海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
バーブ・サージカル(Verb Surgical)

シニア・女性・学生の起業でも注目のスタートアップ

掲載:2020/8/12

最終更新日:2020/08/12

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールの、投資・副業・起業を目指すミレニアル世代・シニア・女性等への起業のアイデアとなる、シリコンバレー等の注目企業紹介のコラム。今回は、SRI Venturesがスピンアウトさせた代表的な企業であるVerb Surgicalについて見ていきましょう。

SRI Venturesがスピンアウトした代表的な企業Verb Surgicalの設立母体と目標とは?

Verb Surgicalは以前に紹介したIntuitive Surgical社のda Vinciに対抗するために設立された企業です。

みなさんもご存知のグーグル。その親会社であるアルファベットのライフサイエンス部門の子会社であるVerilyと、バンドエイドで一般には知られていますが実は世界最大の医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の手術用器具の子会社であるエチコン。この2つの大企業が、共同で設立した手術用ロボット企業です。

SRI Internationalのスピンアウト企業にはカウントされていませんが、SRIからロボット技術のライセンス付与を受け、CTOにはそのロボット部門出身のパブロ・ガルシア氏が就任しています。こうした事実から、SRI Internationalが深く関与していることが、みなさんにもご理解頂けるでしょう。

アルファベットは日本ではグーグルとして、検索エンジンやグーグルマップ、アンドロイド携帯などで知られています。しかし、実はアルファベット本体は、自動運転やヘルスケア、AI、ドローン宅配など、様々な分野に取り組んでいます。このアルファベットについてはSRI Internationalの代表的なスピンアウト企業の紹介の終了後に、詳しく解説していきます。世の中の役に立つゲームチェンジャーとなれる分野に注力している点が特徴です。

一方のJ&Jは、腹腔鏡手術においては世界一の企業ですが、今後成長が見込めるロボット腹腔鏡手術領域に置いては、Intuitive Surgicalの独占を許してしまいました。

そこで、腹腔鏡手術の技術を持つJ&Jと、ゲームチェンジャーであるロボット手術領域に進出を欲し資金力も豊富なアルファベットの利害が一致し、Intuitive Surgicalをスピンアウトしたロボット手術技術と人材を持つSRI Internationalの協力を得て、2015年にVerb surgicalが設立されたわけです。

前回解説してきたSRI Venturesの手法が生かされてVerb Surgicalが創設されたことが、起業を目指すみなさんには、お分かり頂けたと思います。知財、技術、人材、資金と、会社設立前に全てが用意されていたわけです。

日本ではほとんど話題になっていないようですが、J&Jというヘルスケア業界でのビッグネームと、誰もが知っているグーグルの親会社であるアルファベットの合弁会社であるVerb Surgicalのスタートアップが、現地シリコンバレーで話題となったのは当然といえるでしょう!

Verb Surgicalの概要と今後について

Verb Surgical社は、シリコンバレーに位置するカリフォルニア州マウンテン・ビューを本拠地とし、300名の従業員を雇用しています。最初のデモ手術も成功させています。

Intuitive Surgicalのライバルになると期待されているVerb Surgicalですが、臨床試験に時間がかかっているためなのか、まだ製品がローンチしておらず、2018年末には設立時のCEOが辞任しました。

しかし、2019年7月、Verb Surgicalは、元Surgiquest社のファウンダーでCEOだったカート・アザーバージン氏の社長兼CEO就任を発表しました。

Surgiquest社はロボット手術に適した独自のトロカール(腹腔鏡手術に必要な腹腔鏡やハサミ、ステープラーなどを通し、腹部に溜まったガスも逃がすための挿入具、入り口)で注目された企業で、その売上の殆どはIntuitive Surgical社からのものでした。

前職でSRI Internationalと筆者が選んだ買収候補に入っていたため、コネティカット州のSurgiquest社のオフィスに、カートを訪ねたことがありました。

Surgiquest社のトロカールに実際に触れ、その他のトロカールと大きく差別化している事実を認識し、上層部に買収するべきだと訴えたのですが、残念ながら却下されてしまいました。その1年後には、J&Jの競合であるConMed社に買収されてしまいました。

カートは技術者というより、非常に優秀なビジネスマンという印象でした。喋り方はソフトなのですが、タフ・ニゴシエーターでした。さらに、重要顧客であったIntuitive Surgicalda Vinciについて精通していました。

前CEOはフィリップスに買収されたカテーテル治療に使う血管内超音波検査装置のVolcano社のCEOだった人物であり、同じ医療機器ではありますがその専門は診断分野であり、手術分野ではありませんでした。

Intuitive Surgicalda Vinciを知り尽くし、優秀なビジネスマンであるカートのCEO就任により、Verb Surgicalの成功の確率は大きく上昇したといえるでしょう。起業家・アントレプレナー候補のみなさんもご存知のように、大企業と異なり、小規模のスタートアップ企業では、誰がトップについているかが非常に重要です。

さらにVerb Surgicalでは、データ分析というアルファベットが得意とするAI によるディープラーニング分野も製品ポートフォリオに掲げています。J&Jとアルファベット両社の全面支援を受けている同社はda Vinciを超えた製品をローンチしてくると期待されます。

シリコンバレーの研究機関とシリコンバレーの有力企業がチームを組むのは、アップル社のマウスやSiriで紹介したように、珍しいことではありません。

しかし、GAFAがその得意分野であるIT分野ではなく、新規参入したヘルスケア分野において、その分野でのトップ企業という異なるバック・グラウンドの企業とチームを組んだというのは、特筆すべきことです。

ロボット手術分野が最先端の成長分野であることとも合わせ、ぜひこのVerb Surgicalの今後の動向に注目してみてください。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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