起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『フィツカラルド』

掲載:2021/2/10

最終更新日:2021/02/10

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、世の中の役に立ちたいという情熱がアントレプレナーには必要だと示唆してくれる『フィツカラルド』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『フィツカラルド』の概要

『フィツカラルド』は、『アギーレ/神の怒り』などで知られるニュー・ジャーマン・シネマの雄、ヴェルナー・ヘルツォーク1982年監督作品です。アマゾンの奥地にオペラハウスを作るという夢を持った一人の男フィッツカラルドの生き様を、アマゾンの大自然と、ポポル・ヴーの壮大な音楽と共に描いた感動作です。

この『フィツカラルド』も、『アギーレ/神の怒り』(72年)『ノスフェラトゥ』(78年)『コブラ・ヴェルデ』(87年)と同様にヘルツォーク・ファンならご存知の監督ヘルツォーク、主演キンスキー、音楽ポポル・ヴーのトリオによる作品です。しかし、三つの意味で他の作品とは異なっています

第一は、主役です。当初はジャック・ニコルソンがキャスティングされたのですが病気で断念、次のウォーレン・オーツは撮影の過酷さに嫌気がさし、続くジェイソン・ロバーツが撮影半ばで病に倒れ、キンスキーに落ち着いたという経緯があります。つまり、キンスキーは主役をするという構想は監督にはなかったわけです。

第二は、音楽です。ポポル・ヴーのオリジナル曲と共に、オペラ作品が使われています。伝説のベルカント、カルーソーによる、ヴェルディとベッリーニのオペラ楽曲が、オリジナル曲よりも強い印象を残しています。

第三は、作品の結末がポジティブということです。ラストシーンでの主人公の表情は明るく、満足感があります。

悲劇ではなく、どちらかというと喜劇である点が、当初主役にニコルソンを起用し、音楽にオペラを使った理由なのではないでしょうか?

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆12,802人による平均スコアは4.34であり、 難解な欧州映画にも関わらず、米国人に非常に高く評価された作品となっています。

主役のフィツカラルド役は、狂信的な男や吸血鬼などを演ずると右に出るものがないと言われたドイツの性格俳優クラウス・キンスキーです。72年に16世紀の南米を舞台にエルドラドを目指してさまようスペインの狂信的なコンキスタドールの隊長の生き様を描いたヴェルナー・ヘルツォーク監督の 『アギーレ/神の怒り』で一気にスターダムに躍り出、再びヘルツォーク監督とおどろおどろしい音楽を奏でるポポル・ヴーと組んだ吸血鬼ドラキュラ映画のリメイク『ノスフェラトゥ』(78年)で人気を確立していました。

フィツカラルドのスポンサーとなる娼家の女主人で恋人のモリー役は、C.C.の愛称で知られる60年代のイタリアを代表するセックス・シンボル、クラウディア・カルディナーレです。当時43歳とは思えぬ美しさで演じています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『フィツカラルド』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、19世紀末の南米のペルー・イキトスで始まります。アイルランド出身のフィツカラルド(クラウス・キンスキー)とモリー(クラウディア・カルディナーレ)は、ブラジルのマナウスのオペラ・ハウスに、世界的に有名なオペラ歌手エンリコ・カルーソの公演を聞きにでかけました。感動したフィツカラルドは、イキトスにオペラ・ハウスを建てようと決意しました。そのためには莫大な金が必要でしたが、かつてアンデスに鉄道を敷設しようとして破産した彼を皆奇人とみなしていて、ゴム園を経営する金持ち達に相手にされなかったのです。

フィツカラルドは、アマゾンの急流の上流にゴム園を作り、稼いた金でオペラハウスを作るという考えを思いつきます。唯一の理解者で娼家の女主人で恋人のモリーが、ゴム園の土地の購入資金とアマゾンを遡る中古の蒸気船を買う資金を出してくれました。フィツカラルドは船長、料理人、機関士らを雇い、修理を終えたモリー号と命名された蒸気船で出航します。

ゴム園のあるウカヤリ川には途中に激しい急流があり、船で直接行くことはできませんでした。フィツカラルドは、もう一つの支流に船を進めます。途中首狩族の太鼓が鳴り響き皆動揺しましたが、彼は屋根の上に蓄音機をおき、カルーソのレコードをかけて対抗しました。

