海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ウェイモ(Waymo)

掲載:2020/9/30

最終更新日:2020/09/30

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回はアルファベットの自動運転分野の子会社であるウェイモ(Waymo)について、将来の起業家・投資家であるシニア・女性・ミレニアル世代のみなさんと共に見ていきましょう。

自動運転とセルフドライビングカーとは?

最近になり自動運転についてのニュースを、日本でもようやく見かけるようになってきたと、感じています。自動運転とはそのままズバリ、人間が運転しなくても自動走行する技術のことで、自動運転で走る車自体は米国ではセルフドライビング・カーやロボット・カーと呼ばれています。

筆者が初めてシリコンバレーでロボットカーを見かけたのは、2013年だったと記憶しています。仕事も終わり、シリコンバレーのレストランに向かっている時に、SRIべンチャー社長である友人から、「ほら、見てみなよ、あの屋根に黄色い回転灯を回しながら走っている車がグーグルのセルフドライビングカーだよ」と教えられたのですが、なんのことだか分からずに説明を求めたのが思い出されました。

もちろん助手席に人間が乗っているのですがあくまでも補助であり、自動運転されている、公道を走ることで様々な運転時のパターンを覚えこんでいるという説明だったのですが、全くどういう仕組みになっているのかが見当もつきませんでした。

日本に戻ってきて興奮しながら車好きの某一流大学のある分野の理系の教授である友人にこのセルフドライビング・カーの話をしたところ、そんな事は不可能だと一刀両断にされてしまいましたが…。

あれから7年経ちましたが、日本では公道での自動運転車など見かけることもありません。他分野においても、例えばロボットによる腹腔鏡手術が盛んに行われている米国に対してまずは体験できない日本を比較すると、日本はウォークマンを生み出した頃のような世界最先端の国ではもはや無くなってきているのではとの危惧を覚えてしまいます。

自動運転車の定義と歴史

ここでまず、自動運転車の定義と歴史について振り返っておきましょう。

自動運転車は人間が操作をしなくても自動走行してくれる車のことで、前車との間隔を測るレーダー検知技術や超音波センサー、前方や周囲の環境を認識するカメラ、行く先を指定すればナビゲートしてくれるGPSやグーグルマップ、走行した道路の特徴を収集し、解析していくAIのような様々な技術を搭載しています。

ここで紹介する自動運転車は、あくまでも公道を走るみなさんの目に触れるものを指しています。しかし、建設現場等危険が回避できる場所においては、すでに実用化されています。また、磁気装置を地面に埋め込みそのレールの上を走る自動運転車としてはゴルフ場でのカートがあり、ゴルファーのみなさまにはお馴染みでしょう。

自動運転車は1980年台から研究開発が進められており、レーダーにより前車との間隔を自動で判断する技術を日産が開発などのニュースは、日本でも流れていました。しかし、それはあくまでも衝突回避、事故防止の安全対策に重きを置いたものであり、自動運転車なんて、SF小説や映画、漫画に登場するものという認識が日本では主流だったといえるでしょう。

しかしSRIインターナショナルの紹介の記事に登場したダーパ(DARPA、アメリカ国防高等研究計画局、手術用ロボット「da Vinci」のプロトタイプをイラク戦争のために開発)が2004年からDARPAグランド・チャレンジと呼ばれるロボットカー・レースを企画、現在まで5回実施されています。

この自動運転プロジェクトをダーパ(DARPA)が企画したのも、戦場において遠隔操作で兵士をロボットが手術するために開発されたダヴィンチ(da Vinci)同様に、地雷や砲撃から兵士を守るために自動走行する戦闘車両のニーズがあったためとのことです。戦争により科学文明が進歩するという歴史は、人類に未だに引き継がれているようです。

そして、2007年の第3回の大会では市街地を想定したコースが設定され「アーバンチャレンジ」という名称で呼ばれるようになり、注目を集めました。この大会には当時のグーグルのCEOで創業者であるペイジ氏も訪れ、グーグルが自動運転技術に参入していくきかっけとなったようです。

