海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ロビンフッド(Robinhood)

掲載:2021/7/19

最終更新日:2021/07/19

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回はロビンフッド(Robinhood)について解説します。

ロビンフッド(Robinhood)の概要とミッション

ロビンフッド(Robinhood)は、アメリカではミレニアル世代に特に人気の投資用アプリです。iPhone、Android、Apple Watchに対応しています。SEC公認の証券ブローカーですが、いわゆるネット証券ですのでウェブサイトはありますが、対面店舗は存在しません。サンフランシスコ・ベイエリアのメンローパークに本社を構えています。

12世紀末の第3回十字軍にリチャード獅子心王が出征すると、王弟ジョンの圧政に耐えかねた義賊がシャーウッドの森に集まり、王に抵抗したという伝説があります。そのリーダーであり弓の名手であったイギリスの国民的ヒーローのロビン・フッドから名を取っています。ロゴにはロビンフッドのトレードマークである緑の羽が描かれています。アメリカではリーマンショック以降に格差が増大し2011年には、1%の金持ちが富を独占しているとし、格差の根絶を訴えたミレニアル世代がウォール街にデモ行進するという事件も起きました。彼等の心を捉えるため、民衆の味方である英雄の名前を社名としたわけです。

取引手数料が無料であり、ミニ株として例えば1株100万円の株式でも1ドル、約100円から投資できるのです。お金持ちしか参加できなかった株式取引を全ての人に開放したとして、ロビンフッド(Robinhood)は特にミレニアル世代に熱狂的に受け入れられました。特にアメリカでは新型コロナウイルスの流行以降毎週600ドル、毎月25万円ほどの多額の失業給付金が出たため、それを元に株式取引を始める方が急増したそうです。

株式などの投資の初心者であっても、ユーザーフレンドリーな画面で、1ドルから、いつでも、どこでも投資ができるのです!

ロビンフッド(Robinhood)の沿革とその商品とは?

ロビンフッド(Robinhood)は、上述のウォール街へのデモ行進に触発された2人のスタンフォード大学卒業生により2013年に設立されました。彼等はニューヨークのHFTのシステムを構築した経験があり、実はHFTの事情に通じていたのです。3億円の資金を調達し、株式取引用のiOSアプリの開発に着手しました。

日本同様にETRADEを筆頭にネット証券は存在しましたが、株式取引用のアプリはなく手数料も徴収されていたからです。通常は最低でも約5万円の資金と1回の取引の手数料に約500円が必要でしたが、最低資金を1万円にし、手数料を無料にするというアイデアでした。なぜ無料にできたかについては後述しますが、HFTとの関係があったからだと推察されます。

翌年さらに約13億円を獲得し、2015年3月に製品をローンチしました。当時の属性は平均年齢が26歳であり、彼等の読みどおりにミレニアル世代から支持を集めました。そして手数料が無料のためか、ユーザーの半分は毎日、90%は毎週という高頻度取引を行っていることも判明しました。

2017年4月には約110億円を調達し企業価値が約1,300億円となり、ビリオンダラーの価値があり未上場と定義されるユニコーン企業の仲間入りを果たしました。

2018年2月には口座数が300万となり、最大手のETRADEと並び注目されます。5月には約550億円を獲得し、市場価値は約6,000億円となりました。ブルームバーグによると、2019年にはさらに200億円を調達し、価値は7,000億円となったそうです。

2020年には最初の3ヶ月でユーザー数が300万人も増加し、5月には最大手VCであるセコイア・キャピタルのリードで約300億円を入手しました。さらに8月には追加で200億円を調達、市場価値は約9,000億円から一気に約1兆2千億に上昇しました。まさに新型コロナウイルスの中で最も成功したスタートアップと言えるでしょう。業界首位のETRADEと比べても市場価値はわずか10%下回るだけにまで成長を遂げました。取引額ではチャールズ・シュワブやETRADEを抜いたそうです。

ロビンフッド(Robinhood)の商品の特徴は、
1.アプリである
2. 手数料が無料
3. ミニ株として1ドルから投資可能
4. 資金が少なくてもポートフォリオが自由に構築できる
5. スマホにも対応しているのでいつでも、どこでも、1クリックで取引が可能
6. デザインがオシャレで使いやすい
ということです。

当初の取扱商品は株式とETFのみでした。2016年には約10万円を即座に入金できるシステムを導入しますが、それ以前は3日もかかっていました。この点ではミセスワタナベが活躍している日本のFX企業の方が進んでいたようです。

2016年には取扱商品に金が追加されました。500万円までの金購入プラン、詳細な市場分析も追加されました。月5ドルからの積立プランも用意されています。半年も経っていない2017年2月には3,000億円もの取引実績を上げました。

同年には友達紹介による株式のプレゼントサービスが開始されましたが、まさにミレニアル世代向けのマーケティング戦略だといえるでしょう。反面、投機という側面が強くなっており、ハイリスクな1セント株への投資が禁止されました。また、2019年には取引手数料無料プランに競合他社も追随、その存在感を見せつけることとなりました。みなさんにも、なぜミレニアル世代からの支持が大きいかをご理解いただけたでしょうか?

