映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『インテリア 』
掲載:2021/1/20
最終更新日:2021/01/20
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、才能のない同僚や部下からの嫉妬に注意し過ぎる事はないと教示してくれる『インテリア』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。
起業・スタートアップを目標とする方への『インテリア』の概要
『インテリア』は、ダイアン・キートン共演のコメディ『アニー・ホール』(77年)でアカデミー監督・脚本賞を受賞し知名度をあげたばかりだった若き日のウディ・アレンによる78年の監督作品です。敬愛するスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督のスタイルを真似たシリアスな人間ドラマで、ある老夫婦の別居を通じ表面化した親子、3姉妹、3つの夫婦間の愛憎を描きだしました。
アレンに笑いを求める観客からの反応は鈍く、興行的には何とか赤字を免れた失敗作でした。しかし、批評家からの評価は高く、アカデミー賞では監督賞、脚本賞など5部門にノミネートされました。音楽好きのアレン作品には珍しく、音楽を廃した静寂の世界と統制された色彩の中に、登場人物の心理状態が浮き彫りにされています。
小心者のアレンは、コメディでないこの作品への評価がどうなるかを非常に恐れていたとのことです。作中でも、「一度きりの人生だから好きに生きたい、今までの詩作にどんな意味があるのか急に疑問に思えた。」などの台詞がありますが、コメディ作家というイメージから脱皮したいというアレンの想いがひしひしと感じられる作品となっています。
自伝的な作品である『スターダスト・メモリー』(80年)は、「コメディで人を笑わせても何の意味があるかが分からなくなり虚しさを覚えるが、やはり自分が作るべきなのは人々に感動を与えるコメディ作品だ。」、と気付くという設定になっています。この『インテリア』が興行的に失敗し、批評家からもベルイマン作品ほどの高い評価を得られなかったため、やはり自分が生きていく道はコメディだと悟ったと推察されます。ベルイマン的な名作ではあるのですが、ベルイマン的すぎてアレンの素晴らしい個性が全く感じられないことが、オスカーを獲得できなかった理由かもしれないですね。
米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの視聴者7,651人による平均スコアは、3.88とそこそこですが、トップ批評家であるシカゴ・トリビューンのコラムニストは10点満点をつけています。
主人公の母イヴ役は、オスカーに8度もノミネートされるなど演技力には定評があるオスカー女優ジェラルディン・ペイジです。61年の『肉体のすきま風』、62年のテネシー・ウィリアムズの戯曲『青春の甘き小鳥』を映画化したポール・ニューマン共演の『渇いた太陽』でゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を2年連続で受賞し、演技派女優としての地位を確立していました。この『インテリア』では、心を病んだ若かりし頃は美人であったろう才女を見事に演じ、英国アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。
長女のレナータ役は、当時アレンの私生活でのパートナーだったダイアン・キートンです。72年に『ゴットファーザー』でアル・パチーノ演ずるマイケルの妻役を、『ボギー!俺も男だ』でアレンの相手役を演じ、注目されました。77年にはシングル・バーで男をあさり破滅していく真面目な女教師を熱演した『ミスター・グッドバーを探して』、アレン共演のアカデミー主演女優賞を受賞した大ヒット作『アニー・ホール』で、一躍トップスターの仲間入りを果たしていました。この『インテリア』では表情のクローズ・アップシーンが多いのですが、ペイジに肉薄するほどの高い存在感を示しています。
父アーサー役は、『十二人の怒れる男』(57年)などで知られる名脇役E・G・マーシャルです。次女ジョーイを『ガープの世界』(82年)のヒロイン役で知られるメアリー・ベス・ハート、ジョーイの夫マイクを『キリング・フィールド』(84年)の主役で知られるようになるサム・ウォーターストンという、当時はまだ無名だった新進俳優が演じています。
起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『インテリア』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーは、ニューヨーク州ロングアイランドの海を望む家で始まります。富裕な弁護士アーサー(E・G・マーシャル)とインテリア・デザイナーの妻イヴ(ジェラルディン・ペイジ)の3人の娘たちが、静かな海を眺めていました。
場面が変わり、次女のジョーイ(メアリー・ベス・ハー ド)と夫マイク(サム・ウォーターストン)のアパートをイヴが訪ねてきます。マイクは、趣味である高価な花瓶を勝手に買ってきて、床の3度目の張替えを行うという義母に我慢がなりませんでした。ジョーイも、別居中の父との復縁を夢見る母に、楽観的にならないでと諭します。しかし、長女のレナータ(ダイアン・キートン)は和解できるといってくれたのになんでそんな悲観的なのだと、反論されてしまいました。
レナータは、成功している女流詩人です。ところが、作品が評価されない作家の夫フレデリックはレナータにコンプレックスを感じ、二人はいつも言い争いをしていました。ジョーイは出版社で批評を書いているのですが、やはりレナータへのライバル心から、自分の仕事に満足していませんでした。三女フリン(クリスティン・ グリフィス)は女優として活躍していましたが、端役しかこないという悩みがありました。
