起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『王妃マルゴ 』

掲載:2021/1/19

最終更新日:2021/01/19

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、世の中には裏切りなど権謀術数が渦巻いていると示唆してくれる『王妃マルゴ』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『王妃マルゴ』の概要

『王妃マルゴ』は、「三銃士」などで知られるアレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ)の同名小説を、『傷ついた男』(83年、日本公開93年)で知られるパトリス・シェロー監督が映画化した1994作品です。ジャンヌ・モローがマルゴを、フランソワーズ・ロゼーがカトリーヌ・ド・メディシスを演じた『バルテルミーの大虐殺』(54年)のリメイク作品です。

旧教徒と新教徒が争いを繰り広げる16世紀末のフランス・ヴァロア王朝の王妃マルゴの恋と、彼女をとりまく権謀術数を描いた歴史大作で、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しています。

バイロイト音楽祭でのワーグナーの『ニーベルングの指環』4部作などオペラの舞台監督としても名高いシェローならではの、当時を再現した歴史物語は圧巻です。衣装は新教徒の白襟に黒服と、豪華絢爛な旧教徒の対比などを忠実に表現していると思っていたのですが、同時代のイギリスのエリザベス朝どころか19世紀のヴィクトリア朝の要素もが混ざっているとのことです。オペラの芸術監督としても新風を切り開いているシェローだからできたのだと感じさせられました。たしかに音楽も、ワールドミュージック好きには知られるイスラエルの歌姫オフラ・ハザの歌も登場するなど、民族音楽風になっています。そうはいっても、素晴らしい衣装と美術でヴァロア王朝の世界を見事に現代に甦らせています。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆7,997人による平均スコアは4.17であり、欧州歴史映画にも関わらず米国人にも高く評価された作品となっています。

主役の王女マルゴ役は、イザベル・アジャーニです。夫と愛人だけでは飽き足らず自分の妄想が生み出した魔物に欲情し狂気に陥る妻を描いたサスペンス『ポゼッション』(81年)、母を襲った男たちへの復讐を目指す娘を描いた『殺意の夏』(84年)、ロダンへの愛と彫刻への情熱を軸に彫刻家カミーユ・クローデルの半生を描いた傑作『カミーユ・クローデル』(88年)と3度のセザール賞に輝き、当時は既にカトリーヌ・ドヌーヴを継ぐ、フランスを代表する演技派女優となっていました。

上記3作もそうなのですが、特に狂気を秘めた女性を演じさせると右に出るものはいなく、陰謀の中で死と隣り合わせに生き、平静な精神状態ではないマルゴを演ずるのは、やはりアジャーニ以外には考えられなかったなのでしょう。『カミーユ・クローデル』以来スクリーンから遠ざかっていましたが、ダニエル・デイ=ルイスとの報われない愛を基にした自虐的な内容の駄作『可愛いだけじゃダメかしら』で5年ぶりに映画界に復帰していました。この『王妃マルゴ』でも、38歳とは思えない美しさと得意の狂気をちらつかせる熱演で、見事4度目のセザール賞を受賞しました。

イタリアのメディチ家から嫁いだ母后カトリーヌ・ド・メディシスを演じたのが、かつてのイタリアのセクシー女優ヴィルナ・リージです。 フランス革命前夜を舞台に黒いマスク姿のヒーローの活躍を描いたアラン・ドロン主演の『黒いチューリップ 』(63年)、ジャック・レモン共演のコメディ『女房の殺し方教えます 』(64年)、トニー・カーティス、ジョージ・C・スコットが美女を巡って争うコメディ『おれの女に手を出すな 』(66年)などのヒロイン役で世界的に活躍していました。この『王妃マルゴ』での毒々しさがにじみ出ている貫禄の演技で、カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞しました。

マルゴの夫となる新教徒の首領のナヴァール公アンリ(後のアンリ4世)役を務めたのが、ダニエル・オートゥイユです。悪役ウゴランを演じセザール賞主演男優賞を受賞した、泉をめぐり二代にわたって展開する愛憎劇『愛と宿命の泉』(86年)、相手を愛していても愛しているといえない複雑な性格の楽器修復師を見事に演じたエマニュエル・ベアール共演の『愛を弾く女』(92年)などで、演技派俳優としての地位を確立していました。この『王妃マルゴ』でも、堂々の演技をみせています。

旧教徒の首領でマルゴの愛人ギーズ公を演じたのが、80年代のスペインを代表する人気歌手ミゲル・ボゼです。92年にアルモドバル監督の群像劇『ハイヒール』で女装のゲイだが実は判事という複雑な役を、93年には19世紀のロマン主義を代表する画家ジェリコーの曲馬に魅せられた半生を描いた『ジェリコー・マゼッパ伝説』で主役に抜擢されるなど、俳優としても頭角を現していました。