株式取引では端株を購入できる制度や積立方式、S&P500などの指数ではなく各株についてのオプション取引も導入されています。

2018年には電子通貨も購入できるようになりました。ビットコインとエチレウム取引をカリフォルニア、マサチューセッツ、ミズーリ、モンタナの4州で開始、ウィスコンシンとニューメキシコも追加されました。

金利が1.8%をうたった銀行事業にも参入を果たしています。

ロビンフッド(Robinhood)の特徴

ロビンフッド(Robinhood)の特徴としてまず挙げられるのが、そのユーザーのほとんどが株式の初心者だということです。2020年の最初の9ヶ月で800万人もが新規にアカウントをオープンしたわけですが、その多くがミレニアル世代で、投資経験が初めてというユーザーも多かったそうです。ブルームバークの英文記事にありますように、キャピタルゲインに税金がかかることも知らないレベルのようです。

それでは、そうした初心者は何を元に投資をするのだろうという疑問が、当然湧いてきます。ご存知のように、通常の投資家であれば各企業についてのアナリストの意見、PERなどの投資尺度などのファンダメンタルズ指標、チャート、板などのテクニカル指標を見て売りと買いのタイミングを測ることでしょう。また、短期の投機ではなく、中期の投資が主流でしょう。

それに対して、ロビンフッダーが頼るのはSNS上での噂です。1月末のゲームストップ株の急騰のニュースで目にした方もいると思いますが、かつての「2チャンネル」のような、オンライン掲示板「レディット」上で運営されている投資に関するフォーラムの「ウォールストリートベッツ」上でのコメントです。「ウォールストリートベッツ」についてはウォールストリート・ジャーナルの記事を参照ください。

論理ではなく、SNSでこの株がいいと聞くと買いに走ります。まさに「上がるから買う、買うから上がる」という熱狂を作り上げ、株式市場を動かすほどにまでなりました。上述のブルームバーグの記事によると、個人投資家は株式市場全体の5分の1を占めるまでになったそうです。彼等は「ロビンフッダー」と呼ばれ、市場からも無視できない存在となったのです。10年ほど前に日本のFX市場で、個人投資家が論理を無視して取引するがその存在が無視できなくなり海外のトレーダーから「ミセスワタナベ」と呼ばれるようになったのと、よく似ています。2020年3月から2021年1月にかけてビットコインの価値が10倍になったのも、彼等の存在があってこそだと言われています。

そして、遂にロビンフッダーが宿敵である人口の1%に過ぎないが富のほとんどを握るウォール街のヘッジファンドを打ち負かしたという事件が起きました。日経の記事にあるようにゲームストップという銘柄に空売りをしかけていたヘッジファンドに対してSNSで呼びかけて現在の値段よりも遥かに高いので非常に安い価格のコールオプションを買いまくったのです。これに対してヘッジファンドはリスクヘッジのために現物株を購入するのがセオリーとなります。こうして株価は上昇し、さらに買いが買いを呼び急騰したところで、「ウォールストリートベッツ」のリーダーの呼びかけで一気にコールオプションを売却し、ロビンフッダーは大儲けしたのに対し、その後の株価の急落でプロであるヘッジファンドは大損をしたのです。

まさにこの「ウォールストリートベッツ」のフォーラムのリーダーがロビンフッドであり、その仲間と共にジョン王の軍隊を撃退した映画のシーンが思い出されました。実際、上記のブルームバーグの記事にあるように、ロビンフッダーは2020年の株式相場の上昇で大きなキャピタルゲインを得ているようです。記事内には19歳の青年が50万円儲かったのだが税金を払うべきか迷っているという内容でした。

実はいろいろと弊害があるのですが、このように、ロビンフッド(Robinhood)が全ての国民に株式市場への門戸を開いたことは事実でしょう。株式などの投資を民主化する、全ての人には投資市場にアクセスする権利があるというロビンフッド(Robinhood)のミッションが、ミレニアル世代や低所得層の心に刺さったのはうなずけますよね?

ロビンフッド(Robinhood)の問題点とは?

