起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『いまを生きる』

掲載:2020/12/2

最終更新日:2020/12/02

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、チャンスは決して逃してはならない事と、自分自身の頭で考えられるようになる術などを示唆してくれる『いまを生きる』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

 起業・スタートアップを目標とする方への『いまを生きる』の概要

『いまを生きる』は、オーストラリアのピーター・ウィアー監督がてがけた、1989年の感動作です。型破りな教師が教える教科書には載っていない人生の生き方と生徒との心の交流を描き、翌年のアカデミー賞では作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞の主要4部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した大ヒット作です。ウィアー監督は、殺人事件に巻き込まれたアーミッシュの女性と刑事との愛を描いたハリソン・フォード主演の秀作『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85年)で、既にアメリカでの人気を確立していました。

舞台となっているのは、1959年の、ボストンを中心とするニューイングランド地方に属するバーモント州にある全寮制の私立高校です。こうした全寮制の私立高校はイギリスのパブリックスクールを模したもので、アイビー・リーグ(ハーヴァード、イェールなど東部の名門私立8大学)へ入学するための準備学校(Preparation school)であり、プレップ・スクールと呼ばれていました。

日本では1960年代にアイビー・リーグの生徒を真似たアイビー・ファッションが流行しましたが、プレップ・スクールのファッションを真似たプレッピー・ファッションも80年代に流行したことがありました。現在でもいわゆるトラッド・ファッションとして、ラルフ・ローレンやトミー ・ヒルフィガーに代表されるファッションとして続いています。

ニューイングランドと呼ばれるイギリスに似た美しい自然と、ホイットマン、テニスン、ソローらのアメリカを代表する詩人による詩の調べに感動すると共に、当時のアメリカのエリートがイギリス文化の中で生きていたことが感じ取れるでしょう。もちろんファッションや映像だけでなく、アカデミー作品賞・監督賞にノミネートされ脚本賞を受賞したストーリーに心を奪われることは、間違いないでしょう。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes視聴者307,022人による平均スコアは4.31という非常な高評価となっており、こうした映画こそがアメリカ人の心を捉えるのだと、将来の起業家・アントレプレナーの閲覧者の方にもご理解いただけるでしょう。

主役の教師キーティング役が、ロビン・ウィリアムズです。スタンダップ・コメデイアン出身ですが、ジョン・アーヴィングの大ベストセラーを映画化した『ガープの世界』(82年)でシリアスな演技を評価され、ベトナム戦争中のサイゴンに送り込まれたDJを演じた『グッドモーニング, ベトナム』(87年)ではアカデミー主演男優賞にノミネートされ、人気・実力共にトップ・クラスとなっていました。この『いまを生きる』でも、抑えた演技ながら熱い教師を感動的に演じ、アカデミー主演男優賞を期待されました。しかし、『マイ・レフトフット』のダニエル・デイ=ルイスにさらわれたのは残念でした。ロビンが2014年にレビー小体型認知症(DLB)の症状の悪化で自殺されたのは、非常に残念なニュースでした。DLBの治療法の発見を期待したいものです。

生徒のリーダー役であるニール役は、1986年に『ティーン・バンパイヤ』で主役を演じましたがまだ無名だったロバート・ショーン・レナードです。この『いまを生きる』の感動的な演技で一躍ブレイクを果たし、ポール・ニューマン夫妻の息子役の『ミスター&ミセス・ブリッジ』(91年)、クローディオを演じたシェイクスピアの戯曲を映画化した『から騒ぎ』(93年)、第二次大戦前夜のドイツを舞台にアメリカのスウィングに憧れる若者たちを描いた『スウィング・キッズ』(94年)で主役となり、人気を確立することとなります。

そして、ニールのルームメイトとなる転校生トッドを演じたのがイーサン・ホークです。やはり当時はまだ無名でしたが、この『いまを生きる』で注目され、94年にはウィノナ・ライダー主演のX世代を描いた青春映画『リアリティ・バイツ』、95年にはジュリー・デルピー共演の、24時間の淡い恋を描き世界中で大ヒットとなりシリーズ化されることとなる『恋人までの距離』 で青春スターとしてブレイクすることとなります。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『いまを生きる』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは1959年、100年の伝統を誇るバーモント州の全寮制の私立高校ウェルトン・アカデミーで始まります。ウェルトン・アカデミーはノーラン校長の厳格な指導の下でアイビー・リーグへの高い進学率を誇り、一流校として名を馳せていました。

9月の新学期に、ウェルトンのOBであるジョン・キーティング(ロビン・ウィリアムス)が、英語教師として赴任してきます。教科書の序説を破り捨て、机の上に立って物を考えさせ、先入観にとらわれずに自分自身の声を聞けという型破りなキーティングの指導方法に、学生たちは最初はとまどうものの、次第に行動力を刺激されていきます