そして、シェローが主宰したナンテールのアマンディエ劇場付属の俳優養成学校出身のフランスの美男若手俳優がかけつけて、作品に一層の華やかさを添えています。

まず、マルゴと生涯の恋に落ちるラ・モール伯爵役は、ヴァンサン・ペレーズです。ロクサーヌが恋する美青年クリスチャンを務めたジェラール・ドパルデュー共演の感動の名作『シラノ・ド・ベルジュラック』(90年)で注目され、青年将校役の、フランス領インドシナでゴム園を経営するフランス人女性とその養女と青年将校との三つ巴の恋を描いたカトリーヌ・ドヌーヴ共演のアカデミー外国語映画賞受賞の傑作『インドシナ』(92年)、プラトニック・ラブに真実の愛を求める男ともどかしさを感じる女の純愛を描いたソフィー・マルソー共演の『恋人たちのアパ ルトマン』(92年)で、フランスではスターダムに躍り出ていました。この『王妃マルゴ』でも、アジャーニ相手に永遠の愛を誓い合う悲劇の新教徒の青年貴族を美しく演じています。

国王シャルル9世役が、ジャン=ユーグ・アングラードです。ゲイの青年を見事に演じセザール賞最優秀新人賞を受賞したシェローの『傷ついた男』(83年)で注目され、狂気の愛を描いた大ヒット作『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(86年)でブレイクを果たし、以降、アントニオ・タブッキの同名小説を映画化した『インド夜想曲』(89年)、セックスを終えた男女が交わすひと夜の語らいを描いた『真夜中の恋愛論 』(90年)、エイズに罹った銀行強盗とアメリカから呼び寄せた金庫破り、コールガールの3人を描いたタランティーノが製作総指揮を務めたバイオレンス・アクション『キリング・ゾーイ』(94年)などで、フランスを代表する若手俳優に成長していました。この『王妃マルゴ』では、母后への屈従と国王としての使命の間で思い悩むシャルルを繊細に演技しています。

妹であるマルゴと関係を持つ母にも溺愛されるアンジュー公(後のアンリ3世)を、『海辺のポーリーヌ』(83年)、『木と市長と文化会館 または七つの偶然』(93年)などエリック・ロメール作品の常連であるパスカル・グレゴリーが妖艶に演じています。

こうした素晴らしい演技力を持つ、しかも美しいオールスター・キャストの存在が、作品をさらなる高みへと昇華させています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『王妃マルゴ』のネタバレなしの途中までのストーリー

ストーリーは、1572年8月18日のパリのノートルダム寺院で始まります。国王シャルル9世(ジャン=ユーグ・アングラード)の妹マルゴ(イザベル・アジャーニ)と新教徒の指導者であるナヴァール公アンリ(ダニエル・オートゥイユ)の結婚式が行われていました。旧教徒と新教徒との争いをおさめるための政略結婚だったのです。アンリの母アントワーヌが、シャルル9世やマルゴの母であるイタリア・フィレンツェのメディチ家出身の母后カトリーヌ・ド・メディシス(ヴィルナ・リージ)に毒殺されたという噂がたち、式は異様な雰囲気に包まれていました。

マルゴは兄の国王シャルル9世、もう一人の兄のアンジュー公(パスカル・グレゴリー)とは兄弟以上の特別な関係にあり、旧教徒の首領であるギーズ公(ミゲル・ボゼ)とも愛人関係にありました。結婚初夜を無骨なアンリと過ごすことを拒否したマルゴはギーズ公を寝室に引き入れていましたが、そこにアンリが現れ、新教徒で孤立無援の自分だが王になればマルゴも王妃となるのだから命を守ってくれと嘆願してきます。母をはじめ兄達にも利用されているだけと感じていたマルゴの心は、揺れます。やがてアンリもギーズ公も立ち去ると、マルゴは一夜の相手を求めて宮殿を抜け出しました。仮面をつけ娼婦と偽って選んだ美青年と荒々しいセックスを交わすのでした。青年は新教徒のラ・モール伯爵(ヴァンサン・ペレーズ)でした。

翌朝、新教徒の指導者のコリニー提督の暗殺事件が、明るみに出ます。首謀者は母后カトリーヌ・ド・メディシスで、自分の片腕を狙ったのが母后であると知りショックを受けた国王は、母后にたきつけられるままに新教徒の虐殺命令を下しました。8月24日、こうして史上名高い「聖バーソロミューの虐殺」が行われ、コリニー提督はじめ多くの新教徒が殺害されたのです。ラ・モールは宿屋で同宿した時からつきまとわれていたココナスにより傷つき宮殿に逃げ込み、マルゴと再会を果たします。その後も決闘を続け力尽きたラ・モールとココナスは、死体として処理される直前に死刑執行人により救われ、介抱されました。

事件後、新教徒であるアンリは改宗し、虐殺を非難したマルゴと共に監視下に置かれます。母后は、占いの結果が事件後も変わらずアンリが国王になると知りアンリの暗殺を試みましたが、マルゴに阻まれます。やがてマルゴは、ラ・モールと再び逢い引きを重ねるようになりました。そして、狩りで国王を救ったアンリと国王の間には友情も生まれていき、全てが上手くいくようにみえたのですが…。