公道での走行実験も米国では2011年にグーグル(後述のWaymo)の車両に自動運転車として初めてのナンバープレートが付与、2012年からカリフォルニア州とフロリダ州の公道で開始されました。そのため、筆者がグーグルカーを2013年に目撃した際には、シリコンバレーの住民の間ではその存在はよく知られるものとなっていたわけです。

そして、グーグルの参入により既存の自動車会社も、その開発に力を入れるようになります。例えばBMWは、渋滞時の自動運転システムをすでに日本仕様の車両にも2019年夏以降のモデルに搭載しているようです。

しかし、2016年には電気自動車では世界一のシェアを誇るテスラの運転支援機能を搭載したテスト・カーが米国フロリダ州で大型トラックと衝突、運転手が死亡した事故が起きてしまい、自動運転車に対する危惧が囁かれました。この記事は日本でも報道されていたので、起業・スタートアップを目指す閲覧者であれば覚えていらっしゃる方もおられると思います。

日本における自動運転の状況と自動車産業への影響

日本では2019年12月1日施行の道路交通法の改正により、全日本交通安全協会のサイトの7番目の項目ありますように、遅ればせながら2020年5月23日までにはレベル3での自動運転が可能となります。

日本のマスコミはこの道路改正法の改定については、1番上のあおり運転ついてや、5番目に掲載されているスマホを持っただけで3点、使用では6点の交通違反点数が課され後者では一発免停となる、というニュースばかりを取り上げています

実際に警察による取締強化が都内では行われており、運転していても交差点を曲がれば死角に警察官の方がこの寒さにも関わらず立っており、スマホの摘発にあたっておられる姿をおみかけしました。しかし、この自動運転のニュースを取り上げるマスコミがほとんどないのも寂しい限りです。

これでは、日本がガラパゴス化していくのも、仕方がないことなのかもしれません。起業家・アントレプレナーとなられるみなさんにはCNNやBBCで海外のニュースを積極的に取り入れることをおすすめ致します。

話が逸れましたが、この自動運転化に乗り遅れてしまうことは日本経済の存亡に関わる、といっても過言ではないでしょう。日本経済新聞の特集記事にもありますように、自動車産業は日本の製造業における基幹産業に位置づけられており、就業人口では日本の製造業全体の8%、出荷額では18%を占めています

かつて自動車産業と並ぶ基幹産業であった電機業界が韓国や中国に追い抜かれ、日立、東芝、NEC、富士通、パナソニックといった日本を代表する大企業がリストラに追い込まれ、終身雇用が崩壊したのはみなさんもご存知のとおりです。この上自動車産業がグーグルなどの海外企業に追い越されてしまったらどうなってしまうのでしょうか?想像もしたくないですよね。

自動車業界におけるCASE(Connectedコネクテッド、Autonomous自動運転、Sharedシェアリング、Electric電動化)という新領域においては、電動化ではハイブリッドも含めれば、日本の各社は世界をリードしていました。しかし、高級車分野では2003年にシリコンバレーに登場したテスラの台頭を許してしまいました。

また、コネクテッドの分野ではIoT(Internet of Things)がキーとなるのでIT企業との提携は欠かせません。グーグルが得意とするAIが、ここでも活きてくるわけです。

そして、Uber(ウーバー)やLift、東南アジアで人気のGrabなどに代表されるライドシェアは日本では認可されていないのは、ご存知のとおりです東京ではハイヤー車両によるタクシーの値段の1.2倍から1.5倍のBlack Uberが実は存在、タクシー車両によるサービスも2020年に一応は開始されています)。

こうした状況下でようやく政府も動き、上記のようにレベル3での自動運転が可能となりました。それに合わせるように、時事通信のニュースに記載されているように、2020年夏にはホンダが自動運転レベル3を搭載する車種を発売することになったようです。ぜひとも、頑張っていただきたいものです。

自動運転におけるレベルとは?

