起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『バーバー 』

掲載:2021/1/27

最終更新日:2021/01/27

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は起業家に、偶然が積み重なることは実は必然であり因果応報への道程である、何を考えているか分からない人間には近づくな、と教示している『バーバー』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『バーバー』の概要

『バーバー』は、『ファーゴ』(96年)、『ノーカントリー』(07年)などで知られるコーエン兄弟によるカンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞した2001年の秀作です。一人のしがない床屋がある夢を抱いたことで様々な偶然が重なり、周囲の人々が次々と事件に巻き込まれていく様を描きました。

全編モノクロの映像は第二次大戦直後の時代と、いつも煙草をくゆらせている無口な主人公のイメージにピッタリで、第8番「悲愴」、第14番「月光」、第23番「熱情」、第25番などのベートーヴェンのピアノ・ソナタが、主人公の揺れる心情に見事に重なって聞こえてきます。前作の『オー・ブラザー!』(00年)のセピア調の映像からモノクロの映像、アメリカン・ルーツ・ミュージックから一転してベートーヴェンという変化に驚かされます。コーエン兄弟作品にとって重要な映像と音楽へのこだわりが、今回も作品に独特の世界観を与えています

米国最大の映画批評サイトRottenTomatoes聴衆41,943人による平均スコアは3.93であり、 暗い映像とテーマにも関わらず、高く評価された作品となっています。

主人公の無口な床屋エド役は、アメリカを代表する性格俳優の一人であるビリー・ボブ・ソーントンです。 長い下積みの後42歳で知的障害を持つ精神病院帰りの殺人犯と少年の心の交流を描いた感動作『スリング・ブレイド』(97年)で脚光を浴び、『アルマゲドン』(98年)でのイカレタ採掘のスペシャリスト役で注目されました。その後、航空管制官のスリリングな日常とライバル心を描いたジョン・キューザック、ケイト・ブランシェット共演の『狂っちゃいないぜ』(99年)、二人の脱獄囚と主婦の三角関係と強盗生活をつづったブルース・ウィリス、ケイト・ブランシェット共演の傑作恋愛サスペンス『バンディッツ』 (01年)などで急速に知名度を上げていました。この『バーバー』(01年)では遂に主役の座を射止め、その巧みな演技でスターの仲間入りを果たしました。

エドの妻のドリス役が、フランシス・マクドーマンドです。アカデミー主演女優賞受賞の『ファーゴ』(96年)など、コーエン兄弟作品ではお馴染みのアメリカの演技派女優です。この『バーバー』でも、何を考えているかが分かりづらい難役のドリスを、堂々と演じていました。

エドの心の拠り所となる弁護士の娘バーディ役は、当時まだ15歳だったスカーレット・ヨハンソンです。96年に二人で生きるティーンの姉妹を描いた『のら猫の日記』の妹役で11歳でインディペンデント・スピリット映画賞主演女優賞にノミネートされ、98年にはロバート・レッドフォード主演の『モンタナの風に抱かれて』の娘役で注目を集めました。01年には脇役だがその清楚な美しさが目を引いたこの『バーバー』と、高校卒業後ニートを続ける二人の少女を描いたソーラ・バーチ共演の青春映画『ゴーストワールド』がヒットとなり、ブレイクを果たすこととなりました。

その他エドの義兄で床屋のオーナーのフランクを、コーエン兄弟作品常連のマイケル・バダルッコが演じ、脇を固めています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『バーバー』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、第二次大戦後間もない1949年、現在ではワイン・カントリーとして名高いサンフランシスコの北に位置するソノマ郡のサンタローザ市で始まります。口数少ないエド・クレイン(ビリー・ボブ・ソーントン)には、デパートの帳簿係の妻ドリス(フランシス・マクドーマ ンド)がいました。彼は妻の兄であり、一日中しゃべりまくっているフランク(マイケル・バダルッコ)が経営する小さな理髪店で働く、しがない床屋でした。妻も働いているのでそこそこの暮らしをしていましたが、単調な毎日の生活に飽き飽きしていました。ドリスと、デパートのオーナーの娘と結婚した彼女の上司であるデイヴ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)との関係にも気付いていましたが、関心もありませんでした。

そんなある日、理髪店に鬘をつけたクレイトンという男が客としてやってきます。ドライ・クリーニングという新しい手法によるベンチャー・ビジネスの件で、サクラメントからサンタローザにやってきたというのでした。エドはドライ・クリーニングというビジネスに興味を持ち、その夜ホテルにクレイトンを訪ねると、出資したいと切り出しました。1万ドルの出資金のあてを尋ねられると、エドは1週間で用意できると答えたのでした。ゲイであるクレイトンの誘いを断ると、エドはドリスとの不倫をネタにデイヴへ匿名の脅迫状を送りつけました。脅迫相手がエドとは知らず、不倫をネタに脅迫されていてこのままでは破滅だと相談するデイヴに、エドは金を払うようにとアドバイスするのでした。こうして1万ドルを手に入れたエドは、クレイトンと契約しました。

