映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『イノセント 』

2020/12/16

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、嫉妬と自分勝手な行動への戒め、許す事の重要性を示唆してくれる『イノセント』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『イノセント』の概要

『イノセント』は、『山猫』(64年)『ベニスに死す』(71年)『家族の肖像』(72年)などで知られる映画史上最も耽美的で格調高い作品を輩出してきたイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の75年に制作された遺作です。

退廃的な貴族社会を描いてきたガブリエレ・ダヌンツィオの小説を、映画界で最もデカダンな作風で知られるヴィスコンティが映画化した『イノセント』ほど、腐敗した貴族社会を見事に描いた作品はないといえるでしょう。

自身伯爵であるヴィスコンティだからこそ描けた20世紀初頭の貴族社会がスクリーンに見事に再現され、将来起業・スタートアップを目指すみなさんも日常を忘れ、その世界を疑似体験することができます。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes視聴者513人による平均スコアは、3.91という高評価となっています。やはり米国ではこうした芸術映画は人気がなく、視聴者が少ないのだと気付かされます。

主演のトゥリオ伯爵役は、ヴィスコンティ作品に初登場となるジャンカルロ・ジャンニーニです。兄妹の愛を描いたカトリーヌ・ドヌーヴ共演の『哀しみの伯爵夫人』(74年)、上流階級の夫人とその召使が無人島にたどり着き、主従の関係が逆転して愛を確かめあうという『流されて…』(74年)などで、当時人気急上昇中だったイケメン俳優です。

バイ・セクシュアルとして知られるヴィスコンティ作品における若き男性の主役を務めてきたのは、『白夜』(57年)、『異邦人』(67年)のマルチェロ・マストロヤンニ、『若者のすべて』(60年)、『山猫』(64年)のアラン・ドロン、愛人でもあった『地獄に堕ちた勇者ども』(69年)、『ルートヴィヒ』(72年)、『家族の肖像』(72年)のヘルムート・バーガー、『ベニスに死す』(71年)のビョルン・アンドレセン、そろいも揃った美男子ばかりです。この遺作となった『イノセント』で上記の馴染みの俳優を用いず、ジャンニーニを抜擢したのは、イケメンだということはもちろんですが、それだけ彼がトゥリオ伯爵にはまり役だったということに他ならないでしょう。

ヒロインの伯爵夫人役は、これまたヴィスコンティ作品に初登場となるラウラ・アントネッリです。アントネッリといえば、『青い体験』(73年)、『続青い体験』(75年)などでの脱ぎっぷりで、日本でも人気だったセクシー女優です。とても格調高いヴィスコンティ作品にふさわしいとはいえない役ばかりを演じてきたわけで、全く想定外の配役です。そのアントネッリが、純情で、気品のある伯爵夫人に化けてしまうのですから、ヴィスコンティの演出は流石としかいいようがないです。『セッソ・マット』(73年)でジャンカルロ・ジャンニーニと9組のカップルに扮するオムニバスで息のあったところを見せていたことから抜擢されたのかもしれませんが、結果的にはこれ以上ないというぴったりな配役となっています。

そしてゴージャスな愛人役は、またまたヴィスコンティ作品初登場のジェニファー・オニールです。美しい年上の女性への憧れを描いた青春映画の傑作『おもいでの夏』(71年)のヒロイン役で知られる美人女優です。公爵夫人という貴族の役に、ヨーロッパの女優ではなくおそらく初めてであるアメリカの女優(ブラジル・リオデジャネイロ出身ではありますが)を抜擢したことも、驚きでした。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『イノセント』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、20世紀初頭のローマのある貴族の館で始まります。トゥリオ伯爵(ジャンカルロ・ジャンニーニ)は、社交界におけるゴシップの提供者でした。結婚して数年たつ可憐な妻のジュリアーナ(ラウラ・アントネッリ)には、「君への愛は妹へのようなもので常に感謝している」と語り、美貌の未亡人である公爵夫人テレザ(ジェニファー・オニール)に夢中でした。テレザは男をつなぎとめるためにわざと嫉妬をさせるなどの手管を使うので、トゥリオは振り回され続けていました。そして彼女を独占するために、ジュリアーナを置いて二人でフィレンツェへと旅立ったのです。

