映画から学ぶ起業・スタートアップ向けアドバイス
『ティム・バートンのコープスブライド 』
掲載:2021/1/13
最終更新日:2021/01/13
※記事の内容や肩書は、講義時のものです
アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)のシニア・女性等への映画から学ぶ起業アドバイスのコラム。今回は、気乗りのしないM&Aでも成功に導けるよう、自分よりも相手の立場を大切にするべきと示唆してくれる傑作ファンタジー『ティム・バートンのコープスブライド』について、将来の起業家・アントレプレナーであるみなさんと共に見ていきましょう。
起業・スタートアップを目標とする方への『ティム・バートンのコープスブライド』の概要
『ティム・バートンのコープスブライド』は、日本にもファンが多い1993年の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に続くティム・バートン監督による2005年公開のゴシック・アニメーション作品です。
日本で大ヒットとなった『チャーリーとチョコレート工場』と、同時進行で制作されました。ファンタジーを描かせると並ぶものがいない第一人者のバートンによる傑作で、アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされました。米国最大の映画批評サイトRotten Tomatoesの聴衆553,450人による平均スコアは3.85となっています。
主人公のヴィクターの声優は、ジョニー・デップです。90年にバートン監督の『シザーハンズ』でブレイクを果たして以降、ディカプリオ共演の『ギルバート・グレイプ』(93年)、バートンと再び組み史上最低の映画監督と言われたタイトル・ロールを演じた『エド・ウッド』(94年)、ジム・ ジャームッシュ監督の不思議な傑作『デッドマン』(95年)などのミニシアター系の名作で独特の存在感を示し、映画通の間で人気を確立していました。2003年にディズニーのアトラクションを映画化した『パイレーツ・オブ・カリビアン』が大ヒットとなり、トップスターの仲間入りを果たしていました。
ヒロインのコープスブライド(エミリー)の声は、バートンの私生活でのパートナーでもあるイギリスの美人女優ヘレナ・ボナム=カーターが努めています。階級差や性別を超えた愛を描きその作品の多くが映像化されているE.M.フォスターの小説を原作とした『眺めのいい部屋』(86年)やアカデミー主演女優賞にノミネートされたヘンリー・ジェイムズ作品を映画化した『鳩の翼』(97年)などのヴィクトリア朝時代の作品に多く出演し、欧米では当時コルセット・クィーンと呼ばれていました。
エドワードが愛するヴィクトリアの声を演じたのが、イギリスの名女優エミリー・ワトソンです。 事故で不能になった夫のすすめで他の男と関係をかわす無垢な女性を演じた『奇跡の海』(96年)で英国アカデミー賞やニューヨーク映画批評家協会賞などの主演女優賞を受賞、実在の天才チェリストの生き様を描いた『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』(98年)でも『奇跡の海』に続いてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、演技派女優としての名声を確立していました。
ヴィクトリアの父の声を、『ビッグ・フィッシュ』でバートン作品にもお馴染みのイギリスの往年の名優アルバート・フィニーが、ゴールズヴェルス牧師の声をドラキュラ役者として名高いクリストファー・リーが担当しています。
起業家・アントレプレナーを目指すみなさん向けの『ティム・バートンのコープスブライド』のネタバレなしの途中までのストーリー
ストーリーは、19世紀のヨーロッパのある小さな町で始まります。成金のネルとウィリアムのヴァン・ドート家と、上流階級だが貧乏なモーデリンとフィニス(アルバート・フィニー)のエヴァーグロット家。両家とも、ヴァン・ドート家の息子ヴィクター(ジョニー・デップ)とエヴァーグロット家の娘のヴィクトリア(エミリー・ワトソン)を結婚させようと狙っていたのです。
しかし、ヴィクターとヴィクトリアは一度も顔を合わせたことがなく、二人共乗り気がしていなかったのです。
