映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『ダークナイト』9点

2020/11/04

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、起業家であるブルース・ウェインから経営者の現実と苦悩を学ぶことができる『ダークナイト』について、将来のアントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『ダークナイト』の概要

『ダークナイト』は、英国人であるクリストファー・ノーラン監督による新しいバット・マンシリーズの第2作目の作品です。2008年に公開されました。第1作目の『バットマン ビギンズ』(05年)に続き、単なる勧善懲悪の正義の味方としてではなく、正義を守るために法を犯し、批判され、苦悩する一人の人間としてのバットマン像を形成しています。

『ダークナイト』は、今や最も人気のある監督の一人となっている『アリス・イン・ワンダーランド』などで知られるティム・バートン監督がジョーカー役に当代きっての名優ジャック・ニコルソンを起用した名作『バットマン』(89年)をしのいだと評判になり、当時のアメリカでは『タイタニック』に次ぐ全米映画史上2位となるとなる興行収入を記録しました。日本では残念ながらアメリカの30分の1ほどの17億円にすぎませんでしたが…。

しかし、デカプリオ主演の『インセプション』(2010年)、SF作品『インターステラー』(2014年)などで、近年はノーラン監督作品が日本でも特に若年層の間で人気が高まってきたのは、嬉しいです。音楽は、前作に引き続き『パイレーツ・オブ・カリビアンシリーズ』、『バットマン・シリーズ』などで知られる現代のハリウッドを代表する映画音楽家のハンス・ジマーが担当しました。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆1,831,56人による平均スコアは4.45、63人の雑誌や新聞の映画欄を担当するプロのレーティングも8.13と、一般にもプロにも高く評価される作品となっています。

前作に続きバットマン/ブルース・ウェイン役は英国俳優のクリスチャン・ベイルです。13歳の時にスピルバーグ監督の『太陽の帝国』(87年)で主演を務め脚光を浴び、成人後も新聞記者役のグラム・ロックのスターを描いたユアン・マクレガー共演の秀作『ベルベット・ゴールドマイン』(98年)、殺人鬼のインベスト・バンカーを怪演したサイコホラー『アメリカン・サイコ』(00年)、『バットマン ビギンズ』(05年)で演技派俳優として注目されていました。

バットマンの警察における理解者であるゴードンを『レオン』などの性格俳優ゲイリー・オールドマン、ウェインの忠実な執事アルフレッドをイギリス映画界の重鎮のマイケル・ケイン、バットモービルなどを開発するバットマンの正体を知るフォックスを『ミリオンダラー・ベイビー』でオスカーの助演賞を獲得したアフリカ系アメリカ人大物俳優のモーガン・フリーマンが引続き演じています。

さらに今回は、この作品の公開前に亡くなり死後にアカデミー助演男優賞を受賞することとなったヒース・レジャーが宿敵ジョーカーとして、『ブラック・ダリア』(06年)や『サンキュー・スモーキング』(06年)などの演技で人気急上昇中だったアーロン・エッカートがブルースの恋敵で表の世界での正義の味方の地方検事ハービー・デントとして、ウェインのかつての恋人である検事補のレイチェルとしてマギー・ジレンホールが新たに加わっています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『ダークナイト』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、実の正体がバットマンでもある大富豪ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)がゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)と協力して治安を守っているゴッサム・シティにジョーカー(ヒース・レジャー)と名乗る新たな悪人が現れるところから始まります。

犯罪そのものを楽しみ、銀行強盗を行うと手下を殺して大金を独り占めにする狂気は、尋常ではありませんでした。一方ウェインも、執事のアルフレッド(マイケル・ケイン)とバット・モービルなどを開発する現在はウェインの会社の社長を務めるフォックス(モーガン・フリーマン)にサポートされながら、マフィアのマネー・ロンダリングの摘出に成功しました。そして、ウェインにとってかけがえのない味方が現れます。

新任の地方検事ハービー(アーロン・エッカート)は犯罪の撲滅を訴える正義感から、「ホワイトナイト(光明の騎士)」と呼ばれるようになり、ウェインのかつての恋人である検事補のレイチェル(マギー・ギレンホール)と共に悪に立ち向かっていきます。しかし、ジョーカーが「バットマンを殺す」と宣言、正義を叩き潰し、人々が苦しむ様子を楽しむために行動を開始します。そして「バットマンは自分だ」と宣言して囮になったハービーを追うジョーカー、ジョーカーを追うバットマンの対決が遂に始まります。バットマンの甘さのためにハービーとレイチェルがジョーカーに捕らえられ、別の場所に監禁されてしまい、バットマンはどちらを助けるかの選択を迫られるのでした…。

『ダークナイト』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

それでは、なぜ『ダークナイト』がアメリカでこれほどの大ヒット作品となったかを考えていきましょう。

まず、第一に、『ブラック・レイン』(89年)での松田優作のような、死期の迫ることを知ってかの鬼気迫る演技で観客を恐怖に陥れたジョーカー役のヒース・レジャーの名演が挙げられるでしょう。ジャック・ニコルソンがなぜ俺を起用しないのかと怒ったということですが、これほどの演技を果たしてできたかどうかと、疑問が残ります。

