起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『山猫』

掲載:2021/3/5

最終更新日:2021/03/05

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、大企業を辞めスタートアップを起業する勇気を与えてくれ、その決断には支えてくれるパートナーが必要なのだと再認識させられる『山猫』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『山猫』の概要

『山猫』は、最初のデカダンス・テイスト漂う作品『夏の嵐』(54年)、従来からのネオ・レアリズモ作品『若者のすべて』(60年)に続き、(オムニバスの『ボカッチオ’70』は除く)ルキノ・ヴィスコンティ監督が発表した63年の大作です。イタリア統一戦争の最中の1860年のシチリア島を舞台に、自らの属する階級の没落と新しい階級の台頭を眺める公爵の姿を通じて、一つの時代の終わりと新しい時代の始まりを描いた一大叙事詩です。カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した、映画史上に残る傑作です。

自らの属する階級が滅びゆくのを哀しみながらも、新しい階級が台頭してくることを当然と思い、時代の移り変わりを冷静に見つめている主人公のサリーナ公爵。その人物像には、「赤い伯爵」と呼ばれたヴィスコンティ監督自身の姿が、色濃く投影されています。ヴィスコンティ監督は、中世にはミラノを統治していた名門出身の伯爵ながら、イタリア共産党に入党していたのです!

舞踏会以外のシーンの音楽には、『道』(54年)、『甘い生活』(59年)などのフェリーニ監督作品や、『太陽がいっぱい』(60年)、『ゴッドファーザー』の「愛のテーマ」(72年)などで知られる、名匠ニーノ・ロータが起用され、荘厳な雰囲気をかもしだしています。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆8,536人による平均スコアは4.3であり、 20人の一流新聞や雑誌の映画コラム担当の専門家の平均は10点満点で9.21と、恐らく今まで紹介してきた作品の中でも最高点です。欧州の難解な映画にも関わらず、専門家だけでなく、一般の米国人に非常に高く評価された作品となっています。

主人公のサリーナ公爵役は、バート・ランカスターです。第二次世界大戦前はサーカス団の空中アクロバットのスターであり、戦後に俳優に転職すると、『地上より永遠に』(54年)、『空中ぶらんこ』(56年)、『OK牧場の決闘』(57年)などでアクション・スターとして人気となりました。その後は、苦悩に満ちた伝道師役でアカデミー主演男優賞に輝いた『エルマー・ガントリー』(60年)、被告の法律学者を堂々たる態度で演じた『ニュールンベルグ裁判』(61年)などで、演技派俳優としての名声も確立していました。本作品での演技力の高さをヴィスコンティ監督が再認識し、最高傑作といわれる『家族の肖像』(74年)で、再びヴィスコンティ監督自身を投影したかのような主人公の老教授役を務めることとなります。

野心にあふれ、新しい時代にも対応できる公爵の甥のタンクレディ役が、アラン・ドロンです。主人公を演じたヴィスコンティ監督のネオ・レアリズモの名作『若者のすべて』(60年)、ニーノ・ロータ の名曲と共に大ヒットした『太陽がいっぱい』(60年)、アントニオーニ監督が得意の不毛な愛を描いたモニカ・ヴィッティ共演の難解な恋愛作品『太陽はひとりぼっち』(62年)、などで既に世界的スターとなっていました。

タンクレディと婚約する村長の娘アンジェリカ役が、60年代のイタリアを代表するセックス・シンボル、C.C.ことクラウディア・カルディナーレです。パルチザンの青年と若い娘との引き裂かれた愛を描いたジョージ・チャキリス共演の純愛作品『ブーベの恋人』(62年)、マストロヤンニ演ずる映画監督の憧れの女性を演じたフェリーニ監督の自伝的作品の『8 1/2』(62年)などで当時人気急上昇中でした。この作品での野性味のある美しさは輝くばかりで、ヴィスコンティ監督にも気に入られ、65年にはギリシア悲劇の『エレクトラ』から着想を得た姉弟の禁断の愛を描いたジャン・ソレル共演の『熊座の淡き星影』でヴィスコンティ監督作品に主演することとなります。主役3人を含めた演技陣の高い存在感が素晴らしいです。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『山猫』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、1860年5月のイタリア・シチリア島のサリナ公爵(バート・ランカスター)邸で始まります。島の名門貴族であるサリナ公爵は、サルデーニャ王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のもとにイタリア統一を目指すガリバルディの赤シャツ隊がシチリア島に上陸した、との報せを受けました。ナポリとシチリアを支配していた両シチリア王国軍との戦いが始まったのです。そうした中、公爵が愛する甥のタンクレディ(アラン・ドロン)が、統一軍への参加のため、いとまごいにやってきます。王国の公爵としての立場から最初は反対する公爵でしたが、最後には持参金を渡し、見送るのでした。