カルーソのテノールが流れると、首狩族が姿を現わし船に乗り込んで来ました。予想と異なりおとなしい彼等に、フィツカラルドはある提案をします。二つの川が最も接近したところで船を支流から引き揚げて山越えをし、急流のあるウカヤリ川の上流に降ろそうというものでした。酋長は協力するといい、首狩族の協力で滑車で引っぱりあげられたモリー号は、7ヵ月後には遂にウカヤリ川に浮かべられました…。

『フィツカラルド』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

フィツカラルドの夢は、アマゾンの奥地にオペラハウスを作ることでした。しかしスポンサーが見つからず、その資金を作るためにゴム園の経営を目指します。それも、まだ誰も手をつけていないアマゾンの急流の上流に、ゴム園を作るというのです。皆が不可能だというのを可能にするための奇策が、穏やかな川を遡った蒸気船を山の上に引っ張りあげ、もう一つの急流の川の上流に移すというものでした。

奇策を思いつき、不可能だとおもわれることに挑戦したのです。まさに、フィツカラルドの行動は、現代のアントレプレナーに通じるものがあるといってもよいでしょう。アマゾンの奥地にオペラハウスを作るという情熱に燃えていて、モリーを始め乗組員やインディオまで皆が、その情熱に動かされたのでしょう。

不可能を可能にするには情熱が不可欠なのだと、起業・スタートアップを目指すみなさんに示唆してくれています。米国でこの作品が高く評価されたのは、フィツカラルドの行動には米国人が愛するネバー・ギブ・アップの精神がやどっているためだと理解ができました。

そしてこの情熱は、『アギーレ 神の怒り』のアギーレのように、自らの王国を造り皆を支配しようという自己の利益のための情熱ではありませんでした。皆にオペラを聞かせてあげたいという、人のために役立つ情熱です。人のために役立つ情熱と個人の利益追求の情熱という差が、元の世界に帰って来られたフィツカラルドと帰って来られなかったアギーレの違いとなって現れたのではないでしょうか?

シリコンバレーの企業紹介でおなじみのアルファベットのブリン氏やフィツカラルドのように、将来の起業家であるシニア・女性・ミレニアル世代の方にも、ぜひ人のために役立つために起業・スタートアップをするのだという信念を学んでいただきたいです。

そして、モーリーのフィツカラルドへの愛は本物です。誰もが見向きもしないゴム園のプロジェクトに、苦労して溜め込んだ大金をそそぎこみます。どんなことがあってもモーリーは自分の味方をしてくれるという確信があったからこそ、フィツカラルドは夢へと盲進することができたのでしょう。

夢を実現するには一人ではできず、自分を決して裏切らない妻や恋人による内助の功が不可欠なのだと、改めて思い知らされました。モーリーのおかげで夢へと突き進むことができたフィツカラルドは、幸せものです。ラストのオペラを聴きながらの満足した表情に、それは表れています。スタートアップを目指すみなさんも、自分を裏切らない共同起業者や伴侶をみつけてから起業することを、おすすめ致します。

ポポル・ヴーのオリジナル曲が流れる中アマゾンの熱帯雨林を巨船が遡っていくシーンは、壮大で圧倒されます。他にも首狩り族の太鼓にカルーソーで対抗するシーン、巨船が滑車で持ち上げられ山を登っていくシーン、巨船が急流に呑まれていくシーン、そして最後の船上でのオペラのシーンなどに感動を覚えるのは間違いがないでしょう。映画史に残る傑作といっても、過言ではないでしょう。

監督ヘルツォーク、主演キンスキー、音楽ポポル・ヴーのトリオによる作品の中で、唯一明るさが感じられる作品です。その壮大なスケールと狂気、おどろおどろしい音楽で、男性向けといわざるを得ないトリオによる作品の中で、唯一女性にもおすすめできる作品といえるのではないでしょうか?

将来の起業家・アントレプレナーのシニア・女性・ミレニアル世代のみなさんには、映画史に残る傑作として是非とも見ていただきたい作品です。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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