映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『存在の耐えられない軽さ』9点

2020/10/07

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、ビジネス・エシックスや不倫に直面した際にどう対処すべきかを教示してくれる『存在の耐えられない軽さ』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『存在の耐えられない軽さ』の概要

『存在の耐えられない軽さ』は、当時欧米では作家として最も尊敬を集めていた一人であるチェコのミラン・クンデラの同名ベストセラー小説(1984年)を映画化した1988年の傑作です。実際に共産党批判の中心メンバーだったクンデラが、ソ連の軍事介入事件「プラハの春」を背景に、愛とは何かを哲学的に問うた非常に質の高い作品です。

小説ほどではないにしろ、映画のほうもNASAの創成期に音速の壁に挑戦し続けた7人の飛行士の生き様を描いたサム・シェパード主演の名作『ライトスタッフ 』(83年)をてがけたフィリップ・カウフマン監督ならではの、完成度の高い作品に仕上がっています。

カウフマン監督はこの作品の後に、無名時代の作家ヘンリー・ミラーとその妻ジューン、愛人の人妻のアナイス・ニンの3人の奇妙な愛を描いた『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』(90年)、マルキ・ド・サド侯爵の晩年を描いた秀作『クイルズ』(00年)などのエロテッィクな描写も多い作品を発表していきます。しかし、『存在の耐えられない軽さ』については、そうしたエロティックな部分ばかりを強調していた文化後進国日本のメディアは、まさしく「存在の耐えられない軽さ」そのものでした。

米国最大の映画批評サイトRottenTomatoes聴衆19,471人による平均スコアは4.08、26人の批評家のスコアは7.99であり、一般にもプロにも高く評価された作品となっています。

主人公のプレイボーイの名外科医トマシュ役は、イギリスの美男俳優ダニエル・デイ=ルイスです。移民問題と友情を描いた『マイ・ビューティフル・ランドレット』(85年)でアカデミー主演男優賞を、フィレンツェを舞台に階級の異なる男女の恋を描いた『眺めのいい部屋』(85年)でニューヨーク映画批評家協会助演男優賞を受賞し、人気急上昇中でした。この作品で、ハリウッド進出を果たしました。ルイスはその後も『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07年)、『リンカーン』(12年)でもアカデミー主演賞を受賞、3度受賞の史上初の快挙を成し遂げ、世界一の演技派俳優となりました。

トマシュを一心に愛するテレーザを可憐に演じ、国際的スターの地位を確立したのが、ジュリエット・ビノシュです。三人の男性に同時に愛される女性を演じセザール賞の主演女優賞にノミネートされた『ランデヴー』(85年)、レオス・カラックス監督の問題作『汚れた血』(86年)でヒロインを演じ、フランスでは既に若手人気女優として注目を集めていました。

そして、プレイーボーイのトマシュが最も気を許すセクシーな美女サビーナを、スウェーデン国内でしか知名度のなかったレナ・オリンが魅力的に演じ、一気にブレイクを果たしました。

特にサビーナの鏡の前でのトップハットをかぶってのストリップ・シーンや、嫉妬するテレーザが夫の愛する女性であるサビーナの肉体をねっとりと観察しながら写真に収めるシーンが大きく話題となり、この偉大な作品が日本ではエロ映画としてマスコミで騒がれたのは慚愧に堪えなかったことを、記憶しています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『存在の耐えられない軽さ』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、68年の「プラハの春」前夜のチェコのプラハで始まります。有能な脳外科医トマシュ(ダニエル・デイ・ルイス)は多くの女性とつきあっている独身のプレイボーイです。特に自分をまったく束縛をしてこない画家のサビーナ(レナ・オリン)との、トップ・ハットをかぶらせた鏡の前での情事が一番のお気に入りでした。

しかし、急遽代行ででかけた出張手術先の田舎町で、トマシュはカフェのウェートレスのテレーザ(ジュリエット・ビノシュ)と出会います。「アンナ・カレーニナ」などの小説を読むことを好み、この田舎町で自分に合うような教養の高い男性はいないと考えていたテレーザは、トマシュの本を読むインテリな姿に惹かれ、運命の人だと思い込み、突然トマシュのプラハのアパートに押しかけてきます。女性を部屋には泊まらせない主義を貫いていたトマシュだったのですが、その小動物のように自分を頼ってきた、熱があったテレーザを追い返すこともできず、なぜか同棲生活を始めてしまいます。

トマシュがサビーナに頼み込み、写真家としての仕事を始めたテレーザですが、トマシュの女性遍歴は変わらずに続き、苦しみます。一方、共産主義を皮肉った文章を書いていたトマシュは、ソ連軍のチェコ侵攻が始まり、亡命を余儀なくされます。サビーナに続き、トマシュもテレーザを伴ってスイスのジュネーブに亡命を果たしました。

