起業アドバイス

映画から学ぶ副業・起業向けアドバイス
『ギター弾きの恋』

掲載:2021/3/10

最終更新日:2021/03/10

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ副業・起業アドバイスのコラム。今回は、独断は禁じ手であり、奢ることなく、周囲の耳の痛いアドバイスを受けいれる事が成功の道だと教示している『ギター弾きの恋』について、将来の起業家・投資家であるみなさんと共に見ていきましょう。

副業・起業を目標とする方への『ギター弾きの恋』の概要

『ギター弾きの恋』は、大恐慌時代のアメリカを舞台に、実在の名ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトに憧れる架空の名ギタリストの波乱に満ちた半生を描いたウディ・アレン監督の99年(01年日本公開)の名作です。失って初めてその大切さを知る恋と、アレンの趣味であるジャズがテーマになっている点から、アレンファンには79年の名作『マンハッタン』を想起させる作品となっています。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes聴衆13,970人による平均スコアは3.85であり、 日本では大ヒットしたのですが本国ではそれほどではない評価の作品となっています。

主役のギタリストのエメット・レイ役が、ショーン・ペンです。ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した、死刑囚とカソリックのシスターとのふれあいを描いた名作『デッドマン・ウォーキング』(95年)、カンヌ国際映画祭男優賞を受賞した、妻を死ぬほど愛している男を熱演したロビン・ライト共演の『シーズ・ソー・ラヴリー』(97年)、戦争映画であることを忘れさせられるベルリン国際映画祭金熊賞受賞の傑作『シン・レッド・ライン』(98年)などで、演技派俳優としての名声を確立していました。この『ギター弾きの恋』での名演で、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。

エメットを愛する聾唖の女性ハッティ役が、イギリス女優のサマンサ・モートンです。舞台で活躍後97年に映画デビュー作『アンダー・ザ・スキン』でボストン映画批評家協会賞主演女優賞を受賞、一躍国際的に注目を集めていました。『ギター弾きの恋』の演技は絶賛され、アカデミー助演女優賞にノミネートされました。2002年にはトム・クルーズ主演の大ヒットSF作品『マイノリティ・レポート』で、ヒロインを務めることとなります。

エメットの妻ブランチ役が、ユマ・サーマンです。90年に『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』で作家ヘンリー・ミラーの妻ジューンを演じ脚光を浴び、94年にはガス・ヴァン・サント監督のロードムービー『カウガール・ブルース』がヒット、ギャングのボスの情婦を演じジョン・トラヴォルタ演ずるギャングとのダンス・シーンが話題となったクエンティン・タランティーノの傑作 『パルプ・フィクション 』でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、ブレイクを果たしていました。

起業家・投資家を目指すみなさん向けの『ギター弾きの恋』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、ウディ・アレンの語りで始まります。大恐慌時代のシカゴに、ジャンゴ・ラインハルトに続く世界で二番目の天才ギタリストを自負するエメット・レイ(ショーン・ペン)という男がいました。エメットは娼婦の元締めをしながら、ジャズ・クラブでギターを弾いて暮らしていました。とにかく目立ちたがり屋で、金遣いが荒く、お洒落な男でした。銃で鼠を撃つこと、夜中に列車を見ること、ビリヤードが趣味でした。

シカゴを離れた後にニュージャージー州のホテルで演奏をしていたエメットとバンドのドラマーは、仕事がオフの日に海辺にナンパにでかけました。エメットはドラマーとの賭けに負け、小柄なほうの女性の相手をすることとなりました。そして、この女性ハッティ(サマンサ・モートン)は、口がきけないことが分かったのです。最初は嫌がったエメットでしたたが、ハッティの純粋さに惹かれ、付き合うようになります。特定の女性と長く付き合わない主義のエメットでしたが、ハリウッドの仕事にもハッティを連れて行きました。ハリウッドから東海岸に戻った後も、二人の交際は続きます。

しかし交際から1年が経ち、エメットの誕生日をハッティが祝ってくれた後に、彼は500ドルを枕元において突然彼女の元を去ったのです。そして、シカゴで出合った上流階級出身の美女ブランチ(ユマ・サーマン)と突然結婚してしまいます。しかし、二人の間には最初から争いが絶えず、ブランチはジャズクラブの用心棒と不倫をするようになり、エメットもそのことを知ってしまったのでした・・・。

