映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『エイリアン』

アタッカーズ・ビジネススクール（ＡＢＳ）のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、企業は利益よりも従業員を大切にすべきことと、セクシャルハラスメントへ立ち向うことを提起している『エイリアン』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『エイリアン』の概要

『エイリアン』は、大ヒット人気SFホラーシリーズの記念すべき第1作である英国のリドリー・スコット79年監督作品です。大型宇宙船という閉鎖空間の中で、エイリアンに襲われた乗組員の恐怖とエイリアンとの闘いを描きました。

突然乗組員の宇宙服のヘルメットのガラス部分を突き破り顔へへばりつく奇怪な生物（フェイスハガー）、食事中に急に苦しみ出した乗組員の胸部を食い破って飛び出してくるエイリアンの幼生（チェストバスター）、そして遂にその姿を現すシュールな姿のエイリアンの本体…。

こうした、H.R.ギーガーが担当したエイリアンのデザインは注目され、エマーソン・レイク＆パーマー（EL＆P）の『恐怖の頭脳改革』のアルバム・ジャケットで一部に知られていただけのギーガーの知名度が一気にあがり、東京では白金トンネルの近くにギーガーのデザインによるBARも出現するほどの話題となりました。

リドリー・スコット監督は、ナポレオン戦争時代を舞台に、執拗につきまとって決闘を挑んでくる二人の騎兵士官を描いたデビュー作『デュエリスト/決闘者』（77年）でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、注目されていました。この『エイリアン』での演出も素晴らしく、作品の大ヒットはスコット監督を一気にスターダムに押し上げました。82年にはフィリップ・K・ディックのSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を映画化したハリソン・フォード主演の『ブレードランナー』が名作カルト映画として認められ、巨匠の仲間入りを果たすこととなります。『エイリアン』はアカデミー賞で視覚効果賞を、星雲賞で映画演劇部門賞を受賞しています。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの聴衆459,572人による平均スコアは4.4、プロの29人の批評家のレーティングは9.15と、アクションSF映画にも関わらず高評価となっています。

主人公の航海士リプリー役はシガニー・ウィーバーです。当時はまだ無名でしたがこの『エイリアン』の男勝りのヒロイン役で一気にブレイクを果たしました。

エイリアンの幼生に胸部を食い破られる航海士ケインを演じたのがイギリスの性格俳優ジョン・ハートです。主に脇役として活躍していましたが、この『エイリアン』公開の翌年には象人間と呼ばれた奇形の男を演じたデビッド・リンチ監督の感動作『エレファント・マン』（80年）で一躍有名となりました。

猫のジョーンズを可愛がる機関員のブレッド役は、ドイツの巨匠ヴィム・ベンダース監督の名作『パリテキサス』（84年）の主役として知られるハリー・ディーン・スタントン。いぶし銀のような渋い演技が魅力で、多くの映画で存在感を放っています。

医療担当のアッシュを、サーの称号を持つイギリスの性格俳優イアン・ホルムが演じています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『エイリアン』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、7人の乗組員が乗り込む地球へ帰還する途中の宇宙貨物船ノストロモ号が、ある惑星からの電波信号を受信するところから始まります。惑星に降り立った船長のダラス、航海士ケイン（ジョン・ハート）、操縦士ランパートは電波発信地に宇宙船を発見、巨大な卵のような物体が集まる空間へたどり着きました。ケインがこの物体に近づくと、中から突然タコのような生物が飛び出しヘルメットのガラス部分を突き破り顔へへばりつきました。ケインを抱えながら二人は慌ててノストロモ号へ帰還します。

電波信号を解析すると、宇宙人が発した警告であることが判明しました。ケインの顔面に張り付いたままの生物は、力づくでは引き剥がせず、ナイフで傷つけると強酸性の液体が出てベッドも床も溶かしてしまいました。一行が再びケインを寝かせた部屋へ戻ると、その生物はケインの顔面には付着していませんでした。

航海士リプリー（シガーニー・ウィーバー）が乾燥した物体となっているところを捕獲、船外に棄てようと皆で主張したのですが、科学者のアッシュ（イアン・ホルム）は「研究のために保存すべきだ」と主張し、保存されることとなりました。

その後ケインは回復したかに思われたのですが、食事中に突然苦しみ出します。皆が見守る中胸部を食い破って奇怪な生物の頭部が出現するや、ものすごい速さで逃走しました。乗組員たちが捜索を始めますが、より大型になっていたエイリアンは機関士ブレッド（ハリー・ディーン・スタントン）を殺害してしまいます。

