起業アドバイス

映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『めぐりあう時間たち』

掲載:2021/2/17

最終更新日:2021/02/17

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、たとえどんなに周りを絶望させようとも、自分の人生を決定するのは自分だと教示してくれる『めぐりあう時間たち』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。

起業・スタートアップを目標とする方への『めぐりあう時間たち』の概要

『めぐりあう時間たち』は、労働者階級出身の少年がバレエ・ダンサーを目指す姿を描きウエストエンドやブロードウェイでミュージカル化もされている『リトル・ダンサー』(00年)でセンセーショナルなデビューを果たしたスティーブン・ダルドリー監督による2003年公開作品です。イギリスの女流作家ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』をモチーフに、3話のオムニバス形式により、ウルフをはじめとする3人の女性の人生への決断と新たな道を描いた感動作です。ダルドリー監督の演出力の高さには、脱帽するしかないでしょう。音楽は、アメリカ現代音楽界の巨匠フィリップ・グラスが担当し、心を揺さぶる感動を与えてくれています。

米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoes視聴者85,927人による平均スコアは、4.11という高評価となっています。少し重厚すぎるドラマなのですが、多くの米国人の心を打ったようです。

ヴァージニア・ウルフ役は、夫のトム・クルーズ共演の『アイズ ワイド シャット』(99年)、パリ・モンマルトルを舞台としたミュージカル仕立てのラブ・ストーリー『ムーラン・ルージュ』(01年)で当時人気絶頂だったニコール・キッドマンです。一見してキッドマンとは分からない特殊メイクを施した熱演で、念願のアカデミー主演女優賞を受賞しました!

小説『ダロウェイ夫人』を愛読する50年代のアメリカの主婦ローラ役が、ジュリアン・ムーアです。神の啓示により愛する恋人に恨まれながらも別れる決断をした悲劇のヒロイン役を務めたアカデミー主演女優賞にノミネートされたレイフ・ファインズ共演の名作 『ことの終わり』(00年)、前作でジョディ・フォスターが演じたFBI捜査官クラリス役に選ばれた『羊たちの沈黙』の続編『ハンニバル』(01年)、ヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞した、50年代のアメリカ東部を舞台に当時はタブーだった同性愛や黒人との愛を扱ったある典型的な主婦の幸せな生活が崩壊していく様を描いた『エデンより彼方に』(03年公開)などで、40代になってから人気を確立した美人女優です。『めぐりあう時間たち』でも、従順そうだが平凡な生活に疑問を持つ主婦を見事に演じ、ロサンゼルス映画批評家協会賞とニコール、メリルと共にベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞しています。

そして、現代のニューヨークに生きる女性編集者クラリッサ役が、アメリカを代表する名女優メリル・ストリープです。妻を演じアカデミー助演女優賞を受賞したダスティン・ホフマンが子育てに奮闘する名作『クレイマー、クレイマー』(79年)以来、ロバート・デ・ニーロ共演の不倫ながらも純粋な愛を描いた名作『恋におちて』(84年)などで80年代から人気を確立していました。近年も、ファッション誌の名物編集長役を名演したメガヒット作『プラダを着た悪魔』 (06年)、70年代の人気グループABBAの曲をベースにした大ヒットミュージカルの映画化『マンマ・ミーア!』(08年)などで、変わらぬ活躍を続けています。ウディ・アレン監督の『マンハッタン』(79年)では、ウディ演ずる夫を捨てて女に走る女性を演じていましたが、『めぐりあう時間たち』でも、かつてはエド・ハリス演ずる作家と愛し合いながらも現在は女性と同居しているバイ・セクシュアル役を務めています。彼女の演技力の素晴らしさは、改めて述べるまでもないでしょう。

そして、人工授精で生まれたメリル演ずる女性編集者の娘役は、レオナルド・ディカプリオ共演の『ロミオ+ジュリエット』(96年)などで知られるクレア・デインズです。レズビアンのカップルに人工授精で生まれた娘がいるところなど、いかにもニュヨーカーらしい設定となっています。

起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『めぐりあう時間たち』のネタバレなしの途中までのストーリー

ネタバレなしの途中までのストーリーは、1923年のロンドン郊外のリッチモンドで始まります。女流作家のヴァージニア・ウルフ(ニコール・キッドマン)は、精神的疾患の治療のためロンドンを離れこの町で夫と暮らし、『ダロウェイ夫人』を執筆していました。そんな時、姉のヴァネッサ(ミランダ・リチャードソン)と子供たちが、ロンドンから訪ねてきます。小鳥の死を目にして、ヴァージニアは死について考えるのでした。そして、リッチモンドでの隔離された、平凡な暮らしを続けるくらいなら、病気が悪化しても、喧騒の町ロンドンに戻りたいと夫に懇願するのでした…。

