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アップサイド・フーズ(Upside Foods):本物の肉と同じ味!?期待される培養肉事業はコストとの闘い

シリコンバレーの注目企業紹介

掲載:2024/4/17

最終更新日:2024/04/17

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのシリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回はFDA認可を得て牛肉ミートボール・鶏肉・鴨肉などの培養肉事業を展開するアップサイド・フーズ(Upside Foods)について解説します。

アップサイド・フーズの資金調達の経緯

アップサイド・フーズは、米国で医薬品や食品の安全を扱うFDAの認可を初めて獲得した培養肉企業です。農務省の審査を通過すると製品が販売されることになります。

2015年にプレシードで約3,500万円、2016年には約6億円を集めました。2017年にはビル・ゲイツ、ヴァージン創立者のリチャード・ブランソン、イーロン・マスクの弟など起業を目指す人の間では知らぬ人はいない著名起業家を含むシリーズAで約24億円を調達、一気に注目を集めました。スカイプ、テスラ、バイドゥなどを過去に支援してきた実績のあるVCが主導しました。

2020年にソフトバンクなど主導のシリーズBで約250億円を集めた際には、世界第2位の食品製造業者タイソン・フーズや精肉も手がける穀物メジャーのカーギルなどの事業会社も参加しました。この時点で資金における不安点は解消されたといってもよいでしょう。

2022年には中東のアブダビファンドなどからシリーズCで約560億円を調達、現時点で総額約850億円です。上場はまだですが、実際に製品が販売されてからになりそうです。

アップサイド・フーズの沿革と概要

アップサイド・フーズは、2015年にサンフランシスコ北部のバークレイでメンフィス・ミーツとして創業されました。ミネソタ大学の心臓内科医を含む3人の科学者が設立メンバーです。現在もバイオや製薬出身者による研究所で研究が続けられています。

研究所で生きた動物の細胞を培養して人工肉とするというのは、まるでSFの世界ですよね。しかし、これと似た発想の技術はみなさんご存知の再生医療です!幹細胞を使用して筋肉細胞を生成、バイオリアクターで大量に成長させるという原理のようです。

ただし、あくまでも、筋肉細胞を造成して肉を生成するだけです。例えば内臓はそれぞれに機能があり、非常に複雑な組織です。腎臓や肝臓などが生成されるようになり、人間に転用されるとカズオ・イシグロの「私を離さないで」に描かれている世界が実現されるわけですが、それはまだまだ先の話です。もちろん、鶏や牛などが再生されるわけではありません。

成分は本来の動物の細胞を元にしているので過去に紹介したインポッシブル・フーズなどの植物由来肉とは異なり、本物の肉と同じ味がします。現在の主力製品は鶏肉ですが同社によると、何十万羽の鶏のかわりにたった1羽の鶏肉から造成でき、無駄な殺生をしないで済みます。鳥インフルエンザなどの疫病リスクもありません。将来の食糧問題の解決につながります。必要な水は77%少なく、土地も3分の1で済むので環境に優しいそうです。環境保護団体や動物愛護団体からの支援は得ることができそうですね。

2015年の設立当初から安全と品質の保証というFDAの認可を取るためにレギュレーション獲得活動を開始していたそうです。食品企業ではありますが、製薬や医療機器と同じ発想です。認可獲得のため、2018年には北米肉協会と提携しました。商品としては、2016年には培養牛肉ミートボール、2017年には培養鶏肉と鴨肉の製造を発表しました。

2020年に調達した資金で従来の研究施設に加え、製造施設建設を発表しま。2021年にはアップサイド・フーズに社名を変更、上述のようにFDAから培養肉販売許可を獲得しました。農務省からの認可を得ているそうです。2022年には年間23トンを製造できる工場がカリフォルニア州に完成しました。

アップサイド・フーズの商品と課題

アップサイド・フーズの商品は鶏肉、牛肉ミートボール、鴨肉です。現在ではチキンホットドッグ、チキンナゲットのような鶏肉が主力です。健康志向により米国で最も消費される肉が鶏肉となったからのようです。鶏や卵から細胞を取り出し、最もふさわしい細胞を選び、アミノ酸やビタミン、タンパク質などを含んだ環境で培養、正しい温度と酸素レベルで増殖させ、その後抽出するという製造過程です。

問題は、環境保護や動物愛護者以外の消費者は本来の肉よりも安くないと買わないわけですが、現在の製造コストが高すぎるということです。当初の目標は60ユーロ/キログラム、日本人にわかりやすく表現すると、約850円/100グラムの人造肉を2020年までに完成させ、市場参入するというものでした。しかし、実際の生産コストは牛肉は約56万円/100グラム、鶏肉は約28万円/100グラムでした。2017年には約7.5万円/100グラムまでは下がりましたが、目標には程遠く、発売は延期となりました。オランダやイスラエルの競合は牛胎児血清の除去などで100分の1近いコスト削減を達成したようなので、夢ではないでしょう。ただし、実現にはまだ時間がかかるようです。

そして、困難な局面を迎えそうです。2022年に10年以上も続いた低金利時代が終わりを告げたからです。米国の金利が上昇し、来年後半の利下げの意見は下火となり、5%ほどで高止まりしそうです。前年までのゼロ金利時代とは異なり、負債の大きな企業には利払いは打撃となります。

また、資金調達も困難となります。日本でさえ某大手企業の社債の金利が10%を超えたことが話題となりましたが、高い金利をつけても資金が集まるとも限りません。破綻する新興企業も出てくることでしょう。

将来は実現されるがまだ10年は先の技術であると言われる自動運転。以前紹介したこの分野のドリームチームで構成されたオーロラロイターのニュースによるとアップルまたはマイクロソフトに売却するのも選択肢の一つだとCEOが語ったようです。新興企業を取り巻く状況は厳しくなってきています。

培養肉は、環境にも優しく、動物愛護にも繋がり、食糧問題も解決するなどいいことだらけです。コスト削減と資金枯渇のどちらが先かという時間との戦いとなりそうです。いちばん重要なのはタイミング、つまり運だということです。毎日善行を尽くして、運を獲得することが成功への秘訣と言えるかもしれません。

 

著者:松田遼司 株式会社ウェブリーブル代表。 東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。 FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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