起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『眺めのいい部屋』

掲載:2021/2/26

最終更新日:2021/02/26

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、重要なのは人間性や相手への評価であり、学歴や人種ではないと示唆してくれる『眺めのいい部屋』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『眺めのいい部屋』の概要

『眺めのいい部屋』は、E・M・フォースターの名作をジェームズ・アイヴォリー監督が映画化した86年の名作です。ジェームズ・アイヴォリーはこの『眺めのいい部屋』以降、同性愛を背景に上流階級の偽善を描きヴェネツィア国際映画祭監督賞を受賞した『モーリス』(86年)、アンソニー・ホプキンス 、ヴァネッサ・レッドグレイヴ主演で2つの家族が別荘をめぐって繰り広げる人間模様を描いた『ハワーズ・エンド』(92年)と、E・M・フォースターの作品を立て続けに映画化することになります。米国人であるにも関わらず、古きよき時代の英国を描く巨匠としての地位を確立しました。アメリカ人であるのにイギリスで活躍したという点は、アイヴォリーがE・M・フォースターと並んで取り上げた作家であるヘンリー・ジェイムズを彷彿させます。

『眺めのいい部屋』は20世紀初頭のイタリアのフィレンツェとイングランドを舞台に、階級差を越えた愛を描きました。アカデミー賞では8部門にノミネートされ、脚色賞、衣装賞、美術賞の3部門を受賞しました。ルネッサンスの中心であるフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂を眺められる部屋での、ヘレナ・ボナム=カーターとジュリアン・サンズ扮する、若く、美しい恋人達を描いたポスターも評判を呼びました。87年に公開されるや、日本でも大ヒットとなりました。

米国最大の映画批評サイトRottenTomatoes聴衆25,453人による平均スコアは4.16であり、 英国映画にも関わらず、米国人にも非常に高く評価された作品となっています。

主人公のルーシー役は、ヘレナ・ボナム=カーターです。16世紀のイングランドで僅か9日間女王の地位についた女性を演じた『レディ・ジェーン/愛と運命のふたり』(85年)に主演しただけで、当時はまだ無名の存在でした。この『眺めのいい部屋』の大ヒットで、ブレイクすることとなりました。以降オフィーリア役のメル・ギブソン主演の『ハムレット』(90年)、アイヴォリー監督の傑作『ハワーズ・エンド』(92年)、ケネス・ブラナーが監督・主演した『フランケン シュタイン』(94年)、オリヴィアを務めたシェイクスピアの『十二夜』(96年)などでヒロインを演じ、コスチューム・プレイを得意とするコルセット・クィーンと呼ばれるようになります。現在では、キーラ・ナイトレイがそれに当たります。

ルーシーと恋に落ちるジョージ役が、ジュリアン・サンズです。当時はやはり無名でしたが、この『眺めのいい部屋』でスターダムに登ります。以降、ケン・ラッセル監督のホラー『ゴシック』(86年)、ナスターシャ・キンスキー共演でトルストイの自伝的作品をタヴィアーニ兄弟が映画化した傑作史劇『太陽は夜も輝く』(90年)などの芸術作品で、主役を演じるようになります。

ルーシーの婚約者シシル役が、『マイ・ビューティフル・ランドレット』(85年)で注目されていたダニエル・デイ=ルイスです。『眺めのいい部屋』ではニューヨーク映画批評家協会助演男優賞を受賞し、その演技が高く評価されました。プレイボーイの外科医を魅力的に演じたミラン・クンデラの同名の大ベストセラー小説を映画化した傑作『存在の耐えられない軽さ』(88年)、重度の脳性小児麻痺で植物人間状態の主人公を熱演しアカデミー主演男優賞を受賞した『マイ・レフトフット』(89年)でトップスターとなりました。

ルーシーの従姉妹シャーロット役が、近年は『ハリー・ポッター』シリーズのマクゴナガル先生役などで知られるイギリスの名女優マギー・スミスです。デズデモーナ役を熱演したローレンス・オリヴィエ主演の『オセロ』(65年)、アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ミス・ブロディの青春』(69年)などでその演技力は高く評価されていました。この『眺めのいい部屋』の演技も絶賛され、英国アカデミー賞とゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞しました。

また、シャーロットの友人の作家ラヴィッシュ女史役が、近年『ゴールデンアイ』以降の『007』シリーズでのジェームズ・ボンドの上司「M」で御なじみのイギリスの大物女優ジュディ・デンチです。『眺めのいい部屋』の演技も素晴らしく、英国アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『眺めのいい部屋』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、20世紀初頭のイタリアのフィレンツェで始まります。年上の従姉妹シャーロット(マギー・スミス)に付き添われ、イギリスの良家の令嬢ルーシー・ハニーチャーチ(ヘレナ・ボナム=カーター)は、フィレンツェのイギリス人観光客がよく利用するペンションに到着しました。食事の席で二人は、予約時の約束と違い、中庭に面した部屋だったことの不満を話していました。それを聞いたエマソン氏が、息子のジョージ(ジュリアン・サンズ)と泊っている自分たちの部屋は美しいアルノ河が見渡せる眺めのいい部屋なので、交換しようと申し出ます。二人にとってエマソン氏とジョージは家同士のつながりのない見知らぬ人たちであり、階級も異なるため、申し出を丁重に断りました。しかし、たまたま同宿していたハニーチャーチ家の属する教区のビープ牧師に説得され、申し出を受けいれることになります。

