークを舞台に盟友であるロバート・デ・ニーロ主演で差別、迫害されるイタリア系移民の姿を世に知らしめてきました。ミラノの名門出身の伯爵であり、貴族社会の退廃美を描いてきたルキノ・ヴィスコンティ監督とは対照的なイタリアを描いてきたわけです。

このスコセッシが、デ・ニーロではなく、イギリスの上流社会の人物を演じるのにふさわしいダニエル・デイ=ルイスを主役にすえ、まさにヴィスコンティ監督の描くような上流社会の物語を監督するとは誰が想像したでしょうか?

実際、スコセッシがこうした上流社会を見事な映像美の中にヴィスコンティ風に描いた作品は、この『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』だけです。スコセッシが、自己のルーツであるイタリアの巨匠に捧げたオマージュ的作品といってもよいのではないでしょうか?ヴィスコンティと共に巨匠とよばれるパゾリーニ作品やフェリーニ作品を担当してきたダンテ・フェレッティを美術に担当したことにも、その意志は表れているように思えます。

コメディばかりを撮っていたウディ・アレンが、尊敬する『第七の封印』(56年)や『野いちご』(57年)などで知られるスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンへのオマージュをこめて『インテリア』(78年)を制作したことを想いださせられました。

この作品も、『ことの終わり』同様に、アメリカのドラマ『ゴシップガール』(2007〜2012年)において、ある1話のエピソードとして取り上げられていました。米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆23,905人による平均スコアは3.8となっています。

主役の名門出身の若き弁護士ニューランド・アーチャー役が、ダニエル・デイ=ルイスです。ニューヨーク映画批評家協会助演男優賞を受賞したフィレンツェを舞台に階級の異なる男女の恋を描き日本でも大ヒットした『眺めのいい部屋』(87年)、主役のプレイボーイの名外科医がはまり役だったミラン・クンデラの同名のベストセラー小説を映画化した傑作『存在の耐えられない軽さ』(88年)、重度の脳性小児麻痺患者の葛藤を演じてアカデミー主演男優賞を受賞した『マイ・レフトフット』(89年)などで、高い演技力とスター性を高く評価されていました。この『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』でも、その上流階級出身らしい品のよさ、寡黙だが内に情熱を秘めた性格を見事に表現しています。

アーチャーに愛される伯爵夫人エレン役は、ミシェル・ファイファーです。ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞した『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89年)、キャット・ウーマン役の『バットマン リターンズ』(92年)などで、当時人気急上昇中でした。フランスの伯爵にも見初められる格調高い美しさと奔放な性格を持つ上流階級夫人を、演じきっていました

そしてアーチャーの婚約者メイ・ウェランド役が、ウィノナ・ライダーですクリスチャン・スレーター共演のブラック・コメディ青春映画『ヘザース/ベロニカの熱い日』(89年)、ジョニー・デップ扮するエドワードが恋するキム役のバートン監督の傑作ファンタジー『シザーハンズ』(90年)で青春映画スターとしての人気を確立していました。そして、ジム・ジャームッシュ監督によるオムニバス『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91年)のタクシー・ドライバー役で、演技力にも注目が集まっていました。この『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』では、一見純真そのものの愛らしい外見で無知な様子をしているが、実は策士だという難しい役柄を見事にこなし、ゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞、演技派女優としての地位も獲得することとなりました。

また、メイの母親ウェランド夫人役は、喜劇王チャップリンの娘である名女優ジェラルディン・チャップリンです。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、1870年代のニューヨークのオペラ・ハウスで始まります。名門出身の若き弁護士ニューランド・アーチャー(ダニエル・デイ・ルイス)、その婚約者メイ・ウェランド(ウィノナ・ライダー)、メイの母親ウェランド夫人(ジェラルディン・チャップリン)などニューヨーク社交界の主な人々が集っていました。皆の注目は、夫から逃れてヨーロッパから帰国したエレン・オレンスカ伯爵夫人(ミシェル・ファイファー)でした。エレンが夫と別居して召使と同居したなどの醜聞が、社交界に飛び交っていたからです。

ニューランドは幼なじみのエレンを守るために、オペラの後の舞踏会でメイとの婚約を発表し、注意をこちらにそらせようとします。さらに社交界の権威であるルイデン氏に頼み込み、彼の主催するパーティーにエレンを招待させることにも成功します。メイとエレンの祖母である社交界で皇后のような権威を持つミンゴット夫人は、自分と気性の似ているエレンを可愛がるのですが、外聞をはばかる他のエレンの一族は、エレンの離婚を思いとどまらせようとしていました。

