ビヨンドミート(Beyond Meat)で代替肉は世間に浸透するか?
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2023/5/23
最終更新日:2023/12/27
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。起業家、アントレプレナーや法人で新規事業開発の関係者の方などにビジネスのアイデアや発想のヒントにもなりお薦めです。今回は代替肉のトップランナーというべき存在であるビヨンドミート(Beyond Meat)について解説します。
ビヨンドミート(Beyond Meat)の資金調達の経緯
ビヨンドミート(Beyond Meat)は、以前に掲載されたインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)( https://attackers-school.com/introduction/impossiblefoods/ )と業態が似ているので執筆を控えてきたのですが、業界に動きがあったので紹介することにした次第です。植物性代替肉のメリットや特徴についてはそちらを参照ください。 植物由来の代替肉という点では、ビヨンドミート(Beyond Meat)は競合のインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)と同じです。違いは後者がHemeと呼ばれる大豆由来の加熱すると肉と似た味を出す分子を使用しているのに対し、各種の豆や米、ココナッツオイルなどをミックスしたものを使用していることです。 2021年時点で約80カ国の12万もの小売店で入手可能となっています。残念ながら日本にはまだ上陸していません。80カ国で入手できるビヨンドミート(Beyond Meat)の商品がG7メンバーである日本では販売されていないという事実は、非常に残念です。日本にはベジタリアンが少ないという理由もあるのでしょうが、やはり高価で新規性のある商品を試してみようという中間層が減少してきているのも原因ではないでしょうか? 12回のラウンドで約200億円を市場から調達しています。 当初は資金集めに苦労していましたが、2014年のシリーズDに続き、2015年のシリーズEで約20億円を集めました。 2016年には世界第2位の食肉業者であるTyson Foodsが5%の株式を取得し、注目されました(2019年には撤退)。 その後も2016年のシリーズF、それぞれ約70億円と約65億円を調達した2017年のシリーズGと2018年のシリーズHで軌道に乗ります。 2019年5月にナスダックに上場すると、最初の代替肉銘柄として注目されました。IPO当日の時価総額は過去20年で最高の約4,500億円となりました。ティッカーシンボルはBYNDです。 2021年6月には時価総額は約1兆2千億円を超えました。いかに将来が期待されていたかが、分かりますよね? 現在の株価についてはロイター( https://jp.reuters.com/companies/BYND.O )を御覧ください。
ビヨンドミート(Beyond Meat)の概要と沿革
ビヨンドミート(Beyond Meat)は、2009年にロサンゼルスで設立されました。 ミッションは、「人間の生き物への依存を減らす」というものです。その使命に共感したビル・ゲイツ、レオナルド・デカプリオ、スヌープ・ドッグなどの著名人が株主となっています。 インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)のCEOと異なり自分が研究者ではなかった創業者は、代替肉の専門家であるミズーリ大学の2人の教授と契約、その技術使用の認可を獲得しました。 2012年に最初の商品であるBeyond Chicken Stripsという俗称チキンフィンガーと呼ばれる指の形のフライドチキン代替商品をAmazon傘下のスーパーマーケットでローンチ、翌年には全国に拡大しました。 2014年にはBeyond Beef Crumbleという牛肉の代替商品、続いて豚肉代替品を発売します。 2015年にはBeyond Burgerというハンバーグ、ハンバーガー用のパテがリリースされ、人気となりました。将来の起業家であるみなさんには、やはり資金調達には優れた商品が必要なのだと上記の資金調達のタイミングから理解していただけることでしょう。 2018年にはミズーリ州のコロンビアに2つ目の工場、カリフォルニア州に研究所を開設しました。 その後上記のように資金調達も順調にすすみ、2019年に上場を果たしました。 同年にはダンキンドーナツがビヨンドミート(Beyond Meat)のソーセージを使用した朝食の、2021年にはマクドナルドに鶏肉の代替のパテ、中国では豚ひき肉の代替品の提供を開始しました。その後も米国ではタコスのチェーン店として知られるタコベルとの提携も発表され、ファーストフード業界に浸透していきました。 2020年にはペンシルベニア州にある工場を買収しました。欧州にもオランダに2ヶ所(1ヶ所は共同所有)の工場兼欧州・中東・アフリカ向けのロジスティックス施設を有しています。中国にも工場があり、2021年フル稼働を始めました。 しかし、2020年11月には新型コロナウイルスの影響でハンバーガー店など外食向け商品の成長率が前年の約40%から2%に落ちると発表、成長に陰りが見えました。その後はスーパーやコンビニなどにターゲットをシフトしました。 しかし、現在ではマクドナルドでのマック・プラント・バーガーやピザやタコスのトッピングとしてピザハットやタコベルにも導入されています。
ビヨンドミート(Beyond Meat)の商品
最初の製品であるChicken Stripsは冷凍で販売されていました。豆粉、セリアック病予防となるグルテンフリーの小麦粉、人参の繊維質などがフードプロセッサーにかけられ、蒸気や冷水、圧力により鶏肉のような質感になっていたそうです。しかし、本物の鶏肉には比べられないと酷評され、2019年には発売中止となっています。 ビヨンドミート(Beyond Meat)の代表的な商品としてまず挙げられるのは、Beyond Burgerと呼ばれるハンバーガー用のパテです。ジューシーな、本物の肉と大差がないといわれるそのパテは、スーパーなどで販売されています。 豆やお米のタンパク質、ココナッツや植物油、じゃがいもの炭水化物、ザクロの粉、健康食品としてもタブレットが販売されているひまわり由来のレシチンなど様々な材料からなっています。赤ビートのジュースが牛肉の赤い血を再現しています。タンパク質と脂質の割合は牛肉と同じに調整されています。 Beyond Sausageというポーク代替ソーセージも販売しています。ドイツのバイエルン風の白ソーセージ、辛いのと甘いのと2種類のイタリアンソーセージから選ぶことができます。 タコスやボロネーズソース、日本で言うところのミートソース、に使われる挽肉状の商品Bratsもあります。 アメリカでは特に子供に人気の挽肉を球状に固めたミートボールやマックの朝食でおなじみのソーセージパテ、ペプシコとの提携商品であるビーフジャーキーの代替品も用意されています。
ビヨンドミート(Beyond Meat)の将来性
糖質制限ダイエットでは、すぐにお腹が一杯になる炭水化物を摂らないのでしょせんお金持ちにしかできないのだという記事を何度も目にしましたが、植物代替肉についても同じことがいえるのでしょう。 2022年現在、インフレが理由で、大衆向けのターゲットやウォールマートなどの量販店の売上や利益が落ち込んでいます。家電など高価で利益率の高い商品が売れなくなっているためです。一方、米国の100円ショップにあたる$1ショップは人気を維持しています。 このように、インフレのおかげで生活防衛を始めた消費者にとって、まず切られる食物が、本物の肉ではなく高価な植物性代替肉というのは、十分理解できます。ビヨンドミート(Beyond Meat)の2022年の第2四半期決算は売上はほとんど伸びず、赤字でした。通期売上予想も20%ほど下方修正されました。( https://investors.beyondmeat.com/node/10271/pdf )。 将来性が高い分野としておすすめしてきた植物性代替肉銘柄ですが、インフレ収束が見えてくるまでは買いは待ったほうがよいかもしれません。
著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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