ここでレベル3って何?と閲覧者の方も思われているでしょうから、自動運転におけるレベルについて見ていきましょう。

自動運転は、搭載する技術により0~5に分けられています。下記が概略となります。

レベル0: 自動運転無し(ドライバーが全ての運転操作を行う)
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)や後方死角検知などの運転とは関係のないサポートのみを実行

レベル1: 運転支援(ステアリング操作や加速・減速をサポートする)
車線逸脱補正やACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)などでの一定の車間距離維持

レベル2: 部分自動運転(ステアリング操作と加速・減速の両方をサポート)
前回紹介したBMWや日産がミニバン「セレナ」で2019年夏に発売している、渋滞時の自動追従支援

レベル3: 特定の場所での全ての運転操作の実施(緊急時はドライバーが操作)
前回紹介したアルファベットが2012年から実験している技術
緊急時や不調時には運転交代。助手席にドライバーが乗ることが必須

レベル4: 特定の場所でのすべての運転操作の自動化(緊急時も含む)
ドライバーの運転操作は不要

レベル5: あらゆる状況における運転操作の自動化(完全自動化)
SF映画などにでてくる自動運転車

そして、フォードやボルボは2021年にはレベル4に当たる完全自動運転車を発売するとしています。個人的には、レベル3でも難しいのに、レベル4など可能なのだろうかと疑問なのですが…。

ガソリン車からハイブリッド車や電気自動車への転換が日本では話題になっているわけですが、このように、業界では自動運転に一気に焦点が合わせられてきていることがご理解いただけたと思います。

自動運転における提携関係

また、自動運転においては業界を超えた提携関係が結ばれ、覇権争いが始まっています。

まず、トヨタはソフトバンクと2018年にモネ・テクノロジーという会社を設立していますが、実態がよく理解できていませんでした。しかし、ソフトバンクが出資したグーグルの元社員が起業したニューロが、自動運転によるピザ宅配事業を開始するとのニュースがワイヤードで発信されているのを見つけました。こういうことだったのか、と思えるニュースでした。両社はUber Eatsで日本でも知られるようになってきたウーバーにも出資しており、自動運転分野においても手を組むのではと見られています。

世界最大の自動車会社でトヨタのライバルであるフォルクスワーゲンは、インテル傘下のモービルアイと自動運転に関する提携関係を結んでいます。そしてBMWもモービルアイと提携関係にありますが、これにメルセデス・ベンツを傘下に持つダイムラーも参加しています。

そしてホンダはGMと組んでいます。

グーグル傘下のウェイモ(Waymo)は、フィアット・クライスラー、さらにはジャガー・ランドローバーと提携をしています。

これでみなさんにも、自動運転を巡る状況について、ご理解いただけたと思います。

アルファベットの起業の前提条件とウェイモ(Waymo)設立の経緯

アルファベットが自動運転技術に興味をもったのは、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)主催のロボットカーレースにおいて初めて市街地を想定したコースが設定された2007年の第3回目の大会に、当時のグーグルCEOペイジ氏が訪れたことがきっかけです。

そして2009年に、お使いの方もいらっしゃるであろう、グーグルのストリート・ビューの開発者、ハーバードと並ぶ名門スタンフォード大学のAI研究所出身のエンジニア、上述のDARPAグランドチャレンジ出身者などからなるエンジニアにより、自動運転プロジェクトが開始されました。

ロボット手術企業バーブ・サージカル(Verb Surgical)設立時には画像診断分野で長い経験を持つCEO、ダヴィンチ(da Vinci)を開発したSRIインターナショナルのロボット部門のNo.2といえるトップエンジニア、ジョンソン&ジョンソン医療機器子会社のエチコン(Ethicon)のエンジニア、グーグルのAI(ディープラーニング)エンジニアからなるチームが形成されました。

このようにアルファベットは、参入する分野のトップクラスの人材をまず集めてから、プロジェクトをスタートすることを前提条件としているようです。起業・スタートアップを目指すシニアや女性などのみなさんも、是非見習っていただきたいと思います。

自動運転におけるディープラーニングの重要性

それではここで、ディープラーニングについて触れていきましょう。ディープラーニングという言葉は、AIについての文献を読んでいると目にすることが必ずあると思われます。

