海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
アバンダントロボティクス(Abundant Robotics)

掲載:2020/12/14

最終更新日:2020/12/14

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのスタートアップを目指すシニア・女性等への起業のアイデアとなるシリコンバレーの注目企業紹介のコラム。今回からはSRI International(SRIインターナショナル)のスピンアウト企業についての連載が始まります。まずは アバンダントロボティクス(Abundant Robotics)について見ていきましょう。

アバンダントロボティクス(Abundant Robotics)とは?

アバンダントロボティクス(Abundant Robotics)は、SRI Ventures(SRIベンチャーズ)がスピンアウトしたスタートアップ企業です。2016年にサンフランシスコのベイエリアで設立されました。当時のSRI Ventures(SRIベンチャーズ)社長のコタリ氏は、アップル・ピッキング・ロボットと呼んでいました。

りんごの収穫は高い枝に生えた枝から一つずつ、潰さないように丁寧に採取する必要があるので、非常に時間がかかる。それをロボットで行えば簡単にできてしまうというのが、彼の説明でした。

このアップル・ピッキング・ロボットの話を聞いたのは、2017年だったと思います。ちょうどブレグジット問題が騒がれていた時期だったのですが、BBCニュースに東欧からの労働者がいなくなるとリンゴ農家が困ってしまうという記事が載っており、このSRI Ventures(SRIベンチャーズ)がスピンアウトするロボットがあれば、こうした問題も解決する。だから、ロボットを農業に使うという発想はありなのだな、と感じたのが思い出されます。

Fruit Grower Newsの2018年6月版によると、40%もの果物農家が就業者の不足に直面しているとのことです。この農業の収穫分野は古代からハードな作業とされており、古代ローマ時代は奴隷、現在は移民により成り立っているわけです。他の産業と異なり、ロボットが既存の労働者の仕事を奪ってしまうという問題もありません。

世界銀行の予測では、2050年までには現在の50%以上多くの食料が必要になるが、気候変動により25%の収穫が減少してしまうとのことです。効率的な農業への需要はますます大きくなっていくようです。

こうした状況下において、アバンダントロボティクス(Abundant Robotics)は、自動化により農業の生産性が向上することで、世界中の人口が増加する中、現在のように果物や野菜を楽しめ続けられることを目的に設立されました。この農業用自動化ロボットが世の中の役に立つということは、みなさんも当然お分かりになると思います。

SRIロボティックスチームの長年の研究で、不可能とされていた、リンゴや枝を傷つけずに収穫することが可能になったそうです。当初は米国のワシントン州で使用が開始されたそうですが、現在は海外でも使われているようです。2019年にニュージーランドの果樹園に導入されたという動画では、ニュージーランドの農家でのアップル・ピッキング・ロボットの使用風景がご覧になれます。ごついロボットが、繊細な動きで次々にリンゴを吸い取っていくシーンには驚かれるでしょう!通常の爪や手のようなものでもぎ取るのではなく、吸い込む方式が採用されています。傷をつけずにもぎ取るのは、現段階ではやはり困難なようですね。

このロボットには、ロボットカーのような自動運転技術も導入されています。

現在も米国やオーストラリアの果樹園で、同社のエンジニアが収穫期には農民と一緒に並び、どうやったらもっと効率よく作業ができるかの改良のための視察を行っているそうです。

日本にはいつ導入されるのでしょうか?

ヤマハ発動機がAbundant Roboticsに出資したのはなぜ?

バイクで知られるヤマハ発動機は、実はシリコンバレーにCVC活動のための子会社を設立しています。ところで、起業家・アントレプレナーを目指している方には是非とも知っていただきたいのがCVCです。以前ご紹介しましたが、ここで簡単におさらいしておきましょう。

CVCはCorporate Venture Capitalの略で、投資会社ではなくCorporation、つまり、事業会社によるVCのことです。富士通やパナソニックなどのIT企業、KDDIなどの通信会社が代表でしたが、近年は日本郵政や三井不動産など様々な業種が設立しており、ブームのようになっています。

投資会社のようにキャピタルゲインが目的というよりは、本業との協業やシナジー、新規事業進出を目的としています。一から研究を始めるのと比べ、時間が稼げ、自社で足りない技術を補えるということです。

自己資金で運用されますが、投資の専門家が社内にいない場合が多く、運用は外部のVCに任せる場合が多いです。

しかし、社内に投資部門を持つ、または投資子会社を持つケースでは、自社で運用することもあり、ヤマハ発動機の場合はこれに当たるということです。

ヤマハ発動機は、実はSRI Internationalと関係がありました。Motobotというヒト型自律ライディング・ロボットを共同開発していたのです!

このウェブサイトでは、世界でも有数のライダーであるバレンティーノ・ロッシとMotobotのラップタイム・バトルの動画もあります。バイク好きの友人がいる方は紹介してあげてはいかがでしょうか?

そのため、2016年に25万ドルを出資していたのですが、2020年3月に10倍となる250万ドルもの追加出資を決めたわけです。ヤマハ発動機はCVCを上手く成功させている数少ない会社ですが、そのポイントは、シリコンバレーにオフィスを持ちSRI Internationalと良好な関係を築いているからなのかもしれません。

しかし、筆頭株主はやはりアルファベットのようです。GV(旧Google Ventures)が1000万ドルを出資したとのことす。

同社のウェブサイトによると、2020年1月にはクボタも出資したようです。これにより日本でもこのアップル・ピッキング・ロボットが見られるのも遠くない将来かもしれないですね。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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