『王妃マルゴ』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

まず考えさせられたのは、やはり物事には全て光と影、表と裏の両面が存在するということです。ルネッサンスの中心地だったフィレンツェのメディチ家出身の母后カトリーヌ・ド・メディシスにより、フランス宮廷に多くの文化や科学がもたらされたのは広く知られることです。フランス料理や香水はカトリーヌによりもたらされ、現在でもフランス文化を代表する存在となっています。カトリーヌは乳液により、その手は少女のままだったと言われていたそうです。フランスでは獣臭くて使用できなかったなめし皮の手袋も、香水により匂いを消して手の保湿保護のために用い、宮廷で流行させたとのことです。

しかし、カトリーヌがもたらしたのはこうした光の面だけでなく、影の面もあるわけで、その代表がこの『王妃マルゴ』にも描かれている毒薬です。なめし革の手袋に毒を仕込み、劇中にあるようにナヴァール公アンリの母である新教徒の首領だったアントワーヌを毒殺したといわれています。毒薬というと15世紀のチェーザレ・ボルジアが有名ですが、このボルジア家とメディチ家は親交が深かったことは惣領冬実女史の傑作漫画『チェーザレ 破壊の創造者』にも描かれています。カトリーヌがアントワーヌを毒殺したかどうかの真偽は定かではりませんが、当時の科学技術の最先端だったイタリアから、田舎であったフランスに毒殺の技術も持ち込まれたことは、間違いがないでしょう。

ここで起業・スタートアップを目指している閲覧者の方に気付いて頂きたいのは、世の中は権謀術数にみちているということです。サラリーマン時代にも多少の派閥争いなども経験されてきたと思いますが、起業後に成功し、会社にお金が集まってくると、良い人ばかりでなく、今まで会ったことのないような輩も残念ながらやってくるのです。そうなると、そうした輩に免疫のないみなさんのような善良な方は騙されてしまい、下手をするとご自分で起業した会社から追い出されたり、会社自体を失ってしまうことも起こるのです。そして、筆者の経験から申し上げても、そうした事例は数%ではなく10%を超えるのではないかと思われます。

この『王妃マルゴ』において御自分がアンリになったつもりで鑑賞されれば、起業してある程度の成功後は、生きるか死ぬかぐらいの覚悟で、決して気を緩めてはならないのだという覚悟が、身につくかもしれません。世の中には善と悪は併存しており、学校でならったような性善説や性悪説などに、ひとくくりにできるわけではありません。今まで良い友人だった方でも、みなさんの成功を見て、嫉妬などにより敵となりうるということを覚えておいて頂きたいのです。

ビジネスとは関係ないですが、愛など信じない投げやりな女性から、真実の愛のために生きる女性への変遷を描いた作品といえるでしょう。王族の命さえ危うい権謀術数の中、身の危険を顧みずただ愛に忠実に生きようとするマルゴの姿に心を打たれます

マルゴは男狂いだったといわれていますが、政略結婚の道具とされるだけではなく、母には疎まれ、兄達には慰み者にされている環境、愛情に恵まれず誰も信じられない状況では、そうなってしまってもおかしくないでしょう。そのマルゴがラ・モールとの間に初めて本当の愛を見出し、さらにアンリとの間には友情とも呼べる愛を見出すのです。初めて本当に自分を愛し、自分を守ってくれる男性とめぐり合えたわけです。二人との出会いによりマルゴはまるで別人のように変わっていきます。保身ばかりを考えていたのが、愛する人を自らの危険を顧みず救おうとするのです。女性というのは愛されて初めて光り輝き、愛されていないと不幸な生き物だということを改めて考えさせられました

撮影はセザール賞撮影賞受賞の『ディーバ』(81年)、アカデミー撮影賞受賞の『リバー・ランズ・スルー・イット』(92年)、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94年)、『チャーリーとチョコレート工場』(05年)などで知られるフィリップ・ルスローが担当しています。これらの作品を鑑賞した方は、ルスローの担当した作品が他とは一線を画す映像美に満ちていることを思い出されることでしょう。この『王妃マルゴ』でも和紙を使用した日本の提灯を多用することで、レンブラントやカラヴァッジオを彷彿させる蝋燭だけによる当時の光と影の世界を創りあげ、3度目となるセザール賞撮影賞を受賞しました。このフィリップ・ルスローによる映像が作品に何ともいえぬ格調を与えています。作品のハイライトであるパリのノートルダム寺院での結婚式のシーンなどに、注目していただきたいです。

史実とフィクションを交えた壮大なストーリー、フランス映画史上最大の40億円の制作費とオールスターキャストによる名演、16世紀の宮廷を見事に再現した撮影・美術・衣装と全てがそろった映画史に残る大作といえるでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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