実はアーサーとイヴの前でレナータとジョーイが言い争っている時に、アーサーが、突然イヴと試験的に別居したいと言い出したのでした。娘達も経済的にも自立したので、独自の美意識で家庭を支配してきたイヴと別れて自分自身に戻りたいというのでした。
別居後イヴは不眠症となり、遂にはガス自殺をくわだてるまでになります。一命はとりとめましたが、それ以来心の病におかされていきました。一方ギリシャ旅行から帰ったアーサーは、レナータの家でイヴ以外の家族が集まったパーティに、パールという女性を連れて来ました。パールはイヴと異なり教養もなく、粗野な女性で、パールと結婚したいというアーサーに、3姉妹は意外に思うのでした…。
『インテリア』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点
イヴはジョーイが語るように、完璧すぎる女性でした。美しく完成され尽くした部屋と全てに統制されたインテリアで表現されるように、その美意識に常人はついていけませんでした。唯一詩人としての天賦の才能のあるレナータだけが、イヴを理解できたのです。
ロー・スクール(法科大学院)を中退していたアーサーを無理やり卒業させ、その生き方を導いてきた美しく、ディマンディング(要求を突きつける、命令する)なイヴは、アーサーの人生をずーと操ってきたのです。アーサーが、ある日ふとイヴとの間に超えがたい溝を感じたのは、当然といえるでしょう。ジョーイとマイクにも、自分が選んできた花瓶や内装工事を押し付けようとします。ディマンディング(要求を突きつける)なプロダクト・アウトの愛は周りを不幸にすることを、さらには自分をも不幸にすることを示唆しています。
イブは家族に自分の価値観を押し付けようとして、家族全員から拒絶されることになりました。起業・スタートアップを目指す閲覧者の方に気づいて頂きたいのは、社長になった際に自分の価値観を押し付けては部下が離れていくということです。たとえそれが崇高な価値観であり、ここでのレナータのような才能のある人材なら理解できるのだと主張しても、大半の部下が理解してくれないと意味がないのです。それは、「お前達は才能がないからレナータのように自分を理解できないのだ。」と言っているようなものですから・・・。
アーサーが粗野で下品なパールを再婚相手に選んだのを娘達は意外がるわけですが、アーサーはイヴに合わせていただけなのです。ギリシャに行っても、神殿や教会を観光するよりもビーチで日光浴をするほうが好きなことを、娘達が知らなかったに過ぎないわけです。無理に背伸びをして、自分が好きでもない上品な趣味の相手と結婚しても疲れるだけなのだと、教えてくれています。将来起業家・アントレプレナーをめざすシニアや女性・ミレニアル世代等のみなさんも、無理やり自分が信じてもいない崇高なミッションや目標をさだめてはならないのだとご理解いただけるでしょうか?
レナータは、詩人としての才能に恵まれていました。ニューヨーク・タイムズに取り上げられなど、成功も収めていました。夫のフレデリックは残念ながら作家として認められず、批評家からも酷評されていました。レナータに、才能があるのだから批評など気にするなと元気づけられても、いらいらするだけでした。レナータへのコンプレックスがあるため、フレデリックは上から下に見られているように感じていました。プライドのある男は立ててやるだけでは十分ではなく、引け目を感じさせないところまで気を使わなくてはならないと示唆しています。
レナータは才能があり男に引け目を感じさせるという点で、イヴに似ているということです。フレデリックがアーサーのように、引け目を感じさせない女に心を移すのも時間の問題でしょうが、キリスト教の7つの大罪である妬みというのは始末におえないのだと教示してくれています。レナータにはなんの罪もないのですから。しかし、レナータのように、最愛の夫にも姉妹にも嫉妬されることがある、まして部下や同僚は言わずもがななのだと、起業・スタートアップを目標とする読者の方には肝に銘じてほしいのです。
アーサーはジョーイを一番可愛がり才能があると言っていましたが、実はジョーイには才能がありませんでした。文筆業ではレナータに、女優としてはフリンに劣っていたのです。才能がないことを認め、広告会社の社員や編集者として働けばそれなりの仕事はあるのですが、姉妹達へのライバル意識からそれでは満足できなかったのです。兄弟、姉妹の間のライバル意識の激しさと虚しさを感じさせられます。イヴに対して期待を持つなと冷たくあしらっていたように見えるジョーイですが、実はイヴを一番愛していました。憧れていたイヴが実現するはずのない復縁への希望にすがろうとするのを、見ていられなかったのでしょう。パールの下品さも、イヴの上品なセンスを愛するジョーイには、耐えられませんでした。しかしイヴが愛するのは、自分よりも芸術的才能のあるレナータだったのです。愛する者に愛されず、愛していない者に愛される矛盾も、描き出しています。
今まで素晴らしいと思っていたものが、ふとした拍子につまらないものに見えてしまうということは、人生においていつ起こっても不思議ではありません。しかし、その想いを完全に理解できるのは、その人自身だけなのです。あれほど成功していた作家が突然筆を折ったり、あんなに仲のよかった夫婦が別れたりするのも、全く不思議ではないのだと痛感させられます。
アレン・ファンにはおすすめできませんが、ベルイマン・ファンにはおすすめできる名作です。アレン作品でなければ、もっと評価されているはずの作品といえるかもしれないですね。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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