一方、ローマの伯爵邸には、弟のフェデリコが友人の作家のフィリポ(マルク・ポレル)を連れて里帰りしてきました。ある事件をきっかけに、ジュリアーナとフィリポは互いに惹かれあうようになっていきます。フィレンツェから戻ったトゥリオは、ジュリアーナの明るい表情に驚き、不審を抱きます。オークションにでかけるといったジュリアーナが来ていなかったと聞いたトゥリオは、急に妻への愛情にかられ、強引に別荘に連れて行き愛を求めるのでした。

そして、ジュリアーナが妊娠したと聞いたトゥリオは、子供が自分の子ではないと直感します。跡継ぎができたことを嬉ぶ母やフェデリコに打ち明けることができないトゥリオは、苦悩を深めていきます…。

『イノセント』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

この後ストーリーは一気に展開していき、あっと言わせる事件が次々に起こり、エンディングへと向かっていきます。

『イノセント』が教えてくれることは、「二兎を追うものは一兎もえず」、「自業自得」、「愛されている時は愛していることに気付かないが、愛を失って初めて気付く」などの、当たり前といえば当たり前のことです。

ここで将来の起業家・アントレプレナーの方に特に理解して頂きたいのが、まずは自分勝手な行動への戒めでしょう。みなさんは起業した会社の社長や重役となるわけです。社員の見本となるべき方がトゥリオのような行動を取ると、部下はついてくるでしょうか

筆者の経験でも、頭のよい方は特に口が立つので自分に有利な言い訳を考えついて相手を言い負かして納得させたと思いこんでいるようですが、実は相手は納得などしていなく不満を募らせているわけで、競合他社や協業企業への転職につながっていくことが多いです。経営者としては、自分勝手な行動は慎むべきでしょう。

ジュリアーナにあれだけ勝手放題のことをしておきながら、いざ彼女に愛人ができると独占したくなり、もうテレザなどはどうでもよくなるのです。甘やかされた男というのはどうしてここまで子供なのだろうと恐ろしくなります。

ご自分はこんな自分勝手な人間ではないと思っていらっしゃる起業家候補の方も多いでしょう。しかし、起業・スタートアップを成功させたみなさんが、甘やかされたどうしようもない人物になってしまう誘惑が多いのが現実なのです。

そして、嫉妬への戒めも教示しています。ジャンカルロ・ジャンニーニの嫉妬にかられたトゥリオの演技には、鬼気迫るものがあります。フェンシング場で偶然にも対戦したフィリポの裸をこの身体を妻が愛しているのかと見つめるそのやるせない表情は、『存在の耐えられない軽さ』で夫の愛する女性であるサビーナの肉体をねっとりと観察しながら写真に収めるシーンでのテレーザのものとそっくりです。

妻に非があるならまだしも、自分勝手な行動への因果応報なのですから、文句などいえる立場ではないのか明らかです。経営者になって持て囃されて伴侶を顧みず、トゥリオのような不倫に陥っていたことのある経営者は非常に多いです。自分に非があるのであれば、嫉妬するどころか許すという寛容さが起業家・アントレプレナーには必要でしょう。

ヴィスコンティならでの映像美は、『イノセント』でも遺憾なく発揮されています。さらに、『ベニスに死す』(71年)、『家族の肖像』(74年)に続き音楽を担当したフランコ・マンニーノによるオリジナル曲や、モーツァルト、ショパン、リストなどの楽曲に浸ると、まさに20世紀初頭へタイム・スリップした気分が味わえるでしょう。

難解なヴィスコンティ作品にしてはストーリーも非常に分かりやすく、絢爛豪華な20世紀初頭のイタリアの上流階級の生活も忠実に再現されています。美術やインテリア愛好家、旅行やファッション好きの方、恋にお悩みの方には特にオススメできる作品です。

著者:ポッシュF
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもあり、今井氏と並ぶトップFXアナリストの西原宏一氏につけられたあだ名がポッシュ。FはFXのF。