結婚式前夜のリハーサルのためにヴァン・ドート家の3人がエヴァーグロット家を訪れます。ヴィクターは一人ピアノを弾いていたのですが、その音色に惹かれたヴィクトリアが現れ、二人は連弾を通じてお互いに好意を持ちました。しかし、ヴィクターはリハーサルで失敗ばかりを繰り返し、怒ったゴールズウェルズ牧師(クリストファー・リー)にセリフを覚えてくるまで結婚式は延期だと申し渡されてしまいます。
落ち込んだヴィクターは一人森の中で誓いの言葉の練習をしていましたが、結婚指輪を取り出して地面から突き出した細い小枝のようなものにはめてプロポーズの言葉を唱えると、小枝のようなものは実は骸骨の手であり、ボロボロのウエディング・ドレスに身を包んだ「死体の花嫁(コープスブライド)」(ヘレナ・ボナム=カーター)が地面から現れ、「お受けいたします」というのでした…。
『ティム・バートンのコープスブライド』を観て起業・スタートアップを目指す方に気づいて頂きたい点
成り上がりの金持ちで貴族との婚姻を望んでいる一族と、名門の貴族だが落ちぶれてしまっていてお金が欲しい一族の間の政略結婚というシナリオは、小説や映画ではお馴染みの構図です。心の美しいバートンが政略結婚の醜さを糾弾しているのは当然といえるでしょう。
これを会社に置き換えると、新興の時価総額が大きいベンチャー企業が斜陽産業の名門一部上場企業にM&Aをかけようとしている、というところでしょうか?
しかし、バートン自身の投影でありこうした政略結婚に気乗りがしなかったヴィクターですが、ヴィクトリアとの偶然の出会いとピアノの連弾で次第に心を開いていきます。映画では、結婚に気乗りのしないヴィクターの奏でる物悲しいメロディーがヴィクトリアとの出会いで明るいトーンに変化していき、ヴィクターの心境の変化を見事に表現しています。
起業家・アントレプレナーを目指す方にまずは気がついて頂きたいのは、この二人のように、上手くいかないと思えるM&Aでもうまく行かせることができるということです。私自身も、日本企業に在籍時に企業文化が全く異なるイギリスの会社の買収を担当したことがあるのですが、最初はとりあえず会うだけ会ってやるかという態度だったのですが、統合後のヴィジョンを語るなどして最終的にはM&Aの了解を取り付け、さらにPMIも成功させました。その会社は現在でも最高益を更新しています。
このように全く正反対といえるような境遇の会社同士でも上手くいくことはあるわけで、最初から諦めては駄目なのです。
さらに『ティム・バートンのコープスブライド』からは、自分よりも相手を大切にすることの重要さを学ぶことができます。
コープスブライド(エミリー)は、男に騙されて駆け落ちの場で殺害された悲劇の女性でした。結婚という夢を奪われたまま殺害され、死してなお結婚への執着を捨て切れなかったわけです。そのため何が何でもヴィクターと結婚しようと、奮闘します。その夢が遂に叶おうとする最後の最後に、彼女はある思いがけない行動にでるのです…。感動的なラスト・シーンで、ここで涙が出なければ自分の心の冷たさを疑うべきでしょう。
起業・スタートアップ後には一緒に起業した仲間や、出資してくれたVC、協業パートナーなどと利害が異なり意見がぶつかることも起きてくるはずです。フェイスブックの共同ファウンダーがザッカーバーグと意見が対立してフェイスブックを去った事例はよく知られています。
こうした際に、相手の幸せを自分の幸せよりも重視するコープスブライドのような行動が取れれば、上記の例とは異なり、ウインウインとなれたのではないのでしょうか?
アニメであっても通常の作品と変わりなく冒頭からそのおどろおどろしい映像と音楽でバートンの世界にいつのまにか引き込まれていき、その登場人物に感情移入させられていきます。まさに、バートン・マジックです。骸骨などあの世のキャラクターは、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』同様にカワキモく、魅力的です。あの世のバーのシーンなど映像だけでも楽しめることは請け合いです!
少年の心を保ち続けているバートンの、最高傑作と呼べるファンタジーです。バートンのように少年・少女の頃の汚れていない心を持ち続けていると思っている方には、必見の作品です。将来の起業家・アントレプレナーも、学ぶことが多いのではないでしょうか?
著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。
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