起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
アプティブ(Aaptiv)
掲載:2021/1/18
最終更新日:2021/01/18
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回はフィットネスアプリとアプティブ(Aaptiv)について解説します。まずは、フィットネスアプリについてです。
フィットネスアプリとは?
フィットネスアプリとは、いつでも、どこでも使用できるフィットネス用のスマホ向けアプリを指します。2015年時点でiOSとアンドロイド向けフィットネスアプリの数は、16万5千もあったとのことです。この分野に注目した起業家・アントレプレナーは、5年前の時点でも沢山いたという事ですね。
主な機能は、ユーザーにトレーニングのゴールを設定させ、様々なワークアウトのプログラムを提供し、消費カロリーや走った距離などのデータを記録し、達成度をSNSでシェアするなどとなります。
目標、ユーザーのアスリートとしてのレベル、流したい音楽、好みのインストラクター、プログラムの時間など、プログラムは、ユーザーによって異なります。全てが、その個人の好みに合っている、つまりパーソナライズされていることが、フィットネスアプリの人気の秘訣のようです。
アップルウォッチなどのウェアラブルデバイスから心拍数などの記録を収集する、ゲームのような要素を持つ、友人や家族と競わせることを動機づけにしているなど、アプリにより特徴があるそうです。
近年の流れで、当然、動画によるアプリが多いそうです。しかし、モデルなどの美女インストラクターのアプリは、見られているだけで使われていない、という声もあるそうです。
米国では、イヤー・バッズと呼ばれる耳に挿入するタイプのイヤフォンが急速に普及し、音楽だけでなくカーム(Calm)のような音声アプリが、さらなる成長を見込まれているようです。
実際、フィットネスアプリは新型コロナウイルス流行前から、急成長していました。流行後には、さらに伸び率が加速化するのは、申し上げる必要もないでしょう。GRAND VIEW RESEARCHの記事によると、2015年には僅か500億円だった市場が、2019年には3500億円となっています。2019年から2026年の間には、21.1%成長するそうです。
1万円ほどするジムの月会費や、毎回1,500円等のジムでのパーソナルトレーニングの受講料も必要なく、コロナの心配もなく、今日からでも始められるのです!フィットネスアプリは、アマゾンのようはECサイトやネットフリックスなどの映画、TV番組配信サービスと並び、ポストコロナの勝ち組の一つとなることでしょう!
アプティブ(Aaptiv)の起業に必要だったのは、やる気のない人をやる気にさせられるというアイデアだけ!
さて、それではアプティブ(Aaptiv)について見ていきましょう。アプティブ(Aaptiv)は、2015年にニューヨークで設立された、音声でインストラクターが指導してくれるフィトネスアプリです。アップルストアのオーディオフィットネスアプリ部門では、トップとなっているそうです。ポイントは、動画ではなく、音声のみのクラスだということです。
動画をダウンロードし、iPadなどで見ながら行うワークアウトは、面倒で長続きしない。それよりも、好きな音楽を聞きながら、インストラクターの叱咤激励で目標を到達できるという発想から来ているそうです。今まで色々なダイエットを試したけれど、リバウンドがあるので、無理なく続けられる軽めの糖質制限ダイエットが流行しているのと、似たようなアイデアといえるのではないでしょうか?
設立者は、トップ10の一つであるペンシルベニア大学ウォートン校でMBAを取得し、リーマン・ブラザーズでヘルスケア分野のM&Aを担当、その後はヘッジファンドやマッキンゼーのコンサルタントとして経験を積んだアガウォル氏です。カリフォルニア・ベイエリアではなく、N.Y.C.で設立されたのは、彼のバックグラウンドによるからでしょう。以前は太り気味だったという彼は、現在ではシェイプアップされた肉体を手に入れ、自ら広告塔としての役割を果たしています。
そして、特筆すべきは、このアプティブ(Aaptiv)には、ベイエリアのスタートアップのような、特許や技術も何もないのです。ただのアイデアだけ、ということです。以前ご紹介したカーム(Calm)と同じですよね?
