起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『アギーレ神の怒り』

掲載:2020/10/14

最終更新日:2020/10/14

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、株式市場に評価されるワンマン経営者ではなく部下に愛される経営者になるべきだが、起業は簡単に諦めてはならないと教示してくれる『アギーレ 神の怒り』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『アギーレ 神の怒り』の概要

『アギーレ 神の怒り』は、ヴェルナー・ファスビンダー、ヴィム・ヴェンダースと並んでニュー・ジャーマン・シネマを代表する監督の一人であるヴェルナー・ヘルツォーク監督による72年の作品(日本では岩波ホールで83年に公開)です。16世紀の南米を舞台に、黄金郷エル・ドラドを目指してさまよう、実在したスペインの狂信的なコンキスタドールの副官の生き様を描きました。『ゴッドファーザー』 で知られるフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(79年)、特にマーロン・ブランド演ずるカーツ大佐の狂気じみたキャラ作りに影響を与えたことでも知られています。

Time誌やローリング・ストーン誌では歴代ベスト100映画に、Empire誌では歴代映画で19位にランクインされるなど、欧米では名作とされています。米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆24,302人による平均スコアは4.5、プロの10人の批評家のレーティングは9.22と、芸術映画としてはありえないほどの驚くべき高評価となっています。

主役の副官アギーレ役は、ドイツの性格俳優クラウス・キンスキーです。プロの批評家も彼以上にはまり役はいないと絶賛し、この『アギーレ 神の怒り』で一挙にスターダムに躍り出ました。以降、ヘルツォーク監督、キンスキー、おどろおどろしい音楽を奏でるポポル・ヴーのトリオは、吸血鬼ドラキュラ映画のリメイク『ノスフェラトゥ』(78年)、アマゾンの奥地にオペラハウスを作るという夢を持った一人の男の生き様を描いた『フィツカ ラルド』(82年)、奴隷監督からアフリカ総督にのし上がったコブラ・ヴェルデと呼ばれた男の生き様を描いた『コブラ・ヴェルデ』(87年)などの名作を世に送り続けました。そしてキンスキーは、狂信的な男や吸血鬼などを演ずると右に出るものがないと呼ばれるようになっていきます。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『アギーレ 神の怒り』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、1560年の南米ペルーのジャングルで始まります。インカ帝国を征服したピサロの異母弟ゴンザロ・ピサロが率いるスペインの征服者たちが、黄金郷エル・ドラド発見のため、アマゾンの奥地めざしていました。周囲の地理を調査するため、ピサロは40人ほどの分遣隊を組織します。ウルスアを分遣隊長、副官にアギーレ(クラウス・キンスキー)を任命しました。分遣隊にはウルスアの愛人イネス(エレナ・ロホ)、15歳になるアギーレの娘フロレス(セシリア・リヴェーラ)、僧侶カルバハル、貴族のグズマンも加わっていました。

三隻の筏に分乗した分遣隊は、エル・ドラドをめざして川を下り始めます。筏の一つが渦に巻き込まれ、乗っていた9人の兵士は、夜の間にインディオに惨殺されていました。増水のため残りの筏も流されてしまい、アギーレは部下に新たに筏を作るように命じます。しかし、ウルスアは本隊へもどることを主張し、二人は対立します。アギーレはウルスアを撃ち傷を負わせ、グズマンをエル・ドラド国皇帝に任命します。

新しい筏にウルスアも含めて全員が乗り込み、再びエル・ドラドを目指しました。途中川べりの村が燃えていたので調査のために上陸しますが、貪り食われた人間の骸骨を見て、筏に逃げ戻るのでした。流れが止まり、灼熱の太陽が降り注ぐ中、兵士達は飢餓とインディオたちに監視されているという恐怖から、次第に狂気に落ちていきます。友好的にみえる男女二人のインディオが接近してきましたが、僧侶カルバハルがさし出した聖書を二人が放り出すと、兵士達は神を冒涜したといって二人を惨殺するのでした…。

『アギーレ 神の怒り』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

本隊に引き返そうという隊長ウルスアを撃ち、エルドラドを見つければ大金持ちになれると扇動し、反対するものは殺すというアギーレのやり方は、まさにナチの独裁者であったヒトラーを彷彿させます。さらに、飢餓や疫病などでどんどん部下を失っていく中でもスペインから独立して自らの王国を創ろうというアギーレのどんどん膨れ上がる妄想は、第二次世界大戦で状況がどんどん不利になっても世界帝国への野望を捨てなかったヒトラーに重なって見えます。ドイツ人監督であるヘルツォークがアギーレを通して描きたかったのは、まさにヒトラーの狂気と妄想ではなかったのでしょうか?

起業・スタートアップを目指すみなさんに気付いて頂きたいのは、経営者は独裁者になってはいけないということです。

世間で高く評価されている経営者の方はじつはワンマン経営者が多いことは、将来の起業家・アントレプレナーである閲覧者の方はご存知だと思います。しかし、業績がよく株式市場から高く評価されていても、部下からの評判はあまりよくない場合もあるようです。この映画のアギーレに対してと同様に、部下は畏怖心と恐怖心からついていっているだけなのです。みなさんには、株式市場よりも部下に愛される経営者になって頂きたいと思います。

アギーレには、素晴らしい点も、もちろんあります。どんなに困難な状況でも諦めず、王国建設という夢を捨てないことです。起業後には多くの苦難が待ち受けているでしょうが、数年はどんなに辛くても目標達成に邁進するという覚悟は、必要となるでしょう。スタートアップのほとんどは失敗してしまうわけですので、周囲から狂気だと思われながらも事業を続けていく覚悟を、アギーレから学べるかもしれません。

アマゾン河の激流などの自然の脅威、熱病やインディオの襲撃などと闘いながらエルドラドを目指すその姿は鬼気迫るものがあり、ただただ圧倒させられます。幻想的な音楽の中、険しい岩肌をアリのように行進していく長い人間の列が続く冒頭のシーンから、画面に引き込まれていきます。

この『アギーレ 神の怒り』は、ヘルツォーク、キンスキー、ポポル・ヴーのトリオによる最初の作品であり、その三者が織り成す独自の世界には、ただ目を見張るしかありません。自らの食料や撮影器材を実際に運びながら撮影されたドキュメンタリーでしか見られない世界遺産のマチュピチュを含むアマゾン奥地の美しい風景、ポポル・ヴーの幻想的な音楽、ヘルツォークが生み出しキンスキーの演ずる狂気が見事に合わさり、伝説的なカルト作品と呼ばれるようになりました。

スペインのコンキスタドール(征服者)を通じてヒトラーのような狂気と妄想、それに従った人々の悲惨な末路を冷ややかに描いた傑作です。起業家・アントレプレナーだけでなく、映画ファンならば必ず見なければならない作品の一つといえるでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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