しかし、ジュネーブに移ってもハンサムな外科医のトマシュは女性にもて続け、テレーザの苦悩は収まりませんでした。テレーザは遂に愛犬アンナ・カレーニナを伴いチェコへと戻ってしまいます。それを知ったトマシュはの気持ちは、複雑でした。テレーザがいなくなり自由を手にいれほっとした反面、いなくなったことで初めて愛する女性を失ったという寂寥感が襲ったのです。それまでのトマシュは女性を肉体的にしか愛していなかったからです…。

共産党批判をしているトマシュがチェコに戻るのは非常に危険なことでした。しかしテレーザへの本当の愛、精神的な愛からプラハへ戻るという決断を下すのです。そこでトマシュを待っていたのは共産党への転向の強要、スパイの監視、そして外科医として働けなくなるという制裁でした。テレーザへの愛を選んだ代償はあまりに大きく、掃除人として働き始めることになります。しかし、それでも女性にもてて、浮気をやめないトマシュにテレーザは女性の存在しない田舎への転居を提案します。それでもトマシュはテレーザについていくのでしょうか?それとも自由な恋愛を楽しむ道を選ぶのでしょうか、または転向して外科医に戻るのでしょうか…? 衝撃的なクライマックスへと進んでいきます。

『存在の耐えられない軽さ』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

テレーザに会う前のトマシュは、女性を肉体的な愛の対象としてしか見ていない最低のプレイボーイでした。しかし、テレーザと出会い本当の精神的な愛を知ることで、プラハに戻り、外科医であるという高い収入と社会的地位までを棒に振るのです。

トマシュのテレーザの愛は、もちろん本物です。しかし、精神的にテレーザをそこまで愛していることと、肉体的に他の女性を求めてしまうことはトマシュにとって全く別物なのです。テレーザにはそれが理解できず、自分も浮気を試みるがうまくいきません。ここでお互いに肉体的に浮気をする関係が成立すれば、二人はスイスで幸せに暮らしていけたのでしょうが….。トマシュに精神的に愛されていると分かっていながら他の女性を肉体的に愛するトマシュを許すことができず、テレーザは苦しみ続けるのです。

『存在の耐えられない軽さ』はこの、精神的な愛と肉体的な愛は両立するのか、それとも別物なのかについて問いかけています。特に夏の1ヶ月以上のヴァケーション先などでのランデブーが盛んなヨーロッパでは、多くの人が自分に問いかけ続けている重要な問題であり、ベスト・セラーになった理由の一つといえるでしょう。

ここで将来の起業家・アントレプレナーのみなさんは、御自分が成功した時に起きうるトマシュのような立場になった際にどう行動すべきかを考えさせることになります。エグジットやIPOを果たした際には、億万長者となり、伴侶以外に心を惹かれることも起きると思います。突然モテ期がやってくるわけです。その際に、精神的な愛と肉体的な愛を別に考えるのか、それとも長く自分を支えてくれて内助の功でエグジットやIPOに導いてくれた伴侶の気持ちを優先するのか、みなさんはどうされるのでしょうか?将来の成功を考えながらこの映画を鑑賞するのも有りかもしれませんね。

そして、トマシュがとった自由と医者であるという地位を保証されたスイスから、危険分子として扱われ医師としての職も奪われる危険のあるチェコへと戻るという決断。この崇高な決断が、大きな感動を呼びおこします。こんな決断ができるエリートの方が日本にはどれほどいるのでしょうか?そして、外科医という地位と収入を捨てることになっても転向宣言を決して行わないという自分の主義を曲げない生き方をどれだけの人ができるのでしょうか?

起業・スタートアップを目指す方は、将来ビジネス・エシックス(企業倫理)の問題にぶつかることもあるでしょう。神様から罰せられるという観念がゆるく無宗教だということもあるのでしょうが、日本ではスルガ銀行とかぼちゃの馬車事件などに代表されるように、企業倫理の概念がゆるく、こうした不正融資問題などの不祥事が頻繁に起きています

サラリーマンの場合は、生きていくために仕方がないという側面もあるのかもしれません。しかし、みなさんは起業すれば企業のトップに立つわけですから、ビジネス・エシックスをどうするかは、読者の方次第なのです。

トマシュは、トップ病院の医師から掃除夫に落ちることになっても、共産主義に加担するという転向はありえないという決断を下しました。これからスタートアップされる閲覧者の方が、利益を上げるためであっても不正なことは絶対に行わないという経営者になっていただけると、日本も企業倫理の面で世界水準に近づいていけるのではないでしょうか?

愛について考えさせられるという点で、この作品を凌ぐ作品はないのではないでしょうか?本当の愛を知らずに、肉体的な愛にうつつを抜かしている医師を含めたプレイボーイの方には、必見の作品でしょう。また、プレイボーイの彼氏と付き合って苦しんでいる女性が見ていただくと、恋愛についての認識が変わるかもしれません。映画史に残る作品といえるでしょう。

著者:ポッシュF
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもあり、今井氏と並ぶトップFXアナリストの西原宏一氏につけられたあだ名がポッシュ。FはFXのF。