ある日生徒のリーダー格のニール(ロバート・ショーン・レナード)が学校の古い年鑑に、キーティングが学生時代に中心となっていた 「デッド・ポエッツ・ソサエティ」というクラブの資料を見つけます。キーティングは現在のウェルトン・アカデミーではそうした集まりは許されないだろうといいますが、ニールはダルトン、ノックス、ニールの同室である転校生のトッド(イーサン・ホーク)、キャメロン、ミークス、ピッツの7人で密かにクラブを再開するのでした。

近くの洞窟で詩を吟じ、人生などを語りながら、ニールは演劇を、ノックスはクリスという娘との恋を、ダルトンはサックスを吹くなどそれぞれの夢の実現に動くのでした。芝居の主役に選ばれたニールは反対する父親に黙って『真夏の夜の夢』の舞台に立ちました。舞台は絶賛されましたが、父親は裏切られたことを怒り、ニールを家に連れて帰ると陸軍士官学校に転校させると告げるのでした…。

『いまを生きる』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

邦題となっている『いまを生きる』は、キーティングが指導方針としたラテン語の「カーペ・ディエム(Carpe Diem)」の邦訳だそうです。教科書を破り捨て学校のカリキュラムではなく、自分の信念と情熱で生き方を見つけろというその指導方針は、59年のアメリカの高校生どころか現在の日本の高校生が聞いても、最初はとまどうでしょう。

将来の不安から安定しているという理由で公務員の人気が高まっている昨今では、ニールと異なり医者を目指せという父親の命令に素直に従ってしまうでしょう。しかし、この失われた20年が訪れる前ならば、父親の命令で医者の道を選ぶか、自分が好きな演劇の道を選ぶかに迷うニールに、十分感情移入をできたことでしょう。

人生で一番輝き、二度と還ってこない青春時代をただ漫然と生きるのではなく、毎日を充実させながら生きろということを教えてくれています。

特に、将来の起業家・アントレプレナーとなるみなさんには、何かやりたいことがあったら何度も巡ってくるわけではないチャンスを逃すなということを学んで頂きたいと思います。

筆者自身の経験でも、起業をする、さらにいえばIPOやエグジットをできるチャンスなど人生で2、3回もあれば素晴らしいことでしょう。かつては順風満帆で、IPOのチャンスなどいくらでもあると思い込み、希少なIPOの機会を無駄にしてしまった自身の経験から申し上げますと、起業・スタートアップを目指す閲覧者の方には、決しておごることなく、このチャンスはもう人生で2度と訪れないと考え、どんな困難があってもしがみつくという信念を身に着けて頂きたく存じます。

仲間と一緒に詩を読み、音楽を演奏し、様々な問題を議論するといったことはこの中学・高校時代の思春期に行われるべきことでしょう。それにより感性が磨かれ、自分とは何が好きで何が嫌いで、将来何を目指したいのかを見極めることができるはずです。

受験勉強に励みよい大学に入り、お金を稼げる職業に就くという、親や社会によってひかれたレールをただ歩むだけの中学・高校生活に希望を見出せる学生など、ほとんどいないでしょう

今後は、ただ暗記するだけの受験勉強でよい大学に入っても、社会では通用しなくなってきます。ネットで調べれば情報などすぐ手に入る時代には、記憶力など昔ほどは役にはたたないわけです。

自分で考える力を身につけられる欧米型の双方通行の「デッド・ポエッツ・ソサエティ」が行った活動のほうが、教師の一方通行の授業を聞き、教科書をただ覚えるだけの現在の日本の中等教育よりふさわしいのは明らかなことです。

起業・スタートアップで必要とされてくる自分自身で考える力、創造力を養うには、詩を読み、音楽を演奏するなどで感性を磨き、様々な問題を議論することが必要なのだと示唆してくれています。

文部科学省が定める学習指導要領を変える事は容易なことではありません。そうなると、キーティングのように、独自の授業で生徒を正しい方向に導く教師が最も求められているだろうし、そうした教師に出会えた生徒は本当に幸せです。現在の日本にキーティングのような教師をどうやって増やすかを真剣に考えるべき時なのではないでしょうか?

起業家・アントレプレナーとなる閲覧者の方々には、現在外資系起業だけでなく日本企業にも広まってきたメンターの重要性を理解し、起業後はぜひともメンター制度を導入していただきたいと思います。

大ヒットテレビドラマ『ゴシップガール』のファンの方には、時代も異なりますがアイビー・リーグを目指す名門プレップスクールを理解するためにはオススメです。ポロ・シャツやレジメンタル・タイ、ネイビー・ブレザーにダッフルコートといったアメリカの上流階級の子弟が愛したプレッピー・ファッションが見られるのもファッション好きにもたまらないでしょう。

映画批評サイトRotten Tomatoesでの高評価でも分かりますように、起業・スタートアップを目指す方だけでなく、どなたにでもオススメできる感動作です。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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