映画から学ぶ副業・起業向けアドバイス
『悲しみの青春』
掲載:2021/3/12
最終更新日:2021/03/12
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ副業・起業アドバイスのコラム。今回は、成功と失敗は表裏一体であり、大事の際には毅然とした態度を取る事が重要と示唆してくれる『悲しみの青春』について、将来の起業家・投資家であるみなさんと共に見ていきましょう。
副業・起業を目標とする方への『悲しみの青春』の概要
『悲しみの青春』は、ジョルジョ・バッサーニの小説「フィンツィ・コンティーニ家の庭」を名匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督が映画化した1971年の作品です。第二次大戦前夜から戦時下の北イタリア・フェラーラを舞台に、ユダヤ人の美しい少女と幼馴染の青年の恋を描きました。悲恋を撮らせたら右に出るものがいないと言われたデ・シーカならではの、切なく哀しい作品となっています。
原題は小説の題名と同じで、『Il giardino dei Finzi Contini』となっています。筆者が米国留学中に「Bravo」という名画やバレエ・オペラなどを放映するケーブル・テレビで初めて同作品を鑑賞した際の題名も『The Garden of the Finzi Contini』とイタリア語の英語への直訳でした。邦題の『悲しみの青春』はあまりにも陳腐で、この作品の価値を貶めているように感じられます。
アカデミー外国語映画賞、ベルリン国際映画祭金熊賞などを受賞しているのですが、日本ではあまり知られていない名作です。デ・シーカ監督は『自転車泥棒』(48年)、ジェニファー・ジョーンズ、モンゴメリー・クリフト共演の『終着駅』(53年)、アカデミー外国語映画賞に輝くソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ共演の『昨日・今日・明日』(63年)、同じくローレン、マストロヤンニ共演の『ひまわり』(70年)など日本でも巨匠として著名でした。こうした作品と比べると遥かに知名度が低いのは、この邦題のせいなのでしょうか?
米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの聴衆1,444人による平均スコアは3.94ですが、プロの3人の批評家のレーティングは9.17と高評価であり、やはり米国では玄人好みの作品のようです。
ヒロインのミコル役が、当時22歳のドミニク・サンダです。68年にドストエフスキーの短編小説を映画化したロベール・ブレッソン『やさしい女』で主役デビュー、その美しさでいきなり脚光を浴びました。70年にはツルゲーネフの同名小説を映画化した『初恋』で少年の純粋な恋心を弄ぶ美しい年上の女性を演じ、さらにモラヴィアの名作小説を映画化したベルナルド・ベルトルッチ監督の代表作『暗殺の森』でファシストの青年の目的を悟りおびえながらも関係を持つ美しい教授の若妻役になりきり、スター女優としてブレイクを果たしていました。この『悲しみの青春』での知的で、ミステリアスな、ブロンドの美女ミコルはまさにはまり役で、その複雑な心理を見事に表現しています。
ミコルの病弱の弟アルベルト役が、巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の愛人で秘蔵っ子だった、美形俳優ヘルムート・バーガーです。69年にヴィスコンティ監督の『地獄に堕ちた勇者ども』で女装癖のあるマザコンの倒錯した一族の長男を演じ、一気にスターダムをかけあがりました。70年には永遠の美を望む男性を描いたオスカー・ワイルドの同名古典小説を映画化した『ドリアン・グレイ/美しき肖像』でのタイトル・ロールで、デカダンな雰囲気の漂う俳優としての地位を確立していました。この『悲しみの青春』では一転して、病弱で繊細な天使のような美青年に見事に変化しています。
起業家・投資家を目指すみなさん向けの『悲しみの青春』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーは、第二次大戦前夜の1938年、ルネッサンス時代に一世を風靡した北イタリア・フェラーラで始まります。自転車に乗り白いテニスウェアに身を包んだ大学生の若い男女が、フィンツィ・コンティーニ家の屋敷に向かっていました。コンティーニ家は、高い塀に囲まれた広大な屋敷と庭を持つ、知的で洗練されたフェラーラの名家でした。娘のミコル(ドミニク・サンダ)と病弱の弟アルベルト(ヘルムート・バーガー)が、彼等を迎えてくれました。
皆がテニスに興じる中、そのうちの一人のジョルジョ(リノ・カポリッチオ)だけは、10年前のミコルとの出会いを思い出すのでした。ミコルもアルベルトも学校に通うことはなく、試験の時だけしかジョルジョはミコルと出会うチャンスがありませんでした。はしごを使って高い塀から顔を出したミコルが、自転車を降りて休んでいたジョルジョに話しかけたのが、最初の出会いでした。
雨の後ミコルはジョルジョを納屋に誘ったのですが、ジョルジョはその美しさに何もすることができませんでした。ミコルの弟アルベルトは病弱で、なかなか人と打ち解けませんでしたが、共産主義者のブルーノだけには心を許していました。チェスをしていた二人の前にミコルが現れ、翌日の朝に会う約束をした電話の相手がジョルジョだと告げると、ブルーノはなぜか突然帰っていきました。しかし、翌朝弾む心でコンティーニ家を訪れたジョルジョは、ミコルが叔父とヴェネチアに旅立ったと知らされたのです。