こうした戦時下においても、公爵は毎年の慣例を守り、一家そろってドンナ・フガータ村の別荘に出掛けます。一行には、パレルモの戦いで戦功をたてたタンクレディも加わりました。村に着くと、公爵は村長のドン・カロージェロらを招いて、晩餐会を開きました。カロージェロは新興ブルジョア階級であり、一緒に現れた娘のアンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)の野生的な美しさに、一行は目を見張ります。しかし、タンクレディとアンジェリカの下品な会話には、目をひそめるのでした。タンクレディはアンジェリカに惹かれ、公爵に結婚の申込みを頼むのでした。それを聞いたカロージェロは大いに喜び、莫大な持参金を約束するのでした。

タンクレディとアンジェリカとの愛も、深まっていきます。そして、ポンテレオーネ公爵邸での舞踏会が開かれました。タンクレディと婚約したアンジェリカと父のカロージェロも、招待されました。豪華な広間でワルツを踊る人々。アンジェリカは注目の的でタンクレディの友人からダンスを申し込まれますが断り、タンクレディのみと踊るのでした。舞踏会の中、気が重く、沈みがちな公爵でしたが、アンジェリカからダンスを申し込まれ、ワルツを踊ります。その素晴らしさに友人からも称賛されるのですが、ただ重い気持ちのみが残るのでした…。

『山猫』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

公爵は、自分の属する貴族階級を愛しています。しかし、その弱さもよく理解しています。ガリバルディ上陸の報に恐れおののく友人の貴族や家族たちの姿を、公爵は軽蔑します。そうした貴族の中にも、強いものがいます。自分や、甥のタンクレディです。公爵は、タンクレディの逞しさを愛しています。そのため、貴族であるタンクレディがガリバルディ率いる赤シャツ隊に入隊すると告げたときにも、最初は主君である両シチリア王国国王に忠誠を誓うべきだと引き止めましたが、最後には持参金を与えたわけです。その柔軟さには、頭が下がります。

ビジネス社会における貴族階級にあたる大企業や大手コンサルティングファームなどに属していて、新興階級に当たるベンチャー企業の起業・スタートアップを目指すみなさんは、このタンクレディの態度に勇気を与えられるのではないでしょうか?そして、両親は選べませんが、公爵のようにリスクを取ることを支えてくれる親族や妻・パートナーの存在が重要だと、示唆してくれています。

また、公爵は甥のタンクレディと結婚したいという娘のコンチェッタの願いを退け、タンクレディと新興階級である村長の娘のアンジェリカとの結婚を認めます。タンクレディには野心があるので持参金が必要であり、自分の娘よりも金持ちと結婚したほうがよいこと、コンチェッタはおとなしく優しいが、野心のあるタンクレディには物足りないだろう、という二つの理由からです。自分の愛する娘の願いを聞かずに、愛する甥の将来を考え、他の女と結婚させる聡明な判断にも感銘を受けました。将来の起業家・アントレプレナーである閲覧者の方々は、家族への愛情により経営者としての判断を狂わせてはならないのだと、公爵から学んで頂きたいと思います。

しかし公爵は、実は新興階級の下品さに我慢がならないのです。アンジェリカの父の村長が用意する白ワインのまずさ、舞踏会が行われた公爵邸の家具を土地ならどれだけの広さに相当するか考える村長のあさましさなど、その教養の低さを毛嫌いしています。公爵邸に招待された村長が不似合いなタキシードを着てきたのを公爵の家族全員が嘲笑するシーンなどにも、階級差別が表れています。起業・スタートアップを目標とするスクール生に、起業後は、ビジネス社会では貴族階級に当たる大企業のルールに従うべきなのだと、教示してくれています。

自分の愛する甥の敵軍への入隊を認め、毛嫌いする新興階級の娘と結婚させる公爵の判断は、全て聡明で正しいのです。ただし、本当はそうしたくなかったはずです。自分の属する階級を愛してやまないが、その時代遅れなことを、客観的に認めただけです。タンクレディが赤シャツ隊に入るのを止め、娘のコンチェッタと結婚させ、自分のもとにとどめておきたかったはずなのです。正しいとは分かっていても自分の意に沿わぬ決断をしていることの苦しさと、自分の属する階級の没落に、公爵の苦悩は深まっていくこととなります。

この『山猫』には、『地獄に堕ちた勇者ども』(69年)、『ベニスに死す』(71年)以降耽美派と呼ばれるようになる、古く、美しいものを愛するヴィスコンティ監督の嗜好が、全編をいろどっています。特にラストの大舞踏会のシーンには、豪華な燕尾服や軍服を身につけた100人近い本場のシチリアの貴族を始め約250名ものエキストラが投入されています。豪華な装飾のホールに未発表のヴェルディのワルツが流れるそのシーンの豪華さは筆舌に表しがたく、映画史に残る名シーンとなっています。ヴィスコンティ得意の、滅びの美学の原点ともいうべき名作といえるでしょう。

また、公爵一家の別荘がある主要な舞台となるドンナ・フガータという名称は、イタリアワイン好きにはお馴染みでしょう。キアランダという白(アンソニカ、シャルドネ)やアラン・ドロンの演じた役そのままのタンク・レディという赤(ネロ・ダヴォラ 、カベルネ・ソーヴィニヨン)、そして特にミレ・エ・ウナ・ノッテという赤(ネロ・ダヴォラ )は素晴らしいです!ワイン好きにもオススメの作品です。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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