誰もが、どこにいても健康を保てる、ということを目標としています。トレッドミルや欧米で人気のエリプティカル(腕を押してステップを踏む運動器具)などのようにジムでも、ランニングやウォーキングのように屋外でも、そしてヨガやストレッチのように屋内でも、アプティブ(Aaptiv)を活用できるのです。
アメリカはご存知のように肥満率が高く、3大疾患の中でも糖尿病が特に患者数が多いので、フィットネスは必須となっています。筆者もそうですが、ジムにでかけたり、ランニングに行くのはもちろん、家でストレッチをするのもが面倒な方が多いわけです。そうした方々を対象に、インストラクターの声による励ましで、とりあえずフィットネスを始めてみようという動機づけの獲得を目指しているとのことです。
汗まみれの人に囲まれて、インストラクターに叫ばれながら、いやいやレッスンを行う必要はありません。自分のペースで、好きな場所で行えるのです!運動が習慣となっているアスリートタイプの方よりも、フィトネスが苦手な方の間で、口コミで人気が広まったとのことです。「これだったら私でもできているから、やってみれば?」という感じだそうです。
筆者自身の経験でも、テニスやスカッシュであれば友人との約束があるので、決まった時間に、決まった場所に、仕方がなくでかけていくことになります。そのついでに、非常に苦痛なのですが、ジムでフィットネス器具でのトレーニングも行っています。しかし、ジムでのマシーンによるワークアウトや屋外でのランニングとなると、全く長続きした試しがありません。それどころか、テレワークで家にいてさえも、せっかく購入したエアロバイクに乗るどころか、ヨガマットでストレッチを行うことも稀です。筆者のようなフィットネスへの熱意がない人間には、なにか背中を押してくれるものが必要なのです。
それこそが、まさにアプティブ(Aaptiv)、ということなのでしょう!
アプティブ(Aaptiv)の沿革とは?
アプティブ(Aaptiv)は、2015年の創業当初は、スカイフィット(Skyfit)というブランド名を使用していました。ランニング、トレッドミルなど4つのカテゴリの30のクラスでスタートしました。当時の価格設定は1週間のお試し期間があり、月額9.99ドルまたは年額99ドルのサブスクリプション型の収益モデルが採用されました。399ドルのライフタイム会員制度もありました。会員数は僅か2,000人でした。
2016年には瞑想などの健康分野に進出し、アプティブ(Aaptiv)にブランド名を変更します。そして、シード・ファンディングで160万ドル、約1億7千万円を調達しました。
アプティブ(Aaptiv)はこの資金を元に、一気に事業を拡大します。2017年にはランニング、ウォーキング、エリプティカル、トレンドミル、ハーフとフルマラソン、階段昇降、減量トレーニング、ストレッチ、ローイング(ボートを漕ぐフィットネス器具)などの分野からなる2,200クラスとなり、毎週50クラスが追加される規模となりました。
プログラムが増えたことから、課金額は月額15ドル、年額100ドルへと値上げしました。トレイナーは僅か16人だそうですなので、利益がいかに増えたのかは想像に難くないです。会員数も約20万人と、2年前と比較すると100倍に急成長を遂げたのです!ユーザーの1ヶ月の平均受講クラスも、4から7へと増えたそうです。ロイヤルティが上昇したことが伺えます。
会員数増加は、口コミに加え、フェイスブックやインスタグラムなどへのターゲット広告であり、安い費用で会員数を急増させた事がVCに高く評価されたそうです。VC経験があり、ウォートンMBAであり、元コンサルだった創業者の経験や才能によるものが大きいと思われます。年間収入も約20億円となりました。
こうした背景から、Insight Venture主導のシリーズAで約13億円、1ヶ月後のBでは約27億円の調達に成功します。
2018年には、ボクシング、インドアサイクリング、ヨガ、マタニティートレーニングが追加されました。さらに、アマゾンやディズニー、ボーズなどの大手企業から約21億円を調達します。クラスを増やすためと、世界進出のために、資金調達を続けていくとのことでした。
2019年には、データサイエンティストの人数を増やしながら3年間かけて開発してきたAaptive Coachという、食習慣やライフスタイルも提案するAIプログラムも導入しました。20カ国で2,200万回再生されてきたデータを元に、開発されたそうです。
2020年現在は、2,500クラスで、毎週40の新クラスが追加されているそうです。2017年と比べると、ほとんど差はないようです。
アプティブ(Aaptiv)の機能と特徴とは?