戦争が始まると、ドイツのヒトラーと同盟していたイタリアのムッソリーニにより、次第にユダヤ人への締め付けが厳しくなってきました。ユダヤ人の登校が禁止されるなど、ジョルジョの一家も危険を感じるようになっていました。しかし、コンティーニ家だけは、そんな動向に無関心のように見えました。ミコルがヴェネチアから帰りジョルジョは思わずミコルを抱きしめますが、ミコルの態度はなぜか冷たく、もうここには来ないようにと言うのでした。ジョルジョは街であった友人に、ミコルの様子を聞くことしかできなくなりました。
ジョルジョは召集がきたブルーノと偶然出会い、二人で映画にでかけます。ヒトラーややムッソリーニの映像が映し出され、ジョルジョは思わず悪態をつき右翼と喧嘩になるところをブルーノの仲裁で危うく逃れました。ブルーノと別れた後、ジョルジョはコンティーニ家の庭に忍び込みます。テニス・コートの横の山小屋を覗くと、ミコルが窓を見つめていました。ジョルジョに気付くと、ミコルは灯りをつけました。全裸でジョルジョを凝視するミコルの横によこたわるブルーノの姿を見て、ジョルジョは絶望に打ちのめされました。この後全てが暗転していくのでした…。
『悲しみの青春』を観て副業・起業を目指す方に気づいて頂きたい点
富裕で知的で洗練されたフェラーラの名家である光り輝いて見えたフィンツィ・コンティーニ家は、実はユダヤ人であるという陰を抱えていました。美しく皆の憧れのミコルにはファシズムの弾圧への恐怖が、家族に愛される美青年のアルベルトには病気による死への恐怖が、つきまとっていたのです。どんなに幸せそうに見える人間にも、傍から見ても分からない悩みがあるものです。光と陰が表裏一体であることを、想起させられます。将来の起業家・投資家のみなさんは、副業・起業が軌道に乗ったとしても、その後どうなるかは神のみぞ知ると心得るべきです。筆者は、上場まで至っても、ブロック期間で株式を売却する機会がない間に業績が不振になり株式売却益を得られなかったり、本業以外の失敗で会社を売却する羽目になった知人を、何人も見てきました。成功と失敗は紙一重であり、気を緩めてはいけないのだと示唆してくれています。
第二次大戦下のナチスによるユダヤ人狩りを描いた映画は数多くありますが、ここまでその姿を優雅に描いた作品はないでしょう。コンティーニ家の人々は、邸宅に黒シャツ隊が押し入り家族それぞれの名前を読み上げ連行される瞬間まで、優雅で洗練された態度を失うことがありませんでした。その毅然かつ、泰然自若とした態度に、深い感動を覚えました。起業をすると、思いもかけないことが色々と起きるものです。信用していたパートナー企業、さらには部下や共同創業者の裏切りなども夢ではないことは、アップルやフェイスブックなどの有名な例を思い出せば、ご理解いただけるでしょう。そうした際に、副業・起業を目指して頑張っているみなさんには、コンティーニ家の人々のような毅然とした態度を取っていただきたいと、強く思います。
ミコルがヴェネチアから帰った後ジョルジョに対して突然冷たくなり、嫌っていたはずのブルーノと関係を持ったのがなぜなのかは、明らかにされていません。しかし、連行された後にジョルジョの父親に会った時にジョルジョを気遣うミコルの態度を見ると、ジョルジョを愛していたのは間違いがないでしょう。それではなぜミコルは突然冷たくなったのか、という疑問がわいてくるでしょう。
上流階級であり、情報も普通のユダヤ人よりも多く持っていたはずのコンティーニ家の人々は、ヴェネチアで何らかの情報を得て、自分達がファシストに連行されることを悟っていたのではないでしょうか?しかし、高齢の祖母と病弱のアルベルトを抱えて外国に逃れることを諦めたのか、または、自分達の運命を整然と受けいれることを選んだのではないでしょうか?そして、ミコルは子供の頃から愛していたジョルジョとの別れが辛くなるので、ジョルジョと愛し合うことを拒んだのではないのでしょうか?愛しているからこそ結ばれないこともある、愛の難しさを教示しています。
黄金色の太陽がさす中浮かび上がるイタリアの美しい景色と、素晴らしい調度品に囲まれた贅沢な邸宅。その中で、美男美女が織り成す優雅な世界はまるで少女マンガのようで、この世のものとは思えません。しかし、その天国のように見える世界には、実はファシズムの陰がしのびよっており、登場人物は死の世界に引き込まれていくのです・・・。ハイ・キーではなくロー・キーでおおわれた映像が、この世界は本当の幸せではないのだと、観客に気づかせてくれます。その優雅な音楽は、マヌエル・デ・シーカが担当しています。
絶世の美女サンダと美青年バーガーの魅力を堪能できるサンダ・ファン、バーガー・ファン必見の作品です。そして、その美しいものが滅びていくという世界観は、ヴィスコンティなどの耽美派を好む方には満足いただけるでしょう。ストーリー自体は淡々とすすむので、ハリウッドの大作好きの方にはおすすめできません。やはり、その雰囲気自体を楽しむための作品といえるでしょう。
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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