エレンは離婚による自由を望んでいましたが、従妹のメイと恩人であるニューランドの結婚にも迷惑がかかることを知り、離婚を思いとどまることにしたのです。一方、ニューランドは社交界の因習にとらわれないエレンの率直な態度や自由な考え方に共感し、エレンに惹かれていくのでした。その気持ちを抑えるためにメイのもとを訪れ、結婚を早めることを提案します。そうしたニューランドの態度にメイは他の女性の存在を感じ、他に誰かいるのならば婚約を解消しようと提案するのでした…。

 『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

この『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』からは、いろいろなことを考えさせられます。まずは、外見や噂で人を判断してはいけないということです。

一見純粋で無邪気(イノセンス)に見え社交界での評判もよいメイが実は策士であり、反対に、奔放に生き、社交界で悪女のように言われているエレンが実は無知(イノセンス)であるという矛盾。この、外見や噂が白い人物が実は内面が黒で、反対に、黒い人物が内面が白いというテーマは、古今東西よくとりあげられているものです。それだけ、こうした事例が普遍的だという証明なのでしょう。一見よさそうな人が実は悪い人で、口が悪い人は実はいい人というのと似たようなテーマでしょう。

将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんは、ぜひとも、相手のことを自分自身の目で判断するように、努めてください。筆者自身の経験でも、評判の良い人はしょせん世渡りが上手な人も多く、反対に、良くない人の中にも誠実な人が多数いるという印象があります。

そして、御自分や自身の会社の2chは見ないことと、他社についてのものも鵜呑みにしないことをオススメいたします。掲示板に書き込みをされる方は不満がある方が多く、ご自分が悪く退社したのに会社や会社のトップの悪口を書くことがあります。事実が歪曲されていることもあり、非常に不愉快になります。新規顧客について調べてみようと思って掲示板を見てみたら、契約したくなくなるということも起きうるでしょう。見たいという誘惑を抑え、見ないのが一番です。また、ご自分が悪く書かれているとしても、有名税だと思って諦めましょう

そして、『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』は、価値観の異なる方との結婚は地獄であり、自分の気持ちに偽った結婚はしてはいけないと示唆してくれています。これを起業家・アントレプレナーの立場に置き換えると、価値観の異なる方とは決して一緒に起業はしてはいけないということとなります。いくらウマがあって仲の良い友人であっても、ヴィジョンや目的の異なる方と起業をしても、破綻するだけです。ここは、肝に銘じておいてください。

 美術はイタリアの巨匠ピエル・パオロ・パゾリーニの『王女メディア』(69年)や『デカメロン』(71年)、『オーケストラ・リハーサル』(79年)以降のフェデリコ・フェリーニ監督の作品を担当したイタリアのダンテ・フェレッティが担当、往年のパゾリーニ作品やフェリーニ作品を彷彿させる素晴らしい映像美を創造しています。衣装デザインはストーカー愛を描いたエットーレ・スコラ監督の名作『パッション・ダモーレ』(80年)、仏領インドシナを舞台としたカトリーヌ・ドヌーヴ、ヴァンサン・ペレーズ主演の大作『インドシナ』(92年)などで知られるガブリエラ・ペスクッチが担当、見事アカデミー衣装デザイン賞を獲得しました。音楽はフランク・シナトラ主演のギャンブラーもの『黄金の腕』(56年)、預言者モーゼの生涯を描いた大作『十戒』(57年)以来、『荒野の七人』(60年)、『大脱走』(63年)、『ゴーストバスターズ』(84年)などで知られるアメリカを代表する映画音楽家のエルマー・バーンスタインが担当しています。

ピュリッツァー賞を受賞したほどの卓越したストーリー、アカデミー脚色賞にノミネートされた脚色、フェリーニ、パゾリーニに愛された巨匠によるアカデミー美術賞にノミネート素晴らしい映像美、主役の3人の美男美女らが着用するオスカーを獲得した豪華な衣装、アカデミー音楽賞にノミネートされた叙情的な音楽、演技陣の名演技が組み合わさり、『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』は、まるでヴィスコンティ監督作品を彷彿させるような格調高い雰囲気を漂わせることに成功しています。ヴィスコンティ、フェリーニ、パゾリーニらの巨匠亡き後、90年代にアメリカ映画としてこうした作品が制作されたことに驚かされます。

イタリアの巨匠の作品などの高尚な作品を好きな方、美術やクラシック音楽の愛好家、ルイス、ライダー、ファイファーのファン、読書好きの方などにおすすめの作品です。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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