アプティブ(Aaptiv)では、ユーザーに3つの質問をします。
まずは、目的です。減量なのか、速く走りたいのか、筋肉を強化したいのか、ストレスをなくしたいのかの4つから選択できます。
次は、ユーザーのフィットネスレベルについてです。運動をほとんどしていない、たまにしている、定期的にしている、アスリートタイプの4つから選択できます。
最後は、場所です。屋外、屋内、ジムの3つから選択します。
プログラムと一緒に流れる音楽も、ダンス、ヒップホップ、インディー/オルタネティブ、ポップなど、細かく選ぶことができます。
難易度は3段階、時間は10分単位で選択できます。
最も重要なポイントですが、好みのインストラクターを選ぶことができます。
いつ、どこで、何を、どのぐらいの負荷・距離・カロリー消費で、どのインストラクターで、どの音楽で、どのぐらいの時間行うなど、全てご自分の好みに通りにできるのです。1週間も続けると、お気に入りのインストラクターやプログラムが見つかるそうです。ワークアウトの記録はトラッキングでき、お気に入りやTo doリスト機能もあるので、好きなインストラクターによる、必要なプログラムのみを行えるようになるわけです。
上記の多くのジャンルのクラスの中でも、ローイング・クラスが特に人気ということですが、これは、欧米人は大胸筋を誇るからです。筆者が駐在していたイギリスでも、このローイング・マシーンや大胸筋を強化するマシーンは人気で、いつも順番待ちでした。人気のジャンルはよく変わるので、フレキシブルに対応するとのことです。
上記のAaptive Coachのようなアルゴリズムにも力を入れていますが、あくまでも補助的な目的だそうです。人数を削減したそうですが、やはりインストラクターによるプログラムが基本とのことです。
そして、アプティブ(Aaptiv)で最も重要なのは、SNS機能だそうです。ある人が大嫌いなワークアウトをこのアプティブ(Aaptiv)で開始した際に、「今日から、ようやくワークアウトを始められたわ!」と投稿したところ、数百のいいねと数十のコメントをもらい、勇気づけられたとのことです。SNS大国のアメリカならではのエピソードですが、一人ではない、みんなと繋がっていて頑張れるという意識は、継続には最も必要なのではないでしょうか?
長所ばかりのアプティブ(Aaptiv)ですが、よく指摘される欠点としては、例えばヨガなどで間違えたポーズをしていたとしても、それを指摘してくれるインストラクターがいないという事でした。スクワットなどの基本動作でしたら問題ないですが、確かにそのとおりですよね?
そこでアプティブ(Aaptiv)は、まず200以上の基本の動きを表した画像をウェブページに掲載しました。これでも、何もないよりはましだったわけです。そして、遂に2020年には、バレエ、ヨガ、ピラティス、ストレッチなどの分野で40のビデオ講義を公開したのです。こうした特定の分野においては、今後は動画によるレッスンが増えてくるのではと予想されます。
何度も申し上げているように、日本での起業では米国で流行したものを真似するのが基本なわけですから、日本でもこのアプティブ(Aaptiv)に似ているアプリがあるようです。ある程度の資金調達にも成功しているようです。しかし、日本ではこの分野での競争は、これからだと思われます。なにか差別化できるアイデアをお持ちの未来の起業家や、スポーツ・インストラクターに友人がいる将来のアントレプレナーは、この分野を起業の対象とするのもいいかもしれません。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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