映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『ドゥ・ザ・ライト・シング』
掲載:2021/2/12
最終更新日:2021/02/12
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、長年築いた大切な資産は一度の過ちで消えるので注意が必要でストレスの発散が必要と教示してくれる『ドゥ・ザ・ライト・シング』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。
起業・スタートアップを目標とする方への『ドゥ・ザ・ライト・シング』の概要
『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、昨年世界中で展開されていたアフロ・アメリカン(黒人)のジョージ・フロイド氏の白人警官による暴行死事件へのデモを想起させるスパイク・リー監督の1989年の作品です。「ドゥ・ザ・ライト・シング」は正しいことを行うという意味で、1950~60年代の公民権運動時代から使われている人種差別反対運動でのスローガンでもあります。現在米国ではブラック・ライブス・マター運動が沸き起こっており、将来海外進出を考えている起業家・アントレプレナーの閲覧者の方は、この機会にこの作品を観ることをおすすめいたします。
自身がアフリカ系アメリカ人であるスパイクは、長年に渡ってアフリカ系アメリカ人が直面する差別を提起する作品を発表し続けていました。『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(85年)でカンヌ映画祭においてユース賞を受賞し注目され、同作品と『ドゥ・ザ・ライト・シング』に登場するナイキのバスケットボール・シューズ「エア・ジョーダン」のCMで一般にも知名度が上がることになります。『ドゥ・ザ・ライト・シング』ではロサンゼルス映画批評家協会賞の監督賞を受賞、一流監督の仲間入りを果たしました。
米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの聴衆73,637人による平均スコアは4.27、トップのプロの批評家22人のレビューは8.98であり、一般だけでなくプロにも高く評価された作品となっています。
主人公のムーキーはスパイク・リー自身が演じました。『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』でも特異なキャラで存在感を放っていましたが、この作品で監督としても役者としてもさらに評価が高まり、上記の「エア・ジョーダン」のCMでアフリカ系アメリカ人を代表するセレブとしての地位を手に入れることとなります。
イタリア系アメリカ人のピザ店の主人役はダニー・アイエロです。『ゴッドファーザーPART2』(74年)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84年)などのロバート・デ・ニーロ主演のマフィア映画での、自身のバックグラウンドであるイタリア系アメリカ人役で、知る人ぞ知るバイプレイヤーでした。『ドゥ・ザ・ライト・シング』では人種間の対立に苦労する役を見事に演じ、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。
起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『ドゥ・ザ・ライト・シング』のネタバレなしの途中までのストーリー
ストーリーは、ニューヨーク市のブルックリンのアフリカ系アメリカ人居住区で始まります。アフリカ系アメリカ人青年ムーキー(スパイク・リー)は、スペイン系移民の恋人との約束を守り、イタリア系アメリカ人のサル(ダニー・アイエロ)が経営するピザ店のデリバリーの仕事にでかけていきます。
コミュニティーでは皆が知り合いで、ムーキーに声をかけていきます。窓際に座り皆を見守るマザーシスター、正義を愛する市長と呼ばれる老人、大音量でラジカセを鳴らすアフリカ系アメリカ人の平等を目指す無口な活動家のラジオ、やはり活動家のバギンなど様々な知り合いがいました。
しかし、韓国人経営のスーパーとその向かいには30年以上も前から経営しているサルのピザ屋があり、それを快く思っていないアフリカ系アメリカ人も多かったのです。また、サルはアフリカ系アメリカ人が自分のピザで育っていたことに誇りを抱いており、次男のヴィトーもムーキーと友人関係を築いていましたが、長男のビノは人種差別主義者でした。
こうした中、店内にフランク・シナトラやロッキー・マルシアノなどのイタリア系アメリカ人の肖像しか飾っていないことに不満を持つバギンは、サルの店のピザ不買運動を持ちかけます。しかし、サルの店を愛している殆どのアフリカ系アメリカ人達は、無視します。こうした中、店内で大音量のラジカセを鳴らすことを禁止されたことに不満を持つラジオと吃音症のある活動家の二人がバギンに同調し、3人はサルの店に大音量のラジカセを鳴らしながら乗り込んでいくのでした…。
『ドゥ・ザ・ライト・シング』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点
この作品の最大の魅力は、現在世界中で起きているブラック・ライブス・マター運動の原因となる白人警官によるアフリカ系アメリカ人への差別行動が、30年以上も前から続いているのだと気付かされることでしょう。単一民族に近い日本では気づけない人種差別、特にこうした明らかな犯罪行為が、21世紀になっても自由平等を掲げるアメリカで行われていることに、起業・スタートアップを目指すみなさんも衝撃を受けるのではないでしょうか?
軽く接しただけでは分からない、白人のアメリカ人の本性が垣間見えるのではないでしょうか?また、ベトナム戦争への従軍でグリーンカードを与えられ移住した韓国人が、自分たちの仕事を奪ったことへのアフリカ系アメリカ人の反感も、作品では表現されています。韓国人への反感は1992年にロサンゼルス暴動で銃撃戦に発展します。スパイクの慧眼には目を見張るばかりです。皆さんが海外に進出する際には、こうした人種問題を考慮することを忘れないでください。
筆者はロサンゼルス暴動が起こった際に、「なぜ黒人のストリートギャングと韓国人の一介の商店主が銃撃戦などできたのだろう?」と不思議でした。しかし、その際に英文ニュースを読んでいて、ベトナム戦争への従軍の特権でグリーンカードを与えられ米国に移住し小さな商店を始めた韓国人は、元ベトナム戦争の従軍兵士であり、銃の扱いに慣れていたのだと知ったのでした。みなさんもこの作品から、日本にては理解できない米国について学べるのではないでしょうか?
将来の起業家・アントレプレナーである閲覧者の方に是非とも覚えておいていただきたいのは、ピザ店にしろ、企業にしろ、信用を築くのには十年など長い年月が必要だが、失うのはあっという間だという厳しい現実です。筆者自身の経験でも、このことは起業には非常に大切なことだと言うことを、是非とも理解していただきたいです。
そして、こうしたことを避けるのに必要なのが、感情を殺すことです。憤怒は強欲、嫉妬、傲慢、色欲、暴食、怠惰と共にキリスト教の7つの大罪の一つです。今後みなさんの事業がうまくいっても、決して奢ることなく、7つの大罪を犯さないように務めることが重要だと、筆者は自身の経験から痛感しています。この『ドゥ・ザ・ライト・シング』が教えてくれるのは、一時の怒りの感情を捨てることです。そのためにはやはり、普段からストレスや感情を溜めないように開放することをおすすめいたします。ストレスの多い現代社会においては、リラクゼーションやメディテーションが必須なのです。
起業・スタートアップを目指す方は、仕事と遊びを両立させて、ストレスを発散させることで感情をコントロールすることをアタッカーズ・ビジネススクール在籍中に学んでいただければ幸いです。
アフリカ系アメリカ人の音楽などその文化が好きな日本人は多いですが、彼等が抱えている問題にまで興味を持つ方は少ないと思います。ジューンティーンスを祝日にしようというこの時こそ、アメリカの負の歴史と真の姿について学ぶチャンスではないでしょうか?
ポール・マッカートニーとスティービー・ワンダーの歌ったエボニー・アンド・アイボリーの世界が、これを機に実現することを祈っています。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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