海外企業紹介

起業・投資のためのシリコンバレーの企業紹介
ダンデライオン(Dandelion)

掲載:2020/11/13

最終更新日:2020/11/13

※記事の内容や肩書は、講義時のものです

アタッカーズ・ビジネススクールのスタートアップを目指すシニア・女性等への起業のアイデアとなるシリコンバレーの注目企業紹介のコラム。今回はアルファベット(Alphabet)の子会社であるダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)について解説します。

地熱発電とは?

地熱発電は、Makani(マカ二)で解説した再生可能エネルギーのうちの一つです。風力発電と同様に、CO2を排出しないクリーンエネルギーです。

地熱は気温に影響されず一定の温度を保っています。夏は涼しく、冬は暖かいということです。エアコンや冷蔵庫の用いられるヒートポンプ技術を応用し、地下水を媒介とします。

この地熱の一定の温度を保つという特性を活用して、地下に通じたパイプを用いて冬は熱を地中から吸い上げて暖房効果を、夏は反対に室内の熱を地中に放出することで冷房効果をえるというコンセプトです。

プロコン分析をすると、

プロスは

  1. CO2を排出せずに環境に優しい
  2. 風力発電のデメリットだった騒音や低周波が発生しない
  3. エアコンと異なり熱を排出しないので、ヒートアイランド現象を抑えることができる
  4. エアコンよりも効率がよく、エアコンが使用できない極寒地域でも運用が可能
  5. ランニングコストが安い
  6. 地下の揺れは小さいため風力発電と異なり地震にも強い

コンズは

  1. 太陽光発電と比較して設備導入の初期コストが大きい

となります。

上記のように風力発電や太陽光発電と比較してもメリットが多いのですが、個人が設置するには初期コストが大きいことが障害となっていたようです。

そのため、日本では羽田空港国際線ターミナル(現第3ターミナル)や東京スカイツリーなどの大規模施設での導入が主流となっています。

ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)の特長とは?

ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)が目指すのは、大規模施設用ではなく、住宅用冷暖房システムです。

米国では建築物からのCO2排出が全体の約40%と最大となっているようです。そしてEAP(アメリカ合衆国環境保護庁)によると、建築物での調理や冷暖房に使用されるエネルギーの89%が天然ガスや石油という化石燃料によっているそうです。

特に北東部の寒冷地域では化石燃料を多く利用した暖房システムが使用されている事実と、寒冷地で大きな効力を発揮する特性から、ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)の本拠地はアップステート・ニューヨークと呼ばれるニューヨーク州北部に置かれています。

アップステート・ニューヨークはゼロックスやコダックの本拠地があるロチェスター、ナイアガラの滝などが有名です。しかし、ニューヨーク市からは車で6時間から7時間と遠く、ニューヨーク市とは全く別の地域ですので、起業・スタートアップを目指すみなさんには念の為指摘しておきます。

ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)は、CO2を多く排出する極寒地でのCO2排出撲滅を目指しているわけです。1年間の稼働で自動車2台分のCO2排出を削減できるそうです。

ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)の特長は、まずは他のアルファベット(Alphabet)の子会社と同様に、低コストで簡易なシステムにあります。

従来の地熱発電システムでは地下に通じるパイプ用の穴を地中深くまで掘らねばならず、大規模な工事による高コストが障害となっていました。ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)は小型ドリルの開発により、工期と必要な穴の大きさに関して、大幅な削減に成功したそうです。従来は3日から4日かかった工期がなんと数時間となったそうです。

さらに画期的なのは独自のリースシステムです。初期コストを無料にして将来の電力売却益からの分割払いを可能にしました。初期コストはゼロなのに、将来の支払い費用は月150ドルとなっており、従来の冷暖房費よりも安くなっているというユーザーの声がウェブサイトに掲載されていました。

税金の優遇措置を得られ、家屋の価値を上げることにも繋がるそうです。

石油バーナー(石油を燃やすコンロ)を使用した高コストの暖房システムをターゲットにしています。通常の地熱発電装置と比較すると、静かで、CO2排出もより少なく、維持費もさらに安いというメリットもあります。

こうした長所からダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)は次世代の太陽光発電と呼ばれているそうです。

未来の起業家・アントレプレナーの方々も、冬は暖かく、夏は涼しい、一定の温度に気温が保たれるセントラル・ヒーティングシステムを海外のホテルで体験されたことがあると思います。このシステムが家庭でも安価で設置できるということです。

ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)の沿革

マカニ(Makani)とは異なり、ダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)が世の中に登場したのはつい最近のことです。

Google Xのプロジェクトとしてスタートしていましたが、その存在が明らかになったのは2017年にスピンアウトして子会社となった時からです。

共同創業者のKathy Hannunの、住民が従来の地熱発電よりも簡単に低コストで使えるシステムを提供したいという思いから生まれました。彼女は2018年には米国のビジネス雑誌”Fast Company”(LINEが2015年に最も革新的な会社に選ばれている権威のある雑誌)が選ぶ最もクリエイティブな人物に選出されました。

2018年には地熱発電のソフトウェア会社を買収、さらには最初の冷暖房システムを発表、システムの設置が開始されました。

製品はダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)がデザインしており、20年の契約でリースされるとのことです。

2017年にシードラウンドで約2.2億円、2018年に約5億円を調達、2019年には約18億円、2020年にはさらに約13億円のシリーズAファンディングを実施し、資金調達も順調のようです。マカ二(Makani)がアルファベットからドロップされたのも、このダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)に集中していこうという判断があったのかもしれないですね。

筆者は個人的には、今後のダンデライオン・エナジー(Dandelion Energy)の発展が楽しみであり、日本にも導入されることを願っています。起業・スタートアップを目標としている読者の方にも、こうした世の中の役に立つ会社を立ち上げていただきたいと思います。

著者:松田遼司
東京大学卒業後、世界のトップ20に入るアイビー・リーグのMBA修了。外資系IT企業のアナリスト、エグゼクティブ、Web社長等を歴任。3度起業し、2度のエグジットに成功している。
FX業界の重鎮である今井雅人氏の5冊の著書を再構成・無料公開した「FX初心者の資産形成・運用向け今井流FX入門・始め方と口座比較」の講義解説者でもある。

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