アッシュのアドバイスに従いエイリアンをエアロックから宇宙へ放出する事が決定され、ダラスが、エイリアンが潜むダクトに潜入しましが、殺害されてしまいます。 ダラスの死に不審を持ったリプリーは、ノストロモ号のマザー・コンピューターに解決策を問いかけるのでした…。

『エイリアン』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

エイリアンの大ヒットの要因はいろいろあります。

まず第一は、ホラー映画としての恐怖感でしょう。乗組員達がいつ、どのようにエイリアンに襲われるのかと観客はどきどきするわけです。そして舞台が宇宙船ということが、他のスプラッター･ホラーとも一線を画す事となっています。

第二は、上述のギーガーのデザインへの起用です。エイリアンの卵、フェイスハガー、チェストバスター、エイリアン成体など、観客は、次はどんなグロテスクな生物が現れるのかという期待感と恐怖感でわくわくしたことでしょう。

第三には、SF映画としての素晴らしさがあります。宇宙を漂う宇宙船、惑星への不時着、未知の生物との遭遇など、SFファンを十分満足させてくれる作品となっています。将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんは、マザー・コンピュータに将来のAIの姿を見ることができます。

第四は、ミステリー作品としても楽しめることです。エイリアンはどこに潜んでいるのか、ダラスはエイリアンに殺されたのか、エイリアンでないとすると殺したのはだれなのかなど、リプリーの立場で推理する楽しみは、ミステリーファンをも満足させてくれることでしょう。

第五には、現実主義が挙げられるでしょう。貨物船を所有し、7人の乗組員が属する会社は、乗組員の命よりもエイリアンの生きたままの捕獲を優先していたのです。従業員の命よりもエイリアンの研究で得られる企業としての利益を裏では追求している点は、非常にリアルです。通常の現実社会から逃避して未知な世界に浸るだけのSF作品とは一線を画しています。

残念ながら、大半の企業が従業員の幸福よりも利益重視というのが現状でしょう。スタートアップを目指すみなさんは、起業された会社が、こうした利益追求型で従業員を大切にしない企業とならないように心がけて頂きたいと思います。

そして第六は、男性ではなく女性の乗組員が活躍することでしょう。

男性乗組員が次々と殺害されていく中で、エイリアンと対決するのは女性のリプリーです。リプリーはかつてスタローンが演じたランボーのように、男性的に強い女性像という新しいイメージのヒロインとなりました。現在の女優では、『ミリオンダラー・ベイビー』（04年）などで知られるヒラリー・スワンクがそのイメージを受け継いでいると言えるかもしれません。

美しくか弱い女性が狼男、吸血鬼などの男の怪物に襲われたり、スプラッター・ホラーで生贄にされるというのがそれまでの映画作品での常識でした。しかし、『エイリアン』でのリプリーは、吸血鬼やスプラッターホラーの変質者に勝るとも劣らず恐ろしいエイリアンに毅然と立ち向かい、撃退します。ホラー映画を男性の女性への性的抑圧の一種と考えると、リプリーはレイピストに毅然と立ち向かったヒロインということになります。男性による女性への性的暴力への武器による抵抗と解決を提起しているといえるでしょう。

91年に全米で大ヒットとなった『テルマ&ルイーズ 』はこの『エイリアン』の監督であるリドリー・スコットによるものです。『テルマ&ルイーズ 』ではレイプされかかったテルマ（ジーナ・デイビス）を助けようとしてレイピストの男に拳銃を向けたルイーズ（スーザン・サランドン）が、男に侮辱的な言葉を浴びせられ、思わず引き金を引いてしまいます。スコット監督は『テルマ&ルイーズ 』でも男性による女性への性的暴力への武器による抵抗と解決を提起しているわけです。『エイリアン』が、フェミニストの間で絶賛されたのも当然といえるでしょう。

企業では、パワハラと並びセクハラは、最も頻繁に起きる社会悪です。こうしたセクハラに立ち向かう女性、最近は男性もあるのかもしれませんが、を支援する勇気を、経営者となられるみなさんにも持っていただきたいと思います。

以上述べてきましたように、あらゆる層の観客にアピールできる映画史上に残る極上の娯楽作品といえるでしょう。