起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『ナイロビの蜂 』

掲載:2020/12/23

最終更新日:2020/12/23

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、後進国を搾取する先進国の闇を背景に、寡黙な英国紳士がヒーローに変身するという愛の偉大さを描いた『ナイロビの蜂』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『ナイロビの蜂』の概要

『ナイロビの蜂』は、『シティ・オブ・ゴッド』(02年)でブラジル・リオデジャネイロのスラム街での現実とは思えない少年ギャング達の生き様を描き世界中に大反響を巻き起こしたブラジルの鬼才フェルナンド・メイレレスの2005年の問題作です。『寒い国から帰ってきたスパイ』で知られ、自らも英国の外交官として勤務経験があるサスペンス界の巨匠ジョン・ル・カレの2001年作品が原作となっています。ル・カレ氏はその作品の多くが映画化されるなど欧米での人気は高く、2020年12月に亡くなられた際には、メディアで大きく取り上げられていました。アフリカでの欧米製薬会社の人種差別的行動に怒りを覚えたル・カレ氏が、現実の慈善活動家をモデルとして書き上げた本作はリアルさが評判を呼び、英国ではベストセラー1位に、米国でもNY Timesで4位に入りました。

邦題は劇中でのケニアで活動する製薬会社のシンボルから来ているようですが、原題はこの作品のタイトルとしてピッタリくる『The Constant Gardener』(常に変わらない、誠実な園芸家)となっています。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの雑誌や新聞などの聴衆217,586人による平均スコアは5点中3.92ですが、トップ批評家43人による平均スコアは10点満点で8.2で、一般の視聴者よりもプロから、より高く評価されている作品です。

主役の物静かな英国の外交官役は、イギリス紳士を演じさせると昨今右に出るものがない名優のレイフ・ファインズです。『嵐が丘』(92年)、『イングリッシュ・ペイシェント』(96年)、『ことの終わり 』(00年)、『愛を読むひと』(09年)などの主役として知られていました。イギリスの名優総出演の『ハリー・ポッター』シリーズでのハリーの宿敵ヴァルデモート役といえば、みなさんお分かりになるでしょう。園芸にしか興味のない誠実な英国の外交官役を見事にこなしています。

そしてその妻の社会活動家は名門ケンブリッジ大学出身であり、007役で日本でもようやく人気となったダニエル・クレイグの妻でもあるレイチェル・ワイズです。『ハムナプトラ』シリーズのヒロインとしてコメディエンヌの印象が強かったのですが、この作品でアカデミー賞助演女優賞に輝き、演技派女優としての開花を果たしました。2018年には『女王陛下のお気に入り』で英国アカデミー賞助演賞を受賞するなど、現在も活躍を続けています。

音楽はフリオ・メデム監督作品やペドロ・アルモドバル監督作品で8度のゴヤ賞に輝くスペインの映画音楽界を代表する作曲家アルベルト・イグレシアスが担当しています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『ナイロビの蜂』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、スラムでの救援活動を行う妻テッサ(レイチェル・ワイズ)とケニアの首都ナイロビで暮らしていた英国の外交官のジャスティン(レイフ・ファインズ)に届いた妻の死の知らせで、幕を開けます。同行していた黒人医師アーノルドとの不倫関係に言及する英国外務省の同僚や警察の説明に納得のいかないジャスティンは、独自にテッサの死因の調査を始めます。そして彼女が追っていた医療援助という名のもとに横行している薬物の人体実験、実験を推進する欧米の大手製薬会社とそれを黙認する外務省上層部の癒着という事実にたどりつきます。そして、ジャスティンはその追求に乗り出していくのです…。

『ナイロビの蜂』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

途中までのストーリーだけ読むと、ジョン・ル・カレのベストセラー小説の映画化ということもあり、社会派サスペンス映画だと思われるでしょう。しかし、この映画の本質は、それだけではありません。ガーデニングにしか興味のなかった不器用な一人の男と、社会的正義に燃える女との純粋なラブ・ストーリーです。

このように考えると、『ナイロビの蜂』の原題の『The Constant Gardener』(いつもと変わらない、誠実な園芸家)が生きてきます。

いつも園芸だけを行っていて政治や出世などに興味のない寡黙な英国の上流階級出身だと思われるジャスティン。彼の人生は、活動家のテッサに会うことで一変しました。テッサに結婚を申し込まれ、ナイロビで幸せに暮らし、人生に初めて意味が持てたのです。テッサは社会活動のためにジャスティンを利用して結婚したようにも見えますが、彼女なりに彼を愛していたことも読み取れるでしょう。

その最愛のテッサを失ったことでジャスティンがテッサの死の原因を追究する行動に出るわけですが、その様子は普段の寡黙で園芸にいそしんでいる人物とはおよそ別人です。まるで映画のヒーローのような、勇気と行動力を発揮するのです。もうテッサは戻ってこない、それを分かっていても妻の意志を継ぐ為に命を賭しても、真相の追究に奔走する。その有様から、人はここまで他人を愛することができるのかと、心を打たれるでしょう。

オタクのゲーマーが、突然正義のヒーローに変身したかのようです。ある意味『電車男』のようですが、ジャスティンには勇気を振り絞るために背中を押してくれるネット上の友人などは、1人もいないのです。また、「電車男」は、命までは賭けていません。まさに、死中での孤軍奮闘です。

『ナイロビの蜂』を鑑賞した起業家・アントレプレナーを目指すみなさんに理解していただきたいのは、世の中はお金中心に廻っていてきれいではないことです。英国上流階級の腹黒さ(例えばパレスチナ問題が起きたのはユダヤ人(1917年のバルフォア宣言で)、アラブ人(1915年のフサイン=マクマホン協定で)両方にイスラエルの領有を許したから)、植民地独立後も続くヨーロッパ宗主国による特にアフリカでの利益搾取、などお気楽な日本人が関心のない世界情勢についてです。

チャリティーに関心が深く、差別を忌み嫌う紳士として振る舞っている英国の上流階級が、実はお金儲けしか考えておらず、黒人をモルモットとしてしか考えていないという実態が理解できるでしょう。みなさんが起業後に海外に進出する際には、是非とも知っていただきたい現実です。

また、日本では起業するとお金持ちになれるという発想が強いようですが、Alphabet(アルファベット)の例にみられるように、起業・スタートアップを目指すみなさんには、世の中の役に立つということを念頭に会社を設立してほしいと願っています。人々を搾取するこの『ナイロビの蜂』で描かれている製薬会社のようには、決してならないで頂きたいのです。

オスカーを獲得したレイチェル・ワイズだけでなく、2度もオスカーにノミネートされている名優レイフ・ファインズの演技も素晴らしいです。サスペンスとしても、恋愛映画としても一級品で、将来の起業家・アントレプレナーである方には是非とも見ていただきたい作品の一つです。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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