『ギター弾きの恋』を観て副業・起業を目指す方に気づいて頂きたい点

エメットは架空の人物で、アレンの抱く理想の音楽家の姿が、そこに表現されています。派手好きで、自分勝手で、傲慢で、天才なので何をしても許されると思っています。音楽のみを愛し、女好きではありますが、女性を心底から愛することはないというキャラです。エメットはこうしたことを公言し、女性と付き合ってきたのです。女性を愛することで音楽に表現力が増し、さらによい弾き手となると言われても信じることはなく、自由気ままに振舞うことが自分の音楽の魅力の源泉だと、勘違いをしていました。起業・スタートアップを目指すみなさんに、独断は禁じ手であり、耳が痛くても周囲のアドバイスを取り入れることが成功の道なのだと示唆してくれています。

エメットは、いつしかハッティに惹き付けられている自分を知り、このままでは自分の音楽は駄目になると勘違いをして、ハッティのもとから逃げ出したのではないのでしょうか?そしてハッティを忘れるために、ブランチと結婚したのでしょう。しかしブランチと一緒にいても、高級車を乗り回しても、鼠を撃ちに出かけても、ハッティへの気持ちを忘れることができなかったのです。酔っ払って寝言でハッティの名前を叫んだことが、その証明でしょう。

彼の予想に反して、ハッティへの愛に気付いたことで、エメットの奏でるギターは、情感あふれるさらに素晴らしいものへと変わったわけです。技術点だけでなく感情点も加わったといえば、分かりやすいでしょうか?コンクールには優勝するがその後大成しない器用な日本のクラシック音楽家と同様に、豊富な人生経験による感情点が欠けていたということでしょう。

若くして起業家・投資家として成功すると、自信過剰となり、自分の思っていることが全て正しいと考えているような方を、多くみてきました。個人的には、成功の一番の要因は運だと思います。もちろん運も才能の一つですし、勘も重要ですが、判断能力とは関係がありません。そしてそうした方は、奢りによる判断ミスからいわゆる運の尽きとなると、一気にミリオネアから借金を背負うことにもなってしまうのです。副業・起業を目標に頑張っている受講生の方は、成功しても決して奢らず、周囲の意見をしっかりと聞き入れるようにして頂きたいと、強く思います。

話を映画に戻しますと、ハッティへの愛は、音楽家としてのさらなる進歩への妨げになるものではなく、むしろ進化させるものだったわけです。しかしエメットは、ハッティと別れることで初めて、人を愛することを知ったわけです。別れていなければわがまま放題に振舞うだけで、愛に気づくことはなかった可能性もあります。そう考えると、ジャンゴ・ラインハルトに近づくためには、ハッティとの愛は諦めざるをえなかったことになります。愛と仕事とどちらが選ばねばならない時には、どちらを選ぶべきかという難問を、アレンは突きつけているのです。

副業・起業したての際には、仕事ばかりの、長く、辛い時間が続きます。何度かアドバイスしてきましたが、御自分を支えてくれるパートナーは、起業の前に見つけておいた方がよいと思います。副業・起業後しばらくは、愛にかまけている時間やエネルギーなど、存在しないでしょうから。

作品の一番の魅力は、やはり、サマンサ・モートンの名演技でしょう。エメットのギターを初めて聞いた時の恍惚とした表情、エメットがステージで女性に声をかけられ一人で家に帰れといわれたときの指やジェスチャーでの演技、エメットに誕生日プレゼントを渡す時の一途な仕草、エメットと再会した時のなんとも言えない表情など、全ての演技が心に残ります。頭はよくないが心が純粋な女性の可愛らしさを、演技とは思えぬ素晴らしさで表現しています。このサマンサ・モートンの演技と可愛らしさを見るだけでも、この作品をみる価値があるでしょう。

作品の二番目の魅力は、全編をいろどるスイング・ジャズの響きでしょう。名曲と名演奏の数々に、心を奪われます。現代最高のスイング・ギターの名手といわれるハワード・アルデンが、ソロ・ギターを演奏しています。ジャンゴ・ラインハルトやジャズ・ギターのファンでなくても、文句なしに聞きほれることは間違いがないでしょう

そして三番目の魅力は、アレンならではの、ストーリー展開です。最後までどう転がるか分からないシナリオ、アレンのジャズへの深い愛情、アレン節が炸裂する笑いの世界にどんどん引き込まれていき、一気に見終わってしまうでしょう!どなたにでもオススメできる名作です。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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