第二には、映画全編をおおう重苦しい雰囲気の中、めまぐるしく予測が不可能といっていいほど変化するストーリー展開があるでしょう。バットマンの思考の裏をかき助ける相手を違わせてしまうジョーカー、正義の味方だったはずのハービー・デントをダーク・サイドに引き込もうとするジョーカー、お金目当てだとマフィアに思わせたが実はそうではなかったジョーカーと、すべてジョーカーがからんでくるのですが、152分という近年の映画では長すぎる上映時間があっという間に過ぎてしまいます。

第三には、その大人向けのリアルさがあるでしょう。考えてみれば当たり前なのですが、警察でもないのに犯罪者を勝手に裁き、バットモービルのような違法車両でスピード違反と器物破損を繰り返すバットマンのような人物が現実に存在したら、法を犯すアウトローとなってしまいます。おとぎ話の中のヒーローであるバットマンを現実に照らして描いた点が、このシリーズの真骨頂といえるでしょう。実話の中では、ヒーローもヒロインも不死身ではないわけです。

そして最後の理由は、バットマンを苦悩する一人の人間として描いた点でしょう。ここでのバットマンは、恋に悩み、自分が法を犯していることに苦しみます。そして、恋のライバルで正義の味方でもある地方検事ハービー・デントを人間として認め、好きでありながら、嫉妬もします。さらに犯罪者であるジョーカーに自分との相似点を指摘され、自分の持つダークサイドを認めてしまうのです。ヒーローであるはずのバットマンも、実は皆と変わらない一人の青年なのです。こうした苦悩するバットマンに、アメリカ人は感情移入をすることができたのではないでしょうか?

将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんには、経営者であるブルース・ウェインと街を守ろうというミッションを抱くバットマンの姿から、利益を追求する経営者でありながら相反する社会貢献に務めるという理想の起業家像を学ぶことができるでしょう。そして、経営と社会貢献、恋愛などを両立させるのがいかに困難なのかが、ご理解頂けるのではないでしょうか?

『ダーク・ナイト(暗黒の騎士)』というタイトルが、バットマンが最早真っ白なイメージの正義の味方ではなく、ダークサイドを持つ正義の味方であることを暗示しています。そして劇中では、法を犯すことなく表舞台で真っ向から悪に立ち向かう地方検事ハービー・デントが、「ホワイト・ナイト(光明の騎士)」として紹介されています。

ヒロインのブルースの幼馴染のレイチェルの心が二人の間で揺れ動くのも、当然ということでしょうか?そして、正義の味方であるナイトという意味でバットマンとハービー・デントには共通点がありお互いを理解しあうのですが、世間からのはみ出しもの、というダークという意味でバットマンとジョーカーは共通していて、これまたお互いを分かり合っているところが、複雑で大人向けの映画である理由なのでしょう。これこそが『ダークナイト』というタイトルの意味するところなのです。

起業・スタートアップを目指すみなさんにも、理想とされている経営者がおられるでしょうが、彼等も決してホワイトではなく、ブラックな面も持ち合わせているのだと気付かされるのではないでしょうか?

もちろん、バットモビールや新兵器バットポッドが活躍するアクション・シーンも豪華で、アクション映画としても楽しめます。また、あまり取りざたされていませんが、脚本は監督のクリスの弟のジョナサン・ノーランです。クリスの出世作となった『メメント』(00年)でオスカーの脚本賞にノミネートされていますが、やはりこの脚本の秀逸さも特筆に価するでしょう。

やはりこの暗さと重さは、アメリカ人ではなくイギリス人だから描けるものなのでしょうか?ヒース・レジャーばかりに注目が集まりましたが、ハービー・デントを演じたアーロン・エッカートをはじめ脇役陣の演技も素晴らしかったです。何から何まで揃った、映画史に残る傑作といえるでしょう。

そして、日本でも『タイタニック』や『アバター』は興行成績1位の大ヒットとなったのだからもっとヒットしてよかったはずなのですが、17億円というのはいくらなんでも少なすぎます。同じヒーロー物でも、従来の単純なおとぎ話の『スパイダーマン』シリーズは、日本でも大ヒットとなっていました。(『スパイダーマン』が75億円、『スパイダーマン2』が67億円)あまりにリアルすぎる設定と、勧善懲悪のヒーローではないバットマンに日本の若者は感情移入できないということなのでしょうか?

映画界だけを考えてもかれらがミニシアター系の作品を受け入れるはずがなく、状況は悪化するばかりです。将来の日本に独創的なアイデアを持つ起業家が多く輩出されるためにも、こうした作品がヒットするようになることを願うばかりです。

ホアキン・フェニックスが演じたジョーカーが遂に主人公となってしまった『ジョーカー』(19年)は欧米では大ヒットとなり、日本でも話題となりました。ご覧になった方には、その原点ともいえる本作を鑑賞されることをオススメ致します。

著者:ポッシュF
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもあり、今井氏と並ぶトップFXアナリストの西原宏一氏につけられたあだ名がポッシュ。FはFXのF。