ドリスの従兄弟の結婚式でドリスが酔いつぶれて寝てしまった夜中、デイヴからエドに、デパートに来てくれという電話があります。エドがでかけるとデイヴは、「クレイトンを殴りつけいきさつを聞きだしエドが脅迫状の送り主だということが分かった。」というといきなりエドに飛びかかり、首を絞めました。エドはデイヴを刺殺してしまいました。しかし、いつものように平然として理髪店で勤務していたエドを刑事が訪問し、ドリスが殺人容疑で逮捕されたと告げます。エドは知り合いの弁護士のすすめで腕利きの弁護士リーデンシュナイダーを雇いました。自分が犯人だと告げるのですが、ドライ・クリーニングの出資の件まで詳しく語らなかったため、リーデンシュナイダーは信じようとしませんでした。

そして審理の直前に、ドリスは自殺してしまいました。エドにドリスの妊娠を告げる検視官に、エドは、自分達夫婦は何年も関係がなかったと告げるのでした。そしてエドは、知り合いの弁護士の娘であるバーディ(スカーレット・ヨハンスン)をピアニストとして成功させ、そのマネージャーとなることで自分の人生が好転するという妄想を描くのでした…。

『バーバー』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

デイヴとドリスは不倫関係にあり、男は妻のアンを、女は夫のエドを裏切っていたのですから、脅迫されたのは自業自得でしょう。ドリスは、帳簿の細工と不倫は事実だが殺人は犯していないと語っていたので、自業自得であることをある程度は受け入れていたように思えます。しかしデイヴは自業自得であることを受け入れられず、自分を破滅に追い込む人間に牙を向けます。その結果、死に至ることとなったのです。まさに因果応報を痛感させられます。起業・スタートアップを目指すみなさんには、しつこいようですが、因果応報は必ずあるのだと肝に銘じていただきたいと思います。

ドリスがなぜ自殺しかのは語られていませんが、恐らく生きていくことに絶望したからでしょう。妊娠三ヶ月ですから、収監直前か収監中に妊娠に気付いたのでしょう。脅迫騒ぎでデイヴとの新たな生活への夢は破れ、子供の父親であるデイヴは死んでしまい、刑務所にいなければ可能な中絶もできず、さらに彼が弁護士リーデンシュナイダーの調査で、嘘つきのつまらない男だと分かってしまったのです。調査を聞いた後のドリスの虚しい笑いが思い出されますが、その時に生きるための最後の希望が崩れ去ったのかもしれません。死んでしまったが立派な男であった愛する男の忘れ形見を育てていこうという希望が…。前科一犯となった女が子供を一人で育てるのは大変でしょうし、父親である男がつまらぬ男だと分かりろくな思い出もなければ、育てようと考えるはずもないでしょう。

そして最後にエドについてですが、この男の、人生に投げやりで、常に平然としていて流れに身を任せる生き方が、周囲の人々を不幸にしてしまったといえるのではないでしょうか?妻のドリスとデイヴの不倫にも関心がない。デイヴが脅迫されたことを相談してきた時も、他人事のように平然としています。デイヴを刺殺しても殺人という行為に全く動揺もせず、自首せずにいつもどおりに平然と理髪店で仕事をしています。理髪店に刑事が来た時にも逮捕されるつもりでいたのは、「一緒に行こう」という言葉でも明らかです。しかし逮捕されたのがドリスだと聞くと、そのままにしてしまうのです。そこで全てを話さず、流れに身を任せるところがこの男の人生の生き方なのでしょう。

自分が殺したと正直に話せば正当防衛であることは明らかで情緒酌量になったでしょうし、ドリスも帳簿の細工の罪だけで済んだのです。エドという人間が何事にも無関心な変人であったために、ドリスは死ぬこととなったのです。こうした、何を考えているか分からない人間には近づかない方がよいという教訓かもしれません。その後の展開で観客は、偶然は偶然ではなく、因果応報にいたるための必然なのだと思い知らされることとなります。

独特の映像と音楽に彩られた世界観、最後までどうなるか分からない緊迫のストーリー、どういう行動にでるか分からない人間というものの奥深さへの洞察などを備えた、コーエン兄弟ならではの、フィルム・ノワールの秀作といえるでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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