1951年のロサンジェルス。妊娠中の平凡な主婦のローラ・ブラウン(ジュリアン・ムーア)は、夫と子供と一見幸せそうに暮らしていました。しかし実際は、居間とキッチンで子供と一日のほとんどを過ごす生活に、飽き飽きしていたのです。こうした中、友人のキティが腫瘍のために入院するという話を聞きます。たまたま『ダロウェイ夫人』を読み、主人公の夫人が幸せそうだが実は幸せではないというストーリーに感化されます。この2つの出来事から、いつ死ぬか分からない人生を、このまま無為に過ごしてよいのかと、思い悩むことになったのです。そして、息子を隣人に預けると、大量の薬瓶を持ってホテルへと向かいました…。

2001年のニューヨーク。編集者のクラリッサ(メリル・ストリープ)は、エイズにかかっている元恋人の作家リチャード(エド・ハリス)の受賞パーティーの準備をしていました。ダロウェイ夫人とあだ名をつけられたリチャードの世話を焼きながらも、毎日、毎日細かな予定に追われる自分の人生に疑問を感じていたのです。そして、リチャードの元恋人で三角関係だった男性がパーティーに出席するためサンフランシスコから訪ねてくると、自由な生活を送る彼に嫉妬し、思わず涙がこぼれてくるのでした…。

『めぐりあう時間たち』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点

この後、3人の主人公は、それぞれ大きな人生の決断を迫られることとなります。3人に共通しているのは、実は『ダロウェイ夫人』という小説そのものではありません。ローラ・ブラウンがキティに告げる『ダロウェイ夫人』の小説の中身、「一見幸せそうな生活をしているが、実は不幸だった」という点です。

ヴァージニアは、リッチモンドでの静かな刺激のない生活に退屈し、ロンドンに住む姉を羨んでいます。ローラは、夫に愛され、子供に恵まれた理想の生活を送っているように見えますが、外出することもほとんどなく子供と家に閉じこもる生活に、やはり疑問を感じています。クラリッサも、細かな予定に追われ、リチャードの世話をする生活に不満を感じていたわけです。この不満により、3人はそれぞれの行動にでて、新たな道を選ぶことになります。(もっともクラリッサの場合は選ばざるをえなくなるわけですが…。)

もう一つ、3人に共通しているのは、パートナーに愛され、必要とされていたことです。ヴァージニアは夫へ、『ダロウェイ夫人』の作中の台詞そのままに、「二人は最も幸せな二人でした」と書いています。ローラは夫に愛され、太平洋戦争で苦難を歩んだ夫を幸せにするのが自分の義務だと思っています。クラリッサは、ひと夏だけの関係でしたがリチャードに必要とされ、やはり、「二人は最も幸せな二人だった」と、告げられています。この自分を愛し、必要としているパートナーの存在が、不幸な生活をだらだらと続ける大きな理由となっていたわけです。

ここで、将来の起業家・アントレプレナーであるミレニアル世代・シニア・女性などのみなさんに、気がついて頂きたいことがあります。いかにパートナーに愛されていようとも、ご自分の人生を決定するのは自分自身なのです実はリチャードの母であったローラが、クラリッサとエンディングで話をする場面があります。ローラは語ります。「自分は、母親として許されないことをしました。しかし、後悔などしていません、他に選択肢はなかったのだから。たとえ一生重荷を負うことになり、誰も許してくれなくとも」。このセリフが、『めぐりあう時間たち』のテーマとなっています。

起業・スタートアップとは、現在の安定な生活を捨てることです。筆者が起業した際にも、どなたもご存知の有名企業の当時マーケティング部長だった友人が、CMOになることを承諾してくれたのですが、奥様が子供を連れて実家に戻ってしまい、結局辞退されたという出来事がありました。女性・シニア・ミレニアル世代と立場が異なっていても、起業すると伝えると、パートナーや家族に反対されることが起きると思います。

起業家を目指すみなさんは、現在の生活が世間一般の価値観から測ると幸せであったとしても、自分にとって不幸だったら続けていくことはできない、だから生活が不安定になっても起業したいという強い意思を、家族に伝える必要が出てくるのです。

3大女優の共演が楽しめ、その演技を比較することができます。多くの賞を受賞した、映画史に残る名作です。非常に反社会的で、反家族主義的なテーマであり、地味な題材ですが、アメリカで大きな話題になったのも当然なのでしょう。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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