このように最も成功しているユニコーンとなったロビンフッド(Robinhood)ですが、実はいろいろな問題を抱えています。

まず挙げられるのが、上述のユーザーのほとんどが投資初心者ということです。2020年3月時点では新規顧客のおよそ半分は投資未経験者だったとのことです。同社によると、ユーザーの投資から得られる手数料収入は、第2四半期は、第1四半期の倍となったようです。将来に不安を抱えるこの世代は投資に興味があったのが、ロビンフッドの登場で投資を開始し、新型コロナウイルスの流行を契機に、取引回数が激増しました。「ロビンフッダー」は、市場に多くの悪影響を与えています。

上述のようにSNSによる噂のみで売買を行うので、ロビンフッダーが購入する銘柄が理論値とかけ離れたぐらいに高騰することが起きています。2020年にはテスラ株が6倍になったことはみなさんもご存知でしょうが、これもロビンフッダーのおかげだと言われています。株価が4倍以上になった株は2020年には50にも達するそうで、前年比4倍となっています。13歳の少年が、株式投資で資産が4倍になったので自分は投資のプロだとある仕事に応募してきたのでびっくりしたとのことですが、彼ももちろんロビンフッダーでしょう。ロイターの記事によると、上記のゲームストップ株は1月12日では19ドルだったのが2週間後のオプションを買いまくった事件後の26日には147.98ドルと7倍となったそうです。あまりに異常な動きで、これと比べると1年で7倍となったテスラ株などは可愛いものです。

取引は短期売買中心の投機となっていて、投資と言えない状況です。1年から数年保有するどころか、上記のゲームストップ株の例にあるようにデイトレーダーまで出現しているほど、異常な状態です。10年前の日本のFX市場と似たような状況となっているようです。米国株式市場が金余りで上昇をし続け、英語でいうfroth、日本語での小さな泡と言われる状況となってしまったのも、彼等が原因だという記事をよく目にするようになってきました。

次に挙げられるのが、ロビンフッド(Robinhood)は実は民衆の味方ではなく、権力の使い走りだったということでしょう。ロビンフッド(Robinhood)の収益の大半はHTFからのコミッションです。ユーザーである個人投資家の発注情報をHTFに提供することで、HTFが高速回線を使用しそれと反対の売買を行い利ざやを稼ぐのに協力していたわけです。僅か数セント、数円とはいえ、ユーザーは不利な条件で取引をすることになっていたわけで、SECから問題視されています。ユーザーはわずかな金額なので気にしていないし、FX業者が手数料ではなくスプレッドで稼いでいるのと同じなので、個人的にはやはり民衆の味方だと思っているのですが

第3の問題点は、素人のユーザーが高度な金融知識が必要なオプション取引に手を出していることです。フォーブスによると、2020年の4月~6月の取引額は約180億円と1月~3月の90億円の倍となりました。そのうちハイリスクなオプション取引が110億円と半分以上を占めているとのことです。上述のヘッジファンドを破ったのは優秀なリーダーがいて集団で行動したからであり、例外なのかもしれません。

さらに大型株であるS&P500構成銘柄の取引は8億円に過ぎず、61億円はラッセル2,000の構成銘柄のような小型株だということです。新型コロナウイルス流行後は、カジノが閉鎖していけなくなったギャンブル好きなユーザーも増えたとのことで、もはや彼等の取引はギャンブルといっても差し支えないでしょう。株式のショート(売り)のための貸株も行っているそうです。いわゆるハイリスク・ハイリターンの信用取引を推奨しているということです。

こうした中、2020年6月に起こるべくして起きたのが、オプション取引で約7,500億円を損したと勘違いをしたユーザーが自殺したという事件です。この事件の後、ロビンフッド(Robinhood)はユーザー保護が不十分だと大きな批判にさらされています。SECは上場を許可しないと発表したそうです。その後新機能を追加し、オプション取引のハードルが上がったそうです。財務状況も公開していないそうです。しかし、ゴールドマン・サックスが主幹事で2021年にはナスダック市場にIPOをしました。初日終値での時価総額は約3兆2000億円となり、21年の大きな案件の一つとなりました。

このように清濁併せ持った企業ですが、ミレニアル世代の資産増加に大きく貢献したことは事実です。それに、投資はあくまでも自己責任です。日本でもSBI証券が2020年10月から手数料無料を開始するなど、影響を与えたようです。日本にも同様なサービスな会社が現れることを期待したいですね。

「レディット」については投機を煽るものとして筆者は批判的な立場にありますので、ここでの紹介は控えさせていただきます。事実、ゲームストップ株はその後483ドルから51ドルに急落しました。周囲のみなさんが大儲けをしているといっても今から入るのが高値のババつかみとなりかねませんので、お気をつけください。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

ご相談・お申込み