映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『私がクマにキレた理由(わけ)』
掲載:2021/2/19
最終更新日:2021/02/19
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、特にアントレプレナーに必要な、人生の目標を持つ事の重要さを教示し、自分の思った道を選ぶべきと示唆してくれる『私がクマにキレた理由(わけ)』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。
起業・スタートアップを目標とする方への『私がクマにキレた理由(わけ)』の概要
『私がクマにキレた理由(わけ)』は、ベストセラー小説『ティファニーで子育てを』を映画化した作品です。07年に公開されると、全米では初登場6位となったそうです。日本では残念ながら、映画館は空いていました。原題は「The Nanny Diaries」なので、訳すと「乳母の日記」というところでしょうか。
当時、美貌と演技力の双方を兼ね備えた若手のアメリカ女優というと、まず思い浮ぶのがスカーレット・ヨハンソンとナタリー・ポートマンでした。特にスカーレットはブロンドでグラマーなので、マリリン・モンロー以来の正統派セックス・シンボルと言われていました。『マッチポイント』でウディ・アレンに新しいミューズとして選ばれたのも、十分納得できます。そのスカーレットが、ナタリーと共演した『ブーリン家の姉妹』の直前の08年に公開されたのが、この映画です。
米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの聴衆142,270人による平均スコアは3.25と、スカーレットの作品にしては珍しく低評価な作品となっています。しかし、起業・スタートアップを目指す若年層・女性の方には特に見ていただきたい映画だと感じ、紹介することにしました。
主人公のアニー役が、スカーレット・ヨハンソンです。天才画家フェルメールの同名作品に秘められた謎に迫った『真珠の耳飾りの少女』(03年)、英国アカデミー賞主演女優賞を受賞した、ビル・マーレー共演の恋愛映画『ロスト・イン・トランスレーション』(03年)、ゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされたジョン・トラボルタ共演の『ママの遺したラヴソング』(04年)、ゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされたウディ・アレン監督作のサスペンス『マッチポイント』(05年)、などで、美しいだけでなく演技力も認められ、既にトップ・スターとしての人気を確立していました。
資産家の奥様ミセスX役が、ローラ・リニーです。日本での知名度は低いですが、舞台では2度のトニー賞に、テレビでは3度のエミー賞に輝くアメリカが誇る名女優です。この『私がクマにキレた理由(わけ)』でも、今の豪華な生活に実は疑問を抱いている妻で母親役を、見事に演じています。
ミスターX役は、ワインを題材としたロマコメ『サイドウェイ』(04年)で知られるポール・ジアマッティです。『サイドウェイ』の情けない中年男と全く正反対の、傲慢な投資銀行の幹部を、貫禄で演じています。演技派俳優の面目躍如、といったところでしょう。
そして、R&B界のディーバであるアリシア・キーズがアニーの親友役で出演しているのは、音楽ファンにはたまらないでしょう。
起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『私がクマにキレた理由(わけ)』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーは、大学で人類学を学んでその道にすすみたかったアニー(スカーレット・ヨハンソン)が、投資銀行のゴールドマン・サックスの面接を受けにいくシーンから始まります。女手一つで大学まで進ませてくれた母親からの、高い給料の職につけというアドバイスを、断りきれなかったためです。
しかしアニーには、投資銀行にすすみたいという目標がありませんでした。ゴールドマンでの面接で、「あなたのしたいことは何?」という質問に答えることができず、途中で帰ってきてしまうのです。大学を卒業したものの進路を決められずにいたアニーですが、偶然、セントラル・パークで5歳の子供のグレイヤーを助けます。そして、その母である資産家の奥様ミセスX(ローラ・リニー)に、ナニー(乳母、ベビーシッター)として雇われることになったのです。こうして、アニーのナニーとしての生活が始まったのでした…。
『私がクマにキレた理由(わけ)』を観て、起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点
まずは、親のアドバイスと、自分の進みたい道が異なるというジレンマは、就職活動に悩む日本の大学生も共感できるシーンでしょう。起業を目指されるのであれば、迷うことなく、ご自分の進みたい道を選ぶべきだと示唆してくれています。
全く子供の面倒をみないミセスXと、わがままし放題のグレイヤーに、アニーは翻弄されっぱなしになります。最初は切れてばかりだったのですが、幸せなふりをしているが実は不幸なお金持ちの事情を知り、次第に打ち解けていきます。両親にかまってもらえないグレイヤー、夫である投資銀行の幹部であるミスターX(ポール・ジアマッティ)に冷たくされるミセスX。二人とも、誰かに当たりたい事情があったのです。いやでも、ミスターX>ミセスX>グレイヤー>アニーというヒエラルキー(階級)を感じさせる構図となっています。
それにしてもミスターXは、これでもかというほどイヤな奴として描かれています。リーマン・ショックが起こり、投資銀行はキリスト教の7つの大罪の一つである「貪欲」と世間から強く批判されることになります。しかし、実はそれ以前から、投資銀行は嫌われていたことが理解できるでしょう。起業・スタートアップを目指す前にまずは投資銀行またはコンサルティング・ファームに入ろうと考えている学生の方は、この映画をみて進路について再考してみるのもいいかもしれません。
さらに、アメリカの階級社会を強く意識させられるのが、X家と一緒の高級コンドミニアムに住むハーヴァードとアニーとの出会いです。二人は初対面からお互いを意識していたのですが、アニーが親友のリネット(アリシア・キーズ)とでかけたバーで出会ったハーヴァードの友人は、彼女のナニーという職業を聞いたとたんに、からかいまくります。
ハーヴァードは名門ハーヴァード大学の卒業生という意味です。「学生時代は恋人になれても、社会人になったらニュージャージーのそこそこの大学卒業の私とは住む世界が全く違うのだから、諦めなくちゃ」というアニーの台詞があります。マンハッタン育ちの上流階級の息子でハーバード卒の男性と、ハドソン川を隔てたニュージャージー育ちの女性がつきあうことなど考えられないという意味です。日本が格差社会だといっている政治家の方に、見てもらいたい場面です。日本においても格差が広がりましたが、まだまだ平等だということが、ご理解いただけるでしょう。
最終的には見栄を張る人生などくだらないということに気づいたアニーも、ミセスXも、それぞれ本当に進むべき道にすすむという展開になります。将来の起業家・アントレプレナーのみなさんに、ご自分の人生の目標、仕事において進むべき道をまずは考えるべきなのだと、示唆してくれています。
起業を目標とする閲覧者の方はもちろん、進路に迷っている学生や社会人、そして豪華だが偽りの生活を続けているお金持ちの奥様、いやな奴になってしまっているかもしれない投資銀行の幹部の方にも、ぜひとも見ていただきたい映画です。
アメリカ自然史博物館などのニューヨークの名所も多く登場し、観光気分を味わえます。ナニー映画の元祖ともいえるジュリー・アンドリュース主演の大ヒット・ミュージカル「メアリー・ポピンズ」(64年)へのオマージュも、随所に登場しており、シニアや女性の方は、にやっとさせられます。コメディとしても楽しめ、スカレーットの魅力も満載で、階級社会、自分の進むべき道やライフスタイルについても考えさせられる、非常に上質の映画だといえるでしょう。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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