翌朝、観光地であるサンタ・クローチェ教会でエマソン氏らのイギリス人観光客とばったり出会ったルーシーは、一緒に礼拝堂を観光しました。しかし、喧嘩で胸を刺された男が血だらけになっている場面を目撃し失神、ジョージが介抱することになりました。この日以来、二人には特別な感情が宿っていきます。ある日、ルーシーとシャーロット、シャーロットの友人の作家ラヴィッシュ女史、エマソン父子、ビープ牧師というメンバーで、ピクニックが催されました。一人で散歩していたルーシーは、青い麦畑の中でジョージから、不意に情熱的なキスをされます。二人の仲に気づいたシャーロットは、急遽ルーシーをイギリスに連れ帰ってしまいました。

数ヵ月後のイギリスで、ルーシーは高い教養を持ったシシル・ヴァイス(ダニエル・デイ=ルイス)と婚約しました。そんな時、偶然にもロンドンのナショナル・ギャラリーでエマソン父子と出会ったシシルは、ルーシーの家に近い貸家の世話をしました。ビープ牧師がルーシーの弟のフレディを伴いジョージを訪ねると、彼等は意気投合し、散歩に出かけた林の中の池で全裸ではしゃぎまわっていた。そこに母とシシルと共にルーシーが通りかかりました…。

『眺めのいい部屋』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

この『眺めのいい部屋』のテーマは、階級を超えた愛と、階級差を乗り越えることによる少女の成長です。ルーシーとジョージは、異なる階級に属しています。ルーシーの属する当時の英国の上流階級では、シシルのように平静を装い、感情を露わにしません。自分の意見や気持ちを堂々と述べることに馴れていないルーシーは、中流階級であるジョージのあまりに直接的な愛情表現にとまどうわけです。フィレンツェにいた時点で、ルーシーはジョージを愛していたはずです。しかし数ヵ月後にシシルと婚約してしまったのは、ルーシーはジョージへの自分の気持ちに気付いていなかったためだと考えられます。上流階級に属し、教養のあるシシルが自分に合っていて、お互い愛し合っていると思い込んでいたのです。しかし、ジョージとの再会で、シシルへの愛が揺らぎ始めるわけです。

こうして考えると、『眺めのいい部屋』というタイトルが、大きく意味を持ってきます。上流社会という部屋に住んでいたルーシーは、そこから眺める中流社会という異なる社会である外の社会に、最初はとまどいます。そのために、ジョージへの気持ちに気付くことができなかったわけです。しかし、その眺めに次第に興味を持ち、その外の社会からの誘惑に身を委ね、外の社会へ出て行こうと決心していきます。

起業・スタートアップを目指すミレニアル世代、シニアや女性などのみなさんは、起業家としてのチャレンジ精神をルーシーの中に見いだせるのではないでしょうか?

さらに、学歴や人種の差などに気を取られずに、採用活動を行うことも学べるでしょう。大切なのはまずは人間性です。次に能力ですが、これは学歴よりもIQが重要です。

せっかく眺めのよい部屋を譲ってくれるという申し出を異なる階級だからと断ってしまうという冒頭シーンは、中流社会で生きている現代の日本人には理解しがたいでしょう。そして、階級が異なる人への愛を認めることができず、自分の気持ちに最後まで気付かないルーシーの感情も!下の階級の人への自分の気持ちにさえ気付かないほどの階級差を植えつけるしつけと教育の恐ろしさ、現在まで残る英国の階級社会の底の深さを語ってくれています。将来の起業家・アントレプレナーである閲覧者の方々には、採用後も人種や学歴など関係なく、従業員を平等に扱っていただきたいと思います。

こうした固いテーマは抜きにしても、20世紀のイギリス文壇を代表するE・M・フォースターによる傑出したストーリー、アカデミー賞で美術賞と衣装賞を受賞したことで証明済みの忠実に再現された20世紀初頭のイタリアのフィレンツェとイングランドの美しい景色と当時の衣装、ロマンチックな雰囲気を盛り上げる名ソプラノのキリ・テ・カナワが歌うプッチーニの歌曲や、モーツァルト、ベートーベン、シューベルトによるピアノ・ソナタの名曲の数々、そして当時まだ20歳のヘレナ・ボナム=カーターの初々しい美しさとジュリアン・サンズの美青年ぶりが合わさり、素晴らしい作品に仕上がっています。

誰が見ても楽しめる作品と言えるでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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