ディープラーニングは、日本語では深層学習と訳されます。人間の行動をコンピュータに理解させる機械学習ですが、人間の神経細胞を模したシステムがベースとなっています。

自動運転においては認識が重要であり、人間が運転の際に認識している標識、車間距離、横断歩道や小道からの歩行者や自転車、右側車線が渋滞していた場合にはその車線からの車の飛び出しなどの運転する際に予想される様々な危険回避事例をAIに学習させるわけです。

こうした運転時のデータを多量に蓄積し(ビッグデータ化)、その特徴を深く学習することで、運転における人間の認識精度を超えることを目指しているわけです。

夢物語と思われる方もいるかもしれませんが、囲碁やチェスの世界チャンピオンをコンピュータが破っている事実を考えると十分可能と思われる方もいらっしゃるでしょう。未来の起業家・アントレプレナーであるみなさんはどちらでしょうか?

このように、アルファベットは、AIによるディープラーニング技術で自動運転認識精度を高めることを目標としていますので、自動運転車を開発してもデータ収集のために公道を走れなくては意味がありません。そこで、公道での自動運転車の試験走行が必要だという結論になるわけです。

ウェイモ(Waymo)の公道での自動運転実験の推移

そのため、アルファベットは公道での自動運転車の走行実験を認めてもらうために、ロビー活動を開始します。まず選ばれたのは、ネバダ州でした。砂漠地帯で鉱業以外の産業がほとんどなく、ラスベガスに象徴されるカジノを公認することで生きながらえているためです。2011年には、同州で、自動運転の実験走行が可能となる法律が可決されました(2012年施行)。そして、2012年にはフロリダ州とカリフォルニア州でも実験走行が認められました

2011年には自動運転車として初めてのナンバープレートが付与され、2012年から上記3州の公道で走行が開始されました。

そして2018年には実験走行距離は800万キロメートルにも達し、アリゾナ州の州都であるフェニックスで、限定地域のみですが、自動運転での配車サービス(Uberのような日本でいうところの白タク)の運用が開始されるまでにその技術は発展を遂げました。しかし、助手席に人間が同乗しているレベル3でのサービスとなっています。

上述のように、全世界に先駆けて公道での自動走行実験を行ってきた世界最高レベルのウェイモ(Waymo)でさえまだレベル3の段階ということであり、完全自動のレベル4までの道のりはまだ遠いのではと思うのですが。

ウェイモ(Waymo)のロボットカーとは

ウェイモ(Waymo)のロボットカーには、グーグル・ショーファー(ショーファーはお抱え運転手という意味)というAIソフトウェアが搭載され、自動運転に必要なデータを収集・解析し、運転操作命令が出されます。人間の脳と似た機能と考えていただければ分かりやすいでしょうか?

レーザーカメラやセンサー、レーダーを搭載して周辺車両や歩行者を含めた障害物、信号や標識や車線を識別し、車両周辺の詳細な3Dマップを作成、こうした収集情報をグーグルマップと照合しながらAIが解析し、自動でハンドル、アクセル、ブレーキを制御するわけです。

最も重要な事故予測能力に関しては、2012年からの公道実験で蓄積された情報をいわゆるビッグデータ化することで、人間や車両の次の行動を予測することを目指しているそうです。

さらに、公道での予測できない歩行者や自転車の飛び出し、センサーの性能を鈍化させる予期できない悪天候などをビッグデータ化するためには、VRやAR技術を用いて仮想世界での自動走行でデータを収集しています。

また、公道での今までの自動走行実験での成果、アルファベットの概要で触れたディープ・マインドというAI子会社の専門知識を活用できる事などを考慮すると、ウェイモ(Waymo)とアルファベットがこの分野で世界の最先端であることは間違いがないでしょう。

しかし、グーグルマップという地図に頼っているため、地図への依存度が高く、地図が変更になると精度が下がることになります。そのため、走行可能地域は限定されていることとなります。

このように、まだまだレベル3という自動運転ですが、レベル4もすでに視野に入ってきているのかもしれません。そして、こうした世界最先端分野におけるニッチな領域での起業・スタートアップこそ、みなさんが目指すことなのかもしれません。アルファベットのような大企業が買収をしてくれたり、いつのまにかユニコーン企業になっている可能性もあるでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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