起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『太陽がいっぱい』

掲載:2020/9/28

最終更新日:2020/09/28

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、傲慢への戒めと因果応報を哀愁漂うテーマ曲と共に教示してくれる『太陽がいっぱい』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『太陽がいっぱい』の概要

『太陽がいっぱい』は、野心家の青年が金持ちの青年に成り代わろうという完全犯罪を描いたパトリシア・ハイスミスの同名ベストセラーをフランスの巨匠ルネ・クレマン監督が映画化した傑作サスペンスです。ニーノ・ロータの哀愁を帯びたトランペットのテーマ曲と共に、日本でも大ヒットとなった1960年の名作です。

ルネ・クレマン監督は、カンヌ国際映画祭のグランプリと監督賞に輝いたナチス占領下のフランスの鉄道従業員組合のレジスタンス活動を描いた『鉄路の闘い』(46年)、カンヌ国際映画祭監督賞とアカデミー外国語映画賞を受賞した『鉄格子の彼方』(49年)、いたいけな子供たちを通して戦争の無残さを訴えたヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、アカデミー外国語映画賞などに輝く『禁じられた遊び』(52年)などの社会性や芸術性の高い作品で巨匠と呼ばれていました。

この『太陽がいっぱい』は実は初めてのサスペンス作品であり、以降サスペンスなどを中心に娯楽性の高い作品を多くてがけるようになったという批判もあります。しかし、クレマンならではの、一癖も二癖もあるキャラクターの難解な心理状態を描いたチャールズ・ブロンソン主演の『雨の訪問者』(70年公開)、フェイ・ダナウェイ主演でパリを舞台にある組織の陰謀とアメリカ人夫妻の内面心理を見事に描いた隠れた名作『パリは霧にぬれて』(71年公開)、 ジャン=ルイ・トランティニャンとロバート・ライアンがいぶし銀の名演をみせているフランシス・レイの映画音楽が哀愁を誘う『狼は天使の匂い』(72年公開)など、その後の作品も傑作とはいえないまでも、全て一見の価値のある秀作といえるでしょう。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes視聴者3,176人による平均スコアは4.12、一流新聞や雑誌の映画欄担当の評論家10人の平均も8.11と、プロからも一般からも高く評価されている作品です。

主人公の野心家の青年トム役が、アラン・ドロンですこの作品と前後して制作されたルキノ・ヴィスコンティのネオ・レアリズモの名作『若者のすべて』(60年公開)で貧困からなりあがろうとする主人公のロッコ役に抜擢され、注目されつつありました。しかし、一般にはまだ無名の存在でした。この『太陽がいっぱい』で陰を帯びた哀しき美青年を演じ、一気に世界的大スターへとしてブレイクを果たしました。そして数年後にはモニカ・ヴィッティ共演のアントニオーニ監督の難解な恋愛作品『太陽はひとりぼっち』(62年)、シシリアの公爵家を舞台に旧世界から新世界への時代の移り変わりを描いたバー ト・ランカスター主演のヴィスコンティ監督の傑作『山猫』(63年)、ジャン・ギャバン共演のフィルムノワールの名作『地下室のメロディー』(63 年)、フランス革命前夜を舞台に庶民を助けるヒーローの活躍を描いた『黒いチューリップ 』(63年)などでフランスを代表するスター俳優としての地位を手に入れることとなります。

ヒロインのマルジェ役は、マリー・ラフォレです当時無名でしたがこのマルジェ役の可憐さで一気に人気となり、『赤と青のブルース』(61年)もヒットとなりました。しかし、以降は作品に恵まれなかったのは残念です。

金持ちの青年のフィリップ役はモーリス・ロネです。やはり完全犯罪を描いたヌーヴェルヴァーグの先駆的作品として映画史に残るルイ・マル監督作品『死刑台のエレベーター』(58年)で既に人気を確立していましたが、この『太陽がいっぱい』でさらに飛躍し、63年にはアルコール依存症の男が自殺に至るまでの48時間を描いた、再びルイ・マル監督と組んだ『鬼火』で、主役を演じることとなります。2015年に『胸騒ぎのシチリアとしてリメイクされた『太陽が知っている』(69年)では再度アラン・ドロン演じる主人公の手にかかる役に抜擢されたのも、この『太陽がいっぱい』のイメージからでしょう。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『太陽がいっぱい』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、イタリア・ナポリで始まります。貧乏なアメリカ人青年トム(アラン・ドロン)は、放蕩息子のフィリップ(モーリス・ロネ)を連れ戻してくれと父親から頼まれ、大金を報酬としてもらいナポリにやってきたのでした。フィリップは、やはり放蕩息子の友人のフレディらと遊び暮らしていました。トムは、彼等の仲間に加わります。トムは、マルジェ(マリー・ラフォレ)というフィリップの美しい婚約者に惹かれます。フィリップはトムにはアメリカに帰るといいながらその気はなく、父親への約束の手紙を出さなかったために、トムの契約は打ち切られてしまいました。

友人のパーティーに向かうためフィリップ、マルジュ、トムの3人はヨットで外洋に出ます。フィリップはトムに対して残酷となり、トムは遂には裸で救命ボートに数時間も放り出され、背中が火傷のように日焼けしてしまいました。こうしてトムはフィリップに殺意を抱くことになるのでした…。

『太陽がいっぱい』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんに実践していただきたいのは、傲慢という感情を押し殺すことです。傲慢は、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰と共にキリスト教の7つの大罪の一つです。今後みなさんの事業がうまくいき、エグジットや上場まではいかなくとも、お金持ちになってくると、いつの間にか知らないうちに偉そうになってしまうのが人間の常です。この映画のフィリップのようにあからさまではなくとも、知らず知らずのうちに傲慢な、他人を見下す態度を取ってしまうことが起きるのです。

例えば軽井沢に別荘を買ったとか、ポルシェを購入したとかの話を世間話でしたとしましょう。自分では傲慢な態度だと思っていなくても、相手が思ってしまうとどうなるでしょうか?部下にそう取られてしまうと、裏切られることとなります。

筆者自身の体験としても、こうした例は自分だけでなく、周囲の社長仲間の間でも起きていたということを理解していただきたいです。実際は傲慢でなくとも、そのように思われ、裏切られてしまうのは、この映画でのトムに芽生えたように、他の7つの大罪である嫉妬を生んでしまうからなのです。

シニア・女性などの起業・スタートアップを目指す閲覧者の方は、これを機に、キリスト教の7つの大罪に当てはまるものがあるならば、起業前から直していってはいかがでしょうか?どれももっともと思える罪であり、今後のみなさんの成功の妨げになるでしょうから。

映画の内容に話を戻すと、この作品の最大の魅力は、やはりパトリシア・ハイスミスの原作を基にした脚本の素晴らしさにつきるでしょう。その最後まで息をつかせぬ、ハラハラし通しの展開は、近年の作品ではなかなか経験できないものです。

次には、やはりアラン・ドロンと彼が演じたトムというキャラクターの魅力が挙げられるでしょう。これほどの頭脳と才能、美貌を持っていながら、貧しさからくる嫉妬と差別され傷ついたプライドなどから犯罪に走ってしまう哀しさ。天使のような顔をしながら、悪魔のような計画を考えるギャップ。当時のアメリカ映画では見られない非常に複雑なキャラクターだといえるでしょう。

トムではなく、原作ではリプリーというキャラクターは原作者のハイスミスのお気に入りのようで、シリーズ化されています。本作を99年にマット・デイモン主演でリメイクされた『リプリー』、続編である第3作を映画化したデニス・ホッパー主演でドイツの名匠ヴィム・ベンダース監督作品の『アメリカの友人』(1977年)とそのリメイクのジョン・マルコヴィチ主演でイタリアの名匠リリアナ・カヴァー二監督による『リプリーズ・ゲーム』(2003年)が、映像化されています。

そして、この作品と『赤と青のブルース』でしか見ることができない可憐なマリー・ラフォレの魅力はやはり見逃せません。やはりドロン主演の『冒険者たち』(67年)における、ジョアンナ・シムカスと並ぶ可愛らしさです。

さらに、ヨットでの外洋やナポリでの太陽の輝き、ノーベル文学賞受賞のアルベール・カミュの小説『異邦人』(42年)の主人公ムルソーが「太陽が眩しかったから」殺人を犯してしまったように、人を狂気にかりたてるぎらぎらとした太陽の輝きも、トムの殺人の動機の複合要因として忘れてはならないでしょう。

そして、ネタバレになるので詳しくかけませんが、フィリップだけでなくトムも、キリスト教の7つの大罪を犯したことにより、神により罰を与えられることとなります。筆者の経験でもこれは絶対だと思える、因果応報について示唆してくれています。恵まれた環境に生まれたフィリップ、素晴らしい才能と美貌を与えられたトムが、ウイン・ウインではなくルーズ・ルーズになってしまうのですが、みなさんにはこうした場面に遭遇した際には、ぜひウイン・ウインにつながる他の道を模索して頂きたいと思います。

このトムの屈折した哀しい心情を代弁しているかのように観客の心にしみじみと染み入ってくるニーノ・ロータの哀愁を帯びたメロディーが映画の大きな魅力となっているのも、間違いないでしょう。フェリーニの『道』、デシーカの『ひまわり』などと同様に、『太陽がいっぱい』といえばロータのテーマ音楽が自然と思い出されてきます。この時代の映画における映画音楽の重要性を、改めて認識させられました。

美男美女とイタリアの美しい風景、地中海の青い海と空に、旅情も駆り立てられます。最高の娯楽作品といえるでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

ご相談・お申込み