オープンドア・テクノロジーズ(Opendoor Technologies):ネットで家を手間なし売却!
シリコンバレーの注目企業紹介
掲載:2024/3/28
最終更新日:2024/03/28
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は不動産オンライン売買のプラットフォームを展開するオープンドア・テクノロジーズ(Opendoor Technologies)について解説します。
オープンドア・テクノロジーズの資金調達の経緯
オープンドア・テクノロジーズは自宅をオンラインで売買できるデジタル・プラットフォームの運営企業です。売り手がプラットフォーム上で設定した入札価格を買い手が受理すれば売買成立となります。自宅を不動産業者や買い手に見せることなく売買が簡単に成立するのが売り手のメリットであり、オープンドア・テクノロジーズは手数料を受け取ることができます。 しかし、実際のところは、以前ご紹介したジロー(Zillow)グループが撤退した自社での買い取り・販売が主力商品となっているようです。この点については後述します。
2014年に約10億円を調達し、スタートしました。2018年にソフトバンクから約400億円を調達し、軌道に乗ります。2019年には他のファンドから約300億円を調達、当時の時価総額は約4,500億円と評価されました。現在までの調達額は1,000億円を超えています。2020年に約5,500億円の評価額でSPAC企業と合併、同年12月にナスダックに上場を果たしました。
オープンドア・テクノロジーズの概要と沿革
オープンドア・テクノロジーズは、2014年にサンフランシスコで設立されました。創立者の一人は家の周囲の学校やスーパーなどの施設のデータを提供するMovityという企業を設立・売却したオンライン不動産業界出身者でした。もうひとりはペイパル共同設立者で、ペイパル創業者からの助言でこのビジネスのアイデアを得ました。起業を目指しているみなさんには、成功者からの助言は非常に重要だと理解していただきたいです。
ミッションは「インターネット上で簡単に不動産売買を成立させることで世の中の役に立つ」というものでした。最初の数年はあまり進展がありませんでしたが、2018年にソフトバンクから出資を得てから活動が活発化します。「石の上にも3年」といいますが、起業は最初の3年から5年が一番厳しいのだと覚えておいてください。
2019年にはアリゾナ州とテキサス州で住宅ローンサービスを開始します。これにより力を入れ始めていた自己購入物件の販売が容易になりました。他社が取り扱う不動産物件でも利用が可能なので、日本でいうと金融機関を想像していただければ分かりやすいのではないでしょうか。審査がオンライン上で簡単に早く行われ、手数料は約10万円と上限があったのが人気となります。
同年には自社で不動産事業を運営することを容易にするために不動産売買証書、資金などを提供する起業を買収します。2020年にはジローグループの競合であるレッドフィン社とパートナー契約を結び拠点を拡大しました。さらに、売り手と買い手がデジタルで自由に売買するのを簡単にするためのプラットフォーム提供も開始します。
2021年末には全米44ヶ所で運営、売上は約1兆円を達成しましたが、約1,000億円の赤字となっています。2022年8月には売り手への不当キャンペーンで約80億円の和解金を支払いました。売り手にオープン市場で売るよりも高く売れると騙したと認定されたからです。
オープンドア・テクノロジーズの商品と問題点
オープンドア・テクノロジーズの製品はウェブ上で売り手が価格をオファーし、買い手が受理すれば売買が成立するオンライン不動産プラットフォームです。通常の不動産業者同様に売買が成立すると手数料を受け取ることができます。しかし、現在の主力商品は自社購入した不動産そのものです。自社で購入した物件は修繕を行い、価格を上げてオファーするのです。
オープンドア・テクノロジーズの不動産購入価格は通常の不動産業社に売るよりも安く設定されていて利益率が高いのが特徴です。手数料も最低でも7.5%に設定されており、不動産業者のものより0.5%上回っているそうです。これは売り手にとってはデメリットです。
一方、物件を早く売れるというメリットがありました。売り手の手間は同社のウェブサイトに基本情報を入力、スマホで家の内部をオンライン閲覧用に撮影するだけです。すると、インスタントバイヤー(ibuyer)と呼ばれるAIを使用して24時間以内に売値をオファーしてくれます。この売値は地域の相場に加えて、売り手、地元の不動産業者からの情報をもとにしています。
修繕が必要ならばその分を差し引いて再度価格を提示してくれます。売値を売り手が了承すれば情報の正確さを審査した上で、入力後2週間で物件は売りに出されます。オープンドア・テクノロジーズに売却する場合は2週間後に即座に入金されるのです。
通常の不動産売買では、以下の手間がかかります。
1. 不動産業者と直接会って値段を交渉する
2. 指摘された箇所を自分で修繕する
3. 買い手と不動産業者とスケジュール調整をして家を閲覧してもらう
4. 買い手がOKしない場合は他の買い手に閲覧してもらう
5. 折り合わないと値段を下げる
6. ようやく価格交渉が終わったと思ったら買い手のローン審査が通らず、また同じ作業を続けることになる
7. ローン審査が通り、交渉がまとまっても面倒な書類手続きが待っている
こうした手間が省けるため、すぐにでも不動産を売りたいという層をターゲットにしていました。 この安く買って高く売るというビジネスモデルは当初はうまく行っていました。しかし、2020年の新型コロナウイルスの流行により在庫期間がそれまでの平均3ヶ月から長期化すると、社員の3分の1を解雇し、自社での不動産購入も中止しました。これは非常に正しい判断だったと言えるでしょう。
ところが、その後のFEDの歴史に例をみない金融緩和の中、自社での不動産購入を再開してしまいました。ここが、ジローグループとの違いでした。ジローグループは自社での不動産購入を現在も中止したままです。社運を左右する経営判断は自社だけで行わずに外部の専門家の知識を仰ぐなど、慎重に行うべきなのです。
オープンドア・テクノロジーズの将来性
上述のように同社は自社購入物件を多く抱えています。2022年から始まった利上げにより、物件保有コストは上昇していきます。また、不動産ローン借入審査も厳しくなり、毎月の支払い金利が7%を超えてきた現状では不動産購入を諦める人が増えて、需要も減少していくでしょう。需要が減り価格を下げざるをえなくなったのか、同社の自社物件の売値の平均が2022年9月に初めて買値平均を下回ったそうです。
2023年の不動産価格は2割マイナスとの予測もあるようです。 しかも同社は赤字企業であり、SPAC合併上場企業のためその財務状況も不透明です。2023年に利上げが止まったとしてもゼロ金利に戻ることなど中期的には考えられません。それまで